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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード77 わたし一人でも

 辺境に来て以来、毎日少しずつ灰色の渓谷を歌で浄化している。


 初日は崖の上から険しい道を歩いて下ってみたけど、今では浄化を終えた辺りの岩石などの突起物に、大判の朱色の布を結びつけて目印にしている。


 翌日には上空からそれを目印に降下して、また歌うのだ。


 そして、一度に魔力を消費し過ぎないように、加減するうちに適切な浄化範囲も掴めてきた。


 討伐のある日は、魔力を温存するために休んでいるけれど、日々自分が成し遂げた成果を見ては満足感で満たされている。


 ただ魔力を消耗し過ぎて倒れたり、魔獣が出没する可能性もあるから、とクラウス卿は譲らず、毎回欠かさず付き合ってくれている。


 わたしが「他の団員に頼むから」と言っても、自分が守る方が確実だ、と言って譲らないので困っている。


 忙しい団長がこんなことに時間をとられていてもいいものなのだろうか?


 その日、クラウス卿は朝から遠征に出かけ、翌日まで戻らない予定だった。


「危ないから、自分を伴わずには行かないように」と彼に言われていたけれど、わたしは自分の身を守れる程度には魔術に自信がある。


 誰かに付き合ってもらおうとして、止められてもやっかいなので、約束を破ることになったけれど、わたしは一人で浄化に出かけることにした。

 

 今までだって、なんの問題も起きたことがない。

 どの程度まで浄化すれば限界なのか、既に見極めている自分なら一人でも浄化できるという自信もあった。


 いつものように朱色の目印を着地点と定めて降り立ち、目を瞑ると集中して歌い始めた。


「ふふん、やっぱり一人でもなんの問題もない。ちゃんと浄化できたわ。クラウス卿って若い癖に心配性で過保護なのよね」


 そう独り言を呟いて、今日の成果を確認する。


「あれ……、ちょっと中途半端な範囲だったかしら? どうせならあの変な形の岩のところまでにして、境界線にしたほうが、目印も見分けやすいし」


 まだ魔力にも余力があるのを感じるし、少しだけならと思ってまた口遊んだ。


 目を開けると、ちょうど境界線と定めたところまで、土壌が浄化されている。

 

「うん、うん……。これでよし」


 満足して帰ろうと思ったら、すぐ近くから人の話し声が聞こえてきた。

 こんな所に人がいる……?

 吃驚して足を留めた。


「こんな所に女がいるぞ!」

「だろ? 歌が聞こえたんだよ」


 かなり人相の悪い連中が、槍や鍬を手にぞろぞろと現れた。だらしない身なりに、泥に汚れた手足。

 この禁足地に時々立ち入るという盗掘者達のようだ。


「すげえ美人じゃないか……」

「これは、いい値で売れるぞ」


 一人が悪そうな顔にニタリと薄ら笑いを浮かべる様子を見て、鳥肌が立つ。


「その前にさぁ、ひひっ——」


 舌舐めずりする若い男のギラギラした眼差しも、かなり気持ち悪い。

 相当モテない連中と見た。


「でもその女、こんな所に一人でいるなんて、頭がおかしいんじゃないか?」

「頭が悪くたって、別にいいだろう?」


 なにをっ! 失礼な。頭は別に悪くはないぞ! 


「あんた達よりは、絶対にましよ」


「うひょっ……。ヤバ! 声も可愛いわ」

「あんた、俺のタイプ」


「そっちは——わたしのタイプじゃないわ。ふざけたことを言ってるんじゃないわよ。謝るなら今のうちよ」


 警告してあげたのに、嬉しそうに、「へへっ——」と笑う姿が下卑過ぎている。

 そもそも、人を売りものにしようとするなんて、許せない。


 悪党達め、二度とそんなこと考えられないように懲らしめてやる——!


