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 ショートランド暦460年3月14日、夜。

 カークランド村長の館で夕食をいただいたあとで、一同はスルフト村近辺に播かれたハイブコアの退治を引き受けた。村長はこちらが引き受けることを確信していたらしく、食後に狩人たちと一同とを引き合わせた。狩人たちは3人とも明日から同道するとのことだった。

 Gがまず難色を示した。

「1人でいい。万が一のことを考えなければ。そもそも私たちの役目はセロ村に猟師を連れ帰ることだ。全滅したら元も子もないだろう」

 彼女はそういった意味合いのことを述べて、2人は村で待つようにと言った。実は、ヴァイオラをはじめ他のメンバーもだいたい似たり寄ったりの意見だった。

 一緒に来るなと言われ、狩人たち3人のうち、ラムイレスという手先の器用な若者が何か不満げに言おうとしたが、リーダーのガサラックがそれを制した。

「なるほど、それは一理ある。ならば道案内には俺が行こう。ブローウィンとラムイレスはここに残ってくれ。……エルムレインの仇は必ず取るから」

 ラクリマは残る二人に語りかけた。

「お二人も、ただ待つのは辛いでしょうが、どうか堪えてください」

 ラムイレスはまだ不機嫌そうな表情を残していたが、ブローウィンが「よろしくお願いします」と言って、その話は決着がついた。

 問題のエルムレイン――おそらくハイブに寄生されているだろう――については、村長が「癒しの準備はある」というので、生きて救出することを目指すことになった。

 一同は村長の館を辞し、宿のスイートルームに戻って、まず贈与品・貸与品をだれがどう受け持つかを話し合い、分配した。

「結局、何の呪文をもらったんだ?」

 アルトの手許にあるスクロールを見ながらカインは訊ねた。

「マジックミサイルと、ウェブと、あとヘイストです」

「ヘイスト?」

「加速の魔法ですよ。この魔法がかかった人間は、いつもの倍の速さで動けるようになります」

 アルトはヘイストの呪文について説明してから、「だからこの呪文をボクがかけても、皆さん、抵抗しないでくださいね」と、丁寧に断った。

 一同はさらにたいまつを仕入れ、油瓶を火炎瓶に改造するなど、対ハイブの装備を整えた(ハイブが火に弱いことは、もはや全員が熟知していた)。

 ハイブコアを特定できたら、虫除け薬バグリペラントポーションを服用して突入し、まず面倒なハイブマインドとブルードマザーを潰そうという非常に大まかな作戦も立て、それぞれ武器の手入れなどを終わらせて眠りについた。


 羊皮紙が一枚、ラクリマの寝台に無造作に伏せられていることにヴァイオラは気づいた。たぶん、セロ村で「ジャロスと何があったか書いてね」と言って渡しておいた羊皮紙だろう。ラクリマ本人はこの時間も居間にいた。「手紙を書いてから、少し縫い物をしますから先に寝てください」と聞いていた。

 ヴァイオラは羊皮紙を取り上げ、表に返して読んだ。想像と違って、いきなりそれは懺悔の言葉から始まった。しかし内容はジャロスのことに触れていた。結局、懺悔文というかたちで知らせるのが彼女にとっての精一杯らしかった。

 懺悔文には、1月25日の夜にジャロスが梟を飛ばしていたこと、梟は街道の方へ飛んでいったこと、ジャロスが彼女に対して「君の仲間にも俺の仲間にもだれにも言うな」と口止めしたことが書かれていた。

(1月25日……)

 ヴァイオラはそれらを頭にたたき込み、羊皮紙を元通りにラクリマの寝台に伏せて置いた。

 当のラクリマは、姉代わりの神官サラに宛てた手紙を、今し方やっと書き終わったところだった。それを仕舞い込み、次に小袋を作る作業に取りかかった。布は、セロ村で服を仕立てるために買った布の端切れを使った。裁ちバサミで端切れの余分なところを切り落としているうちに、彼女はあることを思いついた。彼女が自分の寝床に入ったのは、袋を4つ縫い上げて、さらにその思いつきを実行に移してからだった。



