エピソード21 魔術競技祭②【白鳥の群れへ】
演武場に入るまでの間に出会った友人や知人達へ、祖父母はわたしを「亡き娘が残した大切な孫娘」だと紹介してくれた。
ロイはそういう時、背後に隠れるように下がっていた。
威光を放つ祖父母は人々の関心や尊敬を得ていて、その二人の、わたしに対する愛情を感じ取った人達はわたしに対しても、友好的に接してくれた。
彼らは、派手なドレスのこともさほど気に留めていない様子だったので、ほっとした。
そんなわけで心強い気持ちになれたけれど、祖父母と共に演武場に姿を見せたものだから、一緒に大音量の拍手喝采を浴びることになってしまった。
予定ではこっそり来てこっそり去る筈だったんだけど……。
ちなみに、直前にどこに行ってしまったのか、ロイの姿が見えない。
隠れるなら誘ってくれたら良かったのに、と恨めしく思った。
広大な演武場には中心部に大人の背丈ほどの高さの石造りで円形状の大舞台があり、周囲から観覧し易くなっていた。
その周りにも地面に等間隔で小さめの円を囲むように柵が配置されている。
おそらく中心部が本戦の舞台、周りの柵に囲まれた場所が予選の舞台だろう。
そして、演武場の周りをぐるりと囲むように、観覧席があり、数多くの家紋入りの天幕が張られている。
天幕の中には一際目立つ、ロイヤルレッドの絨毯に皇室の紋章が金糸で縫い付けられた天幕があった。
輝くようなランズベリーエ帝国の国旗がはためく貴賓席に、あんぐり口を開けてしまう。
あれって、あれって……皇帝陛下やその一族が参席されている、ということ?
あそこに、いらっしゃるということ? その事実に腰が抜けそうになる。
聞いてない、聞いてないよ……ここまで大きな舞台だなんて。
いやでも……考えてみたら、皇族はデビュタント・ボールにも参席するわけだし、可能性は十分あったのよね。
などと考えていたら、ぽんぽんと肩を叩かれ、集まった人達から紹介を頼まれたらしい祖父母が順番に彼らを紹介してくれる。
そして、わたしは矢継ぎ早に質問や、賛辞を受け始めた。
「ローレン聖女様のご令嬢でしたか、お美しいですな」
「まあ、なんて麗しい! 大聖女様のお若い頃にそっくりでいらっしゃいますのね」
「きっと求婚を願い出る令息達が列をなしますね。勿論、私も最前列に並びますよ」
「いえいえ……」
「そんな、ありがとうございます」
「えっ、あ、ありがとう……ございます?」
最前列って……そんな列ができるもの?
大袈裟な賛辞に、こそばゆいやら、居心地が悪いやら……。
なにせ育った環境が環境だけに、人様に褒められることにも慣れてない。
なんて答えるのが正解なの?
助けを求める視線を向けたのに、お祖母様はにっこり微笑んでのたまう。
「そうでしょう、そうでしょう。私も若い頃はこの子のようにお肌もピチピチでしたの! えっ、負けてませんか? ありがとうございます」
やめて……! 誰か助けて!
結局わたしを救ってくれたのは、お祖父様だった。
「ジュディー、うちの伯爵家の観覧席に一緒に来るかい? ラヴォイエール侯爵が迎えに来たらそうもいかないだろうが……」
「そうしたいけど、とりあえず、予選には出ないといけないの。デビュタントの令嬢達が集まっているところに行ってくるわ」
とりあえず、イリーナがいる所を探そう。白や淡色系の色合いのドレスの一団を探して歩いていると、こちらをちらちら見てくる令息達がいる。
紹介者を介さず見知らぬ令嬢に話しかけるのは礼儀作法に反するからか、彼らは視線だけを向けてくる。それがまた、なんとも居心地が悪い。
さっきまでのように話しかけられるのも疲れるけど……。
あ、いたいた。イリーナのいる白っぽい一団が……。
「すみません、遅くなりました」
競技祭の受付や準備を受け持っている大学職員は紺やグレーなどの地味な色合いの服装に、大学のエンブレムが刺繍された腕章を身に着けていたので、それを目印に職員に声をかけた。
声をかけるまで、がやがやしていた数十人の集団が、わたしのほうを見て黙り込む。
な、何……? やっぱり品がない恰好だと思われているのかしら?
白鳥の群れの中に、場違いな真紅の水鳥が紛れ込むみたいだ。違和感しかない。
どうか、お願い……一旦は受け入れてくれないかしら? なるべく早くお暇する予定だから。
そんなわたしの心中を知ってか知らないでか、職員さんは名簿に印をつけると、列の最後尾に並ぶように、と冷静に指示してくれた。
並びに行く途中、イリーナに睨まれた。
「遅かったわね。最後に登場するなんて、余程目立ちたかったのかしら?」
「このドレスのせいで目立って困るわ」
嫌味を言われることくらい予想してたし、今さら驚きませんよ。
それよりも周りの令嬢達の突き刺さるような視線や、値踏みするような視線が怖い。
そんな中、列に並ぶと前に並んでいた令嬢が振り返って微笑んだので、吃驚する。もしかして、友好的に接してくれたりする?
「はじめまして。こんな場所ですもの、紹介不要でよろしいですよね? 私、アリアナ・フォン・オーギュソンと申します。聖女マリアンヌの娘なんです」
この人……聖女候補だ。名前を聞いたことがある。
笑顔が眩しい。物怖じせずわたしみたいなのに話しかけてくれるなんて、奇特で優しそうな人。
光沢のある赤毛に茶色の目をしていて、鼻の周りに薄くそばかすが散っている。
「は、はじめまして。私はジュディリス・フォン・ラヴォイエールと申します」
「あなたがあの……。存じてますわ。もしかしたら聖女仲間になれるかも、と期待していましたの」
一瞬嫌味を言われるかと、長年の習性で警戒してしまったけれど、彼女は屈託のなさそうな微笑みを浮かべている。
「あ、わたし……、聖力は……」
もちろん聖力は抑えて隠しているのだ。
「ごめんなさい、そうなんですってね、噂で聞いてはいたけれど、なんだか勝手に親近感を感じていたものだから、それを伝えたくて。なれなれしかったかしら?」
ちょっと困ったような表情も邪気がなくて、羨ましいくらい影の無い人だな、と思った。
「そんなことないです。わたし、こんな恰好だし、皆に遠巻きにされるとばかり思ってたから、話しかけてくれて嬉しいです」
「それならよかった。こんな恰好って? そのドレス、私は反骨精神を表現していて格好良いって思いましたわ」
は、反骨精神!? 思いもかけなかったワードが出てきて呆気にとられる。
「その色、白い肌に映えてとっても似合っているし」
「……ありがとう、ございます」
だから、わたし、褒められ慣れてないんだってば。
なんだか頬が熱くなって居心地が悪い……。
このドレス姿がこんなに褒められるなんて。
……でも悪い気分じゃないわ。
ロイ、あなたより数段褒め上手な聖女候補がいたわよ。
仲良くなれるといいな……、アリアナと。




