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第七話 男の決戦場

雪華と二人できたのは、駅そばにある総合デパートだった。


ここなら、必要なものが全部そろっている。


まずは、生活必需品を買い揃える。


いつまでも、客用の食器のわけにもいかない。


彼女ももう僕の家族なんだ。


だから、彼女専用の食器を用意しなくちゃいけない。


そして、次はやっぱり洋服。


なのだけれども、その前にお昼ご飯。


いくら、幼げに見えて、しかも天使だったとしても、やっぱり雪華も女の子。


買い物に時間がかかった。


あれだこれだ、選び始めるととまらなくなってしまった。


おかげで、予定がずれてしまった。


まぁ、生活必需品を勝手からお昼ご飯の予定だったんだけど、時間が違っている。


時計を見れば、もう1時を大きく過ぎている。


僕たちは、最上階までエレベーターで上がると、すぐ傍にあったパスタ屋に入った。


なかなかこぎれいで洒落た雰囲気をした店だ。


時間が微妙にずれているおかげか、店内にいる客は少なく、すんなりと席についた。


そしてやってきたウェイターに、僕はたらこスパゲッティ―を、雪華はカルボナーラを頼んだ。


そこでようやく一息をつけた。


やっぱり、いろいろと連れまわされたため、結構疲れがたまってしまっているみたいだ。


そんな僕とは裏腹に、雪華はまだまだ元気そうで、しきりに周りのことを観察している。


まぁ、初めてだらけの事なんだから、当然なのかもしれない。


それに、早く社会に慣れさせるためにも、いろんなものを観察させておいた方が良いと思う。


僕もいつも一緒にいられるわけでもないし。


「ねぇねぇ、パパ。いろんなものがあるね。」


まぁ、まずは、このパパ発言だけはどうにかしないといけないだろう。


じゃないと、誰も彼にも、変態扱いされてしまう。


お昼ご飯を食べ終え、僕たちは早速雪華の服を選びに行った。


とはいっても、僕は女物の服なんて分からないから、全部雪華任せになる。


けど、雪華もまた、内面はまだまだ子供なので、自分で選べない。


しかたがないので、結局店員任せになる。


けど、全部が全部店員任せにすると、光学になる可能性もある。


なので、そんなところも考慮しなくてはいけない。


結局、店員と値段交渉をしながら、買うことになる。


そんなこんなで、ある程度買い終わった。


だけど、今度は雪華といえば、未だに服を見ている。


ここでも雪華の乙女心?が発動したみたいで、楽しそうにいろいろと見ている。


そんな所は年相応の少女らしいのだけれども、こんな事を続けられるとさすがに時間的に厳しくなる。


だからと言って、店を出ようとすると、渋り始め、泣きそうな顔になる。


僕としては、本当に困ったものだ。


そして、それと同時にこうも思う。


世の中のお父さんお母さんは、こんな思いをしながら、子供を育てているんだろう、と。


なんとなく、齢17歳にして、父親というものの一部を垣間見てしまった感じだ。


そして、家に帰ったら、今度はたぶんお母さんを感じる事になるのだろう。


今日の買い物のおかげで、お金があんまり無い。


外食する余裕なんて無い。


それに、まだ買い物が残っているんだ。


最後の要所。


難攻不落の砦。


ランジェリーショップ。


そこにおもむかなくちゃいけない。


だから、ある程度残しておかなくちゃいけないだろう。


聞いた話では、ランジェリーというものは結構値が張るものらしい。


だから、かなり残しておかないと不安になる。


そして、僕たちは、その後長々と洋服を見た後、戦場へと向かった。


そして、ついに僕たちは戦場へと辿り着いた。


いや、僕だけにとっての戦場。


そう言いかえるべきか。


ランジェリーショップ。


男が入る事など無い、女だけの聖地。


男子禁制の世界だ。


「パパ、何気難しい顔しているの??」


死地に赴くような表情をしていたのだろう。


それを読み取った雪華が僕の事を心配そうな顔をして覗き込む。


だけど、雪華にはきっと一生分からないはずだ。


男子にとって、ランジェリーショップは、鬼門である事は。


と、それは言いとして、こんな事をしていちゃ、前に進まない。


このまま、現実逃避してみようかとも思ったけど、そんな事をしていると、いつまでも雪華用の下着の用意が出来なくなる。


それじゃあ、かわいそうなので、さすがにそんな事は出来ない。


やはり、ここは家族として……


いや、この場合は『パパ』としてこの逆境に立ち向かわなくちゃいけない。


