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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード47 失いたくない居場所

「おまっ……えなぁ〜! 何やらかしてくれてんだよ」


 アレン団長の理不尽な言葉にむっとする。

 トルエンデ騎士団員に一人の死者も出さずに無事に帰ってきたというのに、なんて言われようだろう?


「えっ……? 何って、人命救助と人命保護のための措置のことですか?」


 それなりに初仕事で成果を出せたと思ったのに、あんまりな言われようだと思う。


 最後に結界を張り直すという務めまで終えて、団員達の疲労まで聖力で癒してから帰ってきたのだ。

 さすがに疲れている。


 それなのにテオドール副団長やミュゲルから報告を受けたアレン団長から、騎士団長室に呼び出しをくらってのこの台詞。


 アレン団長はマホガニーのライティングデスクに両肘をついて頭を抱え、その隣でテオドール副団長はデスクに片手をついて立っている。


 これはなんだか、傍目にはわたしが二人からお小言をくらっていますという構図に見えるのではないだろうか?


 解せない……。


「あのう……何かまずいことでも?」


 ただ訊ねただけなのに、アレン団長にギロリと睨まれた。むむう……。

 これはどうも察しの悪いわたし、に苛立ちが向けられている気がする。


「わからないのか……?」

「……いえ、わからなくもないです」


 わからないけど、ここはどうもわかった振りをして切り抜けた方がいい状況の気がする。


 こう見えてわたしは空気を読める聖務官なのだ。

 だてにあの空気の悪いラヴォイエール邸で成長してきていない。


 なるべくお説教時間を短縮させるには、自分の失敗を自覚し、反省の姿勢を示すべきなのだ。


 そう考えて殊勝な感じで項垂れた……。


「明日にはうちの騎士団じゅうに、いかにお前が優れた人材かということが知れ渡る。口止めはしていても、よその奴らのいる酒の席なんかで——お前の偉業を自慢するかもしれないんだぞ?」


「それは、その……ありがたいお話で」


 普通に答えただけなのに、団長は頭を掻きむしる。

 まだ二十代なのに、髪は大事にしましょうよ! 

 なんてさすがに口にはしません。しつこいようですが、わたしは空気を読むたちなんですから。


「人命救助、人命保護のため……。まあ、本当にそう言われれば、否定はできません。確かに」


 テオドール副団長がわたしの味方についてくれるみたいだ。


「ですが、怪我人を複数同時に治す必要がありましたか?」

「えっ、少しでも早いほうがよくないですか?」


「「…………」」


「そこらじゅうの団員に防御結界かける必要ありましたか? しかも超強固で長時間保つやつ……」

「えっ? だってどこにでも運の悪い人っているじゃないですか! それにどうせなら帰り道だって安全に帰れるほうがいいじゃないですか!」


「「…………」」


「帰る前、全員と馬全頭の疲労を取り除く必要……ありましたか?」

「えっ? だって皆さんお疲れなのに気の毒でしょう? 馬達だってあんなに疾走させて、倒れるかもしれないじゃないですか」


「「…………」」


 今度はテオドール副団長が頭を掻きむしりだした。

 副団長もたしか二十歳ちょうどのはず。大事にしましょうよ、長いお付き合いになるんですから、頭髪は。


 反省しているはずが、ぬるい目で見つめていたことがバレたのか、ギロリと睨まれた。


「もう知らん、俺は知らん……。とんだ聖女様だ! おっちゃんには自分でことの顛末を説明してくれ」


 ……これは、まずいのでは?

 もしかしてわたし、団長に匙を投げられたのかもしれない。


「そうだ、これは僕達には避けられない天災のようなものだよね。だって本人が隠すつもりがあるのかないのかも、わからないし」


 副団長まで言い訳を始めてる。


「隠すつもり、あります! 隠すつもりしかありません」


「「…………」」


 団長と副団長の兄弟揃って、なぜか長い長い溜め息をつかれた。


「行ってよし」


 あら、わたしの狙い通りお説教時間を短縮できたようだ。

 さあ、ご飯ご飯……と。


 別棟の騎士団本部にある団長室を出て、主屋に向かって歩いていると、団の皆に声をかけられた。


「今日はお陰で助かったぜ」

「ありがとな」


 なんだか気恥ずかしくて、胸がこそばゆい感じがした。

 でも、悪くない気分だ。やっぱりわたしは、役に立てたのだ。


 込み上げる喜びを抑えきれず、にんまりしてしまう。


 だけど、団長達にはこの顔は見せられない。

 表情を引き締め、キョロキョロ周りを見回して、二人の気配がないことを確認して、またにんまり顔になる。


 さすがにわたしも団長達が何を心配しているのか気付いたし、そのことはわたしも不安に思っていた。


 下手をしたらせっかく得たこの居場所を失うかもしれないのだから、気をつけなければいけないこともわかっている。


 だけど、何を優先すべきかはちゃんと考えているつもりだ。もしわたしが騎士団の厄介者になってしまった時には、潔く進退を決めないといけない……。


 そう思いながらも、一抹の不安に胸が重くなった。


 主屋の食堂に入ると、お祖父様もお祖母様も晩餐を食べずに待っていてくれた。


「待っていたぞ! 私は今日は帝国魔術騎士団の指南に出かけて留守にしていたが、だいぶ活躍したようだな」

「えっ……ええ、まあ……。人命救助と人命保護というやつです」


「ほうほう、そうか……。きっと皆、喜んだだろうな」


 笑顔のお祖父様を見ながら、サーモンやオリーブの入ったサラダをもぐもぐ食べる。働いた後のご飯って美味しい!


「職場を気に入ってくれていて、私も嬉しいよ、ジュディー」

「わたしも良いところで働かせてもらって嬉しいです、お祖父様」


 うんうん——と頷きあい、グレイビーソースのかかったローストされた牛肉をパクパク食べる。


「だからジュディーには、なるべく長くここで仕事をしてもらえると嬉しいんだが……」

「そう言ってもらえて嬉しいです」


 ムシャムシャ……、ああ美味しい。


「そのためには……、例の力は……、なるべく隠す方向でな」

「もちろんです! わかっていますとも」


 パチリ! とウインクして食べ続けるわたしを見るお祖父様の目には、わたしに対する信頼と期待が垣間見えた。


「遅い時間まで待っていて下さって、ありがとうございます! お祖父様ってば、そんなにわたしと一緒に食事を楽しみたかったのね!」


 お祖母様は静かねと思ってお顔を見ると、目が合ったので微笑みかけた。


 お祖母様は溜め息を一つ吐いてから口を開いた。


「ジュディーは言わなくてもわかってると思うけど、聖務だからと全てに優先しないで、時や場所を選ぶことも覚えてね。自分を守るために」


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