第三話 二人で晩御飯
さて、名前も考えたことだし、次は何をしよう。
とはいっても、まぁ、やることはひとつだけだろう。
晩御飯の準備だ。
そろそろ、晩御飯の時間帯なのだ、さすがに、今から雪華の生活用品を買いに行くわけにも行かない。
「ちょっと、ご飯作るから、待ってて?」
雪華にそういうと、僕は、台所に向かうと、冷蔵庫を開ける。
中には、結構たくさん入っているので、具材の不足の心配はない。
というか、中身がなくなりそうになると、すぐに買い足しているので、そんな心配は全くない。
中から、豚肉とにんじん、レタス、きゅうり、ウインナーを出す。
一応、今日のメニューは決まっている。
今日の晩御飯は、ポトフに、コロッケ、サラダだ。
というか、たぶんポトフっていのを、知らない人が居るかもしれないので、簡単に説明しておくと。
まぁ、洋風の煮物、といったところだ。
僕は、野菜かごから、たまねぎとジャガイモを取り出すと、まずは、ジャガイモとにんじん、たまねぎ皮をむき始める。
まぁ、ピーラーなので、大して時間はかからない。
やっぱり、下ごしらえに、時間はかけたくない。
数分のうちに、それを全部むき終えると、ポトフの材料―ジャガイモ、にんじん、たまねぎ、ウインナー、豚肉―をそれぞれ、食べやすい大きさに切る。
それが終わると、今度は、鍋を取り出し、暖める。
十分温まったところで、油を引き、豚肉を入れる。
豚肉にある程度焼き色がついてきたら、今度は、残りの材料を全部鍋に入れる。
そして、またある程度、火が通ったら、そこに、具材が浸るぐらいまで、水を入れ、一煮たちする。
と、そこまでしたところで、ようやく、気がついた。
雪華が、すぐそばで僕の事をじっと見ているのだ。
「どうかしたの?」
なにか、あったのだろうか。
そう思って、聞いてみたのだが、雪華は、首をかしげると、
「パパと一緒にいたかったから」
無邪気そうにそう笑うと、また僕の背中に抱きついてくる。
いきなり何を言い出すのかと、思ったけど、別段あわてることはなかった。
まぁ、初めてだらけの場所に一人で居るんだから、誰かと一緒にいたいとそう思うのは当然だと思う。
僕は、ちょっとだけため息をつくと、
「わかったよ。だったら、そこにいすがあるから、それに座って見てて」
僕はすぐそばにあるいすを指差すと、雪華にそういって促す。
まぁ、くっつかれるよりかはましだ。
雪華も、別段嫌がる様子もなく、すんなりと頷くと、いすに座り僕のことをじっと見つめる。
初めて会ったときは大違いだ。
あの時は、もうべったりくっついて、離れようともしなかったのに。
まぁ、そうなると、それはそれで、困るので、僕は、作業に戻る。
とはいっても、後残っていることは大してない。
ある程度煮立ったら、そこにコンソメスープを適量入れ、最後にケチャップで味付けをする。
コロッケは、レンジで温め、サラダは、野菜を全部洗うと、レタスはちぎり、きゅうりは食べやすい大きに切ると、最後に油を切ったツナを載せる。
これで、今日の晩御飯は完成だ。
★★★★★★★
僕が作った晩御飯は意外とおいしかった。
いや、別に普段作ってないというわけじゃない。
むしろ、毎日作っている。
けれど、今日のは、それに比べて幾分おいしかった。
それだけのことだ。
だけど、僕にしてみればちょっとした驚きだ。
普段と全く同じ手順で作ったはずなのに、差ができるのだから、不思議でしかない。
まぁ、もしかすると、雪華が居るからかもしれないけど。
一人ではなく、二人。
だからこそ、おいしいのかもしれない。
まぁ、かわいらしい考えだとは思うけど。
と、冗談はおいておくとして、雪華の方を見る。
見た目、というか、しぐさと言うか口調が、幼いので、なんとなく食べ散らかしそうな気がしたけど、それは杞憂で済んだようで、上手に食べている。
ほんの少しだけ安心した。
もしここで、食べさせて、なんていわれたら、困る以外なんでもない。
さすがに、見た目同い年の子にそれをするのは、恥ずかしい。
まぁ、されるのは、もっと恥ずかしいけれど。
て、何を考えているんだ!!
僕は、変な方向に行き始めた妄想を払拭すると、目の前にある料理に手を戻す。
相変わらずおいしい。
これならいくらでも食べれそうだ。
まぁ、さすがに人間の限界に挑戦するつもりはないが。
それでも、まぁ、普通の人ぐらいは食べられるだろう。
小食な僕でも。
「おかわり」
そんなことを考えながら、自分の料理に舌鼓を打っていると、目の前に鉢を出された。
まぁ、おかわりなんだろうけど、男の僕よりもペースが速くないか?
育ち盛りなのかどうかは分からないけど、綺麗に食べてるし。
嬉しいことには変わりないけど。
「わかった。ちょっと待ってて」
僕はそう返事すると、雪華に渡された鉢を持って立ち上がり、新しく注ぐ。
なんとなく、わくわくしてきた。
自分の料理をおいしく食べてくれる人が居ることが。
「はい、お待たせ」
そして、そういって、彼女の前に置く。
それを彼女はおいしいそうにまた食べ始める。
なんだか、降って沸いてきた災難のように思えたけど、今は逆に満たされてきているみたいだ。