表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/73

2 第二の神託

《あなた》は天翔(あまかけ)(つるぎ)である

天空よりこの世界を見守る女神の『眼』となって

地下迷宮の奥に潜りし『核』を

探索の末、見つけ出したる(つるぎ)である

その刃は揺るぎない心をもって敵を討ち滅ぼす

それが世界の『夢』なのだから

《第二の御神託》






 明けて12月23日、レスタトは朝から様子が変だった。一人でぶつぶつ言って考え込んでいる。見かねたラクリマが「どうしたんですか。様子が変ですよ?」と尋ねようとしたのをヴァイオラが止めた。

「ラッキー、彼が変なのはいつものことじゃないか。ほっといておあげ」

「だっ、だって、いつも変かもしれませんけど、今日はもっと変ですよ!」

 ヴァイオラはちっちっと指を振って言った。

「ラッキー、君も家族の前では下着姿になるだろう?」

「はあ!? ……それは…えっと……なりますけど…」

「坊ちゃんはね、今、まさに我々の前で下着姿になろうとしているのさ。つまり、親しくなるために一つの壁を超えようとしているってところかな。だからそっとしておいてあげるといいんだよ」

「そうでしたか! よくわかりませんけど、わかりました。下着になってくれるのを黙って待ってればいいんですね!」

「……あの、さっきから何を喋ってるんですか、あなたがたは」

 人生の機微に富んだやりとりのあとで、レスタトはぽつぽつと、昨晩、自分が再びご神託を受けたことを口にした。

「まあ! どんなご神託だったんですか?」

 ラクリマが無邪気に聞くと、レスタトは「ハイブを倒せとのことでした。が……」と歯切れ悪く答えた。その後は黙して語らず、仕方なく一同は話題を切り上げてセロ村へ出発した。

 レスタトは再び『夢』のことを思った。彼の中で、『夢』の感覚は恐いくらいリアルに甦っていた。地下迷宮の石畳を歩く感覚。(よど)んだ空気と塵、ほこりの臭い。目の前に突然、敵――ハイブブルードの現れる緊張感。どれも『夢』とは思えないほど強い現実感を伴っていた。

 昨日初めて本物のハイブを見たせいなのか……いやそれだけではあるまい。これは神託なのだ。故郷で見た神託の続きが、より明確なヴィジョンとなって与えられたのだ。

 彼は強く思った。これは未来の姿に違いない。女神はこの地にハイブコアが現れることを知って、自らを遣わせたに違いない。自分の使命は、まさにこのコアを見つけ出し、『夢』…神託と同じように討ち滅ぼすことなのだ。ハイブを討伐することは、今のショートランドの人間にとっての『夢』…願いなのだから。

 だが、何か、引っかかるものがある。ちょっとした違和感……ほんのちょっとした……。この神託は女神エオリスによって遣わされたものである。それは間違いない。しかし……。

 レスタトはその違和感が何だったのかを考えながら、答えの出ぬまま黙々と歩いた。


 森では運良くほとんどモンスターたちに出会わなかった。が、あと少しで森を抜けるという段になって、巨大ムカデの出迎えを受けてしまった。難なく倒したものの、セリフィアはムカデの毒のせいで高熱を発し、倒れてしまった。彼を馬に乗せて一同は村へ急いだ。

 夕闇迫るころ、一同はセロ村のすぐ手前でヘルモークと、そして復活したGと出会った。Gとラクリマはお互いに再会を喜びあった。それからヘルモークに今度はセリフィアのことを相談すると、「そりゃあ、キャスリーン婆さんのところへ行くに限る」と言われ、少女二人はセリフィアに付き添ってそこへ行くことにした。

 ヘルモークに案内されて、3人はキャスリーン婆さんの薬草店へ急いだ。熱でふらつくセリフィアを両側から支えたが、女の子二人は身長160センチ弱、セリフィアは2メートルで、「肩を貸す」というよりは「頭を貸す」といったほうがよさそうな状態だった。

