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第八話 登校前のひと騒動

ジリリリリリ


「わとと」


朝靄がまだ微妙に残る頃。


僕のベッドのそばにある目覚ましがけたたましい音を鳴らした。


僕は、それにすこし驚きながらも、それを消すと起きる。


「ん、んん……」


ふとんからゆっくりと出て、着替えようとしたところで、雪華もどうやらお目覚めのようだ。


まぁ、すぐ傍で目覚ましが鳴れば、起きてしまうのは当然か。


「もう少し寝ててもいいよ」


だけど、雪華が起きるのはもう少し後でもいい。


こんなに早い時間から、子供を起こすのはなんとなく憚れる。


「……うん」


雪華も、まだ眠いんだろう、僕の言った事に素直に頷く。


寝る子は育つ。


それを雪華にはぜひ実践してもらいたい。


まぁ、早く容姿に見合う精神年齢を手に入れて欲しい。


そう言うわけだ。


僕は、着替えを済ませると、自室から出て、キッチンに向かう。


雪華が寝ている間に準備は全部しておきたい。


そう、今日から学校なんだ。


さすがに、雪華の面倒を見るからと言って、学校を休むわけにはいかない。


まぁ、一人で置いておくのは心配と言えば心配だけど、たぶん大丈夫だ。


昨日だって、文句は言って、ほとんど半べそだったけど、それでもしっかりと自分で買い物は出来た。


だったら、お留守番もできると思う。


むしろできるものであって欲しいとも思うけど。


まぁ、どっちにしろ、高校生の僕は高校に行かなくちゃいけないのは変わりない・


と、それはさておき、さっさと準備してしまわないと。


朝食の準備を終えると、僕は、階段を上り、自分の部屋の中に入る。案の定、雪華はまだ気持ちよさそうに寝ている。


その幸せそうな寝顔がうらやましいぐらいだ。


むしろ、できることなら、僕も布団の中でそんな顔をして寝て痛いものだ。



だけど、僕はその思いを押し込むと、


「ほら、雪華、ご飯だから、そろそろ起きて」


雪華を起こす。


「ん~、や」


だけど、起きない。


全く起きる気配がない。


まぁ、まだまだ朝も早い時間なんだから、そう思っても当然なのかもしれない。


だけど、折角朝食の準備をしたんだから、一緒に食べたい。


それに、いきなり一人だけ放っていくわけにも行かない。


泣きながら探しに来る、そう言う事だって十分にありえるわけだし。


だから、それを防ぐために、予防策として、今のうちに起こして、説明しておいた方が無難だ。


「眠いのは分かるけど、ちゃんと起きて」


今度は、体を揺すりながら起こす。


声で起きないなら、次はこれしかない。


「ん~、や」


だけど、答えは全く同じ物。


はて、困ってしまった。


全く起きようとする意志が見受けられない。


このままじゃ、放っていくしかなくなってしまう。


いつまでも、のんびりしていられるわけじゃない。


いくら、早起きしたからといって、いつまでものらりくらりできるわけでもない。


僕は、何度も雪華を揺すりながら起こそうとするがやはり起きない。


さて、正直困った。


どうやって、雪華を起こそうか。


さらに、思いっきり揺らしてみるのも、手だけど、なんだかそれじゃあ可愛そうだ。


寝る子は育つ。


そう言うぐらいだから、幼い雪華を無理やり力づくで起こすわけには行かない。


というか、正直言ってかわいそうだ。


なら、どうしてみようか。


しばらく考えてみて、出てきた答えは二つ。


一つ目は、朝ご飯で釣る。


起きないと朝ご飯抜き、てな感じで。


まぁ、これはこれでかわいそうな気がするが仕方がない。


そして、二つ目。


ちょっと、これはお勧めできない。


というか、なんと言うか、そんな事を考えてしまう自分が怖いぐらいだ。


むしろ、ついに毒されてしまったのか、という哀れみを感じてしまう。


自分自身にだ。


もしかすると、みんなも分かってきているかもしれない。


けれど、あえて言わせてもらおう。


そう、二つ目の方法というのは、起きてくれないと、嫌いになっちゃうよ。


これだった!!


なんだか、無性にむなしくなるのは僕だけだろうか??


いや、そんな事はないはずだ。


むしろ、なんて頭がいいんだ。


そう褒め称えたくなる。


ごめんなさい、冗談です。


メチャクチャ、恥ずかしいし、情けなく感じます。


と、それはいいとして、早く起こさないと。


さて、どれにしようか?


