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3 魔剣

 夜半。

 セリフィアは何かの気配に目を覚ました。

「!」

 目の前に、一本の剣が浮いていた。

 刀の部分はかなり腕の良い者が鍛えたとわかる。一見したところ普通だが、よく見れば刀身の中央はルビーだった。刃の芯の部分に、極薄のルビーが「はさまって」いる。かなり古いものらしいと、セリフィアは感じた。手入れする者がないようで、血で汚れているが、では酷い状態かといわれれば錆一つ浮いていない業物だ。

 刀身に対して柄の方は明らかにあとから新しく取り付けられた様子だった。セリフィアにはよくわかるのだが、ラストン風の装飾が施されており、ラストンで加工されたことは明白だった。

 セリフィアは、触れない程度に、剣へと手をさしのべてみた。剣は逃げるように少し離れた。

「どうしたんですか」

 小さな、小さな声がした。アルトが起きていた。

 アルトは咄嗟にセリフィアの前の剣を鑑定した。片手使いの魔法の剣──いやむしろ神剣といったほうがいいかもしれない。それにさらに何かの付加価値がありそうだ。だがそこまでしかわからなかった。

「何してんの」

 今度は女性側のエリアから、カーテンがそっと引き揚げられた。ヴァイオラだった。

「……何、それ」

「わからない。起きたら目の前にいたんだ」

「……で、なんで手を伸ばしてるのかな? カインと同じことになったらどうするつもり」

「だから触らない程度に伸ばしてるんだ」

「………」

 ヴァイオラはようやくはっきりと目が覚めた。いつものようにディテクトイビルとディテクトマジックの呪文を相次いで唱えた。剣は最初はディテクトイビルには反応しなかったが、ディテクトマジックをかけたところ、反応があった。

(……呪文をかけられて怒ってるみたいだな)

 とりたてて害を為そうというものではなさそうだった。

「セイ君、掴んでごらん」

「えっ!?」

 いきなり正反対のことを言われて、セリフィアはたじろいだ。

「悪意はないらしい。大丈夫、掴んで、マスターとして名乗りをあげておいたら」

 セリフィアはなお一瞬躊躇った。

 だが意を決して、はっしと掴んだ。途端に何かの「意識」が流れ込んできた。



  …ここは、どこ? 僕はなんでここにいるの。

  …僕は…

  僕は、なに?

  …何で、こんな…


  いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いやだ!

  やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめて、やめてー

  いたいよぅ、いたいよぅ、いたいよぅ、いたいよぅ、いたいよぅ…



 その声は徐々に弱まり、消えてしまった。気がつくと、この手に掴んでいたはずの剣も姿を消していた。ほんの一瞬のことだった。

「……激しく拒絶された気分だ」

 セリフィアはやっとそれだけ言った。

「拒絶ってどういうこと?」

 ヴァイオラはセリフィアに尋ねた。

「剣を掴んだら、とてつもない感情が流れ込んできたんだ。悲鳴をあげていた」

「ふぅん……」

 ヴァイオラは少し考えるようにしてから、「向こうにもいろいろと事情があるんじゃないの」と言った。

「あの剣、結構いい剣ですよ」

 アルトがそう言うとセリフィアは、

「高価なのか?」

と、問い返してきた。どうやら先日負債を負って以来、何でも金に換算する癖がついているようだ。

「神剣並みですね。他にも何かあるみたいでしたけど、詳しくはわかりませんでした」

「神剣並みか! ……売ると幾らだ?」

「そんなことより」と、ヴァイオラは半ば呆れながら話をまともな路線に戻した。「感情があるってことは、さっきの、知性のある剣インテリジェンスソードかもしれないね」

「そうですね。少なくとも魔法の剣であることは確かです」

「セイ君、心当たりはないの?」

「ない」

 セリフィアは即答した。心当たりなどあるわけがなかった。

「これでもう出てこないんだろうか……」

 少し寂しいような、何かを手に入れ損ねたときのような気持ちがして、セリフィアはポツリと呟いた。

「またそのうちに現れるでしょ。じゃあ私は寝るから」

「あ、おやすみなさい」

「おやすみ」

 また現れる……そうなんだろうか……あの悲鳴……だれの悲鳴だったんだろう……どこかで……一体、だれの………。

 布団の上で考えを巡らすうちに、いつの間にかセリフィアも眠りの世界に落ちていた。



 明けて2月29日。

 朝食の席で、皆はアルトが肩になにか妙な生き物を乗せているのに気がついた。オレンジイエローに光っており、小さな竜のように見える。

「どうしたんだ、これ?」

 セリフィアが尋ねると、アルトは「危ないですから触らないほうがいいですよ」と言った。

「あれ、マジックミサイル〔魔法の矢〕じゃないですか?」

 Gは訝しげに言った。みんな驚いて、

「マジックミサイル!?」

「そうだよな、アルト?」

「ええ、まあ……」

 カインはアルトに向き直って言った。

「お前、何でそんなことできるんだ? ……何者だ?」

「ボ、ボクはただのアルトですよ~」

 カインは次にセリフィアの方を向いた。

「セリフィア、ラストン人っていうのは、こういうことができるものなのか?」

 「ラストン人として言うが…」セリフィアはそう前置きしてから断言した。「そんなことができる奴はいない」

 一同は再びアルトに注目した。

「ああ、まあ、ちびももしかすると人間じゃないだけかも知れないじゃないか。みんな、そんなに気にしないことだよ」

 ヴァイオラは慰めともつかぬ言葉を口にした。アルトは情けない声を出した。

「人間ですよぉ」

「いやほら、知られざる種族ってこともあるし…」

「知られざる種族なんて言わないでくださいよ~」

「大丈夫、フィルシムでは人間以外も一緒に暮らせるから」

 カインは二人の間に割って入り、再びアルトに尋ねた。

「アルト、他に何ができるんだ?」

 アルトはちょっと躊躇ってから、「傷を治せます」と言った。

 そう言えばあのとき……セリフィアは思い出した。エドウィナと戦ったあとで、アルトが触れた途端に身体が楽になったことがあった。あれがそうだったのか。

「傷を治せる!?」

 さすがにラクリマも驚いていた。だがアルトは珍しくいささかも動じずに言ってのけた。

「だって、ヴァイオラさんも言ってたじゃないですかぁ。魔力と神の力とは同じものだろうって。それならそんなに不思議じゃないでしょう?」

 いや、それはやっぱり不思議だろうと思ったものの、ヴァイオラは発言を控えた。

「不思議といえば…」

 セリフィアは昨夜の剣のことを話しだした。意図していたわけではなかったが、ちょうどアルトへの助け船になったようだった。彼は、自分の中に流れ込んできた悲鳴のことも詳しく説明した。

「『いたい』、ですか?」

「うん、確かに『いたい』って悲鳴をあげてたと思う。あとは『いやだ』とか『やめて』とか」

「……何なんでしょうね…」

 Gはさっきから黙って話に耳を傾けて、じっと考え込んでいた。と、セリフィアが自分を呼ぶ声がして、ハッと顔を振り向けた。

「一緒に行かないか?」

「どこへ?」

 Gが思わず聞き返すと、セリフィアは「ヘルモークさんの家だ」と答えた。

「ヘルモークさんのところへ何しに行くの?」

 ヴァイオラはセリフィアに尋ねた。

「俺、実は半分獣人みたいなんです。だから何の獣人か、聞きに行こうと思って」

「半分獣人~?」

 ヴァイオラが訝しがる脇でラクリマが、

「ああ、半分人間じゃないって、そういうことなんですか」

と、一人で納得していた。

 よく聞いてみると、先だってフィルシムでトーラファン=ファインドールという老魔術師に、「魔力が強いから片親が人間ではないのだろう」といわれたとの話だった。そのとき、その場にいたカインとラクリマはその話を知っており、アルトは昨日話を聞かされ、Gには先日告白済みということで、その情報を知らないのはヴァイオラだけという、いつもと逆のパターンを踏んでいた。

 話をきちんと把握したヴァイオラは、Gに向かって

「君もヘルモークさんのところへ一緒に行ってきたら」

と、水を向けた。

「何故だ?」

「実はヘルモークさんには、新しいハイブコアの位置の絞り込みをお願いしてあるんだ。だから、エリオットから聞いた情報を、彼にも伝えてくれるとありがたい」

「わかった、私も行こう」

 Gは答えた。



「はいはい」

 ヘルモークは調子よく出てくると、二人を家の中に招き入れた。それから揶揄するように、

「座って座って。で、酒とミルクとどっちがいい?」

と、聞いてきた。

「ミルクでお願いします」

 セリフィアは真面目に返答した。ヘルモークは本当にミルクを出してきた。セリフィアはなみなみとミルクの注がれた椀を受け取ると、腰に手を当てて一気に飲み干した。

「イイ飲みっぷりだねぇ」

 からかうように言ったあとで、ヘルモークは話を聞く態勢に入った。

「で、何だい?」

「俺、半分、獣人の血が流れているみたいなんですが」

 セリフィアがそう言うと、ヘルモークはにべもなく言い切った。

「獣人の血は混じってないよ」

 セリフィアは驚いた。

「えっ……でも、半分人間じゃないって言われたんですが」

「でも獣人の血は流れてないよ」

「じゃ、じゃあ、変身したりとかはしないんですか?」

 「しないね」と、言ってからヘルモークは意味ありげに付け加えた。「いや、剣になったりはするかもね!」

「ふざけてないできちんと教えたらどうだ」

 Gがやや不機嫌な調子で詰め寄ると、

「人間じゃないからって、気にせず生きればいいさ」

と、調子よくはぐらかした。セリフィアは諦めて「話はそれだけです」と言った。

「ヘルモーク、コアの場所を特定するよう、ヴァーさんに言われたろ?」

 今度はGがヘルモークに話しだした。

「あ? ああ、そうだよ」

「エリオットからエイトナイトカーニバル周りの話を聞いたんだ。参考にしてくれ」

 そう言って、エリオットから得た情報を逐一ヘルモークに伝えた。

 二人はヘルモークの家を出た。Gは「私はこれから警備を手伝ってくる」と言い、セリフィアは宿に戻るというので、そこで別れた。Gは警備の詰め所へ行き、手伝いがてら自分に課せられた騒乱税20gpを納めた。

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