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6 近き過去、遠き過去

 2月15日。

 満月期本番とあって、Gは絶不調をかこっていた。ムーンフラワーの処方と、自分でも心の閉ざし方をいくらか思い出したこととで、他人の心の声が何から何まで自分の中に入ってくるようなことはなくなった。それでも具合が悪く、一日ベッドで過ごした。

 かたやセリフィアは絶好調だった。躁状態はとどまるところを知らず、「おはよう」と明るく朝の挨拶を交わすところから、爽やかな話しっぷりから笑い声から、本当に別人じゃないのかとカインが疑うほどの変わり様だった。



 今日は道場の公休日だった。日中は、皆、洗濯やその他の細々したことをこなした。夕方、夕食を取りに降りようかというところへ、来客があった。エステラ嬢だった。

 全員が揃っている前で、彼女は「エステラ=エイデンバーグです」ときちんと名乗り、正式にセロ村までの護衛を依頼してきた。他の者に否やはなかった。セリフィアは、躁状態の贈り物で、「あらためてよろしく」とエステラに手を差し出し、握手まで交わした。

「ドルトンさんには無事に許可をいただきました」エステラは言いながら苦笑を隠さなかった。「『女に何ができる』みたいなこともちょっと言われましたけど」

 そのあとで、「それでいかほどお支払いいたしましょう?」と、ちょっぴり商人の顔つきになって尋ねてきた。

「食糧はセロ村から支給されたものがあるので、結構です」ヴァイオラがそう申し出ると、彼女は嬉しそうな顔をした。食費は今や雇い賃よりも高額につくものだったからだ。

「往きの代金、一人10gpで結構です」

「えっ……本当にそれでよろしいんですか!?」

 ヴァイオラの提示した価格に、エステラ嬢は心底驚いたようだった。実はヴァイオラ自身も驚いていた。ここまで安見積りするつもりじゃなかったんだが……。だが、エステラ嬢を応援したいという気持ちと、セロ村を往復する隊商をこれ以上減らしたくないという考えとが、どうも破格の申し出を口にさせたらしい。

 カインはあまりの破格値に驚き、実のところ反論を唱えたかったのだが、周りを憚ってぐっと呑み込んだ。自分は知らないが、それだけ世話になったのかもしれないと思って納得することにした。

 その場で話は決まり、セロ村への出発日も19日と決まった。

「よろしくお願いします」

 エステラ嬢は一同に何度も頭を下げ、帰っていった。




 ラクリマたちはまたトーラファンの館へ出かけたが、ラクリマの希望でこの日は先にパシエンス修道院に立ち寄った。

(ちょうどいい…)

 ラクリマが院長のところへ行っている間に、セリフィアはサラかラグナーがいないか、院内を探して歩いた。本堂を見て食堂に向かいしな、子どもが走ってくるのが目に入った。

「アシェル! 待ちなさい!」

 子どもの後ろにはサラがいた。彼女はすぐにセリフィアに気づき、「セリフィアさん、その子をつかまえて」と頼んだ。

「そおら、つかまえたぞ」

 セリフィアはアシェルと呼ばれた男の子を両手で捕まえ、ニッと笑ってみせた。子どもは驚いてセリフィアを見上げた。少し身体をもがいてみてから、相手の大男ぶりに逃げられないと観念したのか、大人しくなった。

「ありがとう、セリフィアさん」とそばに来たサラが声をかけた。彼女は子どもの脇にかがんで、「アシェル。それを返すんだ」と少しきつい調子で言った。

 アシェルはそろりそろりと腕を差し出した。両手で何かを包み込んでいる。

「アシェル」

 アシェルは情けない顔をして、両手を開いてみせた。小さな瓶が──といっても子どもの片手には余るくらいの大きさではあるが──掌に現れた。

「これは、明日、ガドのおばあちゃんにさしあげる分なんだ。わかっているだろう?」

 サラが子どもに言い聞かせている横で、セリフィアは瓶の中身を確認して驚いた。それははちみつだった。ラクリマの言ったとおり、ここにあれば活用されるものらしい。彼はいっそう寄付への意志を固めた。

