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5 心の傷

 2月1日。

 朝から天気が良かった。

 ラクリマは皆に強壮剤を処方したが、ヴァイオラとGは「全く疲労がない」といって、今朝は辞退した。どうやら昨晩、ユニコーンと出会ったときに、彼の持つ不思議な力で二人だけ癒されたらしい。もっとも、体調は良好でも、Gの鬱状態は治っていなかった。セリフィアも変わらず、お揃いで鬱だった。

 セリフィアとアルト、それからロッツへの強壮剤の処方はうまくいった。3人とも疲労感が取れたようだ。ただ、肝心の自分は疲労が全く取れないようだったので、皆の足手まといにならず今日一日を無事に過ごせるよう、ラクリマは重ねて神に祈念した。

 午を過ぎてしばらく歩くうちに、森の道から抜け出し、もっと見晴らしのいい場所にさしかかった。雲もなく、穏やかな冬晴れの空のもと、一行はゆるい坂をのぼった。のぼりきったところで、やや下方向に川の流れが見えた。あの流れに沿ってもう少し行けば、渡し場があるはずだ。もう少しでフィルシムだと思うと、自然に足が速まった。


 すぐ手前の川岸には黒い、大きな流木のようなものが流れ着いていた。さらに近づいたとき、一同はそれが実は人間であることに気がついた。黒い甲冑に黄金の髪、仰向けに横たわるその者は遠目に見ても年若く、少年か青年のように見えた。ヴァイオラははっと息を呑んだ。彼女の眼力は、その者の容貌が今は亡き者に似ていることまで見て取ったのだった。

 刹那、前を歩いていたラクリマが「大変!」と小さく叫んで漂流者のほうへ走りだした。

「だれかラッキーを止めて!!」

 ヴァイオラは鋭く叫んだ。咄嗟にロッツとアルトがラクリマを押さえた。

「何するんですか!」

 ラクリマの驚きを背に、ヴァイオラはディテクトマジックとディテクトイビルの呪文を唱えて、彼のほうへ向かった。どうか見間違いでありますように。

 探知の呪文には何も障らなかった。危険はなく、ただのひとであるらしい。だが、害は別なところにあった。ヴァイオラの目の前に倒れているその少年は、死んだレスタトに生き写しだった。

「そっくりだ」

 いつのまにかそばにきていたGが、鬱状態らしい、気のない声を出した。二人の背後からラクリマの声が聞こえた。

「どうしたんですか!?」

 それには答えず、ヴァイオラは厳しい声で指示を出した。

「ロッツ君、ちび、そのままラッキーをこっちに来させないで」

「どうして…! 行かせてください! 手当てができないじゃないですか! 離してください!」

 ラクリマはアルトとロッツの手をふりほどこうとしたが、強行軍での疲労も手伝って一歩も前へ進ませてもらえなかった。向こうを見やり、叫んだ。「ヴァイオラさん!!」

 ヴァイオラはラクリマの叫びなど聞いていなかった。もう一度少年を見たあとで、Gと顔を見合わせた。こんなことがあるだろうか。

「レスタトさん…じゃないですよね」

 Gはしゃがみこんで、少年を軽くつついた。

「他人の空似だと思う…」

 そうは言ったものの、ヴァイオラも自分の言葉に自信が持てなかった。他人の空似で片付けるには彼はあまりにも似すぎていた。「レスタトが生き返った」といっても疑う人間はいないだろう。だがそんなことはあり得ない。レスタトは魂ごと消滅したのだから。

 ヴァイオラは少年の懐から冒険者パスを探り当てた。「カイン…戦士…」と、名前と職業を声に出して読んだ。Gは横から覗きこんだ。登録はフィルシムになっている。レスタトはガラナーク出身だった。やはり赤の他人なのか……。

 いつの間にかセリフィアもそばに来ていた。無言のままどんよりと、ショックを受けたんだか受けなかったんだかわからない無表情で、少年を見下ろしていた。

「このまま川に流しちゃいましょうよ」

 Gが言った。ヴァイオラもできるものならそうしたかった。この少年には何の罪もないが。

「流しちゃいましょう」

 Gが再び言った。彼女は本気でこの物体を川に流したいらしく、「大丈夫、だれも困りませんよ」などと言いながら少年を川のほうへ押しやろうとした。ヴァイオラは首を振ってそれを止めた。

