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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード22 魔術競技祭③【初めての友達】

 魔術競技祭の予選は参加経験年数に応じて一括りとされるそうだ。


 早々に敗退するつもりでいたけれど、アリアナと出会って、心強くなったし、もう少しこの場に留まって、皆の魔術を見てみたいと思い始めた。


 ロイが出場するなら応援してあげたいし……。


 それで、さっきからずっとロイの姿を探しているけど、一向に見つけられない。

 どこに行ったんだろう?


 参加年数は知らないけれど、出場しているなら、きっと本戦まで勝ち上がるはずだ。


 いよいよ、開幕の時間になり、皇帝陛下が挨拶を述べた。


 威厳を感じさせる重く低い声で、聞き取りやすいようセンテンスを区切りつつ、この競技祭の趣旨や歴史を簡潔にまとめ、場慣れした様子で話す。


 語り手の有能さが伝わり、このかたの在位中は安心して日々を暮らせるだろうと思わせてくれる、そんな演説だった。


 こうして人の心を掴むのが為政者というものなのだろう。


 そして、年配の大学長の挨拶も終わり、いよいよ予選が始まった。


 まず、一次予選は二人一組になり、二人ともが手を上げて降参の意思を示すか、明らかに戦闘不能になるかで勝敗を判定され、制限時間を超えたら引き分けとのことだった。


 二人一組の予選は、運や相性に左右されやすい。

 これで本当の実力を測れるのだろうか——それが正直な感想だった。


 ちなみに、予選二次は一対一の勝負だそうだ。


 わたしの目の前で、火魔術の使い手と風魔術の使い手、対、雷魔術、氷魔術の使い手と音魔術の使い手……の彼ら二組の予選試合が始まった。


 音魔術って初めて聞くけど、どんな魔術を使うんだろう?


 そう考えて呑気に見守っていたら、まず火風チームが火球を風で大きく膨らませ、竜巻のように渦状にして、相手チームの二人に襲い掛かる。


 応戦した側は火傷を負いながらも渦を巻く火の竜巻の上から大きな氷塊を作り出して、落として鎮火させた。


 続いて雷魔術の使い手が発動した雷撃で、風魔術の使い手を感電させた。


 蹲った風の使い手の令息は、なんとか立ち上がったようだけれど、わたしは天地がひっくり返されるような驚きで、あんぐりと口を開けてしまった。


 これは……考えていたのと全然違う——。


 所詮は貴族の若者達のお遊び程度と言ったら申し訳ないけれど、ここまで本気で攻撃魔術をぶつけ合うとは思っていなかったのだ。


 こんなの……過激で本格的な闘いに圧倒される。


 これって……下手したら大怪我させたり、殺してしまったり——しないのだろうか?


 いくら聖女も控えているとはいえ、殺人は禁じられていたはずだし、皆、手加減はしていると思うけれど……。


 慄くわたしの前で、今度は火の使い手が音の使い手を火炎で攻撃した。


 火はまた氷塊で消し止められたものの、髪をチリチリに燃やされた音の令息は憤怒の表情を浮かべていたと思ったら、大口を開けた。


 次の瞬間、観覧席全体が悲鳴に包まれた。

耳を裂くような音が響き、視界が揺れる。


 ——なに、これ……音、魔術?


 火と風が混ざり合うより先に、

“音”がすべてを制圧していた。


「ピィイイイイイ————」

 耳をつんざくような物凄い不快音が響き渡り、観覧している全員が耳を手で塞ぐ。


 あ、……頭が割れる——!

 

 頭がくらくらして目が回りそうだし、膝もガクガクする。吐き気もするし、これは辛い……。


 耐えられず、防御結界を展開する。

 物理結界魔術(音特化型)———! 

 時短したいから無詠唱で。バレたら不味い気がするので、とりあえず自分だけに限定で発動する。

 

 空気の層がわたしの周りを水の膜のように覆い、音を跳ね返しているのか、軽く振動している。


 隣のアリアナが耳を押さえて青い顔をしていたので、結界の庇護の下に加えてあげるべく、手を掴み引き寄せた。


 アリアナがわたしを見て驚いた顔をする。


「…………、……!!」


 結界が不快音だけでなく、全ての音を攻撃として認識してしまっているのか、普通の声も聴き取れなくなってるみたいで、アリアナが何を言っているのかさっぱり聞こえない。


 とりあえず痛みと気持ち悪さがなくなって、試合の様子を見ると、火・風魔術チームも引っくり返っているけど、なんと音の術者自身とそのペアも耳を塞いだ状態でうつ伏せに倒れている。


 術者本人までやられてるなんて——、これってどうなるの?


