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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード48 じゃんじゃんいこう!

 今、わたしは魔窟と呼ばれる場所に、お祖父様が指揮するトルエンデ騎士団の第二、第三部隊と共にやって来たところだ。


 魔窟とは、結界で保護されていない、人の生息圏の外に生まれる危険な領域だ。


 街道や村から離れた山林や荒野、川の源流などに形成され、魔獣の巣窟となるところ。


 人にとっては危険であると同時に、魔窟は魔石を得るための狩場でもある。


 魔獣にも色々な種族があって、殆どは身体の大きさに応じて、体内にたった一つ保有する魔石の大きさが違う。

 大きいものほど、動力としても価値がある。


「さあ、今日もじゃんじゃんいきましょう!」


 わたしの張り切り度合いを表現したくて、毎回討伐の際にこんな掛け声を口にしていたら、これがいつの間にかトルエンデ騎士団の『ゲン担ぎ』になってしまったみたいだ。


 ……まさか、こんな軽いノリの言葉が、命を懸ける戦場の合言葉になるなんて。

 何がどう転ぶかわからないものだ。


 今日もあちらこちらから「じゃんじゃんいこう」「じゃんじゃんやったるでー」と威勢のいい声が聞こえてくる。


「ではまず、……我らの戦いにご加護を! 進む道に光を! じゃんじゃん力を下さい!」


 両手のひらを天に向かって差し上げて、わたし()()の祈りを捧げると、手のひらから赤い光が立ち上り、団員達の頭上に飛来していく。


 これで第二、第三部隊全員の攻撃力や守備力、速度まで上がったはずだ。


 支援魔術の比ではない、規格外の聖力に、団員達が活気づく。「すげ〜! 力が湧いてくる」「身体が軽いぜ」などと声が聞こえる。


 どうもわたしには、このような——聖力とも魔力ともつかない力を使う能力があるようなのだ。


 おそらくは魔力と聖力が合わさった結果、それらが混じり合った特殊な新しい力が生み出されているんじゃないか、というのがお祖母様の見たてだ。


 固有の聖魔術——とでも名付けられそうな力で、もちろん定められた祈りや詠唱もないため、なんともセンスのないでまかせ呪文を唱えている。


 けれど、こんな心の叫びとでも言うべきような——呪文を口にしても、頭の中で正しく想像できていれば、しっかり力が発動するところが規格外だと自分でも思っている。


 本当に助かるけど……。


「続きまして……巡りて満つる十二の芒星よ、揺らぐことなき光の環となりて、我らを護り、癒したまえ」


 両手首を交差させ、右手の甲と左手の甲から、六つずつの黄味がかった白光が瞬き、頭上で十二の輝点が円を描く。


 星形を結んだ光は上空に立ちのぼり、ゆるやかに回転しながら、大きく、さらに大きくなりながら半透明の防御結界の幕となって、団員達全員を包み込んだ。

「おお、いつもながら凄いな」「百人力だな」

「「「さすが! 戦乙女」」」


「いや、その呼び名は恥ずかしいからやめて!」と繰り返し訴えているんだけど、団員達にとって、わたしはそういう存在らしい。


『ジェマは聖女だ』というのが団員達の実のところの共通認識ではあるようだけど、そう呼んではいけない、と言われている。


 だからといって聖務官というような事務官的存在でもないらしく、ついた渾名が『戦乙女』なのだ……。

 その方が彼らの中ではしっくりくるらしい。


 さあ、今日はどんな魔獣からいきますか?

 わたし的には生理的に受け付けないやつからじゃんじゃんやってしまいたいです……。


 魔窟は昼でも薄暗く、そこらじゅうに骸骨なんかも転がっているし、澱んだ空気は湿って重い。


 視界も悪いし、魔力を含んだ空気が人界より魔獣を探知しにくくさせる。


 不意にピクッと髪の毛が逆立つような気配を感じて足を止めた。隣でお祖父様も立ち止まっていて、探知した魔力の主のいる方向に意識を飛ばしている。


 ……こちらに敵意を持つ存在を岩陰に感じる……一、二、三……全部で六体の魔獣がいる。


 岩陰に目を凝らすと、闇から角の生えた三つ目の狼のような個体が現れた。


「——六体発見!」


 お祖父様は隣にいるけど、焦る様子もなくのんびり腕を組んで見守る構えだ。


 経験の浅い団員達の訓練の機会を奪うつもりはないということだろう。


 年若い団員達が槍や剣を構えて、獲物に向かって走っていく。ミュゲルもその中に混ざっている。


 まもなくミュゲルが剣で斬りつけた魔獣の叫びが響き渡り、続いて他の団員達が各々、魔獣を仕留めにかかる。

 それぞれの力量差や、仕留める数の違いもあれど、こうして経験を重ねることに意義があるのだと思う。


 すばしこい魔獣を複数名が協力して囲い込んでいく様子を見守りながらそう考えていた。


 わたしは擦過傷を負った団員を治癒し、お祖父様はいい動きをした団員に声をかけた。


 それから少し歩を進めていくと、今度は上空から猿のような顔をした、鷲のような魔獣が十体ほど襲いかかってきた。


 彼らが鉤爪の先から放ってきた雷撃は、結界で跳ね返る。その雷撃に当たって墜落する鷲型魔獣もいた。


 武闘派の団員は弓をつがえ、魔術が使える団員達は火炎や氷結、水流など数種の魔術を発動して仕留めていく。


 そして、しばらく進むと猪のような姿で、体の表皮が岩のような魔獣が数十頭、地響きと共に走ってきた。


 これには武闘派は一体ずつに鉾を構えながら向かっていき、雷撃や火玉、水玉などの魔術を駆使する者もいた。


 なかでも一際活躍しているのはシリカ副団長だ。

銀髪を靡かせて、華麗に舞うように魔獣を避けつつ魔術を立て続けに放っている。


 放たれた魔術が連鎖するように炸裂し、突進してきた魔獣の列が崩れた。


 そしてその隣でシリカ副団長を守るように、剣を振るっているのがエレインだ。


 二人とも素敵……。

 そう思って見惚れていたら、不意に馬の蹄の音が多数近づいてくる気配があった。


 ——味方では、ない。

 直感がそう告げて、胸の奥がひやりと冷えた。


 警戒心で凍りつくわたし達の後方の霧の中から、三十人ほどの一団が現れた。


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