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2 話の話

 ラクリマはキャスリーン婆さんに教えてもらって、レイビルの奥方のほうへ寄っていった。レイビルの具合を尋ねるためだ。彼女は、ちょうどエステラ嬢と話をしているところだった。

「それではよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 そんなやりとりが交わされていた。

「あの、こんにちは。昨晩は遅くに申し訳ありませんでした」

 ラクリマが挨拶すると、奥方は声からもわかったらしく、「わざわざ来ていただいたのにこちらこそすみませんでした」と答えた。

「レイビルさん、具合はいかがですか? ここにも出ていらしてないみたいですけど」

 奥方は、体の具合は悪くないのだが、と、言って、口を濁した。

「……ところで、お二人はお知り合いなんですか?」

 「いいえ」と、エステラは柔らかい笑みを浮かべながら答えた。「レイビルさんたちも今度一緒にフィルシムへ行かれるので、その話をしていたんです」

「フィルシムへ!?」

 今度は奥方が「ええ」と言った。「セロ村を出ると主人が言うものですから」

「そうなんですか……あの、もしかして私たちも一緒かも知れないので、よろしくお願いします」

 ラクリマはそう挨拶すると、ヴァイオラを探しにその場を離れた。



 カインは村人につかまっていた。目の前の村人はやや呂律の回らない様子で喋った。

「村長の家にいる女戦士な……ここだけの話だが……ありゃあ村長の愛人だってよ」

(これで同じ話を3度は聞いたぞ……)

 どういうわけか、村長にまつわるうわさ話を、それも同じ内容のものを別の人間から重ねて聞かされるはめに陥っていた。そろそろ宿に戻ろうかと思ったそのとき、広場で髪の長い娘が歌を歌い出した。宿に帰る途中だったセリフィアとアルトも振り向いた。その場にいた全員が静まりかえって歌を聴いた。

 リールの歌だった。




回り始めた「運命の輪」 もう止めることはできない

私は夜鷹 暗き世界を飛んでいく

『真実の目』を持って 『審判の日』その時まで

女神は人を選ばれた 女神は獣を選ばれた

「世界」はどちらを選んだの 「月」と「星」と「太陽」と

「世界」と「愚者」と 悲しき記憶は繰り返す

回り始めた「運命の輪」 『審判の日』その時まで

もうだれにもそれを止めることはできない




 夜鷹のくだりを聞いて、ヴァイオラは、先日パシエンスのサラから聞いたことが本当だったと確信した。村の男たちも心なしか済まなさそうな顔をリールに向けていた。

 天上の音楽は終わった。リールは幼児のような声で「う~ん、眠い」と言うなりその場で眠ってしまった。



 宿に戻る途中で、ヴァイオラはラクリマに呼び止められた。

「ヴァイオラさん、探してたんです」

「どうだった?」

 ヴァイオラはまず頼んであったアライメントの別を尋ねた。彼女自身は今日はバーナードのアライメントを調べてあった。

 二人で情報を交換しながら宿のすぐ手前まできたとき、ヴァイオラは「スピットに会ってない」と、一件用事を思い出した。

「私はスピットに会ってくるから、先に帰ってて」

「あ、私も一緒に行きます」

 二人は神殿へ向かった。ちょうどスピットがレイビルと一緒にやってくるところに鉢合わせた。彼らも今しがた外から帰ってきたらしかった。村長の墓に詣でていたんだな、と、ヴァイオラは即座に察した。

 スピットはヴァイオラを認め、丁寧に挨拶した。

「このたびは私の不手際で皆さんにご迷惑を…」

「いいえ、スピットさんの所為ではありません」

 ヴァイオラははっきりと口にした。

「ヴィセロのことは私たち冒険者全員の責任です。見破る術があったのに、見破れずにいたのですから。それに、エリリアのことは本当に気の毒でしたが、ここで私たちが自らを苛んでいても、彼女の魂が浮かばれるわけでもありません」

 そう言ってから、彼女はスピットに尋ねた。

「フィルシムへ向かわれるそうですが、エステラ嬢の隊商と一緒に行かれるのですか」

 スピットはそうだと答えた。

「では私たちも同道しますので、よろしくお願いします」

 その横で、ラクリマがレイビルに話しかけた。

「レイビルさんも一緒に行かれるとおききしましたが…」

 ヴァイオラはレイビルを振り向いた。

「ああ。スピットたちと一緒だ。もう一軒、空き家が増えることになる……君たちの仲間が最後に少々壊してくれたがな」

 ヴァイオラはそれを聞いて、Gかセリフィアか、どちらかが何かやったらしいと見当をつけた。レイビルをよく見たが、取り立てて敵意もなく、それに関してどうこう言うつもりはなさそうだったので、

「仲間が無礼を働いたのなら申し訳ありませんでした。ところでアンデッドの件についていささかお伺いしたいのですが、6体もゾンビが発生するのは不自然ではありませんか?」

「困ったことに珍しいことではない」

「ですが、アンデッドを作ることができるのは、高位の僧侶でしょう」

「力のあるアンデッドにも作ることができる」

 レイビルはそう言って続けた。曰く、この村の近くにはヴァンパイアが山ほどいる。スカルシ村には2名、常駐のヴァンパイアがいるし、恵みの森の中にも何名かうろついている。彼らがしもべを作ろうとして、通りがけにここの墓地で儀式を行い、作り出したものの連れて行けない僕を置き去りにするようなことが、断続的にあるのだという。