「…ラッキーを呼ぼう」

 Gは思い切り不服顔になった。

「ラクリマさん、絶対にショック受けますよ。やめましょうよ。見なかったことにしましょうよ〜」

 もちろんショックを受けるだろう。ヴァイオラだってこれだけショックを受けているのだ。他の面々が、とりわけ今の精神状態のラクリマがショックを受けないはずがない。

「…先に進もう」

 突如、セリフィアが発言した。彼は先刻から無気力な頭で考えていた。

(まだ生きているのに流すのはなんだな……かといってラクリマに見せればどうなるかは想像がつく。Gが嫌がるのもよくわかるし、俺も彼女にこの人間を見せたくない…)

 他に治療行為のできる人間がいればそいつにやらせてラクリマを遠ざけておくのだが、こういう応急手当ができるのは彼女しかいない。だからこの際「放っておいて先に進もう」と言ったつもりだったが、うまく伝わらなかったらしい。「治療して先に進もう」と誤解されたのだろう。セリフィアはGが自分に怪訝な顔を向けるのを見た。

 そして結局、ヴァイオラには生きている人間を見捨てることができなかった。

「ヴァイオラさん! 早く手当てしないと、そのひと、死んじゃいますよ!!」

 向こうからラクリマが叫んでいる。ヴァイオラは観念した。少年が直接見えなくなる位置に自分の体を移動させてから、振り向いて「離していいよ」と言った。解放されたラクリマが急いで向かってくるのが見えた。

「ラクリマさん、あの」と、Gは手前でラクリマを留めて話しかけた。「あの、レスタトに似てるんです。驚かないでください。ものすごくよく似てるんです。だから、きっと肉親じゃないかと思うんです」

 ラクリマは「えっ」と小さく言ったあとで困惑したように、「私、肉親っていないんですけど」とGに言った。「レスタト」という名前を聞き漏らしたようだ。

(だめだ、これは)

 ヴァイオラは暗い気持ちになった。溜息はつくまいと呑み込んだ。それからラクリマの肩に手をかけて言った。

「ラッキー、よく聞いて。彼は非常に嫌な顔をしているんだ」

「嫌な顔?」

「坊ちゃんに」と言ってから、ヴァイオラは名前を強調するように言い直した。「レスターにそっくりなんだ。だから…気をつけて」

「…はい」

 ラクリマはヴァイオラの陰に横たわる少年のもとに屈みこんだ。彼女はたかをくくっていた。いや、そうではない。言葉では理解していた。だが、「そっくり」ということを真実理解するには、言葉では足らなかった。

 目の前に倒れている少年は、本当に、レスタトにそっくりだった。まるで死体だけこの世に返却されたかのようだ。ラクリマは目眩を覚えた。視界が大きく揺らいだ気がして、思わず地面に手をついていた。目が熱い。頭が割れそうだ。それでも何とか泣くのだけは堪えた。

(手当て…そう、手当てしなきゃ)

 彼女は呼吸を確かめるために、彼の顔の上に手をかざした。呼吸はあった。生温かい空気が指にかかるのを感じた。

 やおら、不快感が突き上げた。

(だめ…ちゃんと見なきゃ……)

 必死で診たてを続けようとしたが、見れば見るほど不快感は募った。なぜ死んだはずのひとがここにいるんだろう。自分が見殺しにしたひとが……

「うっ…」

 ラクリマは咄嗟に右手で口を押さえた。そばに立っていただれかを突き飛ばし、転がるようにしてそこを離れた。離れたところで地に吐いた。一緒に涙がこぼれた。これ以上、耐えられなかった。

(…やはりね……)

 ヴァイオラは離れたままその背中を見守った。声をかけたり近寄ってさすってやったりすれば逆効果だろうとわかっていたから。ヴァイオラからその意識が伝わりでもしたのか、セリフィアもアルトもGも、だれひとり彼女に近寄ろうとはしなかった。

(…だから流そうって言ったのに)

