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独り立ち勇者

作者: くじらの民々

初めて短編小説を書きました。少し物足りないかもしれません。

 俺は氷室 蓮(ひむろれん)17歳、どうやら異世界に来てしまったようです。

幼なじみの陽翔はるとは活発な性格で、理論より感覚や勢いで魔法をぶっ放すタイプ

理系男子の一真かずまはいつも冷静沈着、天才肌で、どんなシステムもすぐに理解できる

剣道部エースのけいは今年で10年、黙々と鍛え続けた剣の達人で、見た目も中身もガチの騎士そのもの

陸上部のりんは足が速くて、山を走って登っても息一つ乱さない運動神経の化け物、もはやゴリラ

いつものメンバーで集まってゲームをしていたその時

「なんか……光ってない?」

突然、一真が部屋の中央を指差した。

その瞬間、突然まばゆい光に包まれて、異世界の城にいた。

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目を開けると、そこは広間だった。

真紅の絨毯、天井には豪奢なシャンデリア。

奥には金色の装飾をまとった老人が立っていた。


「ようこそ、異世界へ……選ばれし勇者様たち」

老人がそう言うと老人の左目が一瞬ピカッと金色に光った

「君が“勇者”か――」

そう言われて、王様が指さしたのは蓮だった。


元の世界に帰れるかも分からないことに巻き込んでしまったかもしれないことにひたすら謝ったが皆、口を揃えて「蓮のせいじゃないよ」と言って笑い飛ばした。

王様いわく、あと数年したら魔王の魔力が暴走し世界の各所で魔力だまりが発生して魔獣が凶暴化するから君たちの力で魔王を鎮めてきて欲しいとのこと

まったくそっちの勝手な事情をこっちに巻き込んでくるんじゃないよ

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召還されてはや一週間、蓮は気づいた。

自分以外、全員優秀すぎる


陽翔は魔法の才能が異常に高く、一週間で宮廷魔術師レベルに。

一真はこの世界の魔法理論を一晩で解析して、魔導具を発明。

慧は騎士団との特訓にて、最年少で副団長と互角に。

凛は森の獣人たちを束ね、軍を率いるカリスマ的存在に。


そして蓮は――まだスライムにすらギリ勝てる程度。

そのせいで王城の中でのあだ名は"姫"になってしまった

「……俺、いる意味あるのかな」


そんな気持ちが、心の奥に芽生え始めていた。


それでも四人は誰も蓮を馬鹿にはしなかった。

「蓮は蓮らしくやればいい」と笑いながら、誰も先を急かさなかった。

…それが逆に、痛かった。


「……俺、本当に勇者なんだろうか?」

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『みんなへ。』


『俺は、勇者って名ばかりの存在で、ずっとみんなの足を引っ張ってるって思ってた。でも、誰も責めなかった。それが、逆に苦しかった。』


『だから、ちょっと一人で旅に出ようと思う。強くなって、胸を張って“俺は勇者だ”って言えるようになるために。』


『心配しないで。必ず戻る。その時は、笑って迎えてくれたらうれしい』


『――蓮』


蓮はこっそり仲間たちに手紙を残して城を出た。

夜明け前、静まり返った城の裏門を、蓮は一人で抜け出した。

荷物は最低限。武器は訓練用の剣一本。

地図も未完成で、あてもない。


けれど――

心の中には、確かな炎が灯っていた。


「俺は……これでも勇者に選ばれてんだ。今は弱い。だけどそれを何も行動しない言い訳にはならない!みんなに守られるだけの存在じゃ終わらない、終われない、終わりたくない。

自分の力で、誰かを守れるようになるために……!」


空は、ほんの少しだけ明るくなっていた

その先に広がる冒険と成長の物語が、静かに幕を開ける

目指すは、辺境の小さな村

誰にも頼らず、自分の足で立ち、自分の力で何かを守るために

一歩、また一歩と蓮は歩みを踏み出し始めた

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山を越え、森を抜けて村を目指そう…としていたがスライムとのタイマンに負ける今のままで行けるわけがなかったので普通に王都から出ている商人の馬車に乗せて貰うことになった