「ごめんなさいは?」

「………めんなさい」

「わかったら部屋に戻りなさい」

「…ごめんなさい~」

 子どもは泣きべそをかきだした。サラはそれを一寸見守ってから、「いい子だからおやすみ」といって子どもにおやすみの挨拶をした。「…おやすみなさい」子どもはまだ少し泣いていたが、おやすみの挨拶を返して、居住区の方へ歩いていった。

「変なところをお見せしてしまって」

 サラは立ち上がり、セリフィアに言った。

「あの子は甘いものが好きで、ときどき止まらなくなっちゃうんです」

 言いながら、子どもが部屋に入るまでをしっかり見届けていた。セリフィアはその横顔に、

「はちみつのこと、ありがとうございました」

と礼を言い、軽く頭を下げた。サラはほんの少し目を瞠るようにしたが、すぐに微笑んで返した。

「こちらこそ、おかげでとても助かっています」

「サラさん。そのはちみつを、いくらか寄付させてください」

 サラは「え?」と聞き返すようにセリフィアを見た。

「お世話になってばかりだから。お礼にも足りないかもしれませんが」

「お礼だなんて、そんなことを気にしないで。こういうことは相身互いといって…」

「俺も何かしたいんです」

 サラは青年を見上げた。底の底まで見透すような注視のあと、穏やかな声で、

「ありがとう。セリフィア、あなたのご厚意で、子どもたちにいつもより甘い思いをさせてあげられそうです。女神エオリスよ、この心やさしい若者の上に貴女のご加護を賜りますように」

(喜んでもらえた…)

 セリフィアはほっとした。ほんのりと、体が温まるような気がした。サラに軽く礼を取ってから、彼はカインのところへ戻っていった。




 ラクリマが部屋に入る前から、クレマン院長は彼女の用向きを察していた。

「トーラファンに話を聞いたのですね」

「はい…」

「私に何を聞きたいか、言ってごらん」

「あの……本当なんですか、トーラファンさんの仰ったこと……」

「彼が何を言いましたか」

「私が、ハーヴェイ=バッカスというひとに連れて来られて……感情がなくて、院長様と治してくださったって……」

 言いながら、ラクリマはいったい自分は何を院長と話したいのだろうと考えた。自分のことなのに、はっきりしなかった。クレマンの声がした。

「それは本当のことです」

「どうして今まで教えてくださらなかったんですか」

 責めるような内容ではなかった。わかっていて、ラクリマはそういうふうに聞かずにはいられなかった。

「待っていました」

 院長は動じず、彼女を咎めるでもなく、答えた。「私は待っていました。君から訊いてくるのを」

 ラクリマは、しかし、それに対しても不躾な質問を浴びせた。

「隠していらっしゃったんじゃないんですか…?」

 院長は隠し事をしない人間だった──そう、ずっと信じてきた。幼かったころ、一時は育て親である彼が世界のすべてだったこともある。ラクリマにとって、世界は彼を通じて感じられ、名を与えられたものだった。その彼が、自分に隠し事をしていたような、裏切られたような思いを消すことができなくて、その感覚こそが実に彼女を苛んでいるものの正体だった。

「私は君に隠し事などしない」

 クレマンは微笑んだ。

「だれに対しても、真実を伝えるようにしている。なぜなら、結局、どんな困難でも乗り越えられぬものはないと信じているから」

 言い様は穏やかでも、言葉に力があった。

「だが、だれにも、時間を与えていけないという法はないでしょう」院長はよく透る声で続けた。「私は君にも時間が必要だと思った。君は幼かったから。だから、今まで何も伝えなかったのです」

