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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード24 魔術競技祭⑤【エリタス神の悪戯】

 こういうのをエリタス神の悪戯というのだろうか?

 

 抽選で決められた一次予選のペアではアリーで、対戦相手は、イリーナとそのお友達だった。


 ペアがアリーなのは幸運だけど、どうして対戦相手がイリーナなんだろう……?


 内心打ちひしがれているわたしを鞭打つように、審判の試合開始の合図があった……。


 暗い表情をしているわたしを見て、イリーナは上機嫌な様子でほくそ笑んでいる。


 競技開始早々、いきなり朗々とした声で詠唱を始めるイリーナの、本気の気合いを見せつけられて、思わず怯んだ。


 イリーナは火属性魔術で火球を作り出す。

 これは……まさかとは思うけど、さっきの第一皇子に感化されて、同じようなプロセスで勝利を手に入れようとしている……とか?


 つい先程、彼女も皇子の試合を観ていたらしく、やれ「素敵でしたわ」だの「さすが殿下ですわ」とか……。


 どよめく観覧場の中でも耳につく、甲高い声でそう叫んでいたのは、イリーナだった。


 きっと皇子の耳に自分の好意が伝わればいい……と思っていたに違いない。


 そして同じように勝利する自分の勇姿を見せつけ、ついでにわたしに火傷の一つも負わせられれば御の字——そんなことを考えているに違いない。


 痛いのは嫌なのよ、火傷なんて痕が残るのもできればごめん蒙りたい。聖力を隠してるんだから治すわけにもいかないし、困るのよ。


 でも、ここでイリーナに勝ってしまったら、後であの毒父になんて言われるか……。


 ああ——どうするか悩んでいるうちに、火球が飛んできた。

 とりあえず、ひょいと避ける。


「なんで避けるのよ!」

 

 イリーナはお冠のようだけれど——いや避けるでしょうよ。


 そして今度は常日頃彼女が大の得意だと豪語している雷撃が来ましたよ。それもかなり大きいのが。

 絶対殺す気でしょう?


 とりあえず詠唱して氷壁をわたし達の前に作り出す。

 なるべく薄くて、幅はギリギリわたしとアリーの前を覆うだけの幅で。


 雷は氷壁にぶつかって、チリリと表面だけを溶かして消える。

 イリーナと第一皇子の魔術では威力が全然違うのよ。


「まあ、氷壁を作り出すなんて、生意気ね! 存分にお姉様を甚振るためにも、そっちの人からご退場頂こうかしら?」


 アリーは魔力がないので、勝ち残れるわけがなく、すぐにでも降参するつもりだと言っていたけど、イリーナの言動から姉妹間の確執に気付いたようだ。


「ジュディーが怪我したらすぐに癒してあげる」と、最後まで一緒にいてくれると言う。


 降参してサークルから出てしまうと、試合終了まで聖力で治癒できないから、と。


 なんて良い子なの。アリーってば……。持つべきものはやっぱり友達よね。


 それなのに、その大切な友達のアリーを狙おうだなんて、許せない。


 気付かれないように、無詠唱で自分達に反射魔術を展開する。


 予告通り、イリーナは今度はアリーを狙って雷撃しようとしたけど、反射魔術のせいで、跳ね返った。


 そしてその雷撃は、そのままイリーナのペアが避雷針代わりとなって、もらい受けてしまった。


「きゃああ————っっ! 痛いっ、痛いわーっ! イリーナ嬢、なぜあたくしを狙うんですの?」


 髪が全てチリチリに逆立った令嬢が、恨みがましい顔付きでイリーナを睨む。


「えっ……、私は知らないわよ。どうしてかしら? たしかにそこの令嬢を狙ったのに……」


 よかった! 反射魔術のことは気付かれていないみたい……。


 イリーナのペアの令嬢はプリプリと怒って、早々に戦闘放棄をして火傷の治療に出て行った。


 試合再開の合図があったけど、イリーナは攻撃の的を外したことに動揺して、まだぼうっとしたままだ。


 どうしよう……。

 何も仕掛けないのも慣れ合っているみたいで、不正を疑われる。


 逡巡していたら、危惧した通り審判に一度目の警告の笛を鳴らされた。


 三度鳴れば両者失格、確かそんな規則だった。


 戦わずに戦闘放棄したら、イリーナがお父様に言いつけるかもしれないし、イリーナを失格にさせたら余計に後が怖い。


 どんな魔術を使おうかと悩んでいたら、いい魔術を思い出した。怪我をさせず、イリーナに嫌な思いだけをさせることができる魔術。


 片手で鼻を摘んで、アリーにも同じく鼻を摘むように示してから、臭気魔術を展開する。


 呪文を忘れたから、無詠唱なのを隠せるように、モゴモゴ口を動かしながら、片手の先を左右にうにょうにょさせつつ、上にあげてから、イリーナに投げかけるように手を動かす。


 不審な動きに最初怪訝な顔付きだったイリーナが、次の瞬間には鼻をひくつかせ、顔を面白いくらい顰めて片手で鼻をつまみ、ゲホゲホと咳き込む。


「くっ……臭いわっ、なんて卑怯で……下劣な魔術を……」


 わたしを睨みつける。


 イリーナの背後、観覧席の人達は無事なようなので、ほっとした。


 そして、さらに強烈な臭気に風魔術を混ぜながら、イリーナだけに集中して臭気が集まるように操作する。


 しまいには涙目で百面相のイリーナが蹲り、こみあげるものを我慢できなくて、ドレスを台無しにしてしまったようだ……。


 や、やり過ぎた……?


