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小さな世界の物語 ~ Shortland Stories Episode 8 =第1部=  作者: 橋本22:00
第8話 エイトナイトカーニバル
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4 行方不明

 4月3日。

 朝の5時に、ラクリマは起きて身支度を整えた。そのまま神殿へ向かおうとしたところ、「森の女神」亭の前で若者らがガヤガヤと話している。それも何かあせっている様子だった。

「今まで帰ってこないなんて、いくらなんでもおかしいだろ」

「わかってるよ。だからってどうするんだよ」

「……あの、どうかなさったんですか?」

 ラクリマが背後から声をかけると、グルバディたちは飛び上がらんばかりに驚いた。

「あの……?」

「あ、あなたはセリフィアさんと一緒の……」

 グルバディは「シャバクを見ませんでしたか?」と訊いてきた。

「シャバク…さん…?」

「シーフのやつです」

「いいえ。どうかされたんですか?」

「戻ってこないんです」

 ラクリマは事情を聞いた。シャバクは昨日、ギルドへ行くと言って出ていったきり、一度も宿に戻っていない。最初はギルドで何か用事があるのだろうと思っていたが、今の今まで戻らないにいたって、これはおかしいとはっきり思うようになった。グルバディたちは男3人で一通り村の中を探してみたが、やはり見つからないのだという。

「断りも入れずに穴を空けるようなやつじゃないんです」

と、ウォゼーが言った。

「それは困りましたね」

 ラクリマは3人の顔を交互に見ながら言った。

「とにかく、お前ら、一度寝てこいよ。ここは俺がいるから」

「そうだな。ウォズ、あとは頼むよ」

 グルバディとケウィナーはそう言って宿の中に消えていった。

「どうもお騒がせしました。何かあったら知らせてもらえますか」

 ウォゼーは丁寧に頼むと、彼も中で待機するつもりなのだろう、扉を開けて入っていった。

「あの……」

 ラクリマがそのあとを追って「森の女神」亭の1階に入るのを、ちょうど「坊ちゃん塚」に詣ろうとして出てきたヴァイオラが目撃した。

(……?)

 ヴァイオラはその場では気に留めず、川原の「坊ちゃん塚」へ石を積みに行った。

「女神」亭の中に入ったラクリマは、ウォゼーに申し出た。

「あの、ウ、ウォゼ…」

「ウォゼーです。ウォズでいいですよ」

「ウォズさんも酷いお顔ですよ。よかったら私が番をしてますから、ちょっとでも寝てきたらどうですか?」

 ウォゼーはしばらく黙って考えていた。眠い頭で、ラクリマの言葉もなかなか入っていかない様子だった。それからやっと答えた。

「あと1時間くらいで女の子たちが起きてくると思うから……俺はここにいます」

「そうですか……じゃあ、せめて一緒に番をさせてください」

 そういってラクリマは近くの椅子を引いた。ウォゼーはいいとも悪いとも言わなかった。眠気と戦うだけで必死みたい、と、自分にも覚えのあるラクリマは思った。


 その頃、ヴァイオラは川原から部屋に戻って思い出していた。さっき、ラクリマは何をしていたのだろう。だれかを追いかけて「女神」亭に入ったみたいだったが。

 一応様子を見ておこうと、ヴァイオラは腰をあげた。

「おはよ、ラッキー。何してるの?」

「あ、おはようございます、ヴァイオラさん」

 ラクリマはヴァイオラに朝の挨拶をしてから、シャバクが行方不明であることを説明した。ちょうど日課の歌を歌い終わったらしく、Gも階段の上から降りてきた。

「わかった。ちょっとうちのシーフにもきいてみるよ」

 ヴァイオラはいったん部屋へ戻り、ロッツを起こしてギルドへ走らせた。

 20分ほどして戻ってきたロッツは、「昨日は確かにギルドへ来てます。でもすぐに帰ったっていう話ですぜ」と、彼女に報告した。

 ヴァイオラは「女神」亭の中のGとラクリマに「警備隊の詰め所へ行ってくるよ」と声をかけて歩き出した。詰め所には運良くスマックがいた。ヴァイオラはシャバクのことを簡単に説明し、何か知らないか尋ねた。