「時間……」

「傷を癒すのに時間が必要なように、何かを乗り越えるためにも時間が必要なことがある」

「でも……」

 それは結局、逃避であると非難されないだろうか。乗り越えるために時間をかけるとは「くよくよ悩む」ことであり、忌み嫌われることではないか。ラクリマは俯いた。院長はそんな彼女の思いもお見通しのようで、

「そこで時間をかけることを、私は卑怯であるとか逃げているとは思わない。むろん、だれしもいずれは自分の真実と向き合わねばならない。それを恐れることは恥じねばならない。だが、とりあえずは」

と、院長は口調を和らげた。

「隠すつもりはありませんが、時間をかけることを恥じる必要もありません。君が望むときに、私の知る限りのことを教えましょう」

 ラクリマは顔をあげた。この一瞬に、院長に抱きかけていたわだかまりが、うたかたのように溶けて消えたのを感じた。同時に、その古い友人であるというトーラファンに対する気兼ねや疑いもまた消え去り、あとには無条件の信頼が残った。

 僅かな沈黙のあとで、クレマンは口を開いた。

「今日も行くのですか」

「はい。これから伺います」

「彼によろしく言ってください」

 ラクリマは「はい」と返事して部屋を辞した。

 あとに残った男は、溜息をひとつ吐き出した。一つの事実が知られれば、やがて別な事実も知られるだろう。その「時」までに受け容れる準備ができていればいいが、と、彼は娘を案じた。



 アルトはだれにも何も告げなかった。だが、彼の内部では何かが変わっていた。彼が変わったのではない。彼にとっての世界が変貌を遂げていた。

(そういうことだったのか……)

 目に見える世界、五感によってもたらされていた平板な世界が、その様相をあらかた変えていた。月ですら今までの月とは違った。なぜなら彼の視点が転回していたから。一つの基本方程式が解けることで、難解だった数式の解が次々と明らかになるように、彼の頭の中は明晰な観念で満たされ、彼の前には新たな解、新たな世界が開けていた。

 彼はいまや「覚醒」していた。はっきり確信していた。自分は、魔術の奥義を究める者。魔導の技を行使する者。他の一般の魔術師とは違う、魔術を真に「識る(しる)」者である。

 ただし、この覚醒によって実際に魔導技能の力を行使できるようになるまでには、今少しの間があるようだった。ともあれ、彼はもはや図書館へ通うことが自分に必要でないと悟った。





 2月16日。

 朝からGの様子が変だった。どうやら何か「夢」を見たらしく、ヴァイオラが内容を尋ねても「断片的すぎて話せない」と言うばかりだった。ヴァイオラが、「話したかったら聞く耳はあるよ」と言うと、Gは応えて言った。

「すまない」

 すぐそばでラクリマが吃驚して振り返った。ヴァイオラも少々驚いていた。口調も何とはなしに変わっていたが、それよりも今までのGなら「すまない」などという言葉は出てこなかっただろう。

(…自分を取り戻そうとしている)

 少しずつ、何かが変わりつつあった。

 ラクリマがセリフィアたちと話しだしたあとも、ヴァイオラはGが何か喋らないかと、しばらく待っていた。

「……変な夢なんだ」

 Gは夢について語り出した。それは彼女が記憶を失う前、鷹族として天上にいたころの記憶らしかった。

 そのころのGは、未成年には禁じられていたにもかかわらず、天上のある場所から地上の営みを覗くのが好きだった。

「その日も地上の人間たちを見ていた…」

 そう言って、Gはちょっと間を空けた。本当のところ、彼女が見ていたのは一人の人間だった。いつもの「彼」、自分と似た感じの「彼」を見るのが、Gは好きだったから……。だがさすがに気恥ずかしくて、そのことはヴァイオラにも告げなかった。

 Gは夢の話を続けた。

 同じ年頃の鷹族の青年がやってきて、長老からの呼び出しを告げた。青年はGについて来ながら、『人魚姫』の物語を知っているか問うてきた。実は本当にあった話で、それも人魚ではなく、禁を破ったホークマンのことだという。相手がどういうつもりでそんな話を持ち出したのかわからないまま、Gは翼をいっそうはためかせた……そんなところで目が覚めたようだった。

