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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード42 眠れぬ夜が明けて

「どうして……?」


 わたしは今一通の手紙を渡されて、読み終えたところだ。


 その様子を見守っていたお祖父様が声をかけた。


「その、まあ……なんだ。あいつの家の事情が複雑なことはそれとなく、は聞かされていたんだろう?」


「ほとんどなにも知らない」


 わたしがどんよりと言う。


「そ、そうか……」


 お祖父様がかける言葉が見つけられないと見て、お祖母様が口を挟む。


「ジュディー、心配だと思うけど……短くても手紙をくれて、無事だとわかってよかったわよね」


 お祖母様もロイに寛容なようだ。


 夢のようなアッテンホールトでのデートから既に……三週間も経過している。

 あれからロイはずっとリンデハイムの教会に来ていない。


 今日になって、わたし宛に届けられたのがこの手紙だ。あの占い師の言った通りのことが、まさかこんなにすぐ現実になるなんて——考えてもいなかった。


「すまない、しばらく帝都を離れて身を隠さなければならなくなった」


 あまりに簡潔で短かすぎる手紙だ。

 わたしはロイにとって、こんな書き置きで離れられるほど小さい存在だったのだろうか。


「酷すぎる! こんな手紙一通で……。せめて会って事情を説明するくらいできるでしょう?」


 怒りでワナワナと肩が震えそうになる。


「そ、それはそうよね。でもなにか事情があったのかもしれないし」

「事情ってどんな?」

「それは、……わからないわ」


 困ったように口をつぐんだお祖母様ではなく、お祖父様を見た。


「しばらくってどれくらい? どこに行ったかも話せないの?」


 ロイに向けるべき言葉をそのままお祖父様に向けているのはわかっていても、言葉が止まらない。


「まあ、その……確かに不誠実に思えるかもしれないが、あいつにはあいつなりの理由があるんだろうし……」


 お祖父様もお祖母様も、こんな風にロイを庇うのは何か事情を知っているのかもしれない。


 わたしだけが、ロイに事情を知らされていないのかもしれない。仲間外れにされたような寂しさと怒り、不安を持て余してしまう。

 

 夜になっても、そのもやもやした気持ちがおさまらず、何か聞き出せないかとお祖父様に詰め寄った。


 ナイトキャップ・ティーを淹れると言って遅くまで付き合わせ、眠りに誘うハーブティーの代わりに苦味の強い紅茶を濃ゆく淹れたので、お祖父様は部屋に戻ってからも朝まで眠れなかったかもしれない。


 わたしも眠れなかった。

 少し冷静になると、ロイがこんなことをしないといけないような何かが、起こったのではないかと心配だった。


 もんもんと夜を過ごしたけれど、翌朝はいつも通りの時間に起きた。


 普段通りに過ごすほうが、考え込まないでいられる。


 朝食を終えた時に、ちょうど起きてきたお祖父様は眠そうに欠伸をしていた。


「昨日は眠れなかったでしょう? ごめんなさい」


「いいんだよ、甘えてくれたんだと思ったら嬉しかったよ。それだけ気を許してくれてるってことだ」

「たしかに、そうね……」


「今日は一日機嫌良く過ごせそうだ」


 そう言って笑うお祖父様を見て、人生経験を積んだ大人の余裕を感じた。


 そして、そんなお祖父様の態度は、ロイのこともそれほど心配しなくても大丈夫なのかもしれない——とも思わせてくれた。


 わたしもお祖父様みたいに人を包み込めるような大人になれたらいいな。


 さて、早く騎士団の訓練場に行かないと。


 一応わたしの立場は侍女でありながら、騎士団専属聖務官という、ちょっとご都合主義的な兼務が認められた存在だ。


 大変ありがたいことに、女性の雇用も認められている騎士団なので、女性用の騎士服まで用意されていて、わたしにもその着用が認められた。


 上衣は男性と同じく濃紺、立ち襟だ。銀糸で刺繍が施されていて、胸元にも騎士団章が縫い付けられている。


 女性用は少しウエストが絞られていて、裾にも縁取りがあるのが特徴だ。


 いちばん気に入っているのは、女性がズボンを履くと奇異に見られる風潮を意識して、スカート型キュロットとデザイナーが名付けた下衣部分だ。


 この騎士服を着ると身が引き締まる思いがする。


「ジェマ殿、今日もよろしく頼みます。乗馬の訓練はミュゲルが担当します」


「了解です、ありがとうございます」


 声をかけてくれたのは、副騎士団長のガルム卿だ。三十代半ばの真面目な人柄で魔術武術両方の使い手でもある。


 集合時間の五分前だけど、既にわたしと団長とお祖父様以外の全員が整列しているようなので、少し早足で後列の定位置に並ぶ。


「おはよう、ジェマ」

「おはよう、エレイン」


 エレインは女性魔術騎士で、既に互いに名前呼びする仲だ。高身長ですらりとした体格の姉御肌だ。


「ジェマ殿、昨日は助かった。お陰で指を骨折したこと自体忘れるくらいだ」

「いや、驚いたよ、教会で司祭様に治療してもらったこともあるけど、ここまで完璧に治せるなんて」


 方々からそんな声をかけられて、自分がこの騎士団で役立てているんだと実感できて、すごく嬉しい。


「聖女様になれるんじゃないのか?」


 そう団員の一人に言われた時には、心臓が飛び跳ねた。

 ——ギクギクッ……。


 この居場所が簡単に奪われるかもしれないと考えてしまうのはこんな時だ。


 動揺を隠すように、わたしは笑って肩をすくめた。


「ほら、聖女様なんかに取り立てられたら、もうここには来られなくなるじゃない? わたし、ここが気に入ってるし」


 隣からエレインも口を挟んでくれた。


「団長から、ジェマの聖力のことは口外しないように言われてるだろ? 大聖堂や教会に召し上げられたらお前達も困るだろ?」


「そうだな、口外禁止だった」

「絶対外では喋んねえ」


 皆が口を揃えてそう言ってくれるのを聞いて、やっぱりここを職場に選んで正解だったな、と思う。


 ロイのことはやっぱり心配だし、寂しい。


 だけど……ここにはわたしの居場所がある。

 新しい仲間もできた。


 だから大丈夫。わたしはきっとやっていける。

 次にロイに会えた時、胸を張れるように頑張る。

 絶対……見違えるようなわたしを見せてあげる!


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