一番長い日 後編
ヴァイオラは朝食のあとで、ラクリマを連れて村長宅へ向かった。
アズベクト=ローンウェル村長は、ベルモートを連れて応接室に現れた。ヴァイオラは彼に語った。今回のような事件が二度と起きないよう、基本的に自分たちと自警団と村人が一体となり、村から犠牲者を出さずになんとか生計をたてる方向で考えてもらいたい。その一環として、護衛がついている場合を除いて、冒険者および村人の森への立ち入り禁止令を出してほしいと頼んだ。
村長は、ヴァイオラの提案に耳を傾けたあとで、一つ咳払いをした。
「基本的には、わかった。しかし、冒険者に対して外出禁止を打ち出すことはできない。危険があることを周知することはできるが、かえって逆効果になることのほうが、多いと思うが……。村人は、ダグの件で危機感を持っている。素直に言うことを聞くであろう」
また、咳払いをして、
「ところで、そなたはどのようにして、生計を立てるつもりか? 考えを聞かせてもらおう」
村長は、最初のころのような嫌味な口調ではなく、真摯にモノをたずねる口調で問うてきた。ベルモートは、その脇でじっと話を聞いている。ラクリマも静かに話を聞いていた。ごくたまに、両手をこすり合わせるような仕草をするが、だれも気がつかなかった。
ヴァイオラは少し目を眇めて村長を見返した。
「この村のことはあなたが一番よく知っていらっしゃるでしょうから、よそ者で一冒険者たる私が意見するようなことではないと思いますが」
そう言って軽く指を組んだ。
「ただ、猟師組合はほぼ確実に機能しません。となればこの村の収入源が半分になったということです。つまり、村は現在、廃村の危機に追い込まれているわけですよね? この場合、村を存続させるのか、それともすっぱり諦めて近在の村なり町なりに移住するのか。一時的に避難して、捲土重来を期するのか。その辺りをどうお考えなのですか?」
アズベクトは「うむ」と、少し考え込み、
「実は、ここを西に直進したところにスルフト村という村がある。クダヒとフィルシムの交通の要所だ。そことなら少し交流がある。フィルシムで猟師を募集する手もあるが、その場合、『ならず者』が来る可能性が高い。スルフト村なら、まだしっかりした者が来るであろう。まあ、それなりの代償は、覚悟しなければならないが……」
それだけ言うと、遠い目をした。また、口を開いて、
「猟師組合が壊滅的な現状は変わりないが、村としての存続は、冒険者が来る限り、大丈夫であろう。村の収入の大部分は、冒険者に頼っているからな。しかし、猟師や木こりの生活を保護しなければならないな」
村長は「ベルモート」と、息子に顔を振り向けた。
「猟師と木こりに3ヶ月間、免税の特例を認めよう。早速書状を作って回覧するように」
じっと話を聞いていたベルモートは、突然に話を振られてびっくりしたようだったが、
「は、はい。わかりました。早速作ります」
と、部屋を出て行った。
(ここでわざわざベルモートを外すのはどういうこと? ヤバイ話でもする気なわけ?)
ヴァイオラの頭をそんな思いが過ぎった。彼女は探りを入れることにした。
「……ハイブコアが存在する限り、冒険者はその潜在的な支援者となります。おそらくバーナードたち程度の強さがないと、自由にこの辺りを闊歩できないでしょう。だから、コアを潰すまで冒険者への自由行動を認めて欲しくないのです。わざわざ敵に戦力を提供することもない」
それとも、何か手だてでも? と、問いかけた。
「はっきりいえば、手立てはない。昔は、ヘルモークなどが新しい迷宮を見つけたら、それとなくフィルシムに情報を流して冒険者を呼び込むようなことをしていたが、今となっては、それもできない。かといって、冒険者が来るのを止める手立てもない。『危険だ』、『ハイブがいる』などという情報を流せば、逆に冒険者が寄ってくることになりかねない。冒険者を止める手立ては、ないのだよ」
村長は長々と喋ったあとで一呼吸置いて、
「ハイブコアを潰すためにフィルシム王宮が何かしらの援助をしてくれればいいが、それもあまり期待できんな。我々は、自分らのできることのみをしよう」
と、溜息をついた。
「ところで、ヴァイオラ殿。折り入ってそなたに話がある。ラクリマ殿は、少し席を離れてくれぬか」