「んじゃあ、入ろっか」


僕は、そう言うと、雪華を促しつつ中に入る。


そして、店内に一歩入った。


その瞬間に僕の身体中に電気のように思いが走った。


『これで僕も汚れたか』


別に汚れたわけじゃないと思う。


犯罪を犯したわけでもないし。


けれど、なんとなく……


そうなんとなく、僕は身体が汚れてしまった。


もう、以前のようにまっさらな身体じゃない。


そう思えて仕方なかった。


「ねぇ、パパ??」


「え??」


「早く選ばないの??」


雪華の声を聞いてようやく我を取り戻した。


そのショックが大きすぎたのだろうか。


僕は、しばらく呆然としていたみたいだ。


「あ、うん。んじゃあ、いこっか。」


だけど、僕はそれを何とか奥にしまいこむと、雪華を連れ立って、深く侵入していった。


中に入ると、パラダイスだった。


て、違う、下着だらけだった。


まぁ、ランジェリーショップなので、当然といえば当然だ。


だけど、それでもその多さにびっくりした。


「ねぇねぇ、パ――」


「て、ちょっと待ってね。」


だからといって、ずっと見つづけているわけにも行かない。


変態と間違えられる可能性もある。


そう思って、雪華のほうに向き直った瞬間この発言だった。


ただでさえ、女の聖地であるランジェリーショップに入っているのだから、視線が痛い。


それなのに、さらに雪華のパパ発言がでてしまえば、完全に変態扱いされてしまう。


僕は慌てて、雪華の口に手をやる。


そのおかげで、何とかぎりぎりで間に合った。


ただ、相変わらず周りからの視線は痛いが。


まぁ、それはいまさらなので、気にせずに


「いいかい、雪華。今からパパが、いいよ、って言うまでは、しばらく、パパの事は鳴海、て呼ぶんだよ?分かった??」


雪華の耳元でできるだけ小さい声で釘をさしておく。


雪華は、僕がどうしてそんな事を言うのかわからないんだろう。


首をかしげて、僕のことをじっと見つめている。


「分かった?」


だけど、だからといって、素直にわけを言えるわけも無い。


そもそも、今の雪華にそれをいてもわからないだろう。


これは、男の子。


しかも、思春期を迎えた男でないと分からない領域のことだ。


女の子の、しかも、精神年齢がかなり低い雪華には縁が程遠いものだ。


だから、どうとも言えずに訊き返すしか出来なかった。


「うん。分かった」


雪華はあっさりと頷いた。


昨日の事を考えると、だだをこねそうな気がしたのだが、それがない。


僕としては一安心なんだけど、なんとなくちょっと肩透かしを食らった感じだ。


パパはパパなんだから、パパじゃないと嫌。


なんとなく、そういわれそうな気がしていた。


家でいる時は一度としてそれを譲らなかったから、今度もそうだと思ったんだ。


「鳴海、て呼べばいいんだよね?」


「うん。」


「わかった」


雪華はそう言うと、あれこれと見てまわる。


なんとなく、今日一日ですごく成長したように感じられる。


昨日はまるで赤ちゃんのように駄々をこねて、僕を困らせるばっかりだった。


だけど、今は違う。


僕の言ってる事をしっかりと聞き分けてくれる。


もう、赤ちゃんとはいえない。


もしかすると、天使の精神年齢の成長は僕たちに比べるとずっと早いのかもしれない。


まぁ、外見との年齢は相変わらずアンバランスだけど。


そういえば、そもそも、どうして雪華は今のような状態になったんだろう。


雪華の精神年齢は外見と比べるとずっと低い。


雪華自身が生まれたばかりなら、説明はつく。


だけど、今の外見を見たらそうは思えない。


まぁ、天使だから、人間とは身体の構造が違うのかもしれないけど。


て、そんな事を気にしたところで、どうしようもないか。


僕は何も説明される事もなく、雪華を引き取った。


だから、気にしても仕方がない。


僕はただ、保護者として、雪華を育てるだけだ。


と、話がずれてきたか。


そんなことより、雪華のことをちゃんと見ていないとね。


僕はそれを思い出すと、雪華のそばによって行った。


雪華は適当に手にとってはじっくりと見て戻すを繰り返していた。


端から見れば、吟味している、そんな感じだろう。


そして、僕もそうだと思っていた。


「ねぇ、鳴海?どうして、こんなにひらひらがついてるの?」


だけど、口を開いてみればどうだ。


僕の考えとは全然違っていた。


どうやら、レースがついているのが不思議でずっと観察していたみたいだ。


