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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード23 魔術競技祭④【実力の違い】

 色んなペアがいて、創意工夫に満ちた魔術を観覧できるのは楽しい。


 アリーと二人で予選サークルを見て回り、その多様さに興奮していた。


 何組もの勝敗が決まる瞬間を見届けて、一際盛り上がっているサークルを見つけた。人垣の隙間から覗き込む。


 紺色の髪、あれは——ラヴォイエール邸の小夜会で会ったセドリック卿だ。


 彼と女性のペアが、濃い金髪ですらっとした体格の青年と、貴族にしてはガタイのいい青年と対戦しているようだ。


 両手を振り上げた女性が雷撃魔術を唱え、セドリック卿が女性の肩に触れ、女性の肩から背中までが鈍色に発光するのが見えた。

 どうやら彼は支援魔術で女性の雷撃の効力を増強しているようだ。


 支援魔術は、今回の競技祭では初めて目にした。

 隣のアリーは、訳がわからないという顔をしている。


「セドリック様は何をされているの? 女性の肩に手を置いて……。少し不謹慎じゃない?」


 アリーは聖力はあっても、魔力のマナは全く視えないし、感じ取れないみたいだ。


「支援魔術で女性の魔術の効果を上げているのよ」

「へえ……。それって触らないと発動しないの?」

 そんなことが気になるのか、と思いながら答える。


「人によるけど……、より強い効果を得たい時には触れることも有効だと思うわ」

「そうなのね……」


 女性の雷撃をガタイのいい青年は身をかわして上手く避けて、前傾姿勢で地面に向かってマナの波動をぶつけると、地響きと共に地割れが広がっていく。


 砕石や土塊はサークルを囲む柵に跳ね返され、地割れも柵内に留まってはいるけど、振動は観覧場所にも伝わり、わたしの足元も揺れている。


「やだ……、大丈夫かしら?」


 アリーが不安そうな顔になったので、安心させようと微笑む。


「大丈夫! いざとなったら守ってあげるから」


 地割れを仕掛けられた側——セドリック様は浮遊魔術を発動し、女性と共に宙に浮上した。

 

 金髪の青年は自分の足下に地割れが広がってくるまで、重心を後ろに置いたまま、他人事のように顎をしゃくって見ていた。


 けれど、いよいよ裂け目が自分を呑み込もうとする瞬間、眉一つ動かさずに、無詠唱で浮遊魔術を展開してひらりと浮き上がった。


 軽やかに宙へと舞い上がる姿を見て、観客場のあちこちから小さなどよめきが聞こえる。


「……さすがギルベアト第一皇子殿下だ」

「やはり、余裕がおありだな……」


 ——えっ、第一皇子?

 彼が……?


