第三話 再起動
アカシャークが落ちたことで、ソ連兵は総崩れとなった。
戦車はヒトラーシャークによって次々と撃破され、勢いづいたドイツ軍を阻むことはもはや不可能だった。
「き、貴様等! 一歩も退くなと言った──」
逃げようとする兵士に銃を向けようとした督戦隊の兵士が強制的に黙らされた。味方の拳銃で頭を撃ち抜かれて。
「うるせぇよこのクソボケが!! 散々俺達を前に突き出してテメェ等は後ろでふんぞり返りやがって!!」
「見ろ連中逃げてるぞ!」
「よし立場逆転だ。督戦隊の連中に逃げるなと伝えてやろうや」
督戦隊が逃げ出したのを見たソ連兵はその背中を射撃し始めた。戦闘中であるが、もはやソ連兵に秩序はなかった。
ソ連兵の醜態を、空から見たヒトラーシャークは溜息をついていた。
──我々が最大の敵と思っていた相手が、この程度だったとは……
悲嘆にくれるヒトラーシャーク。かつてヒトラーはソ連兵のことを死をもいとわず突撃してくる勇猛果敢な兵士と評していた。
だが現実のこの様はなんだ?
味方を撃ち、泣きわめきながらその場を捨てて逃げまどう兵士達の姿はもはや見るにたえない。
「茶番は終わりだ。勇敢なるゲルマン人たちよ! 私の後に続け! 我等こそ神に選ばれし民族なのだ!」
ヒトラーシャークは地上の仲間を援護しながらひたすら前に前に前進していく。歩兵が、戦車が、戦闘機が、すべてが勢いづいてソ連兵を蹂躙していく。もはやこの地の掌握は時間の問題だった。
「助けてくれ同志スターリン! 起きやがれクソッたれ! 何が共産主義だ平等だ! んなもん存在しねぇよこのボケジジイ!!」
「くたばるんなら俺達庇ってから死にやがれ! クソの役にもたたねぇ思想で人間様動かしやがってこの化け物が!」
聞くに堪えない暴言が聞こえてきた。ヒトラーシャークがそこに視線を向けると、墜落したアカシャークを蹴り、撃ち、罵声と唾を飛ばすソ連兵達の姿があった。
──独裁者とはいえ元は支持していた人間だろうに。よくもまぁあそこまでの事が出来るものだ。
口から大便を吐きながらヒトラーシャークはそう思った。
「ん?」
いよいよ勝利は目前、障害も殆ど存在しない。
だがヒトラーシャークは何かを感じ取った。
「何かが、来る……」
目を細め、空の彼方へと目を向ける。
すると何か、小さな影がいくつも見えてきた。
「敵の戦闘機か、だが今更来たところで我々の勝利は揺るがん」
嘲りを含んだ笑みを浮かべるとヒトラーシャークはブースターを点火し影に向かって飛んでいく。距離が縮まるごとに影の正体が分かってきた。
「な、なんだと!?」
ヒトラーシャークの目が見開かれる。こちらに向かってきていたのは戦闘機などではなかった。
「「「デェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエンッ!!」」」
はっきりと相手の顔が見えるほどに近づくと、喧しい声が響き渡った。声の主は、ヒトラーシャークもが良く知る人間たちだった。
「生産手段の私有が存続する限り、独占資本主義的経済基盤に立ったまま帝国主義戦争を避けることは出来ぬのだ!!」
「レーニン!?」
「全ての私有財産を廃するのだ!」
「マルクス!?」
「万国の労働者よ! 団結せよ!」
「エンゲルス!?」
ヒトラーは自分の目を疑った。既に死んだはずの人間達が、いや共産主義者たちがサメに変化しアカいブースターを点火し飛んできているのである。
それも1人……いや1匹2匹ではなかった。
あらゆる国の共産主義者達がサメとなってここスターリングラードに集結してきているのだ。サメになって。
「「「「「「「「「「「行くぞヒトラー!! クソの貯蔵は十分か!?」」」」」」」」」」」」
「思いあがるなこの共産主義者共が!!」
かくして、レニングラード上空でヒトラーシャークと共産主義者の熾烈な戦いが始まったのである。