 Gはラクリマの背中を見ながら思った。彼女は今でもこの目の前の物体を、目の前の川に蹴り入れたくてしょうがなかった。見るたび背中がムズムズするようで不快だった。自分も見たくなかったがそれ以上に、

(ラクリマさんには見せたくなかったな)

と、強く思っていた。ヴァイオラたちの目を盗んで、少年をつま先で軽くなぶるように蹴った。だが気は収まらなかった。

 アルトは先ほどまでラクリマがいた場所に屈みこみ、少年を観察した。一同の中で一番の新参者である彼には、レスタトについての記憶もあまりなかった。参加した翌々日にこのグループは壊滅したからだ。アルトも一度死んだはずだった。あのとき、レスタトが奇跡を起こしてくれなかったら……。

 そう多く話したわけではなかったから、レスタトがどんな人物だったかはよくわからない。そのアルトが見てもこの少年の見た目は彼に生き写しだった。瞳はわからないが、明るい金髪、すっと抜けるような鼻すじに、貴族的な鼻梁と口元、その整った顔の造作すべてがレスタトを思い出させた。アルトにとって彼は命の恩人だった。だから、それと同じ顔をした別人を目の前にして、彼はどうしてよいやら途方に暮れた。

 セリフィアはもう一度立ったまま少年を見下ろした。これだけ似ていると、さすがの彼も少々気味が悪かった。鬱状態でなければきっと怒りを沸き立てたのだろうが、今はただ気味悪く思うだけだった。本当に他人だろうか? だとしたら……

(世の中は広い…)

 何がなしそう思ってから、彼はもう一度ラクリマを見やった。

 吐き気はおさまったようだった。ラクリマは、のろのろとした動作で辺りを清め、手を洗い顔を洗い口をすすいだ。やっとのことで立ち上がると、深呼吸をした。それから、ヴァイオラたちのほうへ向かって歩いてきた。

「ごめんなさい…」

 だれに言うともなくそう言って、少年の脇にかがみ込んだ。アルトは即座に立って、その場所を彼女に譲った。ヴァイオラは彼女の後ろにかがみ、背中から肩を支えてやった。

 ラクリマはもう一度少年を診た。呼吸はしっかりしている。水は飲んでいない。打撲はあるかもしれないが、鎧の上からではわからなかった。あとは……

「……」

 少年が何か言ったようだった。彼の意識が戻りそうなことにラクリマは気づいた。みんなに「気がつきそうです」と言おうとしたが、口が開かなかった。顔を横や後ろに振り向けることもできなかった。目は少年の顔に釘づけになっていた。

 少年はゆっくりと目を開いた。レスタトより暗い感じの、だが同じ緑の瞳をしていた。少し視線を彷徨わせてから、ラクリマの顔を見て「ジェラ…?」と呟いた。

「え?」

 ラクリマは彼が何を言ったのか、聞き取ろうとして顔を寄せた。



 少年──カインは目の前に少女の顔を見いだした。ああ、ジェラルディン。無事だったのか、よかった。そんな真っ青な顔をして。俺は大丈夫だから心配するな。それで彼はいつものように「ジェラ」と、もう一度繰り返し呼んだ。だが、目の前のジェラルディンは顔を上げ、よくわからないというように彼を見つめ返した。カインはそのとき、ジェラルディンと思っていた少女の背後に、黒髪の、見たことのない麗人が控えているのを認めた。

 ジェラルディンではない……?

 僧服も聖印も、フィルシムの下町の、ジェラと同じものだ。それにその顔は……だが……

「…ここは? あなたがたは?」

 カインは声を発した。その声は、いや、その声こそ、レスタトにそっくりだった。ヴァイオラは鳥肌が立つような気がした。

「ここは二又河。フィルシムの近くです。私たちはフィルシムへ帰る途中で、あなたがここに倒れているのを見つけたんです」

 ヴァイオラはできるだけ事務的に語ろうとした。感情を差し挟んだが最後、今まで溜め込んできたもろもろの情が、この場で噴出してしまいそうだったからだ。

「二又河……今は何日の、いつごろですか」

 ヴァイオラは日時をカインに教えてやった。カインはすでに上体を起こしていたが、あらためてヴァイオラたちに「助けていただいてありがとうございます」と、レスタトそっくりの声で礼を言い頭を下げた。それからラクリマをじっと見た。ジェラルディンにそっくりだ……だが違うらしい。よく見ればジェラよりも髪が短い。やはり別人なのだ。そう判断した途端、哀しみが彼を襲った。