 次は魔術で報復される番かと身構えていたけれど、ドレスが駄目になったイリーナは、手を上げてあっけなく戦闘放棄を宣言した。


 泣きながらサークル外に走り出て、待っていた友達に縋りつこうとする。


 けれど、汚れたドレスのせいで振り払われ、「酷いわっ……薄情者!」と叫び、一人で走り去ってしまった……。


 え、これって……もしかして勝ってしまった……?


 観覧席からはどよめきと笑い声が半々で響いてくる。でもわたしの心臓はどんどん重く沈んでいった。


「ああ……お父様に後で何を言われるやら……」


 眉をへにょりとさせ、ぽりぽりと頬を掻いていると、アリーが頬を膨らませて口元をヒクヒクさせているので、問うような視線を向ける。


「ぷふっ……ふふっ……っ、ふふふ……! ごめんなさい、もう無理……!」


 その後、堪えきれないと言うようにアリーはひとしきり笑い続け、最後にはわたしも一緒に笑ってしまった。


 そろそろ退場して次の対戦ペア達に場所を譲らないと……。


 まだ笑っているアリーを連れてサークルを出ていくと、目の前に第一皇子がいた——。


 ——び、びっくりした……。


 そういえば試合が始まってすぐの頃、観覧場の方が騒めいた気がしたけど、わたし達の試合を観ていたのだろうか?


 見ればその皇子はお腹を抱えて笑っていた。

 もしかして、今の試合観てたのかな?


「……君、色々面白い魔術を使うな……。是非一度手合わせを願いたい。さっきの試合の、最後の攻撃みたいなやつは勘弁してもらいたいが」


 目尻に涙が盛り上がるほど笑わせてしまったらしい。


 つい先刻見たばかりの皇子の試合を思い出し、一貫して冷徹だった眼差しや行動を思い出して、この人、こんな風に笑うこともあるんだな、と思った。


「あの……第一皇子殿下にお目にかかれ、大変光栄に存じます」

 カーテシーをしながら礼をとる。


「君……ラヴォイエール侯爵家の令嬢なんだって? 君みたいのが勝ち上がってくれると、楽しい試合ができそうだ。次の試合も頑張ってほしい」


 楽しい試合? あなたとの試合は、わたしにとっては恐怖でしかない試合だと思います。


 あなた、割と情け容赦のない試合をするかたですよね?


 内心そう考えていることが、顔に出てしまっていたようで、それを正確に読み取った皇子は、こう続けた。


「気が進まないのか……? ああ、さっきの試合を観られてたのか。安心してほしい、君相手の試合なら手加減しよう」


「わたしなどが、そこまで勝ち進めるとは思えませんが……。もしもの時は……お手柔らかにお願いいたします」


 この皇子、微笑んではいるけど、やっぱり変な圧を感じるわ……。


「ところで……、オーギュソン伯爵令嬢、大聖堂へは月に一度行っているそうだな」


「帝国の第一皇子殿下にお目にかかり、光栄にございます」


 アリーもカーテシーで礼を取ってから、返答を返す。


「お答え致します。はい、聖女候補、及び見習いとして励んでおります」


「月に一度と言わず、二度三度と大聖堂での鍛錬に励んでみてもいいんじゃないかな? 君は聖女としてなかなかの逸材だと聞いているし、早いうちから先輩聖女がたの教えを乞うておいて、損はないだろう?」


 アリーは唇を噛んで少し躊躇う様子を見せてから言う。


「有難きお言葉、肝に銘じておきます。母と相談の上、決めさせて頂きたく、かようにご提案頂きましたことを母に伝えておきます」


「マリアンヌ聖女は優秀なかただ。しかし、この国には大聖女もいらっしゃることだし、母君以外のかたからの学びの場も貴重だと心得た方がいいと思うよ」


 第一皇子は優しげな顔で言葉を続けるが、アリーに対して、強制とまではいかなくても、圧の強い言いかただな、とも思う。


「少しお節介だったかな?」


「い、いえ……。おっしゃる通りだと思います。精進いたします」


「それならよかった。これからも帝国のために頼むよ、オーギュソン伯爵令嬢。ラヴォイエール侯爵令嬢、また会おう」


 皇子が去っていく後ろ姿を見ながら、隣でアリーが深い溜め息を吐く。


「緊張しましたわ! 大聖堂で何度かお会いしたことがあるんですけど、あのかたを前にすると、迂闊なことを言えない気がしてしまって」


「わかる気がします。怖いかたですね……」


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