結局選んだ手段は、一つ目の方だった。


やっぱり、二つ目のは恥ずかしすぎて使えなかった。


まぁ、むしろ、使ってしまう方が問題なのかもしれないけど。


と、それは、さておき、さっさと朝食を済ませてしまおう。


今、ちょうど雪華が着替えているので、その間に、テーブルの上に並べておいてしまったほうが効率がいい。


僕は、炊飯器を開け、それぞれの茶碗にご飯をよそうと、お椀に、味噌汁をつぎ、小皿におかずを載せる。


とはいっても、おかずは、基本的にお弁当の残り物。


まぁ、どっちも一緒に作ってしまっておいた方が楽だし。


と、朝食の準備も終わったので、二階に上がる。


もうそろそろ、準備ができていてもおかしくないはずだ。


「朝ご飯の準備できたよ」


僕は、軽くノックをして、そう言うと中に入る。


部屋の中にはちゃんと着替えをし終わった雪華がいた。


もし、ここで着替えができていなかったら、どうしようかと思ったけど、それは杞憂ですんだみたいだ。


二人で、階段をとてとてと降り


「いただきます」


手を合わせて、そう言って食べ始める。


ただ、やはり寝起きのためだろうか、雪華はぼんやりとしている。


まぁ、昔の僕もこんな具合だったから仕方ないか。


僕だって、これでも昔はそうとう極端に朝に弱かった。


目覚ましが鳴っても、なかなか起きないぐらいだった。


それでも、今はちゃんと起きられる。


だから、雪華もたぶん、慣れればすぐにちゃんと起きられるようになると思う。


ようするに、早起きなんてものは、慣れなんだから。


そして、二人の朝食がゆっくりと始まった。


のんびりとした朝食を終えると、二人して、洗面所に行き、歯を磨き、顔を洗う。


まだまだ、それに関してはなれてないみたいで、手伝わないといけない。


しかも、その手伝い方と言うのが、某テレビ局のはみがきと同じような事なんだ。


正直言って恥ずかしい。


こんな所を見られでもしたら、たぶん立ち直れない。


なんだか、ただでさえ、最近わけもなく汚れてしまったような感じを受けているのに、これ以上はきつい。


これ以上行けば、自分自身の評価が、もう完全に変態の域に達してしまう。


だから、これだけは、絶対に何があってもばれてはいけない。


これが、最後の砦だ。


なんとなく、そう思えてくるんだ。


と、いつまでも、それを熱く語ってみたところでしかたないので、さっさと支度を済ませる。


もちろん、雪華もだ。


居間に戻ると、テレビをつける。時刻は大体8時手前。


普通に歩いていっても十分に、というか楽に間に合う時間だ。


まぁ、僕の家が学校のそばにあるから、というのもあるけど。


とはいっても、普通に歩いて、20分弱は掛かるけど。


「ねぇ、パパ??そんな変な服を着てどっか行くの??」


ぼんやりと、適当な事を考えつつも、これからのための言い訳を用意していると、不意に雪華が尋ねてきた。


けれど、僕にしてみれば正直げんなりだ。


いや、まぁ、確かに僕が今来ている服は雪華にしてみれば、少し変なのかもしれない。


なんと言っても詰襟だ。


普通はこんなものは、着ない。


だから、そう言うふうに思っても仕方ないとは思う。


思うんだけど、それは、ちょっぴり寂しいのでは??


ていうか、たまに詰襟に憧れている女子だっている。


うちの学校にも、詰襟最高!!


私も着れるなら着てみたい!!


そんなふうに言っている人だっている。


嘘じゃないから??


普通にそんなふうに言う人がいたんだからね??


まぁ、信憑性は皆無かもしれないけど。


でも、それを差し引いたとしても変な服。


それはないんじゃないかな?


そんなふうにも思えた。


だけど、これはチャンスなのかもしれない。


どうやって、話を切り出したらいいかずっと考えていたんだけど、雪華からそれをふってくれるなら、願ってもない。


「うん?これから、ちょっと行かなくちゃいけないところがあるんだ。んで、この服は、そこの制服」


僕は、できるだけ分かりやすいように答えた。


けれど、それでも、十分に伝わってないのか、雪華は首をかしげている。


もしかして、制服って言うのがわからないのだろうか??


それ以外は、普通に通じていたわけだし。


でも、困った。


制服は制服であって、それ以外何でも無い。


まぁ、つまり簡単に言うと、説明の仕様がない。


そう言うことだ。


だけど、このまま適当に流すわけには行かない。


んじゃあ、どういうふうに言えば分かってくれる。


「でも、私その服持ってないよ??」


訂正しよう。


僕の考えが少し間違っていたようだ。


雪華は、十分に僕の言っている事を理解していた。


そして、僕の不十分な説明のせいで、首をかしげている。


そう言うことだ。


けれど、それが分かれば説明は簡単だ。


そこから、話を続ければいい。


ただ


「いや、そこに行くのは、パパだけ。雪華はお留守番しててくれる??」


「や」


前途多難ではありそうだけど。


それから、数分間しっかりと状況を説明した。


下手したら遅刻するかもしれない。


そう思いつつも、僕なりにできるだけ精一杯のことをした。


すると


「うん。分かった」


不承不承ながらも、雪華は頷いてくれた。


「お仕事なら仕方ないよね」


そして、そう付け加える。


最終的に僕が言ったのは、お仕事だから、だった。


雪華にそれが通じるかどうかはまったく謎だったけど、言うだけは言ってみた。


けれど、雪華はそれに頷いてくれた。


ほっと一安心だ。


と言いたいところだけど、今目の前にいる雪華は、今にも泣きだしそうだ。


まぁ、まだまだ幼い雪華にしてみれば、長時間の孤独はとても辛いんだろう。


まぁ、その気持ちも分からないでもない。


僕だって、昔、誰一人いない家で留守番したとき、すっごく不安な思いをしたことがある。


「ごめんね?できるだけ早く帰ってくるからね?」


せめて、そんな思いを払拭したくて、そんな言葉も出てくる。


とはいっても、たぶん大して役に立たないと思う。


僕だって、そうだったんだから。


「んじゃあ、お昼ごはんは、レンジの中に入れているから、それを暖めて食べてね?使い方はちゃんと覚えてるでしょ??」


それでも、何も言わずに行くのよりはましだ。


僕は、雪華の頭をなでながらそう言うと、


「行ってくるね??」


荷物を持って、家を出た。


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