先ほどから一言も発さないでいたラクリマは、「はい」と小さく答えると素直に部屋を出ていった。その後ろ姿を見ながら、ヴァイオラは軽く眉をひそめた。何か、上向きな精神的刺激を与えられればいいと思って、わざとこの場に連れてきたのだが……。
(やはり彼女は戻ったほうがいいのかもしれない)
ヴァイオラはそっと目を伏せた。村長の声が耳に聞こえた。
「さて、折り入った話とは、他でもない。次期村長のことだ。この通り、わしももう歳だ。本来ならベルモートにその地位を譲って引退してもおかしくはないのだが、見ての通り、ベルモートは少々気弱なところがある。わしは本当は、ブリジッタに譲るつもりだったのだ。このセロ村を作ったとされる人物も女性だし、このフィルシムの初代王も女性だ。なんら不思議なことではないのだが……」
と、息継ぎをして、
「ブリジッタはわしの子の中で、一番よくできた子だった。しかし、男を見る目はなかったようだ。はっきり言ってわしは、あのバーナードという男は信用ならん」
村長の語気が荒くなった。「こほん」と咳払いをして、口調を戻し、
「話がそれてしまった。もしわしに何かあった場合、ベルモートでは、不安が残る。かといって他に候補がいるわけではない。そこで、そなたに頼みたいことがある。ベルモートが、皆に村長と認められるようになったら、この『巻物』を渡して欲しい。それまで預かっていてくれぬか」
村長は一巻の巻物を取り出した。
「本来この『巻物』は獣人族の代表が持っていたものだ。しかし、彼らがこの村を出ていってしまってからわしが預かることとなった」
ヘルモークに頼んだが、にべもなく断られた、と、村長は述べた。
「『巻物』は半分になっている。もう半分は、本来ベルモートが持つものだが、同じように村内のある人物にお願いしている。獣人に託した昔の人間の思いを考えるに、村を一歩離れたところから見られる人物に、という主旨があったのだと思う。
「神殿のスピットならとも考えたが、村人と結婚している以上、一応村人という扱いにあたるであろう。そこで、村内の人物の人望も厚く、神官として出自のしっかりしたそなたに頼むことにしたのだ。
「もし、獣人が戻ってくるようならこの『巻物』を本来の持ち主である、獣人に返してもらっても構わない。そなたなら、ヘルモークとも仲がよいから、話もしやすかろう。あと、あまり考えたくはないが、ベルモートが失格の烙印を押されたときは、村人が認め、そなたが村長の器だと思う者に託してくれ」
村長はそこまで言うと、じっとヴァイオラを見つめて言った。
「そなたを見込んでのことだ、頼まれてくれぬか」
その顔からは、村の将来を本気で心配していることが容易に窺えた。
ヴァイオラは驚きに目を瞠った。しばし村長を凝視し、ゆっくり腕を組み直した。
「……それは光栄なことです。ですが私は冒険者ゆえ、いつこの地を離れるかわかりません。でなくとも、いつ野垂れ死んでもおかしくない立場にあります。それでもよろしいのでしょうか?」
「ハイブ騒動が終わるまでは、この村にいてもらうつもりではあるし、そなたの言動を見ていると、命を粗末にする人間にも見えぬ。神はきっとそなたを導いてくれるであろう。もし、そなたに不幸があったのなら、わしの見る目がなかったと素直に諦めよう」
村長はさっぱりした顔でそう答えた。了承とも取れる返答を受け、肩の荷が下りたようだ。
ヴァイオラはしばらく答えず、襟元に手を当て、襟飾りを撫でながら考え込んだ。これを受ければ、何が覆い被さってくるのか、想像もつかない。だが、結局のところ、村長は自分自身を受け入れてくれ、信頼してくれているのだ。それに応えずにいられようか。
「……やはり、その申し出を受けないと、巻物の内容を聞いてはいけないのでしょうね?」
「そうだな。村の秘密に関わることだからな」
「──わかりました。お受けしましょう」
村長は今度こそ、心から肩の荷を下ろした。ヴァイオラは続いて、巻物が何であるのか、また、もう一人の所持者がだれであるのかを尋ねた。
「わしも『巻物』の内容は実は詳しくは知らないのだ。この村の存在に関わることだとしか伝わっていない。開いて見てほしくはないのだが、仮令見たところで、その内容はわからないだろう。なぜなら、古の魔術師の言葉で書かれているからだ。冒険者であればそれを解き明かすこともできようが、わしはそれを勧めん。そうしたほうが良いのなら、とっくにそうしているに違いないからな」
