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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード60 夢の中のエリタス神

「イリーナ聖女候補様、エフロアール伯爵邸に向かう前に、我が騎士団の負傷者達を癒して頂けませんか?」


 テオ副団長がイリーナに治癒を頼んだ。


「トルエンデ公爵邸には大聖女様がいらっしゃるじゃありませんか?」


「……中には酷い傷を負っている者もおります。今夜エフロアールの屋敷に滞在するなら、屋敷に帰るまで、一晩治癒が受けられません」


「私、とても疲れてしまったんです。ギルベアト殿下だって、お疲れです。とりあえず、エフロアール伯爵の屋敷に着いてからにして下さる?」


 イリーナの言葉が聞こえた団員の中には、わなわなと肩を震わせる者や溜め息をこぼす者がいた。


 だけど、下手に彼女を諫めたりして、拗ねて治癒しないと言い出されても厄介だ。


 身を乗り出して口を開きかけたエレインに、思い留まるよう首を振って合図した。


「そういえば戦乙女であるジェマ・フォン・シオンヌとは君のことだろう? 君は聖力を使う聖務官だと聞いたが……君の力では治癒できないのか? それに魔術を使っていたが……どういうことだ?」


 皇子に訊ねられ、焦ったものの、前もって考えていた言い訳を口にする。


「それがですね、聖力はある日使えなくなってしまったんです。夢にエリタス神様が現れて、『そちには魔術師のほうが向いているから、そっちで頑張りなさい』とまあ、そう仰いまして」


 皇子は無言で瞬きを繰り返してから口を開いた。


「…………それで魔力が宿ったと? そのような事例は過去に聞いたことはないが……?」


 それはたぶんないでしょうね。


「さ、さあ……? あは、あはは……」


「きっと、エリタス神も聖女の名を冠する者の選択を誤られたとお気づきになったのですわ! 

粗野で不品行なその女には、聖女の資格などないと、今更ながら過ちを正されたのです」


 もちろんそんな悪意の籠ったことを言ってのけたのは、イリーナだ。


 怒りは感じたけれど、ぐっと抑え込んだ。反論してさらに追求されては都合が悪い。


「戦乙女はこれ以上ないほど清廉な令嬢だぞ」

「お前みたいに身分を鼻にかけた令嬢がなにを言うか!」


 団員達の声が飛び交う。けれど、彼らの言葉はイリーナの耳を素通りするらしい。


「エリタス神は私のように心根の清い令嬢を新たに聖女として選び、殿下の元に遣わせて下さったのですわ。ふふ……」


 イリーナはドヤ顔をしてるけど、トルエンデの団員達はしらけた顔をしている。


「何か確証でもあって、そんなことを言っているんですか?」


 テオ副団長が探るような表情でイリーナに問うた。


「確証……? そうね、夢でエリタス神様に命じられたのよ。汝は清らかで心美しい令嬢だから我が力を与えたまわん——とね」


「なるほど。今までの聖女で、そのような夢を見たという話は聞いたことがありません。

初めてのことですね」


 テオ副団長のイリーナを見る目つきが鋭くなった。


「そ、そうなの? でもそこの不浄な女も夢でエリタス神に見限られた、と言っているではありませんか」


 少し狼狽えたように、イリーナはもごもごと話した。


「わたしは別に見限られたわけではないですよ」


「五月蝿いわね。同じようなものでしょう?」


 イリーナは鼻を鳴らして見下してきた。


「イリーナ聖女候補といいジェマ殿といい、夢の話は貴重な体験談だな。是非大聖堂の審問官に詳細を報告してほしい。

後世のためにも記録に残しておくべき事柄だ」


 皇子が顎を触りながら、真剣な顔でそう言った。

 イリーナは慌てたように答える。


「えっ? あ、ああ……私の話は今お話したことで全てでございますから、わざわざ審問官にお話しすることは——他にありません」


「わたしも特にお話しすることはありません」


 わたしもぶんぶん首を振ってそう言い切った。


 なにしろ夢に見たなんて話は真っ赤な嘘なのだから、そこを追求されてボロを出すわけにはいかない。


 わたしの虚言が歴史に残るなんて、最悪のやらかしでしかないだろう。


「そうか? 何か他に思い出したことなどあれば……」


「あ、あのっ……、ギルベアト殿下。ここは寒いです。私のような深窓の令嬢には耐え難いほどに。早くエフロアール伯爵邸に向かいませんか?」


 皇子の言を遮るようにイリーナが提案した。

 どう見ても、わたしと同じく後ろ暗いところがありそうだ。


「あいわかった。それではすぐにでも出立をしたいところだが、騎士達の中には馬にも乗れないような重症者がいるようだ。先に癒してやってくれないか? イリーナ聖女候補。

それが原因で屋敷への到着が遅れるのは君も望んでいないだろう?」


「そ、そうですわね。遅くなるのは困ります」


 皇子のひと声で、とりあえず重症者を並ばせて、治癒をすることになったイリーナ。


 淡々と祈りの文句を繰り返し、一人癒すたびに、疲れたと言いたげに溜め息を吐いていた。


 癒してもらった団員達も終始無言で、短く礼だけ述べて去っていく者がほとんどだ。


 ……なんだかね。

 これがエリタス神の人選だというのなら、本当に見る目がない神様だとしか言えない。


 わたしだって……決してできた人間ではないのは自覚してますけど。

 イリーナよりはまともだと思いたい。


「殿下、私聖力をたくさん使って疲れてしまいましたわ」


 そう言って殿下にしなだれかかるイリーナに溜め息がこぼれる。


 やっぱり禁術の存在というものが疑わしい。

 人の聖力や魔力を奪うような禁術があるのかしらね……?


 あったとして、証拠を掴めるといいんだけれど。

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