二十五話 交流会……?(前編)
大変長らくお待たせしました!
(結果はともかく)受験は終わりましたので、これから少しずつ更新していきたいと思います。
事によってはまた停滞するとは思いますが……
不定期更新、されど止まらず!を信条に頑張りますので、気長にお待ちいただけたら幸いです。
それでは、久しぶりなのでちょっと短いですが、二十五話です。
三メートル越えの生垣で形成された巨大迷路の中、その生徒はたった一人で駆けていた。
優に四、五人くらいなら余裕で並んで歩ける道には、時折吹く風の音と、葉が擦れる音と、生徒の荒い呼吸だけが聞こえてくる。
見上げれば雲一つ無い、嫌味なほどの青空が広がっている。
その生徒……今年入学したばかりの中立国出身の少年は、残念なことに空を見上げる余裕すらないが、空を見上げていればその抜ける青さに恨みを抱いただろう。
少年の髪色は朱色。炎属性。
対して敵対者、いや追跡者か……そいつは不運にも青の水属性だ。
相性悪すぎだろ……っ!
そろそろ安全地帯を確保しなければ、パートナーのようにヤツの餌食になる……それだけは御免だった。
畜生、畜生、畜生!!
胸中で繰り返される悪態は、激情のままに唇に乗り、新たな音として外に吐き出される。
少年にとってはただ呼吸を難しくさせるだけだったが……追跡者には、獲物を定める導となった。
うわ言の様に口を突いて出てくるその台詞は、追跡者を呼び寄せるものへと変化した事に、少年は気付かない。
追跡者が狙いを定めた瞬間、少年の未来は定まった。
がさがさと葉が避ける音。
芝生が高速で擦れる音。
少年以外の息遣いに、少年のものではない足音。
真後ろにまで近付いてきた巨躯が、少年に影を落とす事で存在を知らせる。
知ってしまえば、足を止めてしまえば、振り向いてしまえば。
諦めてしまえば。
「……っぁ…………ぁあ………………うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
少年の定まった未来は、速やかに迎えられるだけだ。
迷路に木霊した少年の絶叫が途切れ、辺り一帯が静まり返る。
暫く後に何かを引き擦る嫌な音がして、風に浚われ、消える。
後に残されたのは、少年の流した涙の跡だけだった。
『中央棟中庭・上級迷路にて二年生・ザムザ君に引き続きパートナーの一年生・グレゴール君が捕獲されました。捕獲者は水棲コックローチ。罠«トラップ»生物なので捕獲者側に得点は入りません』
恨まれそうな程に清々しい空の下、スピーカーを通したような学園長の声が校内に響く。
その声は露骨に楽しそうで、聞く者の脳裏に学園長の胡散臭い笑顔すら描かせるだろう、そんな声。
『現在の逃走者は13組中7組となりました。対して捕獲者は10組中8組、いずれも脱落者は罠«トラップ»に引っ掛かっての脱落です。開始早々になんともえげつ……いえ、楽しい引っ掛かり方でしたね』
それでは皆さん頑張って下さい、と実に、実に楽しそうな声に締めくくられ、皆が動き出す。
その中には澪歌とロゼリアの姿もあったが……浮かべている表情は対極といっても差し支えは無い。
ロゼリアは捕まった生徒の悲惨な末路に顔を蒼白にしていて、澪歌はといえばその笑みを極寒の域に凍らせ、こめかみに浮かんだ血管をひくつかせている。
午後一杯を使って行われる全校生徒・教師参加の交流会として催されたのは『ハンターごっこ』。
それが、後に生徒に『過去最悪の彼の世との交流』と呼ばれ、学園長に『過去最高の憂さ晴…交流会』と評される事になる、澪歌達が経験した学園生活最初の思い出だった。
さて、まずは情報を整理するために、開始前に意識を飛ばしてみよう。
昼食を食べた後、キリとアタッシェには軽く自己紹介をしてもらってから一息ついた。
混血だと聞いた時、どんな反応をするかと少し気構えてしまったけれど、キリはほんの少し驚いただけで、後は普通に話していた。
あまり身近に出来る存在じゃないから驚いただけで、キリはもう一人、混血を知っているらしい。
道理であまり驚かないわけだ、と納得した。
アタッシェはアタッシェでキリが魔王(の分身)だと知ると、目に見えてうろたえて面白かったのは内緒だ。
使い魔扱いされた事を不満気にしていたので聞いてみたところ、どうやら使い魔という名称が気に食わない……要するに、格好良くないということらしい。
「どうせならもっと格好いい名称とかないの?使い魔ってなんか使いっぱしりっぽいじゃんか」
そうごねて文句を言うキリには、欠片も魔王の威厳とかそういったものは見られない。
まぁ城でもこんな感じだったのだけれど、身体が小さくなった分余計に子供っぽく見える。
キリ……貴方曲がりなりにも魔王(の分身)でしょうに…………
これでいいのか?魔王議会、と思った所で、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。
コーン、コーンと高くも低くもない音が学園都市に響き渡る。
そろそろ教室に戻らないと、あの教師のことだから置いていくに決まってる!