 3月15日の朝、Gは隣で着替えているラクリマを見て声を上げた。

「わあ!」

 肩までゆうにあったラクリマの髪は、首に掛かるか掛からないかの長さに思い切りよく刈られていた。ふんわりと眉にかかっていた前髪もずっと短くなって、しかもギザギザにハサミを入れられていた。ぱっと見、少年っぽいような感じがした。

「さっぱりしましたねー」と、Gはラクリマに向かって言った。「似合いますよ」

 ラクリマは嬉しそうに、「森に入るのに、このほうが楽そうでしょう?」と笑った。

 二人が中央の居間に出ていくと、ロッツ、アルト、カイン、セリフィアの順で青年たちも現れた。

 アルトはラクリマを見て、内心吃驚(びっくり)したが、ここで何を言うべきかにきちんと思いを致すことができた。彼は常よりいっそうニコニコしながら「お似合いですよ~」と声をかけた。ラクリマは「ありがとうございます」と笑顔で応えた。

「段々サラさんに似てきたね」

 ヴァイオラが発言した。なるほど、パシエンスのサラはいつも短髪で通していた。大好きな兄弟神官に似てきたと言われて、ラクリマはまたにっこりした。その向こうでセリフィアが何かを言いかけたが、いったん口を開けたところで、何も言わずにまた閉じてしまった。

「おい、カイン」

 Gはカインに呼びかけ、とりあえず一発殴った。

(ラクリマさんが髪の毛を切ったのは絶対にこいつのせいだ)

「なんだ、G」

 カインはカインでGを殴り返した。

(泣かせてないのになんで殴られるんだ。……それは、髪を切ったのは俺のせいかもしれないが……)

 昨日亡くなったカインの恋人ジェラルディンに、ラクリマは瓜二つだった。髪をばっさり切ったのは、少しでも死の哀しみを思い出さずに済むようにという気遣いに相違なかった。

 アルトは目をぱちくりさせながら戦士二人の殴り合いを見た。端から見ているとじゃれあっているようだ。が、なぜか二人とも目が笑っていない。ヴァイオラは拳を交わしあう二人を後ろからじーっと眺め、「戦闘前だよ」と一言、釘を刺した。


 朝食を終え、宿を出たところへ、村長と、その次男であるコーラリック――彼は今回のハイブ討伐に志願していた――、それからガサラックがやってくるのが見えた。コーラリックはローブ姿に魔法杖を持ち、ガサラックは革鎧に矢筒を2つ、腰には短剣を帯びていた。

 カークランド村長は、昨晩のうちに水晶球で調べてわかったことを一同に教えた。

 これから出発して夕方到着するあたりに、カートが2台放置されている。ハイブたちはそこから歩いて移動している。カートは放置されたばかりらしい。ブルードマザーやハイブマインドの移動能力が非常に低いことを考えると、丸一日移動したとしてもそう遠くまで離れてはいないだろう、ということだった。

 一同は、ガサラックを案内役に、ハイブ討伐に出発した。



 恵みの森に入るために、いったん上流へ向かった。半刻ほど歩いたところに、丸太の橋が見えてきた。この橋で、渓谷の向こう側へ渡るのだとガサラックは説明した。全員無事に渡り終え、今度は下流のほうへずっと歩いた。

 ガサラックは気丈に振る舞っていたが、やはり緊張を隠しきれないでいた。コーラリックも、ガサラックに親しく話しかけたりはするものの、同様に緊張しているらしい。ハイブ相手では無理ないことだった。

 日が傾きだして一時間も経っただろうか、前方に馬車が2台、黄昏に浮かび上がった。

「……よくもまぁ、これだけ綺麗に止めたものだね」

 ヴァイオラがそう漏らすのも無理はなかった。森という余裕のない場所柄にもかかわらず、カート2台はきれいに並べて止められていたからだ。向こうには余程腕のいい御者がいるらしい。と、先行して馬車の周囲を調べていた戦士達のうち、Gが地面を指差しながら言った。

