第一話 一対のサメ
10時30分、スターリングラード市街地にて……
ドイツ軍の爆撃によって廃墟と化した建物の中に、ソ連兵は隠れドイツ軍を待ち伏せしていた。
「スターリンからの命令聞いたか?『一歩も退くな』だとさ。状況見てから言えってんだ。あいつの頭には脳みそが詰まってない」
「違いねぇ。あの髭は頭がイカれてる。コルホーズにでも行ってクソの役にもたたねぇ寝言ほざいてろと思うぜ」
2人組のソ連兵はスターリンの悪口で盛り上がっていた。
「さてそろそろやめとこうか。国の犬に見つかったら大変だ」
「ああ全くだ。粛清されちまう」
「安心しろ。ちゃんと粛清してやる」
その場に居なかった3人目の言葉の後、乾いた銃声が二発響き渡った。
「罪状は事実陳列罪だ。覚えておけ」
仲間の死体から煙草を取ると、その兵士は火を付けた。
「ふぅ……補給品の煙草が切れていたところだ。旨い」
建物から思想とは違って青い空に目を向けると、何やら音が聞こえてきた。戦闘機のプロペラ音よりも更にうるさく、聞きなれない音……
「なんだ? ドイツ軍の新型戦闘機か?」
恐る恐る顔を空に向けると見えてきたのは青空に浮かぶ1つの黒点。
ソ連兵が良く目を凝らすと、対象は凄まじい音と共に急降下してきた。
「なんだあれは!?」
ソ連兵の顔が驚愕の色に染まる。彼が目にしたのは青い炎を吐き出しながら空を飛ぶサメ……
ヒトラーの顔をしたサメ、ヒトラーシャークの姿だった。
「て、敵襲!」
向かいにある建物に向けソ連兵は叫ぶが、遅かった。茶色い物体が建物に着弾し仲間を建物もろとも破壊した。
「なんだこれはオエエッ!?」
茶色い物体から凄まじい悪臭が届く、これはまさしく大便の香りだった。
すっかり目視可能な場所まで来たヒトラーシャーク、見れば口から大量の大便を吐き出し続けていた。
一発一発が爆弾や戦車砲のような威力を誇る必殺の大便である。
「なんなんだあれは!? ヒトラーなのか!?」
「知るか! 撃て撃て! 撃ちまくれ!」
空に向かって高角砲、機関砲、対戦者ライフルPTRD1941、果てはモシンナガン小銃やKV1戦車まで使って空飛ぶヒトラーシャークを打ち落とそうとしていた。
しかし、この時ヒトラーシャークの速度はマッハ3に迫る速度、現行いかなるソ連製戦闘機では追いつくことは不可能であり、このような高速移動する物体に弾を当てられるわけがなかった。
「政治家は口からクソを垂れる奴等なんて聞いたが、本当にクソを吐く奴があるか!」
「ああ神様、どうかこの悪夢から解放して下さい」
「お前達一歩も後退するな! この機関銃は貴様等の支援をするものではない!」
スターリングラードにいた全てのソ連兵が、ヒトラーシャークに向けて攻撃を開始していた。だが攻撃を開始したのは何もソ連軍だけではなかった。
「総統閣下に続け!」
「スラブ人をぶち殺せ!」
「ジークハイル!!」
ドイツ軍もヒトラーシャークの攻撃に合わせソ連軍へと襲い掛かったのである。
空からの潤沢な支援を得られたドイツ軍はまさに破竹の勢い。スターリングラードの攻略も時間の問題であった。
だが、その道を阻むものが現れた。
「さあ私の後に続け! 誇りあるゲルマン民族の鉄血の意志を見せてやるのだ! ジーク・ハ──」
まるでスピーカーのような声量で喋るヒトラーシャークの顔面に、何処からか茶色い物体が着弾した。
見間違うことは無い、ヒトラーシャークに着弾したのは大便弾である。ヒトラーシャークの口腔から発射される砲弾である。
しかしこれはヒトラーシャーク以外に放てる者は居ないはずである。
「……なるほど、ゲルマン民族を統べる総統がこうなれたのなら、お前がそうなるのも必然だったかもしれんな」
ヒトラーシャークの視線の先には1匹のサメが空を舞っていた。
ヒトラーシャークのように頭が人、身体はサメの生命体。ダーウィンの進化論など何するものぞと言わんばかりの威容。
「よかろう、ゲルマン民族と共産主義、どちらが優れているか……決着を付けようではないか!! スターリン!!」
思想のようにアカい炎のブースターを点火し、ヒトラーシャークへと向かってくるサメ。
「デェエエエエエエエエエエエエエエエン!!」
アカシャークとの戦いが、今始まる。