村長は続けてもう一つの疑問に答えた。
「もう一つの『巻物』は、キャスリーンに預けてある。この村で一番信用のおける人物であるからな。『巻物』や秘密については、ベルモートや他の子どもたちは知らないはずだ。このことを知っているのは、キャスリーンと、出ていった虎族の族長ダーガイムくらいなはずだ。もっとも、ヘルモークなら何か知っているかも知れんがな」
そういうわけだから、と、村長は告げた。「その存在自体、秘密にしておいてほしい。もし何か相談事があれば、キャスリーンにするがいい」
村長は、簡素ながら造りのしっかりしたスクロールケースをヴァイオラの手に渡した。
「では頼みましたぞ」
村長宅からの帰り道、考えをまとめるためもあって、ヴァイオラは河原へ足を向けた。今日は二度目だ。だが、考え事をするときはなぜか河原へ赴いてしまう。
ラクリマはものも言わずにその後ろに付き従っていた。二人はしばらく無言で歩いた。
「ラッキーはどうしたい?」
出し抜けに、ヴァイオラが振り返った。ラクリマは無言で顔をあげ、胡乱な目を彼女に向けた。
「あの馬鹿はいなくなったでしょう? なら、最初の任務は終了したってこと」
ヴァイオラは少し屈んで、ラクリマと目線を合わせた。
「私はしたいことがあるからここに残るけど、どうする? フィルシムに帰るなら、バーナードたちが戻ってからだったら送ってあげるけど」
どうせ武器の訓練をしに行かなきゃダメだしね、と、言ったあとで、彼女はそれまでと違った真摯さで、ラクリマに告げた。
「でも、もしもこの村に残るつもりなら、覚悟して。これから先は自分の意志で進んでいかなければならない道だから。もう、甘えさせてはあげられないと思うし、甘えないでほしいの。だから、自分の足で立てないのなら」
ヴァイオラは射るように言った。「フィルシムに戻りなさい」
それから、「よく考えてね」と言い残し、宿のほうへ去っていった。
ラクリマは束の間、その場に立ちつくした。うまく物事を考えられないようだった。
フィルシムへ帰ることが赦されようとは思っていなかった。いや、そうではない。何一つ、赦されはしない。進むことも退くことも、とどまることすら。
空っぽの胸を抱えたまま、川辺に寄った。手の先を流れに浸してみた。何も感じない。それでも、かすかに(帰りたい……)と思ったようだった。
ラクリマは、すぐそばにGとセリフィアがいることに今さら気づいた。二人とも楽しげにお弁当を広げている。いつもなら声をかけて仲間に入れてもらうのだが、今日はどうしてもそれができなかった。逆に、二人を避け、一人になれるところまで少し足を延ばした。
Gが河原へやってきたのと、アルトが洗濯を終えて帰っていったのとがちょうど入れ違いだった。Gは、羽根とビーズを取り出した。羽根は二枚の風切り羽根で、一枚は自分自身の、もう一枚は「母さん」の翼のものだった。それらを組み合わせて首飾りを作り上げてしまうと、お弁当を広げようとして、ふと手を止めた。
「一緒にお弁当食べましょうー」
彼女はそばで素振りをしているセリフィアに声をかけた。セリフィアはコクッと肯いた。
二人で楽しく──といってもお喋りはほとんどしなかったのだが──お弁当を食べたあとで、Gは河原に寝っ転がって機嫌良く歌を歌った。セリフィアはまた素振りをしている。
しばらくして、歌が止んだ。セリフィアが振り返ると、Gは気持ちよさそうに眠っていた。
(起こしたくない……)
彼はそう思って、素振りを止めた。3メートルほど離れた場所に座って、今までのこと、これからのことに思いを馳せた。
ラクリマは一人で時間を過ごしたあと、キャスリーンの家へ向かった。
「今、お邪魔じゃないですか?」
キャスリーンは「毎日飽きもせずに」と呆れた顔をしつつも、嫌がる様子は見せずにラクリマを家の中にあげた。隣の部屋ではリールとカーレンが遊んでいるのだろう、はしゃぐ二人の声が聞こえてきた。
ラクリマはキャスリーンの肩と腰を念入りに揉みほぐしていった。
一通り終わったところで、キャスリーンがいつもの調子で聞いてきた。「で、今日は何の用だい?」
ラクリマはやや俯き加減になり、唇を震わせながら、「ごめんなさい」と謝った。
「…ごめんなさい。私……この間は偉そうなこと言っちゃったけど、レスターさんも死んでしまったし……私、フィルシムへ帰ります。お婆さんにはいろいろ教えていただいたりよくしていただいたのに……」