アタッシェもそう思ったのか、気だるげに腰を上げると、この短時間で随分仲良くなったらしいキリを肩に乗せて私を見下ろした。
……うん、もう身長差は気にしないでくれるかな?これでも一応立ってるの、起立してるの。
頭二つ分以上の差に鬱々とした気分になりつつ、足のコンパスが違うアタッシェに追い付くように早歩きになる。
だが、若干急いでいる様子のアタッシェにすぐ離されてしまうから、もう小走りで着いていく事にした。
その合間に、ふと気になることを訊ねてみた。
気になること?勿論午後からの交流会についてだけれども。
で、聞いてみたわけだけども、知らないと一言返された。まぁ毎年違うらしいし、サプライズみたいなものだから是非とも知りたい!というわけではない。
どうせ直ぐに内容は解るのだけれど……楽しみだから気になるって心理、あるよね?
「そんなに気ぃ張らないでいいんじゃない?二人ともさ、考えすぎなんだよ。これは歓迎の一環であって試験じゃないんだから」
私のわくわくを、不安からくるドキドキと勘違いしたらしいキリが苦笑気味に零す。
私はそれに、そうだね、と返すだけに留めて、前半の祝辞・挨拶で使われた広間に向かった。
この時にすぐさま逃げ出していれば良かったと思うのは後々の事なので割愛する。
ついでに合流したコノトトに生暖かい眼を向けられた事も割愛しよう。
さらに長ったらしい教頭先生のルール説明も割愛してみせると、冒頭の青少年拉致事件に繋がります。
あえて説明するのなら、歓迎会の催し物である『ハンターごっこ』は元の世界でいう『鬼ごっこ』で、それの規模が大きくなっただけの代物、になります。
新入生・在校生チームVS生徒会・学生自治会・一部教師陣の連合軍で、前者が獲物で後者がハンターという図式。
活動範囲は男子・女子の区別無く進入可能な学校の敷地内、つまりトイレとお風呂と寮と更衣室には侵入不可という事だそうだ。
そしてあまりにも規模が、というか敷地が広すぎるので、両陣営に区別無く襲い掛かる罠が有機物・無機物関係なしに配置。
時間制限は六時の鐘が鳴るまで、つまりは五時間精神的にも体力的にも休み無しの鬼畜耐久戦。
一応死人が出ないように両陣営とは無関係の教師が監視をしているらしいけど、それでも不安しかない鬼ごっこ。
それが今年の歓迎会らしいです、はい。
…………どこが、歓迎?
神「いや短すぎるだろこれ!」
作「わぁ、懐かしいよユグドラシル!」
神「黙れ!お前これだけ放置かましといてこれは無いだろ!」
作「あれ?口調こんなだったっけ?」
神「数ヶ月前に置いてきたわそんなもの!そこになおれ下郎!」
作「え、ちょ、な、え?」
神「切捨て御免!!」
作「ウボァ!!」
神「はぁ……はぁ……ったく、相変わらず駄作者だったか……」
神「こんな調子だけど大丈夫。すぐに×××して今よりマシにするから」
神「それじゃあ、またねっ☆」