二十三話 予想外の正体。
二ヶ月のアレがついてしまいました……
まさかここまでかかるなんて。
年越えちゃいましたよ…………
亀更新、申し訳ありません…………
まるで城のような校舎内を迷いそうになるほど移動し、私達新入生一同はなんとか無事に教室に辿り着く事が出来た。
なんとか、と言うのにはちゃんとした訳がある。
私はあの後、エルフーn……樹の精霊にまた後でとこっそり告げ、皆で移動を始めたのだけれど、前述した通りに校舎内が広すぎて、何名かが迷子になりかけた。
迷子になりかけるのならまだ良い方で、灰色と黒のシックなタイルが敷き詰められた廊下の白壁……に掛けてある絵画の貴婦人がバトルジャンキーのように嬉々として優美に、けれど荒々しくスカートをたくし上げて魔法を乱発してきたり、はたまたどこぞの英雄をかたどった筋肉質極まりない少佐な石像が勇猛果敢に拳を振りかざしてきたり、挙句の果てにはタイルの間から染み出てきた、何か形容しがたい液体を滴らせた白い影が『くねくね』のように踊りながら迫ってきたり……
先生曰く『新入生が受ける洗礼』らしいけど、これはちょっとキツ過ぎだと思う。
というかこれは侵入者対策って言われた方がしっくり来る。むしろそれ以外に無い。
でもって最後の影、もといくねくねに一言言いたい。
「異世界にまで侵食して来ないでよ都市伝説……」
ぐったりと真新しい机に突っ伏しながら、息を吐く。
漸く辿り着いた教室はまるで大学の講堂を小さく、といっても十人で使うには広い場所だった。
教室内での席は基本自由らしいけれど、やっぱり馴れない内は其々の国の仲間と好んで組みたがるようだ。
横に三人並んで使える、明るい色合いの机が縦に四列、横に三列並んでいるからか、自然と最初に入ってきた私達魔属組が一番奥の窓側の列に、共和国の子達が真ん中の列に、そして廊下側に帝国組が座っていた。
座り方にも特徴らしきものが出ていて、帝国は最前列を開け、そこから残りの三列に一人ずつ座り、共和国の子もやはり最前列を開け、二列目に二人座り、その後ろに一人、と言ったように座っていた。
因みに金髪の子は真ん中で、嫌いな子は前列だった。
で、私達はというと、男女二人一組で、これまた最前列を空けて座っていた。
前列がロゼリアとコノトト、後列が私とアタッシェだ。
これにはちゃんと理由があって、女同士、男同士だと、本人の性格にも寄るが、どうにも授業に関係の無い事を話す傾向にある。
私は前の世界では、授業は割と真面目に受けていた。
それしかする事が無く、またするべきものだったから。
質問や、解らない箇所を一緒に解こう!なら認めよう。でもそこから世間話に移行するようなら……アウトかな。
居眠りは……疲れてるのかな?とは思うけど。
前の世界では嫌々ながらに通っていた学校だけど、授業は別に嫌いではなかった。
授業よりもむしろ休み時間の方が憂鬱だったし、学ぶ事は楽しみでさえあった。
そういえばノートをここぞとばかりに買ったばっかりだったっけ。
死ぬなんて思わなかったから仕方ないけど、勿体無い事したなぁ。
あ、でも私物は放り込んであるはずだからノートもあるはず!