 キャスリーン婆さんの店は住居区の奥まったところ、村長の館のそばにあった。ひっそりとして、一見しただけでは店とはわからない普通の家だ。ヘルモークは戸を叩いて開けさせ、「なんでヨソモノなんかに…」と渋る相手を説き伏せ、熱病用の薬を10服出してもらった。

 レスタトとヴァイオラは馬を曳いて共同の厩へ行き、連れ帰った2頭を預けた。

 ヴァイオラはレスタトに警備隊への報告を任せ、一足先に宿屋へ戻った。案の定、カート探索の依頼主であるディライト兄弟は、自分たちが出発してすぐに姿を消していた。それと前後して、黒服の男もここを発ったらしい。ウェイトレスのヘレンに彼の名前を尋ねると、「シアー」だとのことだった。「見者(シアー)」などというのが本名であるはずもないが、黒服の男は礼儀正しく挨拶してから出ていったらしかった。

 一方、レスタトは村の自警団のリーダーに事の顛末を報告していた。グリニードという名のリーダーは、例の喧嘩沙汰のときに取り調べを担当したスマックよりもやり方が厳密で、レスタトはしばらく彼に拘束され、質問攻めにあった。

 ヴァイオラは一旦宿を出て、この村の盗賊ギルドへ向かった。盗賊ギルドの(ぬし)であるツェット爺さんに会い、5人の冒険者の遺品を家族に届けてもらえないか頼んだ。ツェット爺さんは、シーフの分は請け負ったが、他は神殿で調べてもらえと、遺品を受け取らなかった。なお、ベルトポーチにあった地図を見せると一言、「こんな偽の地図にだまされるとは…」と忌々しげに呟いた。

 ヴァイオラはツェット爺さんに、ディライト兄弟にたばかられたことを伝え、フィルシムにハイブのコアが持ち込まれたことについて何か知らないか尋ねてみた。ツェット爺さんは「わからない」としながらも、「まぁ、やるとしたら神殿か魔術師だろう。こういうことは頭の悪い戦士には考えつかないことだからな」と答えてくれた。

 ヴァイオラは次にセロ村の神殿へ足を運んだ。亡くなった冒険者の聖章を遺族に渡してほしいと、神殿の責任者であるスピットに託した。

 そのスピットはエイデン=ディライトについて重要な情報をもたらした。まさかそんな人間だとは思わないから、墓地の霊廟に籠もることを許したというのだ。エイデンはその霊廟に一晩泊まったらしかった。話を聞いて厭な感じを受けたヴァイオラは、急いで宿へ帰った。

 宿で全員が再び集まり、ヴァイオラの報告を聞いて「霊廟を調べなければ」と意見が一致した。Gは今すぐにでも墓地へ行きたかったが「昼間のほうがいい」と皆から止められた。

「そういえば、御神託ってどんなだったんですか?」

 ラクリマが飽きもせずレスタトに訊いた。

「だからそれは彼と神の間のことなんだから、訊くのは無理だって言ったろう」

と諫めるヴァイオラに、ラクリマは、

「だって、もう下着姿くらいにはなってくれるかと思ったんです!」

「甘いな、ラッキー。パンツ一丁くらいにはならないと無理だね」

「だから何の話をしてるんですかっ!!」

 これを聞いていたGは、密かに思った。(ラクリマさんて凄い。あのレスタトさんとそんな深い関係だなんて……大変だなぁ。うんうん)

 何だかわけのわからないまま、レスタトは御神託について話しだした。

 最初の神託は、有翼の神のみ使いが、飛ぶことを忘れて大地に横たわっている、というようなものだった。それに対して昨夜得た神託は、何か地下の迷宮のようなところでハイブと戦っている自分の姿が映ったとのことだった。昨夜のほうはともかく、最初の神託の意味不明さに一同は頭を悩ませた。