 周りの様子や結界の膜の振動から、音がやんでないのが分かるんだけど、音の術者の意識はないの?


 気絶するなら黙ってからにしてほしい。

 いや、意識が残っているから音が止まないんだよね? たぶんだけど……。


 なんとかしたいけれど、部外者が試合に横やりを入れることは固く禁じられている。


 火や氷、雷、風などの攻撃は、外に被害を及ぼさないように、柵が結界の役目を果たすよう、魔法陣が施されていると聞いた。


 音による攻撃は想定されていなかったということだろう。


 いっそ、音の令息が意識を失ってくれたら……、あれ? 火と風は戦闘不能になってるんだから試合終了では? と思って審判を見れば……気を失っていた。


「え、審判まで!? じゃあ誰が試合を終わらせるのよ……?」


 周りを見れば、他にも気絶している人が数人。意識がある人も苦しそうだ。

 ……どうしよう?


 ふと近くにいるイリーナを見ると、いつもの澄ました顔が、滑稽な苦悶の表情を浮かべている。


 そんな場合じゃないのに、笑っちゃいけないのに……。

「ぷっ……」と吹き出してしまった。


 仕方ない、皆を守るため、横やりになってしまうかもしれないけど……バレなければいい——よね?


 密かに睡眠魔術を発動する。

 対象は音の術者限定だ。


 片手の平を彼に向け、マナを放出させる。


 夕闇、宵闇、夜闇――幾重にも時を重ねて濃く色を変える闇を思い描く。


 安眠へと誘う夜の色。柔らかに肌を撫で、優しく包み込む闇の帳を、彼の頭上からゆっくりと下ろしていく——。


 闇が形をとり、対象を覆っていく。

 観覧席の騒ぎや不快音と切り離された無音の空間がそこだけに存在していた。


 突っ張るように俯せていた彼の身体から、ゆっくりと緊張が抜けていく……。


 ……成功したようだわ。

 マナが放出した後の微かな虚脱感と震えが手の平に残っている。


 結界の振動も収まり、皆の顔から苦悶の表情が消え、安堵の色が広がっていた。


 結界解除——。


「す、……凄いですね! ジュディリス嬢。

私、あんな魔術を見たのは初めてですわ」


 アリアナは興奮で上擦った声で話すので、皆に聞かれないかと焦った。


 多分それどころじゃない人達ばかりだったとは思うけれど……。


「そうかしら? はは……でも、このことは黙っておいて貰えませんか?」


 困った顔でそう言うと、アリアナはきょとんとした顔になった。


「まあ、どうしてですの? 防御結界に、睡眠魔術……ですよね? あんなに素晴らしい魔術をお使いになれるのに、どうして隠されるんですか?」


「それは、その……。事情がありまして……」


「残念ですわ、きっとこのことを知れば皆さんが賞賛なさることでしょうに」


 アリアナは心底残念そうな顔をしている。


「はあ……。なんというか、父にばれると政略結婚だとか色々意に添わないことになりそうで……」


 真実の一部を伝えた。憎まれているだとか、そこまでの情報を伝える必要はないはず。


「ああ、そういうことでしたのね! 分かりました、私こう見えて口は堅いんですのよ」


「ありがとうございます、アリアナ様」

 感謝の笑みを向けると、手を握られた。


「私達、秘密を共有する仲にまでなったんですもの。呼び捨てで名前を呼んで下さい」


「えっ、いいんですか? ではわたしのことも呼び捨てにして下さい」


「ジュディリス……、ジュディーでいいかしら?」

「もちろん。私はアリーと呼んでもいいですか?」


 夢にまで見た、友達ができたみたい。

 ロイとは違う。同性の、初めての友達だ。


 胸の奥がじんわり熱くなり、涙が盛り上がる。

 嬉しい……。


 盛り上がるわたし達は全く気付かなかった。

 木立の陰からじっとこちらを見守る人影があったことを。


「へえー、面白いのがいるな……」


 口角を上げて笑みらしきものを浮かべ、日の光が当たって輝く金の髪を掻き上げ、踵を返して立ち去る。


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