最終話
もはやスターリングラードには人間が居なかった。
空を舞う無数のサメ、地上には大便や突進によって徹底的に破壊された建物の残骸が残る。
破壊されていない戦車も航空機も存在せず、死んでいない人間もいない。ただただ、破壊の痕跡とサメだけがそこにはあった。
「私に続け! ゲルマン民族達よ!!」
「団結せよ!」
ヒトラーシャークもアカシャークも味方の兵士を鼓舞するために決まった言葉を吐いたが、その言葉が人間に届くことはない。何しろ人など居ないのだから。
ヒトラーシャークは超高速でアカシャークの後ろを追いかけ回し、1体1体丁寧に、執拗に、苛烈に狩り続ける。
狩り続けていて気がついたがアカシャークは左にしか進まない、回避しないのだ。
「日本では貴様等のような者達を『馬鹿の一つ覚え』と言うそうだ。ふん、劣等人種にしては上手い例えだ」
口から大便を吐きながら、ヒトラーシャークはほくそ笑んだ。
もはやヒトラーシャークを脅かす存在はこのアカシャークの群れのみである。それも性能では圧倒的にヒトラーシャークが上回る。突進か回避しか出来ないアカシャークに勝ち目はない。
「ソビエトが何するものぞ! やはり我々ゲルマン民族こそがこの世で最も優れた人種なのだ! ふはははははは!!」
ヒトラーシャークは声高らかに笑った。もはやゲルマン民族を脅かすものは存在しない。
T-34も、シャーマンも、KVも、P-40も、ネルソンもエリザベスもなにもかも全て一切合切ヒトラーシャークの身を脅かすものはない。
「我が帝国は永遠の輝きを手にするのだ! ゲルマン民族こそが世界を統べる、世界を導く! これこそが人類の夢、可能性の発露だ!!」
栄光をこの手に掴んだ。そうヒトラーシャークは確信していた。
だがヒトラーシャークは知らなかったのだ。それは夢であったと。
「ハッハッハッハ! ハ?」
ヒトラーシャークは上に視線を向けた、するとそこにはいつの間にか無数の爆撃機が遥か高空を飛んでいる。
「今さら爆撃など、全くの無意味だ。血迷ったか連合めが」
爆撃機の腹から、無数の爆弾が投下される、通常の爆弾であったならば、こんなものどうということはなかっただろう。
通常の爆弾であったならば。
「なんだ?」
爆弾はまばゆい光と共に一斉に起爆。まるで太陽が目の前に現出したかのような凄まじい光と嵐を数千倍にしたかのような爆風がヒトラーシャークを飲み込んでいく。
「バ……カ……な……」
ヒトラーシャークはもちろん、アカシャークの生き残りも、そしてスターリングラードという土地そのものも凄まじい轟音を響かせながら炸裂するそれに飲み込まれ消えていく。これは人類が手にした禁忌の力。『核』によるものであった。
連合国軍によって行われた64発の核による絨毯爆撃だった。
『核』は世界中で使われた。第二次大戦は核を製作した科学者の目論見通り早期に終結した。
しかしこの戦いに勝者はなく、地球は核によって死の惑星へと姿を変えた。
今は地表に残された僅かな人類の痕跡だけが、そこに人間の居た証明だった。




