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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード8 父はなぜ母を選んだのか

「どうしてわたしは聖力と魔力の両方を使えるのかしら?」


 お茶を淹れながら、問いを口にすると、お祖母様が考え深げに口を開いた。


「確かなことはわからないけど、今まで聖力と魔力は水と油のようなもので、ひと所には存在できないものと思われていたわ。それが、なぜかひとつの器に注がれたということなんでしょうね」


 お祖父様もお祖母様の考えに同意するように推論した。


「二つの力は決して混じり合わず、互いに相手を打ち消そうとする。だから——昔、魔水晶で力を測った時には、どちらの力も姿を現さなかったんじゃないだろうか?」


 お祖母様は頷いた。


「そうね。本当は器の底に澄んだ泉のような聖力が溜まっていたのに、その上に広がる魔力の層と押し合って、ずっと眠らされていたのかもしれないわね」


 ロイが腑に落ちた様子で頷いた。


「魔力が表層部を覆う蓋のようになっていたということですね」


「それが、なんで今になって急に両方の力が発現したのかしら?」


 独り言のように呟くと、お祖母様が言った。


「考えられるのは——最近になって、その泉のような聖力の層がかさをまし、堰を切ったように溢れ出した。

それが魔力の層を押し流し、下層の聖力の光が器の表面まで届く道筋ができたのかもしれないわね」


 推論ではあっても、なんとなくそのイメージで頭の整理がついた。


 ——わたしの中には、密かに二つの力が眠っていたのだ。


 原理がどうあれ、まずはこの力を伸ばしたい。

 人を癒す力、守れる力をもっと身につけたい。


 わたしは今、聖力を学ぶにも魔力を学ぶにも恵まれた環境にいる。


 大聖女の祖母という師、それに魔術の大家である祖父という師に教えを乞えるのだ。


 頑張って学べば、もっと力を使えるようになるはず……。


 けれど、そんなわたしに釘を刺すように、お祖母様が呟いた。


「ただ……言いにくいけど、今はジュディーのこの力は隠しておいた方がいいと思うわ」


 お祖母様が重苦しい声で発言した。


 そうだわ、この力を父が知ったら——。


「そうだな。力は秘匿しておいた方がいいだろう」


 お祖父様も理由については言及しなかったけれど、想像がつくので、わたしもあえて問わなかった。


 父は聖力を持たないわたしを切り捨てたように、気に入らない者はすぐさま切り捨てる人だ。だけど利用価値があると思った者は……。


 きっと——とことん利用しようとする。

 そんな人だ。

 駒のように、使われるだけ……。


 思わず小さくため息が漏れる。


 どうして父は母と婚姻を結んだんだろう?


 お祖母様によれば、かつて父はある魔獣討伐戦で、母を助けたことがあったという。


 お祖父様が病に伏して、戦力不足だった帝国魔術騎士団が魔獣の大群に押されていた時、救いの神のように現れて、父が敵を薙ぎ倒したという。


 その戦場の後方で、重傷者を癒していた母を救って、魔獣を一撃で絶命させたらしい。


 聖女は魔力暴発の抑止役として魔力量の多い高位貴族との婚姻が避けられない。


 母のローレンもお祖母様ほどの聖力は持ち合わせていなかったけれど、聖女であるかぎり、皇命に従って婚姻しなければならなかった。


 ただ祖父母は皇命に諾々と従うのを良しとせず、母ローレンの意思を尊重したという。


 お祖父様は病のため帝国魔術騎士団を辞したとはいえ、それまであらゆる魔獣討伐戦の第一線で活躍し、英雄の名を欲しいままにしていた。


 しかも後進の指導、育成を担う人材としても有望視されていた。


 皇室も、そんなお祖父様の意向を無視するわけにはいかなかったはず。


 けれど当時の母は、命の恩人でもあり、優しく振る舞う父に好意を持ったらしい。


 生前の母の言を借りると、こうだ。


「今では見る影もないけど、顔立ちも整っていたし、優しげな言葉と態度にすっかり騙されちゃったのよ」


 あっけらかんとした口調で言い切っていた。

 明るくて、檻の中に囚われているという境遇を感じさせない人だったから。


 まあ、そういうわけで……皇室を通して父から婚姻の打診があった時には母本人の意向で受け入れてしまったらしい。


 けれど父に母に対する好意があったとは、どうしても思えない。

 ——それ以外の理由があったのでは、と考えてしまう。


 皇室が母の婚姻相手として認めたということは、少なくとも父の魔力量は大きかったはずだ。


 それなのに、父が大聖堂に魔力抑制に訪れるところを見たことはない。


 魔術を使うところといえば、葉巻に火を点ける時や、倒れた物を元に戻す時くらいしか見たことがない。


 魔獣の討伐戦にも、わたしが物心ついてから参加したこともないはずだし。


 母の婚姻が決まった時期、お祖父様はなぜか魔力を失い、帝国魔術騎士団を辞し、病に伏していた。


「あの時は、娘の求婚者の人柄を充分に確かめることもできなかった。常であれば、もっとローレンへの気持ちを確認し、先のことをどう考えているのか、くどいほど訊ねたはずなのに……」


 お祖父様はそう悔しげに呟いていた。


 人柄がわかっていたら、みすみす母を父と婚姻させたりしなかっただろう。


 そうしたらわたしは生まれなかっただろうけど……。


 お祖父様もそのことに思い当たったのか、過去を振り切ろうとするかのように首を振った。



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