「ふーん、勇者様も大変なんすね」

「その勇者様ってやつ止めてくれないか?まだ何も成し得て居ないのに…」

「勇者様は勇者様であることが大事なんすよ」

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「ここで降りよう。何て言う村だ?」

「ファロの村です。じゃあ勇者様、短い間でしたがありがとうございました。これから頑張ってくださいねー」

ダダダダダ…

そういい商人は直ぐに次の目的地へと行ってしまった


畑が広がり、家々は古びていたが、人々の目はあたたかかった。

「よう、兄ちゃん。あんた、本当に森の魔物からこの村を守るっていうのか? 一人で?」


村の傭兵…酒瓶片手の親父に鼻で笑われた

「悪いが、こっちは本気で困ってるんだ。観光気分の子どもに任せる余裕なんてない」

「まぁそこまでいうのだったら一試合見させて貰おうかな」

蓮は剣を握ったが最初の戦いは情けなかった。足はすくみ、魔物には逃げられ、村の人にもため息をつかれた。


「蓮くんだっけ?もうひとまず魔物の方は引き続き俺たちがやるから男なんだし畑仕事でも手伝っておいてくれ」

蓮はうなずいた。


「……わかりました。何でもやります」


でも蓮は逃げなかった。翌日から、蓮は村人たちと汗を流した。

鍬を握り、石を運び、川から水をくみ上げる。

スライム一匹に苦戦していた手で、鍬を握りしめる日々。

畑仕事を通して村の人々との交流を深め、体力をつけていった。

畑仕事にあぐらをかかず、蓮は毎日朝は村の人と畑作業を行い、昼になったら剣を振り、体を鍛え、失敗を繰り返した。夜になったら森に入り野生の魔物を観察、時には駆け回り戦闘をすることもあった。

蓮の日々の行動やその気持ちを、その姿は少しずつ英雄伝の本物の勇者のように村人は感じとり、少しずつ周囲からの信頼を勝ち取った。

________________________________________________

季節も少し移ろい、蓮の実力も目に見えて成長していた。

そんな時、運命が変わる日を迎える。

「西の森に魔力溜まりがあった…!」

村の自警団の一人が走って村に帰ってきた。

「もうそんな時期になってしもうたんか…この村もここまでじゃろうかね」

「魔力溜まりとは…?」

蓮は村長に聞いた。

「魔力溜まりに煽られた魔獣達は理性のトリガーが引かれて、とても凶暴化するのじゃ。」

「あれはもう、俺たちの手には負えない。……逃げるしかねえ」

村の自警団は皆同じようなことばかり並べる。

蓮は息を飲む…

「俺がその魔獣どもを倒します。」

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『お前一人であの量ははっきり言って無理だ。確かにお前は強くなった…だかそれも程度が知れている。』

『でもッ!』

『わかった…じゃあ魔獣達の中でも頭を抜けて強い魔石獣をやれ』

森は、不気味な静けさに包まれていた。

葉のこすれる音さえ、どこか湿っているように感じる。

空気は重く、吐く息がわずかに紫がかっていた。

「魔石獣…周囲から魔素を取り込み己の糧にする突然変異種。あれか!」

その姿は巨大なグレートウルフの額に禍々しく飛び出た巨大な魔石を携えていた。

本能が、逃げろと叫んでいた。

「俺がこの村を守る…!」

ダッ!

魔獣が突進してくる。

その速さは、今まで戦ってきたどんな敵よりも速かった。


蓮は避けた。ギリギリで。

足がもつれ、地面を転がる。視界がぐるぐると回る。


だが――剣は、離さなかった。


「まずは……足!」


魔獣の巨体がうねるように動き、空を切るような一撃が横殴りに迫る。風を裂く音――そのわずかな隙を狙い、蓮は木の葉のように滑り込む!