「ほらな、わからないだろう?」

 語り終えて、Gはヴァイオラに苦い笑みを見せた。他の皆は別な話をしており、今、Gの話を聞いているのはヴァイオラだけだった。

 Gはそれから、夢に出てきた鷹族の青年が自分に好意を持っていたらしいこと、しかし自分は彼を「何とも思っていなかった」ことを話し、青年の人相を簡単に告げた。そして最後に言った。

「もしも見かけたら……教えてほしい」

 ヴァイオラは肯いた。

 この日、Gは体調不良で訓練を休んだ。月の出とともに、Gとセリフィアの満月期も終わった。





 2月17日。

「…やっぱりいらっしゃいませんね」

 休憩中、ラクリマの言葉に、Gが振り返った。

「だれがいないんだ?」

「ジェイさんの姿が、昨日から見えないんです」

 そういえば、と、ヴァイオラも思った。ジェイ=リードもいないし、昨日はあの蛇のような男──ファーカーのだみ声を耳にしなかった。ファーカーの一味は訓練を終えたのだろう。ジェイ=リードがこの先どうなるかは、神のみぞ知るというわけだ。

 セリフィアは今日が訓練の最終日だったので、最後に師匠に尋ねた。

「あなたはミーア=エイストさんをご存じですか」

「知っている。10フィートソード使いの一人、マリス=エイストの妻だな」

 そのマリス=エイストから、セリフィアは10フィートソードを受け継いだのだった。ミーア=エイストにはそのときにずいぶんと世話になっており、目下、この女戦士が自分に稽古をつけてくれた理由として考えられそうなのは、セリフィアには彼女くらいのものだった。それだから彼は尋ねた。

「ミーアさんに俺のことを頼まれたんですか?」

「知らんな。名前は知っているが、面識はない。頼まれようもない」

 女剣士はにべもなく言い放った。セリフィアは少し驚いて、

「じゃ、じゃあ、どうしてわざわざ俺に稽古をつけてくれたんです? ミーアさんの依頼でないなら、どうして…?」

「10フィートソードの使い手はこの世界に数名だ。世界の情勢に耳を澄ませていれば、自分以外のだれがどうしたかなど、すぐにわかる」

 それだけ言い捨てて、女剣士は、訝しげにしているセリフィアを残して去った。

 カインはこの日、以前の仲間について何か情報があれば教えてもらえないかと、ロッツに調査を依頼した。





 2月18日。

 セリフィア、カイン、ラクリマは前日に戦闘技能訓練の全課程を終了した。今日まで訓練が残っているのは、Gとヴァイオラだけだった。

 セリフィアはGの訓練の終了を待って、彼女を伴ってパシエンス修道院に出かけた。魔法の剣を貸してくれたラグナーに礼を言うためであり、彼にGを紹介するためだった。

 先日と同じ部屋だった。セリフィアはラグナーをGに紹介してから、

「明日フィルシムを発ちます」

「そうか。気をつけてな」

「はい、ありがとうございます。…剣は彼女に使ってもらうことにしました。紹介します。Gです」

 Gは黙って頭を下げた。実はここに来てから一言も発していなかった。セリフィアとラグナーが歓談しているのを見るにつけ、彼女自身にも説明のつかない、何とも了見の狭い感情が自分の中に満ちてきて、そんな感情を認めるのは自分でも嫌だったのでそれを消し去ろうと必死だった。ラグナーの声が聞こえた。