「ヴァーさん、これを見てくれ。地面がひどく荒れている。恐らくもう、馬は食われて……どうしたんだ、セリフィアさん?」

 言葉が半ばで途切れたのは、傍らに立つ巨漢の不審な挙動が気になったからだ。だが問われた当の本人は、喋るでもなく何か言いたげな表情を浮かべるきりだった。思わずきょとんと見返したGは、自分達が何故こんな森の奥深くまでやってきたのか、その目的にふと思い当たった。

(ひょっとしてハイブがもう、そばに……?)

 普段から仏頂面のセリフィアの表情は微妙で読み取りにくいが、わざわざこんな態度を取るのだから間違いないだろう。そう判断したGは、それとなく身振りで他のメンバーにハイブの存在を伝えた。

 その身振りは、性格傾向が似通った者同士には伝わるニュアンスを交えた身振り――一般的にアライメント言語と呼ばれる――であったため、彼女の意図はヴァイオラやカインには伝わったものの、アルトやラクリマにはまるで意味がわからなかった。だが、

(Gさんが無意味なことをするはず、ありませんから)

 そう信じて、二人はただ静かにことの推移を見守った。

 そんな二人の態度に、わずかに満足するように目を細めたヴァイオラは、再びアライメント言語で戦士三人に伝えた。

(あとの人間には私が伝える。君らは突撃してくれ)

 伝え終わるや否やヴァイオラはブレス〔祝福〕の呪文を歌い上げ、既に戦闘態勢を整えていた戦士達はその加護を受けたと同時に飛び出した。突然のことに、こうした経験が初めてのコーラリック、ガサラックの二人が驚き戸惑うさなか、ヴァイオラは告げた。

「向こうにハイブが潜んでる。……叩くよ」

 それを聞いたアルトやラクリマ、ロッツの行動に遅滞はなかった。最前の行動の意味を理解すると同時に、アルト、ラクリマは呪文による援護のため、ロッツは弓の射撃に適した射界を取るため、各々木陰を利用して散開した。

(ようやく、みたいだね)

 自分たちの取る、群れとしての一糸乱れぬ行動。それを見守るヴァイオラの目には満足感と、そして、厳しさがあった。

(でも、まだこれからだ。これからが本当の……)

 脳裏を過ぎる少年の姿。それを振り切り、彼女は目の前の戦闘に集中することを決めた。


 ここまでくれば、もう間違いようがない。周囲に漂うハイブ独特の臭気が、彼らの存在を教えてくれる。

 突撃してくる戦士達に気づいたハイブらが、迎撃しようと潜めていたその身を現した。慌てふためくその様は、彼らが完全に不意を打たれていることを示している。だが、その中にあって異彩を放つ一体――杖と思しき木の棒を持っている――は、何か、何処かが今まで戦ってきたハイブとは異なった。

(あれが多分、ハイブリーダー……)

 そう判断するGの横を走るカインが、身振りで伝えてきた。

「木を利用して陣形を組むぞ。今の位置取りなら奴らに背後を許さずに済む」

 頷くや散開しようとした二人は、だが、脇を駆け抜けていく大きな背中に息を呑んだ。

「セリフィアさん!」


(殺してやる!)

 鎧もつけず現れたその姿。帰るべき家を奪い、大切な家族を奪い、そして二度と消えることのない傷を心に刻印される原因となった忌まわしき怪物。

 もう、止まらない。止まれるはずがない。倒すべき敵が、憎き敵がそこにいるのだから。

(殺す! 皆殺しにしてやる!)


