あの日の四人
2026/09/26 鍵 写真
老女が乗った車椅子を押して、青年はある場所に来ていた。
「覚えてる? ここ、昔よく通ってた駄菓子屋があった場所だよ」
青年は老女に話しかけるが、老女からの反応はない。
目の前に生えている、1本の松に視線を向けたまま、微動だにしない。
「覚えてる? 今見てる松の根元に、タイムカプセルを埋めたよね」
言って、青年は車椅子を動かして松に近寄る。
根元の直前で止め、ブレーキをかける。
そして、持ってきたスコップで、松の根元を掘り出した。
ある程度掘ると、スコップの先端がガツンと硬い物に当たる。
青年はその硬い物の周囲を少しずつ削るように掘っていき、腕を差し込んで取り出した。
ビニール袋に入れられた、煎餅の大きな缶の箱だ。
昔青年達が埋めた、タイムカプセル。
青年は老女にも見えるように缶の箱をビニールから取り出すと、蓋を開けた。
中には南京錠で開かないようにされている、少し小さい缶の箱。
外側の箱を置いてから、中の箱を取り出し、ポケットに入れていた鍵で南京錠を開ける。
中には写真が1枚と、何枚かの紙が入っていた。
「懐かしいな」
青年は老女の傍らにしゃがみ込み、老女に見えるようにしながら写真を一緒に見る。
目の前に生えている松の前で、小学校卒業時に友人4人で撮った写真だった。
今まで何も反応を示さなかった老女の目尻に涙が浮かび、つぅ……と零れ落ちた。
「戦争さえ無ければ……」
青年はポツリと呟いた。
4人で写真を撮影してから、63年の年月が経っていた。
その間に、人類は宇宙からの侵略者との戦争を行っていた。
世界各国は協定を結び、共に宇宙からの侵略者に対抗した。
しかし、当時地球全域で超少子高齢化が進行しており、兵士となる人材が不足していた。
その時に開発された技術が、人間の老いを永久的に止める物だった。
青年は年齢を重ね、兵士としての体を作り、その技術により身体年齢が止まった。
友人2名も同じだ。
ただ、少女だけは違った。
兵士になれなかった少女は、女性となり、老女となったのだった。
戦争は3年前に侵略者の撤退により終結。
戦後復興してきた現在になって、青年達はタイムカプセルを掘り出すことになった。
本当だったら20歳の頃に4人で掘り起こす予定だった。
だが、2名は戦死し、1名は生き延びたが老化が止まり、1名は年老いて病気を患い動けず意思の表出が出来なくなった。
「戦争さえ無ければ……!」
ふと、老女の手が写真に伸びる。
4人で遊んでいた時を取り戻そうとするかのように。
青年は老女が伸ばした手を握り、共に涙を流した。
今タイムカプセルを埋めても、掘り起こす頃には場所を忘れてそう。