 噂では冷徹で人を寄せ付けぬ方と聞いていたけれど……。

その戦いぶりを見て、なるほどと納得してしまった。


 地割れは四方八方に向かって広がっていき、術者本人は地割れ部分を跳躍で上手く避けているけど、浮遊魔術を使えるわけではなさそうだ。


 皇子は変わらず、味方が必死に地割れに飲み込まれないように足掻く様子を平然と見下ろしている。

 余裕があるなら、助けてあげればいいのに……。


 そう思って見ていたら、地魔術者は跳躍した瞬間を狙われ、セドリック卿の重力魔術攻撃を食らい、地面に叩きつけられた。


 意識を失って横たわった地魔術者の彼が、地割れの裂け目に飲み込まれやしないかと緊張する。


 けれど、ホイッスルの音とともに、即座に警備の職員達がサークル内に足を踏み入れたと思うと、彼は運び出された。


 審判が戦闘の続行が命に関わると、判断した場合には、介入が認められるようだ。


 味方が運び出されたというのに、宙に浮かんだまま首を回し、肩の凝りを解すような仕草をする皇子を、皆が固唾を飲んで見守っている。


「ねえ、一人対二人になったけど、地面があの状態のままだと戦いにくくて仕方ないわよね」


 アリーが心配そうに口にする。


「確かにね……。地魔術が使える人が他にもいて、“土ならし“が使えれば……。それとも……」


 話の途中で、皇子が指先で印を結び、短い詠唱を紡いだ。


 すると、めちゃくちゃになっていた地面の割れ目が塞がり、ならされ——まるでこの戦いが始まる前に時が戻るように、巻き戻されていく。


 その様子に一同の口から感嘆の嘆息が漏れる。


「まさか——、修復魔術まで使えるなんて……」


 祖父とロイくらいしか使える人はいないと思っていた。


「なにそれ? 修復魔術って……、まさか——な、なんでも直せたりするの?」


 驚きのあまり、アリーは呆けたように口を開けた。


「さすがにそれは無理だけど……。聖力だって、欠損を補ったりはできないでしょう?」


「それはそうね……。でも、これってかなり、凄くない?」


 私は強く頷いた。


「多分、この魔術を使える人は、片手の指が余るくらいの数でしょうね」


 言いながらごくりと唾を飲む。


 そして、中断していた戦いが審判の合図で再開された瞬間、氷の刃が飛ばされ、女性の髪が肩上でバッサリと切り落とされた。


 突然の衝撃に、観衆は声を上げるのも忘れて、呆然と見入っている。


 腰の下まであった長く茶色い髪の毛がパラパラと宙を舞い、光を受けてきらきらと散っていく。その光景は一瞬、美しくさえ見えた。だからこそ余計に残酷だ。

 

 それも、ほんの少し匙加減を間違えれば、首まで切り落とされていたかもしれないのだ……。


 自分の首にも、冷たい刃を押し当てられたような気がして、心臓が縮む心地がした。


「ぃやあああああああああ———」


 一瞬遅れて、自分の置かれた状況に気付いた女性は、恐怖とショックのあまり、叫びながら崩れ落ちた。


「ごめんね、女性を傷つけるのは本意じゃないんだけど、時間を無駄にするのも好きじゃないんだ」


 全く悪いとは思ってなさそうな、温度の感じられない表情で皇子がそう言うと、観覧場も水を打ったように静まり返った。


「酷いわ……、女性の髪を切ってしまうなんて」


 アリーが口元に手を押し当てて、気の毒そうに女性を見つめている。


 半狂乱になった女性は、すっかり戦闘意欲を喪失し、戦闘の放棄を申し出た。

 サークルを出て、友人に肩を支えられて去っていく。


「いやいや、髪は駄目ですわよね」

「女の命だからね」


 アリーとわたしは頷き合う。


 第一皇子……。

 令嬢達にキャーキャー騒がれていたけれど、今ので確実にファンは減ったはずだ。

 激減案件と言えるだろう……。


「さあ、邪魔者はいなくなった。セドリック、やろうか」


 そう言われてセドリック卿の肩に緊張で力が入るのが分かる。身分差があるし、皇子を相手に本気で攻撃できるのかしら?


 心配しているとセドリック卿が拳を地面に振り下ろしながら重々しく詠唱し、重力魔術を使う。


 皇子の身体に重量の負荷がかかったようで、彼は腰を屈めて膝を着いた。


「僕に膝をつかせるとは……、やるね」


 動きを止めた皇子に向かって、セドリック卿が間髪入れずに雷撃魔術を発動したけれど、皇子はいち早く反射魔術を展開していて、弾かれた雷撃は眩い閃光となってセドリック卿の方へ逆流する。


 眼前に氷壁を現出させて、自分が放った閃光から身を守ったセドリック卿は、続けざまに魔術を発動したせいで魔力の消耗が大きいのか、荒い息を吐いていて、顔には疲労の色が滲んでいる。


 一方膝をついていた皇子は無効化の魔術を発動させて、立ち上がった。


 疲れた様子は微塵もない。これが魔力量の差なのね……。


 セドリック卿もかなりの魔力を持っているけれど、皇子の比ではないようだわ。


 皇子は手のひらに火球を作り出し、それをゆっくりと、しかし止まらぬ勢いで膨張させていく。


 空気が焦げ、こちらにまで熱が押し寄せ、誰もが息を呑んだ。


 揺らぎのない焔。まるで小さな太陽。

 ロイの火球に、勝るとも劣らない——。


「危ないっ……」

 膨れ上がった火球がセドリック卿に襲いかかっていくのを見て、思わず口走る。


 セドリック卿はまた氷壁を作り出して身を守るけど、火球は容赦なくそれを溶かし、じりじりと迫り来る。


 真っ赤に燃え上がる火球が完全に氷を貫通した。

 直撃は避けられない。そう誰もが悟った瞬間、セドリック卿は手を高く掲げ、降参を示した。


 セドリック卿の眼前まで迫っていた巨大な火球が一瞬で消失する。


 大きなどよめきが観覧席を揺らす。しかし皇子の顔には、勝利の誇らしさも安堵すらも、浮かんでいなかった。


 この試合、皇子の完全勝利と言えるだろう。

 わたしは予選で敗退予定だから、彼と当たることはないはずだけれど、あんな相手と対戦するのはごめんだと強く思った。


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