二十二話 入学式。
ええと……もうここまでくると全てが言い訳にしかならないような……
とにかく短いですが、二十二話です。
高らかに響いた哄笑と冷淡な台詞が沈黙を呼んだ。
未だに幼い笑顔を浮かべる私に、誰もが凍りついたように動けない。
様々な感情を湛えた瞳が私を遠慮がちに伺うが、それでも私の意識は彼女に固定されていた。
赤茶色の髪に同色の目、魔属よりは小さいが、それでも大きく見える身体に、フレームの無い度入りの眼鏡。
いかにも頭が良さそうな印象のその少女は今、私の虹の瞳に下から見つめられて、怯えていた。
無理も無い。
喉の奥で小さく笑う。
僅かな呼吸音に紛れたその音が聞こえたのか、少女の肩が哀れなほどに跳ね上がる。
私はそっと口元を手で覆い、隠れて見えなくなった唇を密かに噛んだ。
見れば見るほど、憎らしい。
それは事実だが、それは姿がダブって見えただけで、直接この少女に危害を加える理由にはならない。
だから、口内に鉄の味が広がっても私は自分を痛めつけるのを止めない。
止めれば、きっと少女にとっては意味の解らない、理不尽な理由で彼女を罵ってしまう。
いや、最悪彼女に危害を加えてしまう事もあり得る。
正気に戻った今、できる事ならこの視線を外してしまいたいのだが、憎らしいにも関わらず、視線は離れがたく彼女に向けられたまま、僅かも逸らす事が出来ない。
そろそろ唇が噛み千切られるのも、彼女に矛先を向けるのも、、もう目前かと思った、その時の事だ。
誰かの手の平が、優しく私の目を隠してくれたのは。
「……誰?」
「俺や」
「……コノトト?」
「全く、レイカ様はホンマに解らんお人や……とりあえず、ここは抑えといてもらえんか?ちぃとばかし空気が悪ぅなってきたさかい」
以外な人物の意外な行動というのは、こうもあっさり場の空気を掻っ攫うものなのか、私は毒気を抜かれたようにその場に膝を付き掛けた。
だが、私の頭は既に冷静さを取り戻せていたので、少し体勢を崩すだけで済む。
王が、膝を付くわけにはいかない。
「レイカ様、立てるか?」
「うん、立てる……ごめん、迷惑かけて」
「本当ならここで諫めんといけんのやろうけどな……今回はしゃあない。流石に俺も頭にきた」
そう言って、コノトトは私の目を覆っていた手をそっと離した。
私はそのまま瞼は開けず、一、二回深呼吸してから瞼を開く。
そこにはやはり彼女がいたが、今の空気ではどうしても先ほどのように彼女に殺意を向けられない。
そのことに安心と、僅かばかりの不快を感じながら、私は小さく「ゴメン」と呟いた。
本当は謝りたくないのだけれど、過剰に怯えさせた事は私の落ち度だ。
だから正式に頭を下げて謝らないが、コレくらいはしておかないといけない気がした。
一方で謝られた少女は一瞬目を白黒させていたが、私のように数度深呼吸をし、取って付けたような冷静そうな態度で小さく頭を下げた。
しかしそれは理性に従って頭を下げた、というより本能からの危険信号に従ったという方がしっくり来る。
だけど、まぁこれで一応場は納められたわけだし、それほど大事にもなっていないだろうと一息つく。
そして私は心配そうに周囲を取り囲む少年少女……どうしても青年、女性と呼びたくなる容姿の彼らにも、深々と頭を下げた。
「ご迷惑をお掛けして、すみませんでした。以後気をつけます」
本当に申し訳なかったと思ってやっている。
……のだけれど、こうして謝るとどうしても周囲が騒がしくなるのはどうしてだろう?
私としては、悪い事をしたら謝るのは当然の事で、ふざけてる時ならいざ知らず、こうした場所ではきっちり誠心誠意謝るのは常識だ。
そもそも私は肩書き以前に一個人として入学しているのに、これから学友となるかもしれない彼らに畏まられては肩身が狭い。
先ほどは王として膝をつけないとは思ったが、それは相手に屈服しないという意思での行動であって、頭を下げるという行為はただ単に謝罪の意を表明しただけ。
そこに相手にへりくだる意味や屈服する意思は無い。
私は暫く頭を下げていたが、もう頭を上げてくださいコールが五月蠅くなってきたので、仕方なく頭を上げた。
そこで皆は安堵のため息を吐いたが、私は依然、釈然としないまま入学式に連行される嵌めになったのだ。
……あの?もう『でんこうせっか』はかまさないので、両脇を固めるのは止めてくれませんか?
アタッシェもそんなに警戒しなくたって……いやコノトトも目隠しの準備しないでよ。
あのー私ってそんなに信用ないですかー?
