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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード51 新しい形の聖力

 毒や泥などが取り除かれてツルツルになった岩もどきの魔獣達が、辺りを弾むように動き回る中、若手の団員達が魔術や槍、剣などそれぞれの得物で倒している。


 うんうん、難敵すぎず、いい感じの修行になってるわね、と感心していたら、右横方向から蔦のような物がしなりながら飛んできた。


 わたしの身体に巻き付き、肩や腕、お腹を締め上げてくる。ずらりと並んだ奇怪な形の樹木が魔獣化していたようだ。


「っ——!!」


 ミュゲルや他の団員達も同じような攻撃を受けていて、方々から伸びてくる蔦を切ったり、焼いたりして苦戦している。


 ここは、自分でなんとかしたいところ。

 エレインに習った縄抜けの術を使いたいけど……。 

 駄目だわ、この蔦は意志を持ったみたいに絡みついて、全身の動きを封じてくる。


 おまけに、棘があってチクチクと肌に刺さる。

 左腰に吊るしたレイピアにも……、手が届かない。


『大丈夫か——、ジェマ?」

「お祖父様……!」


 お祖父様が駆け寄ってきてくれて、わたしに巻き付く蔦や樹木をあっという間に、火炎で焼き尽くす。


 た……助かった。

 チクチクした全身の痛みを治癒して、ほうっと息を吐く。


 お祖父様はわたしが無事なのを確認すると、他の樹木を次々と焼き払っていく。


「完全に焼き尽くしてから水魔術で消火しろ」


 お祖父様の指示を聞いて、水魔術が使える者達が火が必要以上に燃え広がらないよう、消火を始める。


 わたしを苦しめていた樹木も燃え尽きて、跡には緑色の魔石が残されていた。


 こういう時、皆の目があるからと魔術が使えないのは不便だとしみじみ感じる。


 聖力は、癒しや防御の力だから。攻撃に転用することはできない。


 ——待って……。


 考えてみると、光魔術などは性質的にも色合い的にも聖力に近いものだ。


 他の魔術も工夫次第では聖力に見せかけて攻撃に使えるかもしれない……。


 そんなことを考えていたら、巨大な熊のような魔獣が現れた。まだ燃え盛っている樹々もあるのに、火を恐れる様子はない。


 間合いに入れば踏み潰されるほどの巨体に、血走った眼球、鋭い爪をして、全身は赤毛に覆われている。


「聖なる光よ! 邪を祓い、清めたまえ——浄化の光をお願い!」


 白光する光球を熊の頭の周りにずらりと並べて、回転させる。熊は光球を払い除けようとするけど、触れると痛みを感じるらしく、頭を振り回してもがいている。


「あれも……新しい聖力か?」

「さすが戦乙女だ」


 動きを封じられている今がチャンスだ。

 そう思って団員達が近づいていた時、熊は彼らをひと睨みすると、足を大きく踏みならした。


 大きな地響きと共に、地面が揺れ、地割れが広がっていった。


「うわぁ——!」

「跳べ、地割れに飲み込まれるぞ」


 何人かの団員が浮遊魔術で熊に近付いていくが、熊は鼻息で彼らを吹き飛ばす。


 ———!


「聖なる風よ! ご加護の力を……」


 風魔術と結界を発動して、彼らを衝撃から守る。

 

「目よ、目を狙えばこっちの動きが見えなくなるはず」


 そう叫ぶのと同時に団員が火球を放って熊の眼球を狙ったけれど、熊は腕を振り回して火球を弾いてしまった。


 雷撃を放った団員もいたけれど、彼の魔力に応じた威力では熊の毛皮の一部を焦がした程度だった。


 その時、後衛に下がっていたお祖父様とガルム副団長が駆けつけた。


「光よ我が支配下に——」


 お祖父様が呟くと、空気中に帯電していたマナが手のひらの上に集束し、白い光球となった。


 お祖父様がその光球を投げると、光球は空間を割り開くように飛行し、瞬時に熊の頭部で破裂した——。


 凄まじい絶叫と共に、熊の上半身が半分消し飛ぶのを、驚嘆の思いで見つめる。


 けれど熊はまだ生きていて、痛みにもんどりうったあとも、暴れている。


 地面が揺れる中、ガルム副団長が飛びかかっていき、熊が振り回す鋭い爪を掻い潜って飛翔すると、愛剣スライスチョッパーを振り翳した。


 首をたったの一太刀で斬り落とした。


 熊の断末魔の叫び声の後も、例によって細かく切り刻んでいく丁寧な仕事ぶりは……さすがだ。


「ガルム副団長まで前衛に来ていて、よかったんですか?」


 ラヴォイエールの兵達に死者が出ないように、彼は後衛で撃ち漏らした魔獣を掃討していたのだ。


 ガルム副団長がひと仕事終えたのを見て訊いてみた。


「ラヴォイエールの兵達は引き上げていきましたよ。泥だらけの傷だらけ——這々の体でね」

「……な、なるほど……」


 あちらに対する警戒や気遣いはトルエンデ騎士団にとって大きな負担だった。


 お父様やイリーナも被害を受けたとしたら、正直、少しだけいい気味だと思ってしまう。


 お祖父様はある程度この辺りが鎮火して、状況が落ち着いたのを見て、どこまでこの魔窟を攻め入るか、ガルム副団長、シリカ副団長と相談し始めた。


「今のうちに、わたし達は吸水しましょう! 負傷者はこっちに来て!」


 わたしがそう叫ぶと、ミュゲルがそれを大声で拡散して、さらに団員達が遠くの仲間に声を投げかけていく。


 わらわらと、火傷などの軽傷者が集まってきて、指示しなくても一列に並んでいく。


「この程度なら、まとめてじゃんじゃん——やっちゃいましょうか?」

「「「お———」」」

「じゃんじゃん、やっちゃって下さ——い」


「よーし、慈愛の光よ 痛みを取り去り、大いなる安らぎを……じゃんじゃん、与えたまえ——!」


 数十人の軽傷者を一度に治癒できるのは、かなり規格外らしい。


 だけど仲間達の間ではこんなことができること、とっくにバレちゃっているので、力を出し惜しみしても仕方ない。


「おお〜! もう痛くないぞぉ」

「いつもながらすげえな」


 ここにいる自分は皆から頼りにされている。

 居場所がある、ってなんて嬉しくてありがたいことなんだろう。


 少し前までわたしの居場所と言える場所はロイとお祖父様、お祖母様のいるところだけだった……。


 今頃ロイはどこでどうしてるんだろう……?

 元気にしてるのかな?


 手紙くらいくれてもいいのに……。

 手紙すら届けられない状況なの?


 こちらからも手紙は送れないことになってる、とお祖父様にも言われた。


 連絡が取れないのがどんなに不安なことなのか、改めて実感している。


 いつ会えるのか、どこでどうしているのか分からない。


 次に会えた時は……絶対に文句を言ってやるんだからね!

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