「さてなぁ……ちょっと待ってくれ」

 スマックはそう言って、平の警備隊員(要するにただの村人)を呼んできた。

「昨日村に来た若い連中の一人が、行方不明だそうだ。何か見かけたりしなかったか?」

「いや、別に…」と、男は興味なさそうに否定しようとしたが、「あっ」と小さく叫んだ。

「なんだ?」

「そのひとだ。門から一度出てって、戻ってません」

「なんだって!?」

 彼の話によれば、若い盗賊風の男――十中八九シャバク――が昨日の夕方、門から外に出ていった。「すぐそこまでで戻る」というので放っておいたのだが、村人でもなかったし、他のことに関心が移ってそのまま忘れてしまったというのだ。

「ちゃんと報告しなきゃだめだろ!」

 スマックはやや声を荒げた。

「すみません、でも本当にすぐ戻る様子だったんですよ」

 男は情けない声で弁明した。

「どこへ行くか、何も言ってなかった?」

 ヴァイオラが口を挟んだ。

「え……あ、川原です。そこの川原までって、言ったと思います」

「川原へ何しに行くかは言ってなかった?」

「さぁそこまでは……でも何だか人と会うような感じでしたよ」

 ヴァイオラは礼を言って詰め所を出た。スマックは「そいつが戻ってきたらすぐ知らせるからよ」と彼女の背中に声をかけた。

「女神」亭の扉を開けると、ラクリマが「いらっしゃいました?」と訊いてきた。ヴァイオラはそれには答えず、ウォゼーのほうを向いて黙って立った。

「…あまりよくない知らせですね?」

 ウォゼーはヴァイオラをじっと見て言った。

「……シーフの彼って、一人歩きする癖とかある?」

「仕事でならありますが」

 ヴァイオラはまだ立ったまま、ウォゼーに言った。

「昨日、一人で門から出ていったって話だよ」

「馬鹿な!」

 ウォゼーは思わず叫んだ。

「一人で村の外へ出るような奴じゃないんだ! この村が危険なことは、俺とダーレアでさんざん言い聞かせたんだから! あいつがわかってないわけないんだ!」

 ウォゼーは完璧に動揺したようだった。

「だれかに呼び出されたのかもしれない」

 ヴァイオラがそう言ったのを継いで、ラクリマが「彼を呼び出しそうなひとは、だれか心当たりあります?」と訊くと、ウォゼーは怒鳴り返した。

「見当がつきませんよ、そんなもの!!」

 ヴァイオラはとうとう決心した。

「ちょっと探しに行ってみよう」

 他人のことだし放っておこうかとも思ったのだが、ただ放置するには状況が奇怪すぎた。

「ガサラックさんに手伝っていただいたらどうでしょうか?」

 ラクリマの提案をヴァイオラは採択した。

「そうしようか。じゃあ『木こり』亭に行って来るよ」

「私も行きます」

「そう? そうしたらジーさん、他のみんなを起こしておいて。すぐに出発するから」

「はあい」

 Gは離れに戻り、ヴァイオラとラクリマはガサラックたちが泊まっている「森の木こり」亭に向かった。


 すでに起きて朝食の仕込みにかかっていた「木こり」亭の主人に部屋を尋ね、二人は二階の部屋の扉をノックした。

「ガサラックさん、お早うございます。朝からごめんなさい、お願いがあるんですが」

 がさごそとひとの動く気配がして、ドアの向こうにガサラックが現れた。

「どうしましたか」

「実は、昨日、一緒に来た人たちのお仲間が一人、行方不明になっちゃったんです。これからちょっと探しに行くんですけど、もしよかったら一緒に見に行っていただけませんか?」

 ラクリマのおおざっぱな説明を聞いて、ガサラックは「いいですよ」と承諾してくれた。すぐに用意するからと、いったん中に戻ろうとしたが、その前に苦笑とともに一言残した。