あ、無いですか、了解です……。
かくして私は厳重未満通常以上の監視のもと、校舎内にある大ホールまできたわけですが……
ここまで広くする意味はあったのかと設計者に問いたい。
どうして扉を潜ってから新入生の立ち位置に辿り着くまでが長いのか。
しかも装飾がこれでもかというくらいに華美で、白と金色のコントラストが陽光と相まって目に痛い。
馬鹿みたいな広さを誇る円形のホールをぐるっと囲むコリント式に良く似た柱には金細工の薔薇が絡みつき、奥の巨大な樹木をバックに作られた、バルコニーを模したような壇上に向かって三方向から伸びる絨毯は真紅の短毛。
降り注ぐ陽光は、薄く引き延ばされたような水色水晶の天窓、もとい天井を通されたおかげで幻想的な雰囲気を醸し出す。
さらに巨木の枝葉に綺麗に留められた美しい薄布がゆったりとはるか頭上から垂らされている。
ゆらゆらと、風も無いのに揺れているのは、きっと巨木に寄って来た精霊が遊んでいるせいだ。
……此処に来て精霊が見えるようになるって、どうなのかな?
魔法を使うときには、薄ぼんやりとだけれどその存在がそばに居ることは解っていた。
けれど、こうもはっきり見えるのは今が初めてだ。
元気にはしゃぐポケモンのエルフーンそのままの姿をした木の精霊が私に気付いて手を振ってくる。
その可愛らしい様子を視界に入れながら、私は頭の中で平常心と繰り返し、目線で笑いかける。
本当は今すぐにでも彼らに駆け寄ってモフモフしたい。
だけど今まさに先生の演説の最中なので動くわけにはいかない。
老人というのは全員話が長くなるものなのだろうか?
試験の日に私達を欺いたお爺さんが熱弁をふるっている。
正直に言って話の内容は大したことがない。
簡単に言ってしまえば『入学おめでとう!楽しい事も辛い事も皆で共有して立派に卒業してね☆』だ。
だけどこのお爺さん、私達が入ってきてから直ぐに話始めたのだけれど、かれこれ三十分は話し込んでいる。
新入生全員がその長さに辟易していることは一目瞭然なのだが、それでも突っ立てるしかないというのはなかなか苦痛だった。
私がホールの内装について考察するのも、精霊に目を向けるのも無理はないはず。
というか本当にあのエルフーン(決定事項)、触りたいなぁ。
こう腕に抱いて眠りたい。
キリは手の平サイズで、今は肩に乗ってうつらうつらと船をこいでるけど、あの子達はクッションサイズだから抱き心地は申し分ないはず。
よし、後で精霊に交渉してみよう。
一人でこっそりと今後の目標を立て、グッと拳を握る。
そして丁度いいタイミングでお爺さんの無駄話……うん、無駄話が終わった。
よく聞いてなかったけど、後半はお爺さんの常套句である「ワシも若いときは」が発動されていたから、きっと無駄話であっているはずだ。異論は認めない。
さて、お爺さんは終了したけれど、これは本当に最初の最初、次は生徒会長の祝辞に学園長の祝辞、そして新入生の代表の挨拶で午前の部は終了。
そこから新入生は教室へ赴き担任挨拶・自己紹介・質問タイムに軽い交流をし、昼食を挟んで午後の部へ。
午後の部は先輩方との交流会が予定されていて、なんでもその年毎に内容が違うらしい。
半日も迷路で迷わされた事もあれば、つつがなくお茶会で済まされたこともあるし、フミの時は魔法の打ち合いなんてのも企画されたようだ。
内容を決めるのは生徒会のメンバー方で、今年は少々癖が強い人たちが集まったときいたから、ろくでもない内容なんだろうと決め付けている。
いろいろ思うところはあるけど、今考えてもあまり意味はないように思えて、思考を中断させる。
足が疲れたと思っていることをおくびにも出さずに意識を壇上に向けたが……
「―――――以上。これにてオルランジェ中立学園入学式典を終了とする。新入生、全校生徒……礼」
いつの間にやら全てが終わっていました。
慌てて皆と同時に頭を下げながら、小さく息を吐く。
どうやら生徒会長と学園長、新入生代表の子の話は短く済んだらしい。
申し訳ないと思いつつも、生徒会長の顔を拝みたかった私は、誰にもばれない様にため息を吐いた。
「次は教室で自己紹介、かぁ…………流石に飽きてきたな、自己紹介」
ついでにもう一つため息をこぼしたのは、誰にも内緒。
神「またか」
作「申し訳なさ過ぎてどうしようか困っています……殺してください」
神「流石に現実で殺せはしないけど……解った、殺ろう」
~~少々お待ち下さい~~
神「さて、言い訳として通用するかは解らないけど、なんか模試とか色々あったっぽいよ☆」
作「…………」
神「修学旅行も二月に延期か……よかったじゃん、期末テスト、帰ってきた直後に受ける破目にならなくて」
作「…………」
神「楽しみにしてた子もいる、ねぇ……お前は例外だろ★」
作「…………」
神「ハァ……お前に対しては色々諦めたい……けど!これだけは約束!」
作「…………?」
神「次回から二週間越えそうなら連絡入れること!いいね?」
作「……了解です!申し訳ありませんでした!」
神「返事だけは立派だね……もし破ったら……ね★?」
作「遅延のお知らせは活動報告にてお知らせさせて頂きます!!」
神「よし、読者の皆さんが証人だから、事前報告くらいはちゃんとね☆」
作「常套句になりましたが、皆さんまた次回!」