この世界の紙は上質なモノでもちょっと荒いし、羊皮紙はそれこそ契約書とか機密文書とか重要な案件に使われるから、ほいほい使っていいものではない。
けれど質のいい紙に慣れ親しんだ私はどうしてもすべりの悪い、ペン先が引っ掛かる紙に納得できなかった。
幸いというべきか、ホームセンターと文具店を回って十冊組のものを大量に買い占めていた。
なんの為にと聞かれたら、ただ単にストレスの発散をしたかったと言っておこう。
買い物はストレス発散には丁度いいと小耳にはさみ、丁度バイト代も入ったからと意気揚々と出かけたまでは良かったけれど、その後が問題だった。
買いたかった本はもうすでに買っていたし、探していた本も見つからず、服も欲しいとは思わない。
なら生活必需品をと思ったけれど、洗剤もシャンプーもティッシュも十分買い置きがあることに気付いた。
他にはいるのは無かったかとあれこれ探してみたけれど、その時に限って必要なものは全て揃えていた。
折角街まで買い物に来たのに手ぶらで帰るのは嫌で、何かを探しに適当に入った店が文房具屋だった。
そして十冊ごとにビニールに包まれて平積みしてあるノートを見つけたとき、コレだ!と思って……
店にあるだけレジまで持っていった。
店員の呆れたような、ある意味尊敬するような目を背に受けながら、今度は大きなホームセンターで同じ事をした。
大量のノートと、ついでとばかりにシャープペンシルの芯とボールペンもちょこっと添えて。
それから町中のホームセンターと文房具店と百均を梯子した結果、ダンボール三箱分のノートとおまけのように買ったノート以外の文具を配達してもらう嵌めになった。
その上、片手には百均で買ったノートが十数冊抱えられていたのだからどうしようもない。
あの時は素で笑ったなぁ。
まるで今までの道のりを忘れるように、別の思考に没頭していると、それをどう取ったのかロゼリアが心配そうに此方をちらちらと伺ってきた。
どういうべきか迷っているような彼女も、どこか疲れたような空気を纏っているからか、妙な仲間意識が芽生えてくる。
「あ、あの……大丈夫、でしょうか?」
「大丈夫……ちょっと疲れただけだから………うん、大丈夫」
「あんな物に遭遇しておいて大丈夫って凄いですね、流石、レイカ様は規格外です」
そこ、アタッシェ、しみじみと頷かないでよ空しくなるから。
「ホンマや……俺最後の影にやられた、心折られかけた……あの動きは冗談抜きで怖かったっ!!」
おぉ、同士がここにいた!
けど……コノトト、だと!?
結構失礼な事を考えながら、私はゆっくりと身体を起こす。
下降気味の気分を払拭するように首を振り、視線を教卓に向ける。
そこには各々で道程を振り返る生徒達を生暖かい目で見守る、気弱そうな桃色の髪の教師が居た。
桃色だけど、決してあの桃髪甘甘砂糖女ではない。
最初に見たときに思い切り警戒してしまったけれど、見た目からして気弱そうだし、声も甘くなかったし、なによりこの人は男性だった。
聞けば彼女の弟だというから不思議でならない。
いや、野郎であんな声出された日には二度と登校しなくなってたから良かったのだけど。
というか桃髪幼女の弟の癖に、無駄に身長が高いのは何でだろう?
童顔でもないが、何処と無く顔が似ているから、まぁ、姉弟なんだろうなぁ。
兎に角、視線に気付いたからには、長々と無駄話をするわけにもいかず、そそくさと姿勢を正す。
周囲の生徒の中には、未だに立ち直れて居ない者も居たが、だからと言ってその教師は立ち直りまで待つような事はしなかった。
彼は気弱そうな笑みを浮かべたまま、困ったように口の端を掻いた。
「ええと……皆大丈夫そうじゃないけど、待ってたら時間が足りなくなりそうだから、始めちゃうね」
まさに外道。
皆さん、ここにリアル赤さんがいらっしゃいます。
ピンク色なせいか若干毒が弱いですが、これは間違いなく赤さん予備軍です。
後々、人の心を嬉々として踏みつけますよこの野郎は。
そんな心の声も聞こえてか聞こえないでか、というか確実に後者の方で、その赤さん予備軍は大きな黒板にコツコツと名前らしき文字を綴る。
あっさりと覚えてしまった大陸の共通語だが、形が英語に似ているから、余計に覚えやすかったのかも知れない。
でも英語ではないので、試にクロアに英語で私の名前を書いてみせたが、「これは何と読むんだ?」と聞き返されてしまった。
当たり前といっては当たり前なのだけれど……でもその後聞こえてきた言葉は聞こえない事にした。
…………暗号に使えるか?とか呟かれても、聞かれない限りは答えません。
というか答えたくありませんそんなこと。そういうのはもうちょっと先にして下さい。
「こーれーでー良しっと。では皆、僕はこれから皆の担任を務める、盾蝶族平民教師炎・風系統のオーベルです。適度に厳しく指導していくつもりだから、一年間必死についてきてね」
せんせー、“適度に厳しく”と“一年間必死に”が上手く繋がりません。
貴方の適度は何を基準とした適度なのでしょうか?
