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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード70 大聖女が視た糸

「お探ししましたわ〜、ギルベアト様。あら、クラウス卿もご一緒でしたの?」


 イリーナが庭園まで皇子を探しに来た。


 ギルベアト様とクラウス卿以外に、マルグレッタ嬢と、ついでにわたしもいる。


 けれど、害虫から目を背けるかのように、イリーナの眼差しはわたしを素通りした。


 皇子はイリーナに向き直った。


「ああ、負傷者の治癒は一段落ついたのか?」


「はい、大聖女様がいらっしゃるので、早く終わって助かりましたわ。そちらのかたは……トマーレス子爵令嬢でしたわよね?」


「はい、マルグレッタと申します」


「そうだったわね。あなたが庭園にご一緒されたのは——ご婚約されていない方のかたですわよね?」


 クラウス卿と言わず、あえて婚約されていない方と言ってくるあたりが、予防線を張っている感が強い。


「え? ええ……そうですわ! クラウス卿とご一緒させて頂いてますの」


 慌てた様子で、お相手は皇子ではないとばかりにクラウス卿の名前を出すところを見ると、マルグレッタ嬢もイリーナを敵に回すと恐ろしい相手として認識しているようだ。


「そうですわよね?」


 イリーナの口元は笑みを描いているのに、目は笑っていなかった。


「婚約者のいるかたを、はしたなくもそぞろ歩きに誘うような——品位に欠けた振る舞いをなさる令嬢なんて——いませんわよね?」


 そう言いながら、今気がついたかのように、急にわたしを視界におさめて鋭い目で睨むのはやめてほしい。


 釘を刺さなくても、イリーナの婚約者である皇子を誘惑するつもりなんて欠片もない。


「わたしは一人で庭園に出てきただけです。お先に失礼しますね」


 そう言って、さっさと歩み去った。

 皇子が何か言いかけたけれど、長く留まってイリーナに変な疑いをかけられるのはごめんだ。


 わたしにはロイがいる。

 彼らの関係に巻き込まれたくない。


 帰る最中、お祖母様に呼び止められた。


「ジェマ、ちょっといいかしら? 話があるの」

「お祖母……大聖女様、お部屋にうかがってもいいですか?」


 お祖母様は、ふふ——、と笑いながら「もちろんよ」と言った。


 どこに人目があるか分からないから、呼び方には気をつけないといけない。


「お祖母様、かなりお疲れのよう。わたしの聖力があれば癒してあげられたのに」


 あれだけ多くの負傷者がいたのだ。

 積極的に治癒に集中するとは思えないイリーナと一緒では、さぞ負担が大きかっただろうと思われた。


 メイドが運んできてくれたお茶を二人分淹れた。


「何か食べれた? もしまだなら厨房に行って——」

「大丈夫。治癒の合間に頂いたわ」


「それならよかったけど……」


 お茶と一緒にキドニーパイもあったので、切り分けてお祖母様の皿に取り分けていると、お祖母様が溜め息を吐いた。


「イリーナが使っている聖力は——やっぱりあなたの聖力だと思うのよ」


 驚きでナイフを取り落として大きな音がした。


「それって……どういうこと? 聖力って誰のものか、まではわからないものでしょう?」 


「あなたとイリーナ、二人が並んでいる時にね、細い糸のようなものが見えたの。

その糸はあなたとイリーナを繋いでいた」


「繋いでいた……?」


 戸惑うようにお祖母様の顔を見つめる。


「あなた一人でいる時には、全く聖力を感じとれなかったから、てっきり聖力が全て失われている状態だと思っていたの。

だけどその時は、その細い糸のような管が脈打っていて、まるで聖力がその中を通ってイリーナの身体に入っていくようだったわ」


「そんな……ことって」


 にわかには信じ難い話だ。

 けれど、常にわたしから聖力は溢れていて、ただそれが絶えずイリーナに流れている——としたら?


 ——ハッと息を呑んだ。

 もしその細い糸が可視化できるものなら、それこそが聖力を奪われているという証拠になるのでは?


「それって他の聖女様にも見える——のかしら?」

「——どうかしらね」


 やっぱりイリーナが使っているのは、わたしの聖力でほぼ間違いない。


 もしイリーナの罪を暴けたら、どんな術を使っているのか、突き止められるかもしれない。


「他の聖女にそれが視えたとしても、それだけで証拠とするには弱いかもしれないわね」


 お祖母様の意見を聞いて、膝に置いた手をギュッと握る。


「そういう禁術があることを証明するには、禁術について書かれた書物を閲覧しないといけないけど、皇室の禁書庫内の書物の閲覧は大聖女である私にも難しいの」


「お祖母様でも難しい? お祖父様や皇族でも?」


「ええ、それほど危険な禁術が格納されているから、厳重に管理されているのよね。

過去に侵入しようとした者で命を繋げた者は一人もいないわ。

イリーナの所業を証明できれば、閲覧の許可が下りると思うんだけど」


 証拠が必要か……。

 どうやったらそんなものが手に入るんだろう?


「イリーナが尻尾を出してくれるのを待つしかないのかな?」


 わたしが嘆息して言うと、お祖母様は慰めるように言った。


「でも、今日は歌に聖力が宿ったんでしょう? 

魔力だけではやはり癒しの力は使えないと思うの。

聖力を根本から奪われたのではなく、生み出しているのは——あなた。

そういうことなら、なにか遮れるもの、糸を断ち切れるようなものがあれば聖力を奪われずにすむかもしれないわ」


「聖力を遮れるもの? 魔力を遮るものはあるけど、恩恵を授けてくれる聖力を遮るものなんて、今まで欲しがる人がいたとは思えないから、ないでしょうね……」


 お祖母様は少し思案して「……テオドールに相談してみましょう」と静かに言った。


 確かに魔道具作りを趣味にしているテオ副団長なら、何かいい物を考えついてくれるかもしれない。


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