二十話 『本当』の友達。
長らくお待たせしてすみません!
言い訳にしかなりませんが、ここのところ更に忙しくて……
その上風邪をこじらせてしまい、今現在熱があるなかで執筆しております。
お待たせしてしまった割には短くてすみません!
それでは二十話です!
唐突だけど、オリジナルの魔法……いや、FFとかではなくて、つまり、自作した魔法は自重する事にした。
試験も終わり、各々の国ごとに与えられる寮に移動している時、和気藹々としている戦友?を尻目に私はそんな事を考えていた。
いきなり規格外のレッテルを貼られたし、何より威力が高すぎる。
もともとある魔法は大体のイメージが出来るから威力の調節は容易なのだが、その場で即興同然に造った魔法はそうはいかない。
実際、私としてはあれほど巨大な花を創造する気は無かったのに、考えていたよりも若干大きめになってしまった。
「という事でオリジナルは本当に困った時の最終兵器にしようと思うのだけれど」
「いきなりですね。ですが賛成です。何に付けレイカ様は許容範囲を超えてきますから」
「さらっと酷い事いうよね貴方」
「褒め言葉、と受け取っておきましょう」
ああ言えばこう言う、というか板に水のような会話に自然と笑みがこぼれる。
はっきりと返される言葉には微塵も悪意がない。
この世界に来て良かったと本気で思う。
「それにしても立派な寮だよね…各学年に一つの寮、つまりこの四人でここ使っていいって事だよね?」
視線をぐるりと巡らせれば、そこには小さいながらも立派な屋敷の内装が目に付く。
短毛の上質なカーペットは濃紺、窓枠や額縁を彩るのは落ち着いた純金、見かけるドアの取っ手には銀の繊細な細工が使われている。
この内装は各国の国旗や気風を表しているのだという。
そう言われれば、城の内装も此処に似ていると気付く。
全体的に落ち着いた感じで、絢爛豪華ではないが隠れた華やかさ、奥ゆかしさがある。
聞いてみた所、共和国は活発なイメージで赤系統、特にオレンジ色を好んで使い、帝国は王国とは反対に金や赤を多用した華美で贅沢な内装だという。
コレを聞いた時、本気で王国でよかったと思ったものだ。
フードの青年と会話した以外、特に会話らしい会話もなく歩いていた私達はまず応接室へと向かった。
ここの間取りを簡単に説明するなら、外観は二階建ての立派な洋館で、一階は厨房や洗濯室、使用人達の部屋に彼ら用のお風呂等、入り口の大きな玄関以外は使用人達の領域だ。
二階は私達学生が使用する階で、一人一部屋、中には個別にキッチンやお風呂も設置されているが、殆ど使われる事はないそうだ、勿体無い。
食事は寮内の食堂で摂ればいいし、お風呂も大浴場があるからだそうだ。
まぁ私はキリの為にも自分で作りたいし、お風呂も……誰かと鉢合わせする可能性があるから嫌だ。
そんな風に考えていると、いつの間にか到着していたようで、皆の足が止まった。
そこの扉は一際大きくて、まるでクロアの執務室のような重厚さだった。
まぁクロアの所の方が威圧的だったけれど。
やはり繊細なドアノブに手をかけ、ゆっくりと、ではなくさっさと押し開く。
こんな動作に時間かけてどうするんだというのが私の持論だ。
はい冗談です言ってみたかっただけですごめん。
扉を開けた先にあったのは、大き目の机と長いソファが二脚、一人用のソファが三脚置かれた部屋だった。
やはりここも藍色を基調としていたが、机は白、ソファも白とそこだけが違った。
対談を目的としているので、家具は大きくともそれほど距離が開いている訳ではなく、近すぎず遠すぎずといった絶妙な距離感を保っていた。
後は内装に合わせて絵画や観葉植物が置いてあったりしただけで特に珍しいものは無かった。
大きな窓からは燦々と西日が注がれているが、レースのカーテンが和らげてくれているので苦ではない。
私は渋る皆を強引に席に着かせ、一番最後に手前にあった一人掛けのソファに腰を下ろした。
うん、固すぎず柔らかすぎず、適度な弾力と気持ちいい肌触り……今度ここでお昼寝しよう。
ソファが大きくてまるで埋もれているように見え……いや、実際埋もれているが気にせずに、私は長い方のソファにあった藍色のクッションを赤髪の子に取ってもらい、それをギュッと抱きしめた。
唐突だけど、腕の中に何かあるって安心するよね。
なんていうかこう……安心するよね!