聞きたいけど、聞いたら最期って感じがするから止めておこう。
引き攣りそうになる口元を無理やり繕って、慎重に奴から視線を逸らす。
オッス、オラ悟k(自重)!目ぇつけられたら命とられっぞ!
…………あれ?何か今、かなりヤバイ電波が来なかった?
う~ん、と心の中で首を捻っていると、ふと、背筋に悪寒を感じた。
「それじゃあ、自己紹介をしてもらおうかな。そうだね、最初はやっぱり……」
やっぱり、になるのだろうか、この場合は。
必死に目を逸らしていたのが悪かったのか、それともこのリアル赤さん予備軍が最初から決めていたのか、兎も角、その予感は的中した。
オーベル先生の指がそっと持ち上がり、指した先にいたのは……
「君だよね、覇王様」
えぇ、私でしたよ案の定。
酷くないかなこの扱い。どうしてここの人たちはこうもいい性格をしてるのかな?かな?
「…………」
カタッと椅子を引き、立ち上がる。
やはり高身長に合わせられた椅子のせいで、着地に近い降り方になってしまったけど、それでも前を向く。
身長なんて…………
眉間に皺を刻みそうになるのをグッと堪え、私は何度目かも解らない口上を述べるために、口を開いた。
「こんにちは、異世界の日本国出身、覇王兼学生、系統不明の澪歌=天宮です。これでも十七歳ですので、気にしないで下さい。気にしたら負けですから、いいですね。嫌いなものは睡眠妨害と自己中です。覚えておいて損はありません、絶対に…………という事で、これからよろしくお願いします」
言い切った。
言い切ってやりましたとも。
散々自己紹介なんて嬉し恥ずかしなものやってるのだ、これくらい別にいいだろう。
ポカンと間抜け面を晒した面々を放置して、椅子に座る。
勢いをつけて飛ばなければ椅子に座れないのだけど、言い切ってすっきりしたから、今日は何も言わないでおいてあげよう!(誰に?)
気分が晴れた私は、そのまま次の自己紹介を待った。
流れからして、前の席のコノトトか、隣のアタッシェだろうと踏んでいた。
でも、その期待は裏切られたようだ。
「あ、うん、覚えておくよ……じゃあ、次は、そうだね、もう一人のプラチナさんにお願いしようか」
多分、最悪な方向に。
不意を突かれた私を尻目に、指名されたその子は、慌てたように立ちあがった。
ガタンと揺れる椅子も、勢いのまま緩く靡いた金髪も無視して、その夏色の女の子が口を開いた。
「は、はい!えと、私はネロ=M・A=オウラ、帝国の第三皇女です!よろしくお願いします!」
顔を赤くして、勢いよく頭を下げる彼女、ネロに、私は目を奪われた。
あんなにも過去を彷彿とさせる存在だったネロ。
てっきり、彼女が勇者なのだろうなと見当をつけていたのに、今ここで、その予想は覆された。
私の暴走を、優しくその風で受け止めてくれた子が。
お茶のお誘いに、嬉しそうに微笑んだ子が。
私が罵られていた時、偏見だといって庇ってくれた子が。
私を、なんのてらいも無く真っ直ぐ見てきた子が、帝国の皇女。
余りにも予想外すぎた正体に、私は自分の耳が可笑しくなったのだと思った。
可笑しくなっていれば良いと思った。
神「あ~………ここまでくると、わたしも何て言ったらいいのか……」
作「面目次第もございません……」
神「全く、これからさらに忙しくなる時期なのに、そんな事で大丈夫なの?」
作「自信が無い……多分、遅くなるとは思う。そこは読者様には申し訳ないけど……」
神「三年の進級掛かってるし……まぁ、それをここで言ったんだ。無様な点数取るなよ?」
作「当たり前だよ。漫画もゲームも自重する。その分勉強して、執筆は息抜きに、でも確実に更新します。どんなに遅くなっても、ちゃんと完結させます」
神「なので、これからもよろしくね☆」
作「よろしくお願いします。そして、遅くなりましたが、あけましておめでとうございます」