 思わず静止の言葉をかけたGだが、セリフィアにそれが届いた様子はない。雄叫び――というよりも咆哮を上げて突撃する青年の背中に一つ舌打ちをくれ、カインは再び走り出した。

「カイン!」

「お前は向こうから回り込んで奴の援護を! あれじゃ背中ががら空きだ!」

 そう叫ぶカインの姿は、もう木々に紛れようとしている。その俊敏さに舌を巻きながらGも駆けだした。

 迫り来る戦士らに複眼状の眼を向け、ハイブリーダーはその身からガス状のものを発散した。周囲を固めるようにして彼を守っている5体のハイブブルードに力が満ちる。

 そして戦いが始まった。

 戦士達が敵と刃を交えようとした刹那、アルトの声が響いた。朗々と紡がれるその旋律に絡め取られたかのごとく、Gとセリフィアの前にいた2体が揃ってくずおれた。スリープ〔眠り〕の呪文だ。この機会を逃すまいとGとセリフィアはおのおの一太刀で目前の敵に止めを刺し、別方向から近づいてきたカインも駆けよりざまに手近な1体に手傷を負わせた。

 だが、戦闘が優位に進んでいたのもここまでだった。手勢が一瞬で減ったことに苛立ったハイブリーダーが、不恰好な顎でヘイスト〔加速〕の呪文を唱えたのだ。その途端、ハイブ達の動きが素早さを増した。

 手傷を負わされたハイブが仕返しとばかりにカインにその鋭い爪を振るった。動きに応じきれずカインは体を抉られたが、ハイブも自らの動きを御しきれなかったか、木に左の爪をぶつけ折ってしまった。だが、これは可愛いアクシデントにすぎなかった。残る2体の攻撃は苛烈で、一人飛び出してきたセリフィアを格好の餌食とばかり、爪を、牙を、二人掛かりで容赦なく振るった。鎧が瞬く間に傷だらけになっていく。

(この……っ!!)

 怒りに任せて振るわれた10フィートソードが風を生む。が、余りにも雑駁すぎたその攻撃が俊敏さを増したハイブを捉えることはなかった。

 戦局をさらに有利にすべく、リーダーは再び呪文を唱えた。頭上に浮かんだ3本の光の矢がカインめがけて放たれる。飛来する魔法に気づいたカインだったが、どうしようもない。狙い過たず魔法の矢が突き刺さり、血が迸った。流れ出る血と傷の深さにたまらず青年が膝をつく、そこへ止めとばかりにハイブが右の爪を振りかぶった。

「……舐めるなっ!」

 下段からの掬い上げるような一撃。長柄という武器の長所を活かして放たれた渾身の一撃が、ハイブの胴を両断した。

 向こうのセリフィアはひどい有様だった。二対一という数の、そして手数の劣勢に、流れ出る血で鎧が見る間に汚れていく。そして、隙をついては爪が、牙が襲い掛かってくるのに対し、10フィートソードは振るわれるたびに空を切っていた。

(くそっ、このままじゃぁ……!)

 そこへ救いの手が差し伸べられた。窮地を見て取ったヴァイオラがボーラを放ち、見事敵の1体を絡め取ったのだ。そしてロッツがもう1体に矢を放つ。矢継ぎ早に放たれたそれは一本、二本と突き刺さり、飛来した何本目かの矢がハイブの複眼に突き刺さった。抜き取ろうと前肢を伸ばして――それが限界だった。宙を掻くような動きを見せ、ハイブは背中から倒れこむようにゆっくりと崩れ落ちた。

 その光景を視界の端で捉えながら、セリフィアは荒い息を整えようと必死になっていた。

(先走りすぎた……)

 憎しみに駆られて突き進んだ結果がこれだ。無様としか言いようがない。だが、流れる血と負った傷の痛みが、皮肉にもセリフィアに冷静さを取り戻させていた。ようやくセリフィアにも、敵と仲間の入り乱れる戦場を知覚することができるようになった。

(みんな頑張っている。俺が目の前のこいつさえ倒せば……)

と、血と汗を拭って構えた剣の向こうで、Gがリーダーの後ろに回り込んでいくのが目に入った。彼女もハイブと刃を交えたのだろう、鎧の表面に幾つかの引っかき傷が刻まれている。そして、その体にも。

 森の中での光景が脳裏に蘇る。

 鎧を着込んだハイブにてこずっていた自分。彼女は自らの傷を顧みずにハイブに突撃していき、そして――――。

 カッ、と全身の血が燃え上がったかのようだった。 

(Gを一人で行かせるなんてできない。……もう、二度と死なせるものか!)