 と、ノックの音がした。扉の外には、ヘルモークが立っていた。

「例の二人の足取りが掴めたぞ。フィルシムに向かって南下している。追っかけるんだろ?」

 一同は顔を見合わせた。ヴァイオラが明日は霊廟を調べるつもりであることを説明すると、ヘルモークは「それもいいが、そんなことをしていたら追いつけなくなるぞ」と言った。

 だが、そもそも二日も前に出発している彼らに追いつけるのか。その疑問を呈したところ、ヘルモークは、馬ではないが速い乗り物を提供しようと申し出た。一同はその申し出に乗ることにした。

 そのあとで、ヴァイオラは有翼人についてヘルモークに尋ねた。「この辺りに神のみ使いか、翼の生えた人間にまつわる伝承はないだろうか?」

 ヘルモークによれば、翼の生えた人間といえば、獣人族のうちの鷹族がそうだとのことだった。2月の守護獣人族で、神話の時代に早々と人間の世界から手を引き、以来、全く干渉しない立場を取っている。冒険者が一生かけて一度出会えるかどうか、という存在らしい。「鷹族に関わる遺跡は?」とも尋ねたが、彼らが世に関わって存在していたのは遙か古代であり、そんな古い遺跡があるかどうか定かではなかった。また、あったとしても、この近辺にはいくらでも遺跡があるので、どれか一つを特定するのも無理な話らしい。

 そういえばレスタトの第二の神託は、迷宮でハイブと戦うヴィジョンだ。ここに持ち込まれたハイブの(コア)はどこかの遺跡内部に根を張り、その遺跡中をハイブで満たしてから災いとなって地上にあふれるのかもしれない。その遺跡の最奥へ到達しなければ、ハイブの(コア)を滅ぼすことができないのでは……。あまり楽しくない考えだったので、一同はそれ以上そのことを考えるのをやめた。ヘルモークにお休みの挨拶をして別れ、床についた。



 12月24日。

 馬2頭を雑貨屋トムの店で売却したり、自警団の隊長からブルードリングを退治した報奨金をもらったりと、あわただしく朝を過ごしたあとで、一同はディライト兄弟を追って、ヘルモークとともにセロ村を出発した。

 村を出てから一時間ほど歩いただろうか、「ここらへんでいいだろう」とヘルモークが何やら合図をすると、虎が6頭現れた。どうやらこれに乗れということらしい。虎の背に乗り、人間の倍のスピードで南へ進んだ。途中、何に出会うこともなく、夜を迎えた。



 翌12月25日の昼。

 フィルシムに向かう隊商の後ろ姿を捕らえた。先に出発したはずの、ロビィとツェーレンの隊商だった。レスタトたちは虎から降りて隊商に近づき、ツェーレンらと再会した。

 ヴァイオラがツェーレンに尋ねたところによれば、彼らの隊商はディライト兄弟の一日あとに村を出発していた。ディライト兄弟までの道程は残り一日分となったようだ。

 一同はツェーレンと別れてさらに進んだ。その夜、前方に焚き火と二人の人影を認めた。虎たちは止まって皆を下ろした。レスタトは不意に自分たちをハイブの餌にしようとした相手に怒りを覚え、用意もなくずかずかと歩み寄った。向こうの二人もこちら側に気づいた。

「これは奇遇ですね。こんなところまでどうしたのです」

 白々しく喋るエイデンにレスタトは言った。「カートを発見しましたよ」

「それは…ありがとうございます。ああ、後金を取りにいらしたのですか。お渡しできなくて申し訳ないと思っていたのですよ。ですがどうしても出発しなければいけない訳ができてしまいまして……」