もはや涸れ果てたのか、涙は出なかった。ラクリマはさらに俯いた。
「ごめんなさい……どうしても謝っておきたくて……」
「……………」
しばらく無言の時が流れた。
隣室ではしゃぐ子どもたちの声ばかりが響く。
やっとのことで、キャスリーンは口を開いた。
「ま、よそ者が、ここに定住するわけもないんだし、好きにするがいいね」
と、ぶっきらぼうに言い放った。
「でも、来たくなったらいつでもおいで。老い先短いけれど待っているよ」
小声で付け足したあとで、すぐに立ち上がり、「あんたも忙しいだろ。さ、もうお帰り」と、半ば強引にラクリマを追い出した。
ラクリマは出ていく前にもう一度振り返り、「ごめんなさい」と呟いた。それから振り切るようにして宿屋へ戻って行った。
ヴァイオラが宿屋に戻ると、ロッツが待っていた。ロッツは90度の角度に礼を取って「お帰りなさいませ、姐さん!」と彼女を出迎えた。「どうだった」と水を向けるより早く、
「坊ちゃんのこといろいろ調べて来やしたぜ」
と、レスタトの素姓について語りだした。
レスタト=エンドーヴァーは本名をグィンレスターシアード=アンプールといい、ガラナーク第2の都市ライニスの領主、アンプール家の正当な家系の者である。この家系は代々女性が家を継ぐので、男子である彼は家を出ることが許されたらしい。
「神託」の件は、ガラナークの一部、主には神殿で有名らしかった。が、現在ハイブの脅威に曝されているので、実体を探るための資金提供をするにとどまっているという話だった。
ヴァイオラはもう二つほど頼み事をした。まずセロ村の成り立ちと、ここの村長家がフィルシムの他の領主たちのように並ならぬ実力を持っていないにもかかわらず、村長を務めていられる理由。それから、セリフィアの父ルギア=ドレイクの現所在である。情報料として100gpを手渡し、それらの調査をロッツに頼むと、夕食になる前に、散歩がてらキャスリーンの家に赴いた。扉をノックして、
「すみません、少々お時間をいただけますか」
老婆は実に不機嫌な顔をしていたが、ヴァイオラは慣れっこだった。そんなものはものともせず、部屋に入った。
「何か用かね」
キャスリーン婆さんはぶっきらぼうに、しかも短く、迷惑そうに聞いてきた。
ヴァイオラは簡潔に「巻物」を預かった旨を伝えた。
「そういうことなので、しばらく私が代行します。万が一、私に何かあったら、宿の小長櫃を覗いてください」
言うことだけ言って、辞去の挨拶とともに扉の方へ歩いていった。追いかけるように、
「よろしく頼むよ」
キャスリーン婆さんがそう、独り言とも取れる小声で答えたのが聞こえた。
ヴァイオラがそこから宿に戻る直前、セロ村に伝書鳩がやってきた。伝書鳩のもたらした重大ニュースはすぐさま公開され、たちまち村を席巻した。
ショートランド歴459年12月30日。ドラゴンおよびマンティコア、アンデッドを含んだカノカンナ軍は通行不可能なはずのディバハ湿地を抜け、闇夜に乗じてディバハ市に侵攻した。
この電撃作戦は、見事成功をおさめ、翌460年1月1日朝方にはディバハ市は陥落。ラストン臨時政府は瓦解し、ラストン王国の長い歴史は幕を閉じた。
なお、この作戦遂行にあたり、カノカンナ軍には略奪許可が出ていた模様で、金品や食糧、マジックアイテムなどの略奪、女性に対する暴行、殺人など、市民に多数の被害が出た。また、被害を逃れるため、市民がディバハ市を脱出、難民となって周辺6町村に向かったものの、怪物や折から騒がれていたハイブの被害により多数の行方不明者を出すという二次被害も多数発生した模様。
さらに周辺情報として、周辺町村のうち最大規模を誇るフランチェスコの町は早々にカノカンナに恭順の意を示した。この素早い対応に対して、一部では内通者がいたのではと言われている。他の5村に関しては、未だ態度を保留している模様で、近くそれらの村に対して掃討作戦が行われると見られている。この作戦の成功如何では、食糧の更なる高騰が予想される。
この勢力図の変更により、カノカンナは正式にカノカンナ王国の設立を宣言、完全にフィルシム王国から独立した。現在、フィルシム王国とガラナーク王国は態度を保留。確かな筋の情報によると、ガラナーク王国はハイブ騒動の決着次第で、フィルシム王国は独立を認めない方針だと言われている。ただ、ラストン臨時政府の高官、メディヴェ=オッファルトとライカールト=マクウィニーは共に行方をくらましており、もし仮にラストン市内に他のラストン政府高官が生き残っていた場合、更なる事態の転回が予想される。