 セリフィアは叫びながら鬼のような形相でハイブに切り掛かった。ハイブは今までどおり後ろに飛んで逃げようとしたが、今度の斬撃は今までのように力任せに振るわれたものではなかった。何より絡みついたボーラがそれを許さなかった。

 ドンッ!!

 嵐のような勢いで襲いかかった10フィートソードがハイブを真っ二つに断ち割った。


 敵を倒し、息を荒げるカインにそっと触れる手。

「遅くなってすみません」

 戦場の合間を縫ってやってきたラクリマは癒しの呪文を唱えた。だが、そのしるしが顕れても、カインに刻まれた傷は癒えきっていなかった。ラクリマは傷の深さに息を呑んだ。

「ありがとう」

 カインは立ち上がった。礼を告げるなり後ろも見ずに走り出した。

 当たり前だ。

 戦いはまだ終わっていない。

「あああああっ!」

 ハイブリーダーに突撃した彼は裂帛の気合と共に長柄戦斧を振り下ろした。傷を負ってなお鋭さを失わないその刃は、醜い怪物の脇腹をしたたか抉った。ハイブリーダーが溜まらず悲鳴をあげる、そこへ、回り込んできたGが、止めを刺すべく剣を振り下ろした。

 と、いきなり敵の姿が消えた。

 Gは勢いがついて止まらなくなった剣をそのまま振り下ろしたが、やはり手応えは全くない。恐らくは魔法で逃げたのだろう。

「……逃がしたか」

 仏頂面で剣を納めながら、戦場を振り返った。ハイブブルードの死体が5つ。味方の死者はなし。紛れもない勝利だった。


 証拠として持ち帰るために(そしてその唾液と引き換えに報奨金を手に入れるために)、ハイブたちの首を落とさねばならなかった。Gは顔を背けた。大好きなセリフィアが「首を落とす」という作業をするかと思うだけで、胸が焼けるようだった。Gの「母さん」――記憶を失っていた彼女を拾い、育ててくれた「母さん」、Gが大好きだった「母さん」は斬首刑に処せられて死んだ。だから、それがハイブであれ、首を切るのは嫌なことだった。

 だが、そっと視線を戻した彼女の目に映ったのは、カインが首を落としている姿だった。セリフィアはすべてカインに任せていた。Gは心からほっとした。

 セリフィアは、以前セロ村でヒヒ退治をしたときに、ヒヒの死骸を曝すことをGがものすごく嫌がったのを覚えていた。それでこの場でもGの嫌がりそうなことは、避けたいと思っていたから、カインがハイブの始末を進んで引き受けてくれたのは非常にありがたかった。

 戦士たちが首を落としたり周囲を警戒したりする間に、他の人員はカートを調べた。それは一般にフィルシムで商人たちが使う型式のもので、それほど古くはないが新品でもなかった。中はがらんとしてすでに何もなく、ただ、見覚えのある粘液があとを引いていた。

 ロッツとガサラックは、粘液のあとを追った。「こちらに続いている」

 一同は彼らに従って、そのままハイブたちを追跡することにした。何しろ、時間の余裕がなかった。エルムレインが生きているなら、せめてブルードリングであるうちに彼を捕獲して連れ帰らなければならない。ハイブブルードに変態してしまっては、キュアディジーズ〔病を癒す〕やキュアオール〔すべてを癒す〕の治癒呪文をもってしても、人間に戻すことが不可能になるからだ。

 もう一戦交えるのに備えて、ラクリマは残った呪文を使い、戦士たちの傷を、治しきらないまでも回復させた。

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