エピソード43 トルエンデ騎士団の朝
トルエンデ騎士団の団長はアレン・フォン・グレイハートといって、お祖父様の弟の息子だ。
副団長は三人いて、そのうちの一人は先日、ロイが名前を借りたテオドール・フォン・グレイハート。
アレンの武術の腕は騎士団随一。
その弟のテオドールは魔術の腕を評価されているようで、魔道具開発にも携わっているらしい。
アレン卿とテオドール卿には、お祖父様からわたしの正体を話していて、いざという時には頼らせてもらうことになっている。
アレン卿とお祖父様が訓練場に現れると、それまで私語を交わしていた団員達が一斉に口を閉ざし、場が静まり返る。
「諸君、今日もご苦労さん。うんうん、一糸乱れぬ整列で、いいね、いいね。やっぱり騎士団はこうでないとね」
お祖父様は緩い挨拶を終えると、とっとと団長席にふんぞり返った。とてもじゃないけど英雄と言われたその人には見えない。
お祖父様はアレン団長に緩い指示を出す。
「じゃあアレン、今日もあれ、やったんさい」
「はっ! トルエンデ騎士団会則その一」
「人々を守り、魔獣を成敗!」
「会則そのニ」
「己の力に驕るべからず」
「会則その三」
「怯むな、恐れるな」
「会則その四」
「勝利を信じろ」
「会則その五」
「適度に休憩、適度に給水」
斉唱しながら革製の水筒を掲げる者達が数名いる。
「会則その六」
「命はなるべく大事に」
「会則その七」
「酒は勝ってから飲め」
「会則その八」
「女性を尊べ」
「会則その九」
「弱きを助けよ」
「会則その十」
「英雄総帥の冗談にはいかなる時も笑え」
何名かから乾いた笑い声が溢れる。
これを毎朝訓練前にアレン団長に続いて全員で斉唱するのがお決まりだ。
「では、第一部隊はテオドール副団長に続き場所移動後、槍術と鉾の訓練」
「第二部隊はシリカ副団長に続いて移動後、魔法陣の発現訓練」
「第三部隊はガルム副団長の指示で魔術戦闘訓練」
アレン団長は指示を出した後、こちらのほうへ向かっているように見える。ずば抜けて高身長なので、人混みのなかでもすぐ存在がわかる。
識別は一応肩章でもできる。
団長は二重金飾緒、副団長は金線の肩章、一般騎士は銀線の肩章——という違いだ。
圧倒的に背格好のほうが見分けがつきやすい。
シリカ副団長も細身の女性で長い銀髪を三つ編みにしていて、遠目でも見分けやすい。
繊細な美貌を持っていて、団員の中にもファンが多いそうだけど、実は既婚者で一人息子はもう十歳だとか。
ガルム副団長は割と体格もいいし、背も高いほうだけど、目立つタイプではない。
ただ、普段朴訥な印象だけど、討伐中は人が変わったようになるし、居場所は“殺意”ですぐにわかるそうだ。
どういうことなのか、まだわたしにはよくわからない……。
テオドール副団長は、ロイが偽ロイだった時と背格好は似ていて、髪も栗色だった。
印象の薄い特徴のない顔などではなく、結構彫りが深めの整った顔立ちだ。
アレン団長の顔立ちも弟と似て整っているけれど、そこに野生味が加わっていて全体的に骨太で堂々とした印象だ。
「じゃあ、私は第二部隊だからちょっくら魔法陣を描いてくるわ」
エレインはそう言って移動していき、残されたわたしはこちらに向かってきているアレンのもとへ向かう。
「ジェマ、今日は第一部隊で怪我人が多く出ると思うから、そっちに常駐で、たまに第三部隊を覗いてもらえると助かる」
「了解です」
団長として指示を出したあとに、声を顰めて呟くように声をかけてくる。
「くれぐれも怪我しないようにな」
「なんでですか? わたし怪我しても自分で治せますよ?」
「バーソロクスのおっちゃんが煩いんだよ! 怪我させるな、不埒な男どもに取り巻かれないように見張れ、とか……」
「……なんかすみません、余計な仕事を増やしちゃって」
うちの祖父が申し訳ない。あ、でも団長の伯父でもあるんだから、まあ、身内同士ってことでいいか。
「いやでも、まじな話……、聖女がいてくれるのは本当にありがてえんだよな」
「そうですか? 役に立てているんなら嬉しいです」
にっこり笑ったのに、なにが駄目なのか団長は額に手を当てて大仰に溜め息を吐く。
「言ったろ? そうやって誰彼構わず愛想振り撒くんじゃねーって。いくら戒律が厳しいこの騎士団でも、荒っぽい男どもがその気になったら、お前に付き纏って、おっちゃんの小言がこっちに降り掛かんだよ」
「それはどうもすみません……」
第一部隊の移動先に向かって歩きながら考える。
むぅ――っ、愛想なんて振り撒いてるつもりはないんだけど、どうすればいいのかな?
もっと気難しい路線でいくとか?
いや体調悪くても、恐くて訴えられなくなりそうでは?
キャラ被るけど、エレインみたいに豪快な感じで、「これくらい舐めときゃ治るよ」って感じでいく?
いやいや、なんか違うような……?
「百面相が面白いですね」
ギクッ……、気付けばもうテオドール副団長の目の前まで来ていたようだ。どうやらわたしは考え事をする時、表情がころころ変わるらしい。
指摘されて気付いたけど。
「ジェマさんは今日はあちらの天幕の下の椅子に座っていて下さい。乗馬の指導には第三部隊のミュゲルさんが迎えに来るそうです」
「いえ、座っているより、近くですぐに対応したほうがいいでしょう?」
「真面目さんですか?」
「え……?」
「認識阻害魔術をかけていても、日に焼けるでしょう? あなたが日焼けして縁談に差し障りが出たりしたら、私が伯父上に殺されるんです。殺されるところがみたいですか?」
「こ、殺……?」
……冗談、なんだろうけど。
そう思いたいのに、表情が変わらないせいで心臓に悪い。




