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小さな世界の物語 ~ Shortland Stories Episode 8 =第1部=  作者: 橋本22:00
第8話 エイトナイトカーニバル
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7 薬草摘み

 ラクリマ、G、アルトが出発するのを見送ってから、留守居をカインとロッツ、ヴァイオラに任せ、セリフィアはもう一度、今度は一人でフェリアのところを訪れた。自分は不勉強ゆえ、グッナード=ロジャスやスカルシ・ハルシアのことも、スカルシ村のこともよく知らない。差し支えなければいろいろ教えてほしい、と、遠慮がちに頼み込んだ。

 本来、午後はフェリアにとって休み時間だったのだが、セリフィアの態度に好感を抱いたのか、彼女はそんなことはおくびにも出さず、快くつき合ってくれた。彼女は語った。

 スカルシ村で、いわゆる『正式な』騎士はグッナードだけだが、奴隷階級出身の者やアンデッドには騎士クラスの実力者も多い。奴隷たちは彼らも騎士と呼ぶ。

 フェリアも含め、「スカルシ」の名を持つ者は奴隷階級出身である。皆、訓練を施され、傭兵として任務を受ける。男性は主に戦場に駆り出される。女性は要人警護の任務が多い。女性なら四六時中警護を行えるからだ。必要なら子を成すことも結婚することも厭わない。

 スカルシ村は、この傭兵業と交易によって成り立っている。フェリアはさらに語った。

「村は、強力な軍によって守られています。ティータ様率いる人間の軍と領主グレコ様率いる不死軍、狼族をはじめとする怪物軍です。一応はフィルシムに恭順していますが、昔から独立機運の高い村です。現在の情勢では、一番危険なところかも知れません」

「グッナード様は……先ほども話しましたが、危険な方です。何故スカルシ村にいるのか、理由はわかりません。結果的には村のためにはなって下さっているのですが……水があっていらっしゃるのか、領主様とウマがあうのか……」

「ハルシア様は突撃隊長をお務めの大切な方です。前領主様の肉体改造を受けた3人の生き残りの一人で、おかげで10フィートソードを扱えるようになったのです」

 ちなみにグッナードは五十歳代、ハルシアは三十歳代後半とのことだった。

 聞き終わるまでにかなりの時間が経っていた。セリフィアはため息を洩らして口にした。

「そうですか…。私のような未熟な者が近寄るには危険な村のようですね。実力をつけたら一度訪ねてみたいと思いますが。お休み中、わざわざありがとうございました。ご好意に応えられるよう、訓練に励みたいと思います」

 彼は立ち上がり、フェリアに深々とお辞儀をした。暇を告げて家へと帰っていった。



 昼過ぎ、ラクリマたちはメーヴォルを伴って森の中へ入った。

「いやー美女に囲まれての散歩というのもおつなものですねぇ」

 メーヴォルは喜んでいる様子だった。かなり喋るタイプのようで、村のこと、Gたちのこと、森のことなど当たり障りのない会話をとりとめなく続けた。

 しばらくして、ラクリマはお弁当を広げるのによい場所を見つけた。

「あの、よかったらこの辺りでお弁当にしませんか?」

 あとの3人に異論はなかった。

「美味しそうですねぇ」などと言いながら早速ぱくつくメーヴォルに、Gは話しかけた。

「そういえばメーヴォルさん、どうしてこんなへんぴな村に志願を? もしかして知り合いの方がいらっしゃるんですか? もしそうなら、その方も誘ったほうがよかったですよね…」

 Gとしては、彼らがこの村に来た建前や、村に知り合いはいるのかどうかなどを聞き出すつもりだった。特に、ガルモートとの繋がりがあるなら知っておきたかった。

 メーヴォルは炙り肉を芥子菜と一緒に厚手のパンに挟んで、それを頬ばりながら、

「ん~、なんでかって? 特にないな~、強いて言えば『面白そう』だからかな~。それに人助けになるし」

と、ごく楽しそうに答えた。言っていることに嘘はなさそうだった。楽しそうに笑うし、思った以上によく話す。少々軽薄そうな印象を受けるものの、人当たりはとてもいいようだ。

(人助けを志してセロ村までいらっしゃるなんて、偉いひとだなぁ)

 ラクリマが感心して耳を傾けていると、メーヴォルはさらに続けた。

「別に、だから知り合いはいないなぁ。まぁ知り合いになるのは、得意だけどね」

 いやらしい意味の内容をいやらしさなく、さらりと言ってのけた。

「知り合いと言えば、ここに一緒に来た連中は知り合いですよ。わかってるとは思うけど……昔はいろいろとつるんで悪さをしてたけど、もうそろそろ真面目にやんないとなぁ…なんてね。そういうわけで、取っつきにくいところもあるとは思うけど、よろしくね」