「あのカートの中身はなんです?」

「ですから、布教用品ですよ」

 のらりくらりとかわすエイデンに業を煮やし、レスタトはつい口走った。

「ハイブがどうして布教用品なんですか」

 途端にエイデンの気配が悪意に満ちたものに変わった。彼は、だが、それまでと同じ口調で語り続けた。

「あれを見たのですか。それでは……このまま帰すわけには行きませんね」

「どうしてあんなものを…!」

 ラクリマが悲鳴をあげた。

「それが神の御意志だからですよ」

 エイデンはためらいなく言ってのけた。

「でなければなぜ、ハイブがこのように増殖していると思うのです? なぜハイブが突然現れたと思うのです? これぞ神の御意志、神の望まれたることなのです」

「あのさ」と、ヴァイオラが割って入った。「ちょっと聞きたいんだけど、あんたら、宗派は何なんだ? エオリス正教じゃないだろう?」

「わざわざ死に行く者に教える必要があるとも思えませんがね」

「……ユートピア教だな?」

 エイデンは口の端をゆがめて笑ったようだった。

「今の教祖はだれだ」

 それには答えず、

「お前たちにはここで死んでもらう。神の理想を実現するために!」

 そして戦闘の火ぶたは切って落とされた。

 焚き火の周りに4体のゾンビが現れた。セロ村の霊廟で作り出された哀れなアンデッドに相違ない。レスタトが失敗したあとで、ヴァイオラが必滅の勢いでターンアンデッド〔怨霊退散〕に成功した。が、ゾンビたちは去ろうとしなかった。エイデンに制御されていたらしく、今の祈りではその支配を解いたに過ぎなかった。ラクリマのターンアンデッドでようやく3体のゾンビがこの場から逃げ去った。

 Gとセリフィアは攻撃しやすい位置に移動した。が、そのとき、エイデンが朗々と呪文を詠み上げ――同時に動けなくなった。ホールドパーソン〔対人金縛り〕だ。Gが必死で目を動かすと、ラクリマも呪縛され立ちつくしているのが見えた。別なほうを見た。ヴァイオラの柔らかな革鎧が弟のクリフトにざっくり割られ、意識を失う深手を負ったのが目に入った。

 残ったレスタトは必死で抵抗しようとしたが、エイデンは優越に浸りながら再び呪文を詠唱した。そしてレスタトも呪縛された。もはや為すすべはない。

 不意に、背後に黒服の男、自らをシアーと名乗っていた男が現れた。

「お前にユートピア教の何がわかる」

 シアーは怒気をはらんだ声でエイデンに言い放った。

「ピエール様の御意志を知らぬ愚か者よ。お前にユートピア教を語る資格はない」

 彼はレスタトたちの呪縛を次々に解き、絶体絶命から救った。

 だが、戦況は厳しかった。何よりセリフィアの攻撃がことごとくかわされるのは痛かった。長引く戦いに、こちらも向こうもずるずると疲弊していった。

 それでも逆転の契機は訪れた。あるとき、ヴァイオラはクリフトに何かを告げたようだった。クリフトは突然恐慌を来して駈け出した。彼女は密かにリムーブフィア〔恐れを払う〕を逆転させて唱えた。すなわち、コーズフィア〔恐れを来す〕の効果を与えたのだ。「クリフト!!」エイデンの止める声も届かず、クリフトはそこから逃げていってしまった。残ったエイデンが落ちるのも時間の問題だった。

 クリフトが逃げていった方角で、ドンと大きな爆発音がした。そのときにはエイデンも息絶えていた。

 シアーはエイデンの死体から聖章を取って眺めた。ごく普通の聖章に見えたが、やがて裏返すと外側を割った。中から別の聖章が現れた。

「………本物じゃ」

 ポツリと呟くと、彼はその内側に隠されていたホーリーシンボルを叩き壊してしまった。

 彼は一同の前でローブを取り、改めて自分の名を名乗った。

「私の名はシア=ハ。ピエール=エルキントン様の第一の弟子だ」

 ピエール=エルキントンとは、邪教ユートピア教の教祖の名である。ガラナーク王国では多額の賞金が懸けられている。もちろん、その一番弟子のシア=ハにも、ピエールほどではないにせよ、かなり高額の賞金が懸けられていた。肝心の教祖、ピエール=エルキントンは今現在、どこかで眠りについているという話だった。人間ならとっくに滅びているはずだが、彼は長久の時を生きるヴァンパイアなのだ。