 カインは自分が素顔を晒していることに気づき、顔の下半分を覆面で覆った。なぜ覆面をするのか、ヴァイオラが尋ねたが、彼は「いろいろあって」としか答えなかった。ますますアヤシイ奴、と、Gは反感を募らせた。

「こんなときに失礼かもしれませんが」と、ヴァイオラはさらに尋ねた。「どうしてこんなところに? 何があったんですか?」

「俺たちは…フィルシムの盗賊ギルドで仕事を請け負って…ある冒険者集団の遺品を回収するために指定された遺跡へ行ったんです。だがそこは…遺跡はハイブの巣になっていた……」

 全員が総毛立った。

「その遺跡は、ここからどのくらいです?」

 カインは遺跡の位置を答えた。それはフィルシムからごく近くにある「肝試しの迷宮」と呼ばれるところだった。間違いない、セロ村で蒔かれたのとは全く別のコアだ。一体いつの間に……?

 皆がハイブコアのことで胸を痛めていたそのとき、ラクリマはむしろカインの声で胸を痛めていた。彼の声……レスターと同じ声……声が、頭の中で幾度もこだましながら響きわたる。頭が割れそうだった。聞きたくない、もうこれ以上は。お願い、これ以上、喋らないで。

 だが、カインの声はまだ話を続けていた。

「結局、みんなやられてしまった……俺は…川に落ちて…」

 カインは思い出した。あのとき、最後に聞いた言葉。川に落ちるその瞬間に。……そして今も耳に鮮やかに残る言葉。

『お願い、カイン。あなただけでも逃げて…』

(君か、ジェラルディン…君が、俺を……)

 答えはなかった。代わりに、カインは目の前で、ジェラルディンと同じ顔をした少女が気を失うのを見た。ラクリマにはこれ以上彼の声を聞くことは、本当に耐えられなかった。それで耳を塞ぐために彼女は意識を飛ばしてしまったのだった。ヴァイオラはそのラクリマの身体を背後で受け止め、「少し寝かせてやって」とセリフィアに預けた。

 察するに、カインの仲間はギルド(ないしギルドの顧客)にハメられ、餌としてハイブコアに送り込まれたらしい。そして運良く(あるいは運悪く)カイン一人だけが生き残ったのだろう。一人が全滅を引き受けた一党と、一人が全滅を免れた一党の出会い…これはどういう符号なのだろうか。

 ヴァイオラは、気が進まなかったがカインにフィルシムまでの同道を申し出、カインもそれを受けた。ラクリマはこのまま起こさないことにした。それで、カインの鎧をヴァイオラが持ち、カイン本人はセリフィアが、ラクリマはGが背負ってフィルシムに向かいだした。

