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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード50 ご勝手に

 イリーナは歩み寄ってきたと思うと、わたしの顔をじろじろと眺め回した。


 堂々としていないと疑われると思って、わざと大袈裟なくらい顎を逸らし、腰に手を当てて鼻息をフンと吐いた。


「もういいでしょう? お探しの人とは違ったでしょう?」


 そう訊いたら、片方の眉だけを上げて、おもむろにわたしの頬を摘んで引っ張った。


「痛いわね、何するの……?」

「うるさいわね。確かめているのよ、変な細工をしていないか」


 そう言うと、額や顎も乱暴な手つきで触ってくる。


「いい加減にして。痛いでしょう?」

「ふん……。顔立ちはあの人と違うようだけど、目の色は同じね。だからこんなに憎たらしいのかしら?」


 言いがかりのようなことを呟くと、わたしが被っている布製頭具を脱がせて横に控えていたフットマンに手渡す。


 わたしの側頭部を両手で挟み込み、引き上げようとしたけれど、軽く頭皮が引き上げられただけだった。


 これで鬘じゃないと納得してくれたかと思った瞬間、髪を掴まれブチブチっと何本か引き抜かれた!


「——痛いわね、なにするの?」

「鬘か本物かを確認しただけよ。大袈裟ね」


 痛みに顔を顰めたわたしを、イリーナは愉快そうに口端を上げて見た。


 なにか文句でもあるのか、と言いたげな太々しい顔付きだ。


「髪を引き抜く必要はないでしょう?」


 そう言って、イリーナの髪の毛を引っ掴んで同じように引き抜いた。


「——っ! な、……なにするのよ! 痛いわねっ」

「されたことをお返ししただけですけど、なにか?」


 掴みかかってきても負けないんだからね、と言わんばかりのわたしの睨みが効いたのか、イリーナは引き下がった。


「……まあ、いいわ。鬘ではなかったようね」


 よかった……。疑いが晴れたようだ。

 最近では認識阻害魔術も板についてきたし、布製頭具も被るので、鬘をしていないのだ。


 フットマンが無言で差し出した布製頭具を受け取り、頭に被り直す。


「満足したんなら早く帰ってちょうだい!」


 イリーナにそう言うと、待っていた父が馬で近づいてきて、護衛の一人が跪いて踏み台になり、フットマンがイリーナを押し上げるようにして馬上に乗せた。


 ——見れば馬上でイリーナがお父様に、引き抜いたわたしの髪を手渡している。


 あの髪の毛は、おそらく時間が立てば魔術が解けて、本来の白金色に戻るだろう。

 持ち帰って検証するつもりだとしたら、不味いかもしれない。


 でも……髪の毛を証拠として突きつけられたとしても、その時には自分の髪じゃないと、とぼければいいわ。

 一抹の不安は残るけど。

 

「さあ、もう気が済んだだろ? とっとと帰ってもらおうか?」


 お祖父様が来てお父様に言う。


「なんでそんなに早く帰らせたがるんですか? せっかくこんなところまで来たんだから、巷で噂の『戦乙女』さんの活躍でも見物したいですね」


 ——話が違う……。

 これにはお祖父様もかなり苛立ったみたいで、普段は見せない凄んだ顔をした。


「なら、後で公務を妨害されたと軍部から抗議を入れさせてもらうが、いいか?」


「……妨害などしていません。我がラヴォイエールの私兵達に、英雄殿率いる騎士団の魔獣達との闘い方を見せて学ばせたいのですよ」


「ほう、私がなにを言っても聞かず、勝手に行動したという認識でいいな? 後で後悔しないようにしてくれ」


 お祖父様に念を押されて、父は少し怯んだ顔をしたものの、しつこく居座るつもりに変わりはないようだ。


 これ以上舌戦を続けても埒が明かないと判断したらしく、お祖父様はマントを翻して、騎士団の前衛の方に向かう。


 ガルム副団長は後方に残り、ラヴォイエール陣を見張る様子だ。


 わたしはミュゲルとともに前衛の方に向かった。


 ラヴォイエール陣のことは、ひとまず忘れて魔獣のことだけを考えるようにしよう。


「仕切り直して、じゃんじゃんいこ!」

「お―! じゃんじゃんいこうぜ」「じゃんじゃん……」


 皆の唱和が続き、戦闘意欲がまた漲ってくるのが感じられる。


「我らの戦いにご加護を! 進む道に光を! じゃんじゃん、力下さい!」


 手のひらから団員達の頭上に赤い光が次々に飛来していく。


 後ろのラヴォイエールの一団からは「なんだあれは……?」「赤い光が!」などと響めきが広がっているみたいだけど、無視、無視……。


「巡りて満つる十二の芒星よ、じゃんじゃん揺らぐことなき光の環となって! 我らを護り、癒したまえ―」


 十二の輝点が円を描き、星形を結んだ光は天まで立ちのぼり、くるくると回転し、あっという間に巨大な半透明の幕で団員達だけを包み込んだ。後ろに纏わりついてくるラヴォイエールの兵達は除外だ。


 加護の力でパワーアップした団員達は突っ走っていく。

 先頭はあっという間に、赤い目をして棘に覆われたネズミのような魔獣の大群との交戦を始めた。


 数が多いので、雷撃や火球などの複数を同時討伐できる魔術の方が有利だ。


 武闘派は剣で斬りかかるけど、撃ち漏らした魔獣達はラヴォイエール陣に向かっていく。


 まあ向こうは自分達でなんとかするか、逃げ帰るかでしょう。


「さあ、じゃんじゃん進むわよー」


 ネズミもどき達がひとしきりいなくなったと思ったら、もっと奥のほうから、ぴょこんぴょこんと跳ね上がりながら岩石に擬態したものが、毒らしき澱んだガスを撒き散らしながら、いくつか転がってくる。


 結界は毒も弾いてくれると思うけど、直に体当たりされたら毒に汚染されるかもしれない。

 清めちゃおうかな、毒ごと。暫くしたらまた元通りになっちゃうだろうけど。


「じゃんじゃん、清めたまえ! 汚泥よ、飛んでけ」


 手のひらを拭うような仕草をすると、跳ねる物体から茶色い汚泥や毒なんかがどこかに弾き飛ばされていって、中身のツルピカボールのような物が姿を現す。


 彼らに付いてた付着物はどこに行ったのかと思ったら、ラヴォイエール陣の辺りで悲鳴が上がる。

「ぎゃ——なんだ、これは?」「ぐえ——っ、毒だ」

「きゃあっ、なによこれ?」


 あ、団員には結界を張ってるけど、あの人達に毒やら泥が当たっちゃったかな?


 ……まあ、注意しなかった方が悪いわよね?


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