以上、冒険者ギルドディバハ支局情報部よりお伝えしました。
めいめいがさまざまな場所でさまざまな人物からそれを伝え聞いた。カノカンナの首座といえば、リルケ=スチュワートという女性魔術師だったはずだが、彼女が何を目してこの情勢下でこのような暴挙に出たものか、良識のある人間には度しがたかった。
(まぁ、どさくさに領土を切り取るのは第三勢力の常套手段だけどね)
と、ヴァイオラは思った。
Gは、この報を聞いて激昂した。
「ああぁ!? 馬鹿か!? 人間どもはそんなに馬鹿なのか!? まだそんなくだらんことを…そんなコトしてる場合じゃないだろう!? …ヤツは何のために死んだんだ! 死んでみせたのは……っ…」
彼女の隣では、先ほどからセリフィアが放心していた。彼の故郷はラストンなのだ。
「…それで、セリフィアさんが…こんななんですね」
Gはそう言って、セリフィアの手をぎゅっと握って撫でた。それから宿の主人に顔を向け、
「あー、怒ったらお腹空きましたぁ」
夕食後、ヴァイオラは皆を部屋に集めた。今後の方針を固めておく必要があった。
彼女は方針として、まず、ハイブコアを潰すまでこのメンバーで活動を続行したいということ、それから、この村を守れる力のある冒険者たちが現れたら、武器に習熟し戦力増強をはかるため、かつ、世界情勢を把握するために、フィルシムへ行くことを挙げた。
「それで、いろいろ思うところはあるだろうけれど、皆の覚悟を訊きたいなと思ってね」
ヴァイオラはそう言って、一座をぐるりと見回した。
レスタトがいない今、彼らは惰性で一緒にいるに過ぎない。ラストンの陥落の報で、セリフィアなどは迷いが生まれているだろう。覚悟を新たにし、一つの目標に向かって行くのでなければ、「任務続行」など不可能だ。そしてヴァイオラは絶対にこの任務をやり遂げるつもりだった。だから、どうしても必要だった。一人一人の口から覚悟を語らせることが。
ロッツが勢いよく立ち上がった。
「あっしは当然、どこまででもついて行かせていただきやす。坊ちゃんに頂いたこの命、姐さんのために全力で尽くさせて頂きやす」
「僕は………構いませんが。……皆さん、改めてよろしくお願いします」
アルトがペコリと頭をさげた。その隣に座っていたセリフィアは、しばし間をあけてから答えた。「…………俺は、ここに残る」
ラストンに戻るつもりはないらしい、と、ヴァイオラは諒解した。
ラクリマは、片方の手でもう片方の手をぬぐうような仕草をしながら、
「…私……私、フィルシムに……帰ります」
言ったきり、俯いてだれとも目を合わせようとしなかった。
やはりそうか、と、ヴァイオラは心の中で溜息をついた。
最後にGが、
「他にやることも行くところもないですから」
と、ぽつりと言ってにっこり笑った。それからついでのように、「あー、そうだ」と付け足した。額にこっそり冷や汗を浮かべながら、
「私やっぱり獣人みたいです……今日、銀の剣買いに行ったんですけど持てませんでしたー。おわり」
平静を装っているものの、わずかに視線が中空をさまよっている。だが、(これはきっと自分に向き合うことができたんだな)と思って、ヴァイオラは久しぶりにちょっと笑った。それを見て、逆にGも安堵したようだった。
セリフィアも何やら感ずるところがあったのか、
「そうか。じゃあ、銀の武器を持った敵は俺が相手するよ」
そう言って、にっと笑った。Gはちょっと狼狽えたようだったが、「…う、ぉねがいしますぅ…」と返事を返した。
ヴァイオラはもう一度、皆を見回して口を開いた。
「じゃあ、基本的には方針に変更なし、と。バーナードなり別の冒険者なりがこの村にしばらくいてくれるようだったら、皆でフィルシムへ行く。それでいい?」
彼女はセリフィアを見、ラクリマを見た。
アルトが真っ先に「いいと思いますよ。全員にとって必要なことをやりに行くのですから、ね」と答え、セリフィアは無言で肯いた。
ラクリマはまだ俯いていた。ヴァイオラの視線も届かない。
特にこれ以上は何も話が出なかったので、それぞれ寝床に引き上げた。ヴァイオラは最後にラクリマの頭をぽんと撫でて、「お疲れ」とだけ言った。