「あのひとは何て名前なんですか?」

 セリフィアの背中で、カインはジェラルディンそっくりの少女の名を尋ねた。

「………」

「彼女はラクリマさんですよ」

 黙って答えようとしないセリフィアの代わりにアルトが返事した。

「ラクリマ……」

 カインは呟いた。ではやはり彼女はジェラルディンではないのだ。だが、どうしてこうも似ているだろうか。

「彼女は…」

 フィルシムの神官なのか、と、訊こうとしたのをセリフィアがむっつりと遮った。

「悪いが黙っていてくれないか。気が散るんだ」

 それはGもヴァイオラも思っていたことだった。レスタトそっくりの声をこれ以上耳にするのは、ラクリマでなくても辛かった。

 カインは何も言わずに黙り込んだ。アルトが申し訳なさそうにこちらを見るのがわかった。この連中にも何やら曰くがあるらしいと、ただそれだけが理解された。

 しばらくしてラクリマが目を覚まし、Gの背から降りた。彼女がこわごわ自分を見るのをカインは認めた。自分と目が合うやいなや顔を背けてしまうのも。

 いたたまれなくて、「黙っていてくれ」と言われたのも忘れ、カインはアルトに話しかけた。「みなさんはどちらからいらしたんですか」

「セロ村です。あのぅ…カインさんはその、フィルシムの方なんですか?」

「…そうです」

「えっと、えっとその、フィルシムはもうすぐですから、安心してくださいね」

「………」

「あ、あの、カインさん、お若いのにしっかりなさってますよね。もうずいぶんとたくさん経験されてるんですか」

「…俺はまだ15歳です」

 15歳…! 一同は耳を疑った。

 なぜならそれはレスタトと同じ年齢だったからだ。

 あまりの符合に、セリフィアは背中の人間を振り落としたくなった。

「そ、そうなんですか。ボ、ボボ、ボクも15歳だから、同い年ですね」

 おろおろと取り繕うアルトよりも、カインはラクリマを気にして「彼女、具合が悪そうですが」と言った。

 カインの声が号令となったかのように、ラクリマはまたその場にうずくまってしまった。「大丈夫ですか」と繰り返すカインに、Gもセリフィアも「お前のせいだ」と叫びたかったが、何分、鬱状態だったので口から先まで言葉が出ていかなかった。ただ、二人ともむっつりとカインを睨みつけた。

「ジーさん、面倒みてやって」

 ヴァイオラはそう言ったあとでカインに向き直った。

「カインさん、悪いんだけど、フィルシムに着くまではもう喋らないでいていただきたい」

「それはどういう…」

 カインは理由を聞き募ろうとしたが、ヴァイオラの有無を言わさぬ態度に圧され、黙り込んだ。扱いに何やら理不尽なものを感じながら、今の彼にはそれを跳ね返す気力も体力もなかった。以後は、何か喋ろうとするたびにヴァイオラから、Gから、きついまなざしが飛んでくるので、結局無言に徹さざるを得なかった。

 Gはひたすらフィルシムに早く着きたかった。鬱状態のうえにこんなレスタトそっくりの人間を連れていかなければならないなんて、うんざりだった。ラクリマさんは具合悪くなっちゃうし。こいつがレスタトそっくりの声で喋るからいけないんだ。フィルシムに着いたら真っ先にこのレスタトモドキのアヤシイ奴と別れてやる。ただそれだけを心の支えに、ラクリマを担ぎながら歩きに歩いた。


 彼女の願いが通じたわけでもないだろうが、日暮れから少しして、向こうにフィルシムの大門が見えたようだった。皆、一様にホッとした。

 大門はすでに閉まっていたので、一同はその脇の小さな門へ足を向けた。と、そこに長い、身長の倍近くある長い剣を担いだ女性が立っていた。一目でセリフィアと同じ、10フィートソード使いだとわかった。

 案の定、彼女はセリフィアに向かって話しかけてきた。

「セリフィア=ドレイクだな? この剣の道を究める気はあるか?」

 どうやら10フィートソードの訓練をしてくれようという申し出らしい。だれが手配してくれたのか知らないが、セリフィアにとっては僥倖だった。

「もちろん」

と、彼は間髪を入れず応えた。

「では明日から技を磨きに来るがよい」

 これでショーテスまで戻らなくて済む、と、彼は胸をなで下ろした。が、問題がひとつあった。訓練にかかる費用である。

「実は現金の持ち合わせがないのですが…」

 セリフィアが気後れしながらそう告げると、女性はやや呆れ顔になって言い放った。

「では諦めるか」

「これっ! 遣ってください!!」

 Gが突然、自分の懐から宝飾品を取り出し、二人の前に突き出した。

「G、でもこれは君の…」

「いいんです、遣ってください!」

 二人のやりとりをよそに、女戦士はGが差し出した宝飾品のうち4分の1ほどを取り上げて、「よかろう。明朝ここへ来い。待っているぞ」と、セリフィアに念を押した。

「よかったですね、セリフィアさん!」

「ありがとう、G」

 ヴァイオラはおやと思った。そういえば日が沈んで月が昇った。新月の、鬱状態の3日間は終わりを告げたらしい。Gもセリフィアも普通の様子に戻ったようだ。何はともあれ、一安心だった。

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