「うん、よろしく。その剣は縁起のいいものだ。君たちを守ってくれると思うよ」

 彼はGを見、セリフィアを見、セリフィアに言った。

「…君は彼女を信頼しているんだね」

「……? はい。Gは信頼できる仲間です」

 ラグナーはそれを聞いて「そうか、そうか」と笑顔を二人に向けた。Gは相変わらず仏頂面だったが、それも気にしていないようだった。

「よし。充分な答えはもらった。仲間を大事にするんだぞ? 知っていると思うが俺がサラと出会ったのも同じ仕事をしたのが最初の…」

「あ、あの…?」

「うん? ああ。気にしないでくれ」

 ラグナーは言葉を引っ込めた。それから真面目な顔つきになって、

「君が何かを見つけてくることを願っているよ」

「…はい、ありがとうございます」

 よくわからないが、ラグナーさんは何かを望んでいるようだ、と、セリフィアは感じた。そして、できればそれに応えたいと思った。

「ラクリマのこと、よろしく頼みますね」

 途中からお茶を持ってきてくれたサラが、別れ際、二人に声をかけた。サラが入ってきたとき、Gは彼女が先だって礼拝堂の壁画のことを話してくれた女性だったと気づいた。

「できる限り頑張ります」

 セリフィアは誠意をもって答えた。Gは黙って、だが今までのように不快感からではなく、意志の強さを表すための沈黙をもって、肯いた。

(引き受けたからには、責任もって応えなきゃな…)

 肯いた瞬間、彼女は使命感のようなものを自分の中に感じた。



 カインとラクリマはトーラファンの館へ出向き、別れの挨拶をした。

 トーラファンはあの日以来、何度か図書室に訪れた。そこでいろいろなことを話して聞かせたので、彼がマジックアイテムやゴーレムの類に愛情を注いでいること、身寄りがないこと、気に入ったひとにだけマジックアイテムやゴーレムの販売と修理とを行って生活していることなどがわかっていた。

 ラクリマに話しかけるとき、彼はまるで子どもか身寄りを亡くして久々にだれかと出会った老人のように、とりとめなくお喋りをするのだった。その様子を隣で窺っていたカインは、すでにトーラファンに対する疑惑をほとんど解いていた。だから、「お世話になりました」という彼の挨拶も単なる形式ではなく、本心からのものだった。

「フィルシムに戻ったらまた来るといい」

 トーラファンはそういって二人を送り出してくれた。

 宿に戻ると、ロッツがカインの前の仲間たちについて消息を調べてきてくれていた。

「坊ちゃん…カインさんの…」

「ロッツさん、俺のことは好きに呼んでくれて構いません」

 以前からロッツが「坊ちゃん」と言っては「カインさん」と言い直すのに気づいていたカインは、言い直す必要はないと申し出た。ロッツはほっとした表情を浮かべて、報告を続けた。

「坊ちゃんのお仲間について調べやしたが、まだだれも死亡届は出ていません」

「死亡届が出ていない?」

「はい」

「だが、あのハイブコアは騎士団が掃討したと…」

「ええ。ですが坊ちゃんの仰る方々の遺品もありませんでしたし、倒したハイブたちの中にもそれらしい装備の死体がなかったようで」

(……どういうことだ)

 カインは訝しく思いながら、一方で喜びを留められなかった。

 もしかすると、生きているかもしれない。アルトーマスは無理としても、リューヴィル、ファラ、ディートリッヒ……そしてジェラルディンは。絶望するにはまだ早いのだ。

 もちろん、それは同時に不安材料でもあった。彼らがもし生きているなら、それはユートピア教が手を加えた上でなければ不可能としか思えないからだ。それでも仲間が生きているかも知れないという希望は、カインにとって喜ばしいものだった。

 自分が生きている、そのことには「復讐」の意味しかないと思っていた。だが、そうではないのかもしれない。自分を助けてくれた恩人が、ジェラにそっくりなのは神の罰だと思った。だが、そうではなかったのかもしれない。

(生きていれば、いつかきっと巡り会える。そのときまで……)

 それまでは暫しの別れ。それまでは、俺はこのひとたちに報いるために生きる。俺の命を救ってくれ、自分たちの苦痛を殺して俺を迎え入れてくれたこのひとたちに。

 宿の部屋で夜直をこなしながら、彼は仲間のベッドを、その安らかな眠りを確かめるように見回した。

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