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背徳と呼ばれた令嬢ジュディリスは、聖力と魔力を併せ持つ大聖女の器でした  作者: 麦色 ろっこ


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エピソード9 学びと代償

 ラヴォイエール邸では冷遇されていたけれど、貴族令嬢としての教養だけは、女性の家庭教師ガヴァネスの指導で叩き込まれた。


 計算高い父は、礼法や語学、歴史、ダンスなど、一通り習得していない娘は、政略結婚の道具として使うには支障があると考えたのだろう。


 けれど、リンデハイムでの学びの時間は、そういった学びとは違っていた。


 心の交流を伴い、今までの空虚な日々を塗り変えてくれる時間だったのだ。


 聖力はお祖母様に、魔術はお祖父様に学べる環境は、本当に恵まれていると思う。


 感謝の気持ちは、お祖母様やお祖父様の期待に応えたいというわたしの意欲を高めた。


 今まで実践魔術については、学んでこなかったので、遅れを取り戻すために、ラヴォイエール邸に帰ってからも、隠れてずっと練習している。


 特に最近は無詠唱魔術の訓練に励んでいた。


 普通、魔術騎士が攻撃魔術などを発動する時は、詠唱することで精神を集中させ、呪文が持つイメージにマナを映し取るため、時間を要する。


 お祖父様やロイのように、無詠唱で即座に魔術を使うには、魔力量だけではなく、精神力や想像力も必要だとお祖父様に聞いたけれど、想像力には自信があった。


 そうして、ついには無詠唱魔術を習得できてしまった。


「つくづくお前は規格外だな、ジュディー」


 喜んでくれていいところなのに、「戦場についてくる気が満々じゃないか?」とお祖父様に溜め息を吐かれた。


 今日はロイとともに攻撃魔術の応用を学んだ。

 

 教会の厨房でキノコと鶏肉のシチューを準備してくれていたので、差し入れの林檎のパイとともに午餐に頂いた。


 お皿を片づけて腰を下ろしたとき、お祖母様がこめかみを揉んでいるのに気が付いた。


 頭痛がするのだろう。食欲もないようだったし、たくさんの患者を癒した反動が心配だ。


「……大丈夫?」


 声をかけると、お祖母様は眉尻を下げてやわらかく微笑む。


「大したことないから気にしないで。そんなに多くの聖力を使ったわけでもないのに、いやねぇ……、歳かしら?」


 お祖母様が冗談めかして言うと、お祖父様が曇らせた表情を隠すように、笑いを浮かべた。


「いいや、まだまだ君は若いよ! こんなに若くて美しい人には会ったことがないよ」

「うふふ……、そうかしら?」


 お祖母様は屈託ない様子で笑い声をあげるけれど、大きな聖力を使うと体力も消耗するし、反動で身体に不調を感じたりもする。


 優しいお祖母様は、いつも無理をしてなるべく多くの患者を癒しているから……。


 万能に見える聖力も、聖力を消耗することで生じる疲労や痛みなどを癒したり緩和したりすることはできないそうだ。


 だから無理をしないでほしい。

 大好きなお祖母様には、まず自分を大事にしてもらいたい。

 いつも元気でいてほしい。


 そう考えていたら、胸の奥から熱波のような熱い感情がマナを伴って込み上げてきて、喉元から今にも溢れそうだ。


 手や足先からも行き場を失った熱いものがなにかを求めて疼くようだ。


 これは——なに?

 視界がぼやけ、目が焦点を失っていくのがわかる。

 ——を癒したい。わたしが、この力で——お祖母さまを癒して……あげたい。


 わたしは導かれるように、胸の前で手を組み合わせ、右手を額に押し当てたあと、思いの丈を届かせようとお祖母様のほうに両手を伸ばした。


 普通はできない……? 


 いいえ、この強い想いで、そこに——辿り着けさえすれば。


 ほら、すぐそこに——。

 ……見つけた!


 わたしの両手がお祖母様の手を包み込んだ時、手のひらから溢れた光は、ゆるやかにお祖母様の手のひらから染みこんでいく。


「えっ、……まあ、——これは、聖力が……、満ちていくわ……ジュディリス!」


 驚きとともに目を見開くお祖母さま。

 その顔に少しずつ血色が戻り、疲労の影が薄れていく。


「こんなことって……驚いたわ! 普通はありえないのに」


 目を見開いたまま、お祖母様は、わたしを抱きしめた。


 胸の奥が焼けつくように熱く、目の裏がじんわりと潤む。


「できた……! わたし……今、お祖母様を癒したのね……?」

 

「ええ、そう。はっきり感じたわ! 聖力が回復しているの」


 感動して二人で見つめ合っていたら、状況をわかっていないお祖父様とロイが不思議そうな顔をしている。


 間の抜けたような二人の顔が可笑しくて、お祖母様と笑みを交わし合う。


 そのあと、二人にもなにが起こったのかを説明した。


「えっ……、頭痛が治っただけじゃなく、聖力まで回復した?」


 お祖父様がぽかんと口を開く。


 冷静になったお祖母様が自分の考えを話す。


「ジュディリスの聖力が私に移されたんじゃないかしら? 聖力が潤沢だから、消耗の痕跡は見えないけど。やり過ぎは禁物だと思うわ」


「そうかもしれないけど、わたしはこんなことができるようになって嬉しいわ! これでいつだってお祖母様を助けてあげられる」


 そう言うと、お祖母様は心配そうな顔つきになった。


「ジュディリス、聖力は泉のようなものよ。あなたの中に絶えず満ちているけれど、無闇に汲み上げれば枯渇するし、使いかたを誤れば、濁ってしまう。清らかに保つためには、心と呼吸を整えることが大切なの」


 要は聖力は無尽蔵じゃないから大事に使わないといけない、そういうことだろう。


 そう考えてしっかり頷いたのに、お祖母様は強い力でわたしの手を取り握る。


「力には代償が伴う。人の世のことわりに生きる以上、これから先、不条理なことや大切な人との別れもあるでしょう。それらを受け入れなさい。あなたが命を代償に力を振るえば、この世で最も愛する人が命を落とすことでしょう。これは“誓約”」


 ……そ、そんな恐ろしい“誓約”ってある?


「まるで呪いね……」


「そうよ、呪いであり誓約なの。この世に生を受けた聖女である限り、エリタス神のもとに定められた誓約」


「——わかったわ。命は大事にします……」


 今度はより真剣さを込めた顔つきで誓う。

 誰かを助けるために、いちばん大切な人を失うなんて——絶対嫌だもの。


 お祖母様はほっとしたように肩の力を抜いた。


「そうね、約束よ。あなたは豊かな聖力を持っているけど、それを過信してはだめよ。制御をきちんと学ばなければ、いずれは自分を傷つけることになる」


 わたしは真剣な面持ちで頷いた。

 

 これからもお祖母様の導きのもとで、癒しの力をどう扱うべきかを学んでいこう。


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