エピソード44 はりきっていこう!
「日焼けはしないので大丈夫です。氷魔術で肌を薄く覆って、光魔術で屈折をいじってるんです。だから日焼けしませんよ?」
「…………!?」
無表情だったテオドール副団長の瞳に、ぱっと光が宿った。次の瞬間、彼は身を乗り出して肩を掴んできたので、思わずのけぞる。
「面白い……! その発想はありませんでした。氷と光の組み合わせでそんな応用をするとは!」
わたしが一歩下がれば、彼は一歩前へ。……結局ゼロ距離のまま!!
テオドール副団長のテンションが変わりすぎて驚いた。
「ええ、……やっぱり日焼けは嫌なので」
「つまり常に氷魔術を発動している? かなりの魔力量が必要ですね。聞いてはいましたが、聖力がある以上、もっと微力の魔力だと思ってました。あなたの魔力量に興味がありますね」
えっ、ひいぃっ――。
今にも解剖されそうな勢いなんですけど!?
「副団長、また何に興味を引かれたんすか? 早く指示を出して下さいよ」
第一部隊の団員が助け舟を出してくれたので、テオドール副団長は渋々というように、団員達に向き直り、指示を出す。
「この二列は槍術、この二列は鉾の訓練。互いに組んで弱点を探り、助言し合うこと」
「腰はもっと低く落として」「突け! すぐに引け」
テオドール副団長の瞳には先ほどまでの輝きはないけど、団員達の動きをよく見て的確にアドバイスを出しているようだ。でも槍や鉾って重そう……。
身体強化魔術は使わないのだろうか?
あ、訓練だから筋力の強化や基礎体力向上に励んでいるということか。
どちらにしても、わたしは一般団員の前では魔力は持っていないことになってるから、魔術は使えない。
聖力と魔力の併せ持ちを知られたら、さすがに外部への情報流出が心配だ。
でも討伐戦に魔力を使えず同伴して、人目があるところで近接戦闘になったらまずいような……?
聖務官(自称)として従軍する人員だから、後方に下がっているように言われるだろうけど。
「わたしも訓練に参加しちゃ駄目ですか?」
結局、テオドール副団長に付き添って歩きながら聞いてみた。
「槍術ではなく、護身術などがいいのでは?」
確かにわたしはまず自分の身を守るところからだ。
護身術、必要になりそうだ。
今日は第一部隊の団員の軽傷者三人を癒し、第三部隊の熱傷者を一人治癒したところで、ミュゲルが迎えに来てくれた。
ミュゲルに連れられて厩戸に行き、柔軟運動をしっかりとしてから、気性の穏やかなステラという牝馬に自分で鞍をつける。
乗馬を始めて日が浅いわたしは、目下のところ軽速歩の練習段階だ。
「鎧を真下に踏み下げて、お尻を浮かせて十秒保って下さい」
「はい」
「膝で締め付けないで下さいね。鎧に体重を乗せて」
「わかったわ」
お尻を軽く鞍に乗せて、ステラの反動に合わせて立ち上がったり座ったり、リズムを掴むことに集中する。
「はい、立って、立って、座って」
「立って、座って、座って」
乗馬の練習が終わり、遅めの午餐を祖父母とケンネル夫人、マノンと共に小サロンで摂る。
わたし以外の皆は既に午餐を食べていたのでお茶とマフィンだけを食べていたけど、空腹だったわたしはサンドイッチをがっつり頂く。
「ミュゲルの指導はどうだ?」
「教え上手だと思います」
お祖父様は「そうか、ならいい」と満足そうに言う。
「足腰痛んだりしない? 治癒はしたの?」
「お祖……大聖女様、筋肉痛はこのままにした方が筋力がつくんですよね?」
「あら、そうだったわね……。つい世話を焼きたくなってしまって、私ったら駄目ね」
「いえ、感謝します」
「公爵閣下、明日からミュゲルに護身術を教わってもいいですか?」
「護身術? それならミュゲルより、シリカ副団長とか女性のほうがいいだろう」
「シリカ副団長はお忙しいと思うので、エレインに聞いてみます」
エレインは女性ながらに逞しい上腕二頭筋をしているし、武術には自信がありそうだ。
こんな風に気遣われているのを見ているので、さすがにケンネル夫人もわたしが孫娘のジュディリスだということを察していそうだ。
けれど、こうして夫人達がいるところでは、公爵閣下と大聖女様、に対する侍女の言葉遣いに変えている。
ケンネル夫人もマノンも知らぬ顔でジェマとして接してくれているし。
ノックの音がして、「どうぞ」とお祖父様が答えると、テオドール副団長が入ってきた。
「どうした?」
「昼食後の訓練で、また負傷者が二人出たのでジェマさんのお力を借りたいと思って」
「わかりました、行きます」
「まだジュディ……ジェマは食事中でしょう? 私が行くからいいわよ」
お祖母様が席を立とうとしたけど、手振りで押し留めて、食べかけのサンドイッチを全部頬張る。
「いひまふ、もう食べ終わったので」
と言いながら、まだ熱い紅茶を慌てて飲む。
——熱っ!!
喉に軽い火傷を負ったのを、自分の聖力で癒しながら部屋を出る。
「ちょっと張り切り過ぎじゃないかしら?」
「だな……」
祖父母が顔を見合わせていたのは、知らなかったけど、とにかくここでは皆に必要としてもらえることが、嬉しくて仕方ない。
トルエンデ騎士団専属、侍女聖務官として頑張るぞー!!




