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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード11 寄り添いあえる人

 表情の翳りに気づいたらしいお祖母様が「どうしたの?」と優しく訊ねる。


「あ、その……イリーナが着ていたナイトガウンと色や刺繍が似ていて、とても素敵だなと思ったんです」


 慌てて笑みを取り繕って答えた。

 ただの偶然……かもしれない。


 けれどお祖母様は、少し不審そうな顔をした。


「そのナイトガウン、どんな刺繍だったの?」


 問いかけられて、わたしは一瞬言葉に詰まったけれど、これと同じでユニコーンと鳥の模様だったと説明すると、お祖母様ははっと息を呑んだ。


「それは、私が前に……あなたに贈ったものだわ。これと同じで私が刺繍したのよ。毎年、誕生日には必ずラヴォイエール邸に贈り物を送って、ちゃんと受け取ってもらったとメイドからは報告を受けていたのだけれど……」


 肩を落とし、唇を震わせたお祖母様を見て、胸の奥が熱くなるのを感じながら、小さく首を振った。


「ごめんなさい、知らなかった……。お礼も言えていなかったのね。でも、今こうして知れて、本当に嬉しい。毎年わたしの誕生日を覚えていて、刺繍まで刺してくださってたなんて。ありがとう!」


 お祖母様の目に涙が溢れた。わたしがどれほどの孤独と理不尽を耐え忍んできたのか、察したのかもしれない。


 お祖母様の気持ちの籠った贈り物を巡って、イリーナに罪を擦り付けられたことなんて——

 お祖母様には、絶対に話せない。話したくなかった。


 せっかくのこのピクニックを悲しいものにしたくない。


 けれど、隠しきれなかった気持ちを読んだかのようなタイミングで、ロイがすっと立ち上がり、声をかけてきた。


「少し歩こう。湖まで行かない?」


 導かれるままに森を抜けると、木々の間から湖面がきらめいて見えた。


 二人きりになったところで、ロイは足を止め、小さな革袋を取り出した。そこから現れたのは、十二芒星を象った銀のペンダントだった。


「……誕生日、おめでとう。これを、渡したかったんだ」


 十二芒星はエリタス教の象徴であり、信徒であれば色んな形で装飾品として身につけるものだ。


 庶民は単に二角形を六本組み合わせた、簡易的な形の物を持つことが多いけど、これは完璧な星型を模った緻密な造りをしている。


 手に取ると、指先を伝って、ペンダントからロイの魔力の残り香のようなものが流れ込んでくる気がした。

 

「とても素敵……ありがとう、ロイ。本当に嬉しい」

 顔を上げて微笑むと、彼は少し照れたように視線を逸らした。


「御守りになればと思って。本当はさっき渡すつもりだったんだけど……カーディガンの話が出て、それどころじゃなくなっただろう?」


 ジュディリスの表情が再び曇ったのを見て、ロイは真剣な顔で問いかけた。


「本当は、さっき話せなかったことが、まだ何か他にもあるんじゃないか? 僕になら、話せない?」


 その眼差しに胸を突かれ、わたしは堰を切ったように語り出した。


 イリーナに罪を擦り付けられたこと。大切にしていたものを全て奪われてきたこと。ずっと孤独と理不尽に耐えてきたこと。


 言葉にする中で、嗚咽が溢れ、胸は痛んだ。


 けれど、ロイはただ黙って眼差しに思いやりを込めて聞いてくれていた。


 話終わると、ロイは拳を握りしめ、声を震わせた。


「……ラヴォイエール家の連中——なんてやつらだ! 許せないよ。実の祖父母にも会わせず、君をそんな目に遭わせてきたなんて……」


 まるでわたしの代わりのように、怒ってくれるロイの姿を見て慰められる気がした。


 それに胸の奥につかえた言葉を吐き出して、少し楽になれた気がする。


 ロイは憤りを堪えるのに苦労したようだったけれど、しばらくして優しい声で言った。


「でもさ——、そんな辛い境遇のなかで、君はこんなに明るく強い人になったんだね。それに、さっきは大聖女様を悲しませたくないからって、全部自分で抱え込んでいただろう? そんな気遣いができること、僕は人としてすごく尊敬する」


 その言葉で、今までの頑張りすべてが認められたような心地がする。


 胸の奥に温かいものが灯り、広がっていくよう。わたしは小さく首を振った。


「……ロイみたいな人がそばにいてくれたらよかったのに。そしたらもっと心強かったし、弱音を吐かずに耐えられたはず」


 ロイは少し遠くを見つめてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「そばにいられなかった過去は変えられないけど、これからはずっと一緒にいればいい。そうすれば弱音を吐きたくなってもお互いに励まし合える」


「そうね、あなたが辛い時にも慰めて、寄り添ってあげるわ」


 わたしは誠意をこめてロイの目を見つめてそう誓い、彼の手を包み込む。


「僕には……君にまだ話せていない事情がある。家名すら名乗れない。だけど嘘でごまかしたくもない。だからただの“ロイ”で通してるんだ」


 ロイは少し翳りを感じさせる、けどしっかりした口調でそう言った。


「事情があるなら……仕方ないわね、でもできる限り、誠実でいてくれようとしているのは伝わるわ。それだけでも嬉しい」


 わたしが理解を示すようにそう言うと、ロイは肩の力が抜けたようで、感謝の籠った笑みを浮かべた。


「……でも、君の境遇は僕の境遇に似てる。自分の価値を証明したくて必死に頑張ってる。その姿が、僕の励みになってる」


 そう言うと、真っ直ぐにわたしを見つめる。


「だからさ、これからもずっと支え合っていけたらいいなって思うんだ」


 わたしが包み込んだと思ったロイの手が、いつの間にかわたしの手を温かく包み込んでいた。


 胸がいっぱいになり、こくりと頷いた。


「わたしも……ロイとずっと一緒にいたい。それで、できなかったことをできるように、なりたい。やりたいことを自分で決めて、やれるようになる」


 湖面に映る二人の影は、寄り添うように重なり合っていた。


 暗く孤独な屋敷に帰らなければならないことが、心の底から厭わしい。


 ——それでも、今は。

 いつまでもこうしていられたらいいのに……。

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