 「そうでしたか…」ヴァイオラは何やら考え込むようにしながら口にした。「私はてっきり、外的要因によって、人為的に作られたのかと思っていました」

 レイビルは、そういう事例もある、と、答えた。

「報奨金目当てで、自分で作り出す冒険者もいないわけではない。が、どちらでも結果は同じことだ」

「………」

「フィルシムに行くのは、今回の責任のせいだけじゃない。古い約束があるからだ」

 「あの…」ラクリマが口を挟んだ。「お二人とも、フィルシムで住居が決まるまで、よかったらうちの修道院にどうぞご滞在ください」

「私は自分の神殿に連絡してあるから大丈夫です」

 スピットはそう答えた。レイビルは一言、「心配無用」とだけ口にした。



「だれが騒乱を起こしたの!?」

 宿の大部屋の扉を開けるなり、ヴァイオラは声を発した。「はあい」とGが手を挙げた。

 ちょうどそこへ現れた村の警備隊隊員スマックが、ヴァイオラの後ろから肩を叩いた。

 「おう、その騒乱だけどな…」彼は全員に聞こえる大声で言った。「20gpと1週間の強制労働で済むことになった。ただし強制労働のほうは、お前さんたち、スルフト村に行くんだろ? だから特別に、フィルシムまでエステラ嬢の隊商の護衛で代替することになったぜ」

「それはありがたい…」

 ヴァイオラは胸をなで下ろした。とにかく強制労働で足止めされるのだけは免れた。

「礼はレイビルに言っときな。ま、村の掟をちゃんと伝えられてなかったってのもあるが、特に大きな賠償を求めないでいいって言ってくれたのはあいつだからな」

 スマックはそう言って去っていった。

「さて」

 ヴァイオラは部屋に入った。にこにことGの前に進み、

「ジーさん、何をやったの? 一から説明しようね?」

 Gは素直に話し出した。

「レイビルを心配してレイビルのところへ行ったらドアが閉まってた。ドアを開けようとしたら開かなかったので窓を開けた」

「どうやって?」

「手で、板を剥がして」

「……それで?」

「窓を開けて中に入った。そしたら中にレイビルが剣を構えて立ってた。だから私も剣を抜いた」

「あ、そう。抜いたの。ふぅん……で?」

「レイビルが攻撃してきたので元気なんだと安心してたら、レイビルが勝手に転んだ。それから奴がグリニードのところへ行ったのでついてった。以上」

「………」

 ヴァイオラは一呼吸おいてから、Gに語った。

「ジーさん、巣穴には巣穴の礼儀ってものがあるだろう」

「うん」

「他人が自分の巣穴に突然入り込んできたら、嫌だろう?」

「うん」

「わかったらこれからはやめなさい。ちゃんとその巣穴の礼儀にしたがうこと」

「わかった。でも、どうして『家』って言わないんだ?」



 そのあとはお喋りから、情報交換の場になった。

 カインは3度も聞かされた噂話、警護の女戦士フェリアは村長の愛人だったらしいことを披露した。

「えっ? 愛人じゃなくて、隠し子ですよね?」

 ラクリマはラクリマで、別な噂を聞いてきたらしかった。

 「君たちね」と、ヴァイオラは一応口を挟んだ。「そういう流言飛語は安易に信じないの。獣人が出てったのが村長と喧嘩したからとか、いろいろ言われてるけど、結局はただの噂なんだから」

 そういうヴァイオラは、実は「村長とキャスリーン婆さんが昔つきあっていた」という噂も聞かされていたが、これこそ流言飛語の最たるものだろうと思ったので、それは言わずにおいた。

「あの~」

 アルトがおずおずと口を開いた。

「これも噂なんですけど、ここの村の地下には広大な迷宮が隠されているって話を聞きましたよ」

「あ、それ、私も聞きました」

 ラクリマが相づちを打った。

「それでその地図を村長さんが持ってるとか、あと、迷宮があるせいでモンスターが出やすいんだとか言ってませんでした?」

「ああ、そんな話でした、確か」

(……迷宮の地図、ねぇ)

 ヴァイオラは村長から預かった巻物のことを思い出しながら、話に耳を傾けた。再びカインが言うのが聞こえた。

「……ずいぶん、面白い村だな、ここは。俺は、『あの村長は本当の村長じゃなくて、影の村長が居る』って噂も聞いたぞ」

 ラクリマが、

「村長さんって、本当は昔、冒険者になりたかったんですって」

と言ったところで、村の噂話は打ち止めになった。

「そういえば、エリオットに聞いたんだが、エイトナイトカーニバルの近辺ではハイブに会わなかったそうだ」

 Gは、そう言って、昨日エリオットから聞き出した情報を皆に公開した。

 明日は休日だったが、いい加減に寝ることにして、バラバラと寝床に入った。ヴァイオラは寝る前に、故村長から預かった巻物の一文(と思われる箇所)を無作為に抜き出し、羊皮紙に書き取った。

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