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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード36 新たな日々

「ここがあなたの部屋よ! 明るい日差しの入る部屋でしょう?」


 トルエンデ邸の一室を案内してくれたのは、これから侍女仲間になるマノンだ。


 彼女はジェントル階級の出身らしい。

 男爵家出身という設定の私、ジェマ・フォン・シオンヌに早速先輩風を吹かして、屋敷を案内してくれている。


「正直な話、連絡もなく押しかけてくるなんて非常識だと思ったけど、夜中に駆け込むくらいだからよほどの事情があったんでしょうね。お優しい奥様も『聞かないであげて』と仰っていたし」


「急なことで、本当にすみません」


「いいのよ。それに、この屋敷に来ることは前から決まってたんでしょう?」

「えっ……?」


「この部屋は亡くなられたお嬢様が昔使われていたお部屋らしくて、長い間そのままにされていたのよ。

遠縁とはいえ、この部屋を与えられるなんてよほど大事に思われているのね」


 この部屋はお母様のお部屋だったの……?

 大きな窓ガラスからは手入れの行き届いた庭が目に入る。

 お母様も毎日この景色を眺めていたのかしら?


 そう思うと不思議な気分だ。まるでお母様に見守られているみたいな気がする。


「奥様が少し前から壁紙を貼り替えさせたり、自ら家具を選ばれてね。一体どなたを受け入れられるご準備をされているんだろうって思っていたのよ」


 部屋をじっくり見回してみると、薄い薔薇色のカーテンに絨毯、アイボリーに統一された家具が優しい雰囲気だ。


 居心地の良い空間に置かれた棚にはウサギのぬいぐるみが置かれ、クローゼットには何着ものドレスまでが用意されている。


 あの日リンデハイムで出会ってから、いつか孫のわたしをこの屋敷に受け入れる日がくることを信じて、何も言わずに待っていて下さったのかしら……。


 そう思うと胸がじんと温かくなる。


 遅い時間の、しかも急な訪問だったけど、以前にお祖母様に頂いたトルエンデ公爵家の紋章入りの指輪を門番に見せたら、すんなりと邸内に招き入れられた。


 門番はあらかじめ指輪を持つ娘が訪ねてきた時はそうするようにと言い含められていたらしい。


 そしてお祖母様とお祖父様にお会いして、事情を話すことができた。


 最初は驚いていた二人も、密かに認識阻害魔術を訓練していたことなどを話すと、すぐに現実のこととして受け入れてくれた。


「頼ってくれて嬉しいわ。これからは一緒に暮らせるなんて……。本当に良かったわ」


 お祖母様は涙ながらに喜んでくれた。


 お祖父様もそんなお祖母様の肩を抱いて頷いた。


「この屋敷にいる以上、何が起こっても私が守ってやるからな。しばらくは侍女という仮の姿で不自由かもしれないが、嫌になったら本来の姿に戻ればいいんだ。私がゲオルク、お前の父を無理にでも黙らせてやる」


 その言葉は嬉しいけれど、本来の姿になって大事になるのは困る。


 夜が明けるまで、二人と今後のことを話し込んだ。


 もうラヴォイエール邸には戻らないつもりで、鞭打たれた酷い傷は聖力で癒してしまった。

 

 そして朝になり、赤毛とつけぼくろをつけ、魔術で変身した姿で、ジェマとして使用人達に紹介されたのだ。


 ミュゲルもトルエンデ騎士団の一員に加わることになり、同時にわたしの護衛としていてもらうことになった。


「昨晩はほとんど寝れていないだろうから、ゆっくり休むといいわ! メイドと違って、侍女は雑務はほとんどないの。

奥様は屋敷内で気疲れするのを厭われるから、侍女は私とケンネル夫人とあなたの三人だけだし。気楽なものよ」


 マノンに言われるままに、昼過ぎまで爆睡させてもらった。


 そしてお祖母様と侍女三人で軽食を摂っていたら、トルエンデ騎士団の総帥として武術指南を終えたお祖父様が帰宅した。


 お祖父様は屋敷の隣接する多くの地所を買い取って騎士団の演習場や宿舎まで設けているので、すぐに帰ってこられるのだ。


「そうだ、ラヴォイエール邸から孫娘がいなくなったそうで、うちにも昼前に問い合わせがあったんだが、心当たりがさっぱりなくてな。捜索に来た者達には早々にお引き取り願ったよ」


「まあ、ジュディリスが? それは心配ねえ……」

「そうなんだ。どこに行ったのか……」


 お祖父様、それってマノン達にわたしの正体を隠しつつ、情報伝達したつもりだろうけど、このタイミングでその話っていうだけで、色々察してしまったりするんじゃないかしら?


 ちらりとマノンを見ると、やはり早速何か察したような顔をしている。

 侍女二人は信用できる人達なのだろう。


「まあ、ローレン様のお嬢様が? なんてことでしょう……どちらにいらっしゃるのか、ご心配ですね……」


 ケンネル夫人はおっとりしていて、わたしがその娘だとは欠片も疑ってなさそうだ。


「まあ、これで諦めたとは思えないから、また訪ねてくるかもしれない。だがこの屋敷には白金色の髪の娘などいないからね」

「そうね、そうね」


 そんな祖父母のやり取りを聞いても、まだひたすら無心に頷いているのはケンネル夫人だけだった。


「あ、ジュディ……いや、ジェマ!」

「はい閣下」


「明日からよろしく頼むよ」

「はい、頑張ります」


「あ、一緒に採用したミュゲルも今日は疲れているだろうから、騎士団の宿舎に案内させておいた。明日から外出の際には荷物持ち兼護衛として同伴させることにする」


 予定通りなら、ミュゲルは早朝に一度ラヴォイエール邸に戻って、職を辞してきたはずだ。


 わたしがいなくなったことに気付かれる前のほうがいいだろう、というのはお祖父様の判断だった。


 無断で一緒に姿を消すと、わたしと行動を共にしていると疑われるだろうし、失踪直前というタイミングも怪しいけれど仕方ない。


 まあ、なにはともあれ、こうして翌日から侍女ジェマとして新たな日々のスタートを切ることになった。


 ここにはお祖父様とお祖母様がいる。

 婚約を無理強いされることもない。


 行きたいところに自由に出かけることもできる。

 最高の環境だ。


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