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第九話 久しぶりの学校

久しぶりの一人だった。


常にどこかに行くときも雪華が一緒にいた。


だから、逆にこうして一人でいると、どこかちょっとだけさびしくなった。


となりで、無邪気に笑っていた雪華の姿がないだけで。


どうやら、たった数日しか経っていないというのに、雪華が隣にいることが当たり前になってたみたいだ。


まぁ、あれだけ、べったりと僕にくっついていたんだから、そう思えても仕方ないのかもしれないけど。


だからこそ、心配でもあった。


行く前に、しっかりと言っておいたけど、それでもやっぱり不安がある。


初めのころなんか、僕がちょっとでも、離れれば、泣き出していた。


それが、今は比較的なりを潜めているけど、それがいつ現れるか分からない。


あくまでも、彼女はまだ子供だ。


僕よりももっと幼い子供だ。


だから、長時間一人にしておくのは、心もとない。


少しなら我慢できても、夕方まで我慢できるかが、分からない。


僕としては、もって欲しいとは思うけど、正直言って自信がない。


全ては今更だけど。


まぁ、雪華を信じよう。


『パパ』が自分の娘のことを信じないでどうすると言うんだ。


『パパ』に疑われてばっかりだと言うのは、かわいそう過ぎる。


まぁ、僕は、本当の『パパ』じゃないけど。


でも、心のうちだけは『パパ』だ。


たとえ、ほかの人が違うと言っても、僕はそう思う。


せめて、彼女の本当の両親が迎えに来るまで。


それまでは、僕が『パパ』でいてあげたい。


家族と言うものの暖かさを教えてあげたいから。


久しぶりの学校は、何も変わってなかった。


まぁ、変わってしまったのは、僕の家の状況だけなんだから、当然だけど。


それでも、ほっとする。


雪華といる時間もそれはそれで、楽しいけど、やっぱりこっちのほうが、気が楽ですむ。


いつもどおりの時間をいつもどおりにすごす。


なんだか、それがものすごく新鮮に感じられる。


僕は、教師の話を聞きながら、窓の外を見る。


そこからは、綺麗な青空がのぞいている。


こんなふうに、のんびりとする時間もいいだろう。


なんだか、世の親が、考えてそうなことが次々と浮かんでくる。


というよりも、僕の両親も僕を育てるときにそんなふうに思ってたんだろうか?


こんなふうに、のんびりとした時間に思いをはせたりしてたんだろうか?


たぶん、してたんだと思う。


幼心に残る記憶に、そんなのもある。


お昼寝から覚めて見た、両親の顔。


とても、おだやかで、満たされたような顔をしていた。


だから、それで合ってるんだと思う。


やがて、授業が終わる。


これで、午前中の授業は終わりで、お弁当の時間だ。


いつもの、メンバーで集まって食べる。


「なぁ??やっぱり、一番人気は近藤さんだよな??」


「ばか、東野さんがいるだろうが」


「いやいや、野々宮さんも捨てがたい」


そして、そこで交わされる会話は、どこでも同じ、人気投票。


誰が良い、誰が悪いなんて好き勝手に言っている。


『はぁ、その中の誰でもいいから、一度でいいから、付き合ってみたいよ』


それで、最後に行き着くのがコレ。


まぁ、お約束みたいなものだ。


だけど、僕にはそれでも十分楽しい。


こんな友達を持ってよかったと思ってる。


「なら、告白すればいいじゃん。」


そんな友達を見ながら、僕は笑いをかみ殺しながら、そういった。


もちろん、そんな事を言った後は、


「んなことできるわけあるか!!」


友達三人が同じような事をいって、僕の頭を殴る。


まぁ、最初からこうなる事ぐらいは予測できたけど。


どの男子でも同じだ。


可愛い可愛いと言うだけで、行動には移せない。


まぁ、僕も同じくそうだけど。


そういえば、僕は告白なんて事した事がなかった。


もちろん、恋ぐらいはした事ぐらいある。


ただ、告白はできなかった。


ふられてしまうのが怖かったから。


その人とは、高校で別れてしまって、今はもう会えない。


まぁ、もう恋心なんてものは、色あせてなくなってしまってるから、良いんだけど。


むしろ、良い思い出、て言う感じだ。


と、それはさておき、友達が、なんだかまたエキサイトし始めた。


こう言うタイプの人達は見てて飽きない。


なんか、意外とひどい言い草じゃないか、コレ??


そんなことを、考えつつも、している事を見てみるが。


「はぁ」


思わず溜息が出てしまった。


なんて事ない。


18歳未満禁止な本を読んでいる。


だから、エキサイトしているんだ。


いや、むしろ興奮か??


まぁ、どっちにしろ僕には興味ないからどうでもいいけど。


ていうか、既に


「いや、何を考えているんだ、俺は!!」


僕は、何を考えようとしていたんだ!!


ほとんど変態だぞ!!


昨日の出来事を思い出すなんて、最悪だ。


思わず浮かんできたフレーズがあまりにも破廉恥極まりなく、僕は思わず声を上げて、頭を振った。


けれど、それが失敗だった。


思いっきり、たくさんの人から視線を浴びる事になってしまった。


「あ、えっと、その」


クラスの人の視線はものすごく白かった。


なんだか、近づいてはいけないものを見つけてしまった。


そんな目をしている。


友達のほうを見てみれば、哀れなものを見る目だ。


なんだか、ものすごくひどい誤解をされているような気がする。


まぁ、されてもおかしくない事をしていたわけだけど。


て、自分で認めてどうする!?


と言うか、このままではまずい。


どうにかして、この状況を打破しないと。


けれど、全くと言って良いほど、良い案が出てこない。


クラスの目が、さらに白くなっていく。


友達の目が、ついに哀れを通り越して、不憫そうな目になっている。


なんだか、状況はさらに悪化している。


どうすればいい!?


思いっきり、声高にそう叫びだしたい気分だ。


だけど、そんな事はできない。すれば、さらに状況は悪化するだろう。


だけど、僕にはこの場の収拾はできそうにもない。


どうすれば


「2年1組結城鳴海君。2年1組結城鳴海君。今すぐ職員室まで来てください」


あせりつつそんな事を考えていると、不意に天啓が来た。


まさしく、それはおそらく、天からの助けだろう。


僕は、しゅた、と姿勢を正すと


「なんだか、呼ばれてるみたいだから、言ってくるわ」


できるだけさわやかそうな笑顔を浮かべ、鬼のように走って、教室から出て行った。


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