 レスタトは、命を助けてもらったにもかかわらず、また実力で足下にも及ばないにもかかわらず、シア=ハを睨みつけた。真面目なガラナーク神官であり、自ら神の意思の代行者を任じる彼には、ピエールやシア=ハのような「邪教徒」は存在自体赦せなかった。

 Gはなぜかユートピア教教祖に詳しいようだった。「お母さんがピエールさんに助けられたことがあるって言ってた」という彼女を、シア=ハは「何者だ」と言いたげな様子で眺めていたが、やがて気を取り直してこう言った。

「この聖章は本物だ。これを作れるユートピア教教徒は、私の他にあと一人しかいない。私は奴のところへ行って確かめなければ……」

 それを遮り、レスタトはシア=ハに噛みつくように言った。「今回は見逃してさしあげよう。だが次は……」彼は寛大な発言をしたつもりだったが、ラクリマは仰天して叫んだ。

「どっ、どうしてそんな失礼なことを言うんですか、レスターさん!! 私たち、命を助けてもらったんですよ!?」

 ぷいと横を向いたきり口を噤んだレスタトに、シア=ハは目を細め、こう応えた。

「…よかろう。私も次に君と会ったときは、きちんと敵として闘うことにするよ」

「あ〜、あの、悪いねぇ、いやぁ、彼はコドモだから、言ってること、あんまり気にしないでくれるかな?」

 ヴァイオラが割って入った。

 Gは「どうしてガラナークの人って、そうなんだろう」とぶつぶつ文句を言い、セリフィアは「ハイブを倒せればそれでいいじゃないか」と呟いた。

「どうしてそんな恩知らずなことが言えるんですか」と泣くラクリマを「まあまあ」とヴァイオラがなだめて、一応その場は収まったようだった。


「あなたの理想郷は何ですか?」という問いだけ残して、シア=ハは去った。

 レスタトとセリフィアはディライト兄弟の荷を(あらた)めた。彼らの背負い袋には都合255gpと、食糧が全部で20日分入っていた。他に、シルバーダガーなどの装備品も回収した。

 その間、Gはさきほどの爆発音を気にして、クリフトが逃げ去った方向へ様子を見に行った。Gを心配してラクリマもあとからついていった。死体はそう離れていないところで見つかった。爆死、それも腹の内側から爆発を起こして死んだようだった。

「どうしてこんな……」

と、ラクリマが泣いていると、今までどこにいたのか、ゴードンが現れて「これはブラスティングボタンだよ」と教えてくれた。形状は小さなクリーム色の骨のボタンで、中距離の投擲も可能、所有者により決まった言葉が発せられるとファイアーボール〔火の球〕のように爆発するという、いやらしい代物らしい。与えるダメージはファイアーボールに較べれば低く、通常は70〜80メートルの範囲内で指令となる言葉(コマンドワード)が発せられたときのみ爆発するのだ、と、ゴードンは言った。

 Gはエイデンの死体のところへ戻り、突然、彼の腹を割きだした。他の者が驚いている中で、腹の中を素手で探り、「…ない。ないなぁ」と手を死体から抜いた。なりふり構わず解剖したので、血まみれになっていた。

「何してるんですかっ!!」

 あとから追いついて戻ってきたラクリマが悲鳴を上げた。Gは涼しい顔で、

「エイデンにもさっきのボタンがないかと思って」

「ボタン? ボタンって何だ?」

 ここでゴードンがまた説明した。いったいだれがクリフトにそんなものをつけたのか…まさかエイデン……あるいはもっとユートピア教でも上層部の者が?

 もはや口を利かぬ死体を前に、答の出ないまま、一同は夜を過ごした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