 手のひらを彼らに向けて、風魔術を展開して、竜巻を起こす。

 

「お、なんだ! 竜巻が……」

「この女、魔術使いか?」

「嘘だろ、やめろ——」


 竜巻に彼らを巻き込んで、ぐるぐる、ぐるぐる振り回す。

 殺してしまわないように手加減しつつも、彼らの悲鳴が途切れるくらいまで続けた。


 ——これくらいで、完全に目を回したかな?

 竜巻を止めると、バタバタと空中から男達が落ちてくる。


 かなり目が回っているみたいで、立ち上がっては足をもつれさせて転んでいる。


 わたしはその様子を眺めながら、顎に人差し指を当てて呟いた。


「ふむ……次は——、水責めにしようかな?」


「……み、水責め?」

「うわぁ〜っ」


 彼らが怯えた表情を見せた瞬間に、指で軽く印を結んで頭上から死なない程度に水流を調整した滝を浴びせる。


「ぐぉほっ、ゔぉほっ、た、たすけて……」

「ごめんなさい、もうしませんから」


「本当かな〜? もうしない?」


「本当です」

「神に誓います」


「そう? 反省したのなら——」


 どんな悪党にも更生の機会をあげるべきだろう。

 とりあえず、今日のところはこの辺で勘弁してあげようかな?

 そう考えていたのに、いつの間にか一人がわたしの後ろに回り込んで後ろから羽交締めにしてきた。


「へへっ、油断したな? これでもう魔術は使えないだろう?」


 わたしの手首が強い力で掴まれ、背中で拘束された。

 首筋に生臭い息がかかって、嫌悪感に吐き気がした。


 手を拘束したくらいで、魔術を使えないと思ったのだろうか? 


 手で印を結ぶのは、精神統一効果で魔術の効力を高めるし、示威行為でもある。ただそれだけなのに。 


「よくも俺達を酷い目に遭わせたな。女に生まれてきたことを後悔させてやる」

「——そうだ、やってやれ」


 仲間達もまた活気づいて、男に声援を送る。

 揃いも揃ってまったく反省していないようだ。


「……何を後悔させるって?」


「そりゃあ、お前を抱き潰して……」


「——力百倍増!」


 力を極限まで大きくして、掴まれていた手首を解き、逆に相手の腕を掴んで捻り上げた。


 ゴキゴキッと骨が折れる音と、「ギャァ——ッ!!」という男の悲鳴が同時に聞こえた。


「ごめんなさい。捻り潰してしまったみたい」


「痛……イッテェ……。てめぇ、なんて馬鹿力——」


「お仕置きが足りなかったみたいだから、いくわね。

じゃんじゃん、凍っちゃえ」


「ひぃ〜〜っっ、すまなかった! ゆるしてくれ」

「なんで俺達まで?」


 皆で拍手喝采していたくせに。


「寒すぎた? じゃあ今度は温かくしてあげる。じゃんじゃん燃えちゃえ〜」


「あぢぃ〜〜っっ」

「焼ける〜〜!」


 その後も、彼らがよく反省するように、懲らしめ続けることになって、わたしもかなり疲れた。


 ボロ雑巾のようになった悪党達を、赤い布でぐるぐるに巻いて逃げられないようにして、最後にパンパンと汚れを払うように手を叩く。


「はぁ〜っ、お陰で疲れちゃったじゃないの! 午後からの訓練に差し支えたらどうしてくれるの?」


「「「「しゅ……しゅみましぇんでした」」」」


 こんなに魔力を消耗する予定じゃなかったのに、と思いながら彼らを残して浮遊する。

 後で誰かに頼んで、あの悪党達を連れてって貰わないとね。


 あれ? 頭がふらふらする……。

 やっぱり——魔力を使い過ぎた、かも。


 視界が霞む……。

 身体から発せられていた浮力の元である魔力が尽きようとしている——。


 しまった——そう気付いた時にはもう遅かった。

 徐々に意識が薄れ、凄い勢いで地面が近づいてくる……。


 耳が風の唸るような音を拾う。

 

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