 メーヴォルはそこまで話すと、残っていたお弁当をサッサッサとかき込んだ。

「ごちそうさん。とっても美味しかったですよ。これはすぐにでもいいお嫁さんになれるね」

 ラクリマは、「本当ですか? よかった、今日はうまくいって」と嬉しそうに笑った。

「ぜひまた作って下さいよ。今度は連中にも食べさせてやりたいなぁ。こんな美味しいものを独り占めできちゃうなんて、僕ちゃん幸せだなぁ」

 Gもそれに調子を合わせた。

「今度皆さんをご飯にお招きできたらいいですね」

「そうですね、今度機会があったらみんなで」

「ヴァーさんもいいって言いますよ」

 Gは、今のところ他に聞きたいことがないので、あとは軽快なメーヴォルの話に気をよくしたようにころころ笑って過ごした。

 お弁当を片づけて、また歩き出した。ラクリマは、アルトとGにはちゃんと聞いていなかったと思い出し、2人に向かっても「美味しかったですか?」と尋ねた。その折り、Gの顔を見て気づいた。

「あら。Gさん、口元についてますよ。待って、動かないで」

 そう言って、彼女はGの口元についていたパンくずをふき取ってあげた。パンくずはぽろりと地面に落ちた。

 ふと落ちた先に視線をやると……探していた薬草がそれこそ束になって群生していた。

「あっ! こんなところに!!」

 言うなりしゃがみこんで、ラクリマは本当にそれが薬草かどうかを確認しだした。

「どうしたんですか?」

 アルトが声をかけてきたので、ラクリマは、

「薬草がこんなところにあったんです。こんなにたくさん、すごいですよ」

と、いったん立ち上がり、

「Gさん、ありがとう。Gさんのおかげです」

 そう言ってGの両手をギュッと掴んだ。

 先ほどから満腹で上機嫌だったGは、ラクリマに両手を掴まれてぱーっと赤くなった。ラクリマは相変わらずニコニコしながら、「ちょっと時間がかかりますけど、ここで薬草を採らせてくださいね」と断った。メーヴォルは、「何かあったんですねぇ、いいですよ、どうぞ、どうぞ」と、気のいい返事を返した。

 アルトが「手伝いますよ」と言い、2人は腰を据えて、薬草を採取し始めた。Gはにこにこして見張りにつきながら、メーヴォルに一応説明を入れた。

「薬草を採りに来るついでって言ったじゃないですかぁ、それが見つかったみたいですね」

 メーヴォルは採取の様子をしばらく興味深そうに見ていたが、さすがに半刻もすると飽きてきて、辺りをぶらりと散策したりしていた。分別は備わっているらしく、見張りのGの守備範囲内からは出ないようにしていた。

 一時間後、約11服分の薬草を採取し終わった。本当はあと少し、取ろうと思えばあったのだが、「野ネズミさんの分を残しましょう」と、根こそぎ取るのは避けたのだった。

 4人は、のんびり村に戻った。もうそろそろ日が傾きかけ、寒くなってくる時分だった。

「とっても楽しかったですよ。またぜひ誘ってくださいね」

 メーヴォルは最後ににこやかに挨拶して、自分の家に帰っていった。


 Gが川に水浴びに行っている間に、ラクリマはキャスリーンの家を訪れた。採取した薬草を見せて、嬉しそうに話した。

「こんなに取れたんですよ。あの、もしよかったら調合を手伝っていただけませんか?」

 キャスリーンは快く調合を手伝ってくれた。

 作業が終わって、ラクリマは「お礼に」と、4服分を差し出した。キャスリーンは、「何言ってんだい。必要なのはあんたらじゃろ。見つけたのはあんただろうに、こんなには要らないよ」と言って受け取ろうとしなかった。それでもラクリマが渡そうとするので、

「全く受け取らないと気持ちが悪いかもしれないから、半分だけもらっておくよ」

と、2服分を手に取った。ラクリマの手元には、結局、9服分が残った。

 新しいひとと親交も深められたし、薬草もたくさん手に入ったし、有意義な一日だったと、ラクリマは思った。そうして、みんなのいる家へと帰った彼女をまず待っていたのは、夕食の準備だったので、その足で食糧を買い出しに行った。帰りがけ、グルバディたちと顔を合わせ、シャバクのことを尋ねたが、やはり戻っていないとのことだった。

「明々後日しあさってから仕事なんです~」

 若鳥たちはちょっと自信なさそうに、彼女に告げた。

 夕食時にラクリマからその話を聞いたセリフィアは、珍しく自ら「森の女神」亭の彼らを訪れ、セロ村で生きていくためのヒントを教えると申し出た。大好きなセリフィアさんにそんな親切な申し出を受けて、グルバディたちは目をきらきら輝かせながら話を聞いた。

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