うぅ、こういう時お姉ちゃんみたいに表現力があったらなぁ……
あのマシンガンのような言葉の羅列を真似しようとは思わないけれどさ。
基本は口調ゆっくりなのに……人類の神秘だ。
私は抱き込んだクッションに顔を埋めながら更に深くソファに沈む。
「皆さん合格おめでとう、この辺りで自己紹介なんてどう?」
私の名前は知られてるけど、皆の名前は知らないからね。
「私も大雑把にしか紹介していないからこの辺りで詳しく言っておこうかな」
紹介する為に起き上がろうとしたが、どうやら完全にソファに埋まってしまったらしく、なかなか抜け出せない。
クッションを脇に退けて再度脱出を試みてようやく出てこれたが、今度は床に足がギリギリで付かない。
なんで高身長で設定しているのだろう、小さいと言われているようで悔しい。
「……小さくても気にしないもん」
恥ずかしさに呟いて……ハッとした。
城でも感じた悪寒が背筋を駆け上ったのだ。
恐る恐る顔を上げれば、そこには。
そ、そこには、鼻を押さえて蹲る赤髪の人が……えっと、い、いました。
ええと、指の間から流れているものを見る限り、彼女もシエラとご同類のようです。
息を荒げて寄ってこないのでシエラ程重症ではないようだけど、これからの生活に不安を与えるには十分すぎる。
青ざめそうになる顔を必死で微笑の形に保って、とん、と足を床に付ける。
「聞き飽きたと思うけれど、私の名前は天宮澪歌、此方風に言うと澪歌=天宮になるの。出身は異世界の日本、歳は十七歳で好きな事は読書と遊ぶ事、嫌いなのは自己中心的な人間と睡眠妨害。これからよろしくね?」
こうしている間にも悪寒は強くなるばかりです。
誰かあの子止めて下さい!
「……ごめん、付け加える。苦手な人はヒトを見て鼻血だすヒト」
「んなっ、レイカ様!?」
そっと視線を逸らして言うと、赤髪は自覚があったのか慌ててその血を拭いだした。
だが真っ白なハンカチも数秒の内に鮮血に染まってしまい、なんの意味も成さなくなっていた。
「……とりあえず、貴女の事を聞かせてほしいのだけれど」
なるべく眼を合わさないように……と、城で学んだ事を活かしつつ再びソファに埋もれる。
途中でブハァッと何か不穏な音が聞こえたけど気にしてはいけない。
眼が合ったら……やられる!
「わ、私は盾鳥族伯爵家炎系統のロゼリアですわ…好きなのは可愛いものと勿論赤色、嫌いなのは可愛くないものとむさ苦しい男です」
さっきまでの痴態は何処へやら、貴族のような優雅さで微笑む少女の瞳が紅く煌めく。
その眼がまるで紅玉のようで、でも血を連想させる色だとは思えなかったのは澄んでいたからだろうか。
本当に炎のような子だな、何か聞きたくなかったワードが混じってたけれど。
薔薇みたいな名前だな、というか基本苗字は無いんだね。
クロアとかは在るみたいだけれど……あれ、苗字持ちって魔王しか聞いた事ないような?
「城でも思ったのだけれど、苗字…家名って魔王以外持っていないの?」
疑問に思った事を素直に口にしてみると、ロゼリアに何だか意外そうな顔を向けられた。
「ご存知……無かったんですか?」
「ご存知無かったんだよ、これが」
ワザとらしく肩を竦めてみせ、本当に何も知らない事をアピールする。
書庫では一応、そういった常識として知っているべき知識も模索してみたのだが、そういったものは本ではなく親から子へ口伝されているものらしく、殆どと言っていいほど乗っていなかった。
しきたりとかでも調べてみれば良かったのだが、生憎その時の私は『生き様シリーズ』に嵌っていて、ぶっちゃけると頭の中から消していた。
無意識下でも発動するんだね、『記憶の改竄・封印』って。
「いやもう漠然とどうしてだろうなーとは思ってたんだけれど、いざ聞こうとすると……ロゼリアみたいに暴走するヒトがいて……聞くに聞けない状況ってさ、ああいうのを言うんだね……ははっ」
思い出すと乾いた