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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード39 合わせられない視線

「ロイ、だから……近いってば」


 長椅子の上でロイと二人、横並びに座っていた。


 隣に座るロイとの距離が近く、落ち着かないので間を開けて座り直したけど、彼はまた距離を詰めてきた。


 想いを打ち明けあってから、どう接していいのか戸惑うばかりのわたしに比べて、ロイは余裕のある態度に見える。


 今も涼しい顔でさりげなく顎にくいっと人差し指をかけてきた。


 顔を上げるとロイの翠色の甘やかな瞳が至近距離にあった。

 ま、眩しすぎて——胸が痛い。


 焦るわたしの口元のつけぼくろを親指で軽く擦られた時には、心臓が跳ねた——。


「中身がジュディーだと思うと……」


「な……なに?」


「この顔も可愛いな、と思って」


 そんなことを言われて、熟した林檎のようだったわたしの顔は溶けたに違いない。

 熱すぎて……。


 だけど恥ずかしいのを堪えてロイをよく見れば、彼の顔も耳までうっすら赤く染まっている。


 そこはやっぱりまだお互い初心者なのだろう。


 でもこういうのって……いい。


「……ウォッホン! ゴォッフォン!」

「ホホホ……、やあね、目に毒だわ」


 不自然極まりない咳払いで横槍を入れたお祖父様はロイを牽制するような眼差しをしている。


 お祖母様は「若いっていいわね」と小さく呟いて、目線を外して庭園の方を見た。


 どうやら席を外していたお祖父様とお祖母様が、いつの間にか戻ってきていたようだ。


 二人の世界に夢中で気付かなかった。


「破廉恥だ! この私の目の黒いうちは、未婚の男女がいちゃつくのを黙って見過ごすことはできん!」


「や、やだなぁ。師匠、認識阻害魔術の出来映えを確認していただけですよ」


「それが、か? そんなにくっついて?」

「は……はい。近くからよく見ないと」


「だとしてもだなぁ……」

「…………あ、髪を確認しようと思って」


 ロイが確認するように、わたしの赤毛のふわりとした鬘を触る。


 もし認識阻害魔術を失敗した時でも、髪色が変わらなければバレにくいかと思って鬘を着用している。


「この前、お祖母様の侍女として大聖堂のお務めに付いていったんだけどね。わたしも聖務のお手伝いができるといいな、と思ったんだけど、どう思う?」


「——もちろんいいことだと思うけど、あそこはあまりにも大勢の貴族や聖職者の目につくから……正体がバレた時のことを考えると……」


 ロイは渋い顔をしている。やっぱりそうだよね……。


「私も同じ意見だわ。リンデハイムでの治癒を本格的に手伝ってもらうのはありがたいけれど、ジュディーほどの実力ならすぐに噂になって、大聖堂に召喚されることになると思うの……」


 ロイとお祖母様の言う通りだとわたしも思う。

 でもせっかくの聖力、どこかで誰かのために役に立てたら……。


「では、我がトルエンデ騎士団専属の聖職者にならないか?」

 お祖父様がそう言った。


「騎士団の?」


 確かに騎士団員には怪我がつきものだし、活躍できるかもしれない。


「ああ。騎士団も助かるし、私が側で見守ってやることもできる」

 

「専属ということは……」


「ああ、うちの騎士団は守秘義務厳守だしな。聖女並みの聖力が使える聖職者をよそに持っていかれるような愚を犯す者もいないだろう。もしも口外する者がいれば……」


 悪い笑みを浮かべるお祖父様を、呆れた目で見つめるお祖母様を見る。


「そうねえ。どこかで力を役立てたいというジュディーの気持ちもわかるものね。トルエンデ騎士団ではしょっちゅう怪我人が出るし、今は私がいる時に治癒しているんだけど……専属がいてくれたら私も少し楽ができるわね」


 つまりお祖母様も賛成ってことよね? 


 騎士団の一員になる——そう考えると気持ちが高揚してくる。


 わたしでも役に立てる場があるなんて。

 まるで新しい扉の前に立ったような気分だ。


 怖くないと言えば嘘になる。

 でも——やってみたい。


「わたし、トルエンデ騎士団専属の聖職者になる!」


 勢い込んで宣言した。


「えっ……ジュディー? ちょっ、師匠……、騎士団には年頃の男がごろごろいるのでは……?」


 ムスッとした顔を隠そうともしないロイが言う。


「そりゃあ天下のトルエンデ騎士団だぞ? 若くて血気盛んな奴らがうじゃうじゃいるからな。……ん? なんだ……ロイはジュディーをとられると心配しているのか?」


「いや、そういう……わけじゃないけど」


 不本意そうなロイの様子に、思わず口元が緩んだ。

 嫉妬してくれているようだ。


「だよなぁ? 自信のない男に女の子はついていかないぞ?」


「だから、自信がないわけじゃないけど。ジュディーによからぬ真似をする輩がいたら……」


 ロイは反論したけど、大声で笑い出したお祖父様の言いぶんには黙らざるをえなかった。


「ジュディーは孫ながら魔術の腕は相当なものだ。ちょっかいを出せる男はそうはいないだろう。それにうちの騎士団の戒律は厳格なことで有名だからな」


 そんなわけで、わたしの騎士団入りが決定したのであった。

 ワクワクが止まらないわたしを、じとりと見つめるロイの機嫌をとらないといけない気がする。


「あのさ、ロイ……」

「……なに?」


「デートしない?」

「デート?」


「せっかくラヴォイエールの家から脱出できたんだし、この姿なら街でデートもできるでしょ?」


 そう言ったら、ロイは今気付いたという顔をしてから、抑えきれない笑みを溢した。


「行こう! デートしよう、ジュディー」


 わたしも、嬉しくてたまらない顔で頷いた。


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