地を這うように駆け、狙いを定めて踏み込む。


「――今だ!」


勢いのまま振るった刃が、魔石獣の後ろ足の腱を断ち切った。

ザシュッ

鈍く湿った音が空気を裂く。

巨体がぐらりと揺れ、怒号が響いた。


咆哮の直後、魔石獣は前足を地面に叩きつける。

大地がうねるように盛り上がり、まるで槍のように尖ってゆく。

「ーーなんだ!?それッ!」

蓮はまたもや間一髪、避けきり木に一度隠れる。

「あいつ魔法も使えるのか…」

そこに目掛けて次弾が飛んでくる

瞬時に見極め、蓮は足場を蹴った。

一本の土柱。その角度、タイミング――すべてをその場で理解した。


「ありがとよ、その一撃!」


跳ね上がるように駆け上がり、次の瞬間、獣の視界へ飛び込む。

驚愕に瞳を見開いた魔獣の目、その中心へと――

「喰らえ!」

閃いた短剣が一直線に、獣の目へと吸い込まれた。

グシャッ――濁った音と共に、視界が赤に染まる。

魔獣が叫び、のけ反った。だが、もう遅い。


片眼を潰された魔石獣はその場でのたうち回り、先程まであった威圧感は消えてなくなった。だかそんな中でも魔石獣は必死に生きようと、殺そうと牙を向ける。

「ーまだ立つのか…」

蓮は息を整えながら、ゆっくりと歩を魔石獣に進めた。

足元の地面が揺れるたびに、警戒の目を向ける。それでも止まらなかった。魔獣と視線が交わる。

残った片目。そこにはまだ、燃えるような殺意が宿っていた。

「すまないな。村のため、そして俺のためだ。」

右手の刃は大きく振りかぶり魔石獣の喉元を切り裂いた。

魔石獣の咆哮は空気を震わせ――そして、止まった。

巨体が崩れ落ちる。地鳴りのような衝撃のあと、あたりは静寂に包まれた。

少年は黙って立ち尽くし、しばしその亡骸を見下ろしていた。

そこに村人が近寄ってくる。

「……たった一人で……あの魔石獣を……」

「本物だ……本物の勇者だ!!」

「まだだ。俺はこれから本当の勇者になる」

蓮は静かに立ち上がり、剣を鞘に納めた。


「お前……本当に、勇者なんだな」


誰かがつぶやいた言葉に、蓮は照れくさそうに笑った。

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魔石獣との戦いから数日、ファロの村は活気だっていた。

魔石獣の素材を解体し、売却するため近くの街に蓮は来ていた。

「魔石獣!!?あなた一人で!?」

「一様まぁそうだな。とりあえずその素材早く換金してくれ」

もちろんギルドは大騒ぎになり、蓮と魔石獣の話は飛ぶ鳥の如く素早く王都にまで伝わった。

________________________________________________

蓮は、まだ信じられない思いで、村の子どもたちに剣術を教えていた。

「ここをこう構えて……ほら、いい感じ!」

「すごいよ勇者さまー!」

「勇者さまって呼ぶなー!」と笑いながら頭をかき、蓮はふと空を見上げた。

その時だった。

「……見つけた」


村の入口に現れたのは――陽翔だった。

その後ろには、慧、一真、凛。

かつて共に異世界に召喚された、かけがえのない仲間たちだった。

「蓮、遅いよ。……何年ぶりだと思ってんの?」

「六ヶ月とちょっとってとこだろ」

「……つっこまないでよ、感動の再会なんだから」


凛が涙を拭いながら走り寄り、思い切り抱きついた。

その勢いで蓮は吹っ飛び、みんなが爆笑した。


「手紙、読んだよ」

慧がまっすぐに目を見た。

「……“胸を張って帰ってくる”って言ってたな。どうなんだよ、今の自分は」

蓮は、少し考えて――笑った。

「……あの頃よりは、ちょっとだけマシかな。

胸を張って“勇者だ”って言えるようになったよ」

「ははっ、そりゃあ、魔石獣を一人で倒す奴が“ちょっとだけマシ”って言ったら、世の中の腕鳴りたちが泣くわ」

陽翔が肩をすくめた。

一真が言った。

「王国が正式に、蓮を“真の勇者”として認定したらしい。もう、名前だけじゃない。本当の勇者として名が知られるんだ!」

「……」

蓮は複雑な感情になり黙ってしまった。

「村に残っててもいいんだよ?」

凛が口を尖らせて言う。

蓮は、小さく首を振った。

「ううん。やっぱり、俺は――みんなと一緒にいたい。

だって俺、勇者だけど、お前達がいなきゃ何にもできないんだから」

「そんなこと言んじゃないよ!」

「……じゃあ、行こうぜ。今度は“ちゃんと対等な仲間”としてな」


慧の差し出した手を、蓮は力強く握った。


空は青く澄み渡り、蝉の声がまた夏を告げていた。

勇者と、かけがえのない仲間たちの旅は、再び始まろうとしていた。


だが今度は――


胸を張って、前を向いて、対等な歩幅で。

蓮はこれから仲間達と共により成長していく。そんな明るい未来がきっと待っているはず

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