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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード65 戦場の歌

 オークに薙ぎ払われ、血まみれの状態で草むらに倒れたエレインの安否が心配で、彼女のところに急降下する。


 その時、頭上に暗雲が広がり、浮上した皇子が轟音と共に特大級の雷球を練り上げていくさまが視界の端に映った。


 皇子は固く目を瞑り極限まで魔力を集中させている。


 わたしはバクバク音を立てる心臓を持て余すようにエレインに駆け寄った。


 血まみれで動かない彼女の胸に耳を押し当て、鼓動を確認する。


 安堵が胸に広がった。


「よかった……。生きてる——」


 エレインを始め、微力ながら魔力を持った平民は遡れば、貴族の血を引いていると考えられている。


 だけど魔力を持つとはいえ、女性の身でこうまで無茶をする戦友には、後で小言を言ってやらなければ。


 その時、皇子は遥か頭上で手を振り翳し、特大の雷球を強風に乗せてオークに投げつけた。


「ヴォヴアァ———ッ!」


 オークが絶叫して片膝を地についた。


 頭と顔面に傷を負って、オークが苦痛でもがくと、振動でエレインの身体までが跳ね上がった。


 慌てて安全圏にある岩陰までエレインを運ぶ。


 こんな時に聖力を使えたら……と強く思った。


 重傷を負いながらも、まだ暴れて周りに被害を及ぼすオークの存在に、団員達は疲れて見える。


 そして凶暴なオークの生命力の強さ、しぶとさに不安が広がっているようだ。


 わたしは上空に舞い上がり、仲間達を鼓舞するように声を張り上げた。


「まだいけるよ、皆。オークは———弱くなれ!」


 手のひらから対象のオークに向けて魔力を放出させ、剣の刃をも通さない硬い皮膚を薄く柔らかくなるように思い描く。


 防御力を下げるのだ——。


 その時、後衛から上がってきたテオ副団長が剣でオークに斬りかかった。


 最初は幾人もの騎士が斬りかかっても、刃が通らなかった硬い皮膚が、少しずつ傷を負い、その傷が深いものになっていく。


 立ち尽くし荒い息を吐いていた皇子も剣を取り、オークに斬りかかっていく。


 耐えかねたのか、オークは不意にむくりと立ち上がると、数歩後退した。


 けれどテオ副団長が回復した魔力を使って足元に火焔攻撃を仕掛けると、オークはまた膝をついた。


 そのオークの胸の前に飛び上がった皇子が、今度は破壊力の大きい爆撃魔術で爆発を起こした。


 オークが胸に大きな裂傷を負った。


「今がチャンス……。火炎放射!」


 わたしはそう言いながら、オークの胸の前から裂傷を狙って、火球を放つ。続けて、もう一回放つ——。


 そのわたしの隣に皇子も浮遊し、同じように裂傷に向かって火球を何発も撃つ。


「ぐゔぉ————!」


 とうとう、もんどり打って倒れたオークは口から泡を吐いた。


 そのオークから魔力が消失していく——。


 やった……!

 隣にいる皇子と目を合わせて、頷きあった。


「ネームドを……倒した」

「ああ……。そうだな、やった」


 周りからも歓声が上がり、振り返るとテオ副団長は魔力がほぼ尽きている状態で、それでも肩で息をしながら立っていた。


 シリカ副団長は少し離れたところで、残り僅かな魔力を駆使してゴブリン達と戦っていた。


 ミュゲルも肩や腕に傷を負いながら、ゴブリンに対峙している。


 多くの騎士達が負傷しながらも、皆同じように必死に戦っている。


 目頭が熱くなり、胸に熱いものが広がった。


 ネームドを倒したとはいえ、ゴブリン達はまだ湧き出てきている。


 終わりの見えない闘いに、押し殺した溜め息が漏れる。

 

 騎士達の骸が視界に入る。

 彼らにも帰りを待つ家族がいただろうに……。

 悲しみが胸に押し寄せた。


 せめて今生き残っている皆の疲弊した身体と心を癒してあげられたらいいのに……。


 もし、わたしに力があったら……。


 そう思った時、前に足を引き摺った猫の怪我を癒したことを思い出した。


 確かなことは何もわからない。

 あの時、猫は本当に治癒していたのだろうか——? 歌の効果だったのだろうか——?


 それでも、なにかしたい、わたしができること。


 辺りには血の臭いが充満し、戦いはなお続いている。

 疲労と絶望に満ちた中で、それでも皆、それぞれが帰りたいと願っている。


 ——試してみるだけの価値はある……。

 そう思ったら、口から自然と歌の歌詞が溢れだした。


 最初はたどたどしく、そして段々と歌に気持ちや心が込められていく。


「光よ、降りそそげ。傷を癒し、心を満たせ。 

風よ、吹き渡れ。木々を揺らし、希望で満たせ。

水よ、流れゆけ。澱みを払い、求めを満たせ。

炎よ、照らし出せ。闇を払え、母の祈りよ。

惜しみなく、この手に宿れ……」


 歌声は戦場に響き渡り、いつの間にかわたしの身体が眩いばかりの清浄な白色に発光していた。


 こんな所で歌なんて場違いだと怒鳴られるかもしれない——内心ではそんな風に身構えていた。


 だけど力尽きて地に横たわっていた者や、傷つき倒れていた者達が、いつの間にか立ち上がり、こちらを見上げて歌に聴き入っていた。


 その顔に精気が戻っていく様子は見間違いではなさそうだ。


 足から血を噴き出していた騎士の血が止まり、叫び声がやんだ。


 戦場のざわめきの中に、驚きと畏怖のような声音が滲んだ。


「不思議だ。力が戻ってる……」

「使い果たした筈の魔力が……戻って……?」



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