「こんなのついていても、邪魔なだけだよね?」


そして、そのレースの意味が全く予想できないで、頭をひねっているところにちょうど僕がきてしまったみたいだ。


雪華としては、わからない事は全部僕に聞こう。


そう言うことなんだろうけど、はっきりいって僕は女性物の下着に詳しくない。


というか、むしろ詳しい方がおかしい。


まぁ、デザイナーなら、普通かもしれないけど、普通の高校生が詳しい事はまず無い。


それこそ、変態じゃなければ。


「まぁ、かわいいからじゃない?」


でも、だからといって答えないわけにもういかない。


昨日今日の経験上答えないと、どうなるかぐらいは予想がつく。


こっ恥ずかしくなるようなことを大声で聞かれる羽目になる。


だから、さっさと答えておく方が無難だ。


「ふ~ん。そうなんだ」


まぁ、それがあっているかどうかは微妙だけど、一応雪華は納得したみたいだ。


話が厄介な方向に行かずにすんで良かった。


「んじゃあ、やっぱり鳴海もこんなののほうが好きなの?」


そう思った矢先に何か雲行きが怪しくなってきた。


「え?別に、そう言うわけじゃないけど」


「ふ~ん」


なんとなく嫌な予感がする。


それも、今まで感じた中で一番の嫌な予感が。


雪華はいろいろと手にとっては、じろじろ見て戻す。


心なしか、先程よりもずっと真剣に見ているような気がする。


まぁ、自分がはく物なんだから、しっかりと選ぶのは当然なんだが、やっぱり嫌な予感がする。


しかも、かなりの窮地に立たされる。


そんな感じの予感だ。


できれば、この予感が単なる考えすぎであって欲しい。


「んじゃあ、鳴海はどんなのが好きなの?」


そう思いながらなんとなく感じていた予感。


それが見事に的中する事になった。


「え??」


「やっぱり、これ??」


そう言って僕に差し出してきたのは、黒のショーツ。


しかも、生地の薄いやつ。


「う、ううん。べ、別に好きじゃないよ。」


僕は慌てて、雪華が持っているショーツを奪うと元の場所に戻す。


なんだか、先程までの視線がさらに強くなったような気がする。


「そっかぁ」


けれど、そんな事お構いなしに、雪華はまた別の物を選び始める。


というよりも、いちいち僕に聞かないでくれなくていいからさっさと決めて欲しい。


これ以上蔑むような目で見られたくない。


ていうか、これ以上ここにいたくない。


居心地が悪すぎる。


「んじゃあ、これ??」


そんな僕の内心を無視するように、雪華が差し出したのは……


今まで雪華が選んでいたやつの中で一番面積が小さいショーツ。


というか、それぐらいの面積で下着としての役割を果たせるのか、はなはだ怪しいやつだ。


おかげで、さらに視線がきつくなった。


僕は無言で、それを取り上げると、元に戻し、


「この子にあう下着を、数枚選んであげてください。」


近くで異様な目で僕の事を見ていた店員にそう言って、その場から逃げ出した。


しらばく、店の外でうなだれるようにして座っていると、雪華が戻ってきた。


その目は、どこか非難がましくて、今にも泣き出しそうだ。


まぁ、いきなり置き去りにされたのだから、当然なのかもしれないけど、あれ以上は耐えられない。


もう、周囲の目が冷たかった。


あたかも汚物を見るような目で、見下されていた。


そんな視線に耐えられない。


「もう終わったの?」


雪華の持っている袋を見れば、分かるのだが、まぁ、ご機嫌取りみたいなものだ。


いつまでも、すねられても困る。


だけど僕の思惑通りには行かず、雪華はそれに答えずぷいとへちを向く。


どうやら、かなりご立腹のようだ。


ご機嫌取りにもかなり根気が要りそうだ。


「置いていたのは、悪かったよ」


そういいながら、僕は雪華の頭を撫でる。


確かこうすれば、子供は喜ぶ、と思ったんだけど


相変わらずぶすっ、とした顔をしている。


どうやら、これでは駄目らしい。


なら、どうしよう。


けれど、思いつくことなんて一つしかない。


一つだけ、雪華の言う事を訊いてあげる。


これなんだけど、あんまりいい気はしない。


なんだか、とてつもないことをお願いされそうだ。


だけど、だからと言ってこのままだと、気疲れしてしまいそうだ。


仕方なく、僕は雪華にそう言った。


それを聞いた雪華と言えば、すこし表情を変えたけど、そのままぶすっとしたような顔で頷くと、思った通り頭の痛くなる答えをくれた。

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