「聞きしにまさる村ですね」

 全く返す言葉もない、と、ヴァイオラは思った。なんだってこの村でばかり、こう奇妙なことが次から次へと起こるんだろう。

 ガサラックと一緒に表に出たところ、他のメンバーも準備を済ませて出てきていた。ヴァイオラは手短に状況を説明し、一同はシャバクの足取りを探しに川原へ向かった。

 川原までは足跡をたどれた。だが、その川原で、ガサラックもロッツも足取りを追えなくなってしまった。

「……俺にはこれ以上はよくわからない。済まない」

「あっしにもわかりやせん」

 ヴァイオラがどうしようか考えていると、アルトの声がした。

「あれ、なんかここに足跡みたいなのがありますよ」

「ああ、ここにもあるぞ」

 アルトのすぐ手前でカインも声を上げた。

 一同は跡を消さないように気をつけながら、アルトのそばに寄ってみた。なるほど、かすかな足跡が残っているようだ。奇妙なことに、それは躊躇いなく川の中へ向かっていた。

「どうして川に入ってってるんでしょう?」

「さあね」

 ラクリマの問いを軽くいなしながら、ヴァイオラは嫌な感じを覚えていた。暴力で引きずり込まれたのではない。だが正常な人間がこんなふうに川に入って行くとは思えない。残るは……魅了系の魔法か……?

「あぶないっ!」

 Gの叫びと同時に、何かがアルトに向けて襲いかかった。

「えっ?」「なんだ!?」

 ラクリマとカイン、セリフィアは一瞬の驚きに支配された。アルトは反射的にGのほうに動いて、危うく攻撃をかわしたものの、やはり驚いてそれ以上動けなかった。

「シャドウだ! 気をつけろ!」

 Gは叫びざま、モンスターに剣を叩き込んだ。

 次の瞬間、我に返ったアルトが鳥籠からカプチーノ(という名前でポケットドラゴンの姿をしたマジックミサイル)を放った。肉体を持たぬ怪物もあっけなく絶命した。

「やれやれ。こいつのおかげで足跡が何もわからなくなっちゃったよ」

「あっ…」

 ヴァイオラの指摘どおり、今の争いであたりの地面は踏み荒らされ、足跡も何もわからなくなっていた。これ以上、情報を得るのは無理なようだ。

 一同は村へ戻った。ヴァイオラは警備隊に状況を報告し、注意だけ喚起した。


 ガサラックと宿の前で別れて「女神」亭の扉を開けるなり、若鳥たちのさざめく声が耳に入ってきた。

「やっぱり俺たちも探しに行くべきじゃないのか?」

「セリフィアさんが行ってるんだぞ。俺たちにできることなんかないだろ」

 扉の開く音に、若鳥たちはパッと振り返った。ウォゼー以外の仲間たちも揃っていた。

「セリフィアさん!」「どうでしたか?」

 グルバディたちは一斉にセリフィアを取り囲んだ。セリフィアは重い口を開いて言った。

「小川のところに足跡があったが、川の中へ入っていったようだった」

「川の中!?」

 グルバディが素っ頓狂な声をあげた。それも無理からぬことだろう。

「そいつ、昨日とか、何も言ってなかったのか?」

「いや……何も聞いてない……だよな?」

 グルバディは他の仲間の顔を見回した。だれも、何も心当たりはなかった。狐につままれたようだった。

 ウォゼーが改まって、

「お手数をおかけしました。あとは自分たちで探します」

と、セリフィアに礼を述べた。セリフィアは最後に「見かけたら先にディテクトイビル〔悪を見破る〕をかけるんだ」とアドバイスした。

「それよりグルバディ、お前、村長の家に呼ばれてるんだろ」

 ウォゼーがグルバディを振り返って言った。

「あ、ああ、そうだった。ダーレア、一緒に来てくれるかな」

「ええーっ、グルバディとはあたしが一緒に行くのー」

 ベルテという女魔術師がグルバディにまとわりつきながら、甘えた声を出した。

「お前はだめだ。留守番」

 ウォゼーがベルテの首根っこをつかんで、引きはがした。ベルテはふくれっつらをしたあと、ウォゼーの向こうずねを蹴飛ばした。

「ベルテ。これは大事な話なんだから」

 ダーレアが諭すように言うと、ベルテはぷいと向こうを向いてしまった。

「とにかく」と、グルバディは仲間に言った。「行って来るよ。一人減っちゃったことも報告しないとな」

 彼はダーレアと二人で、村長の屋敷の方角へ歩いていった。ウォゼーは睡眠をとるのだろう、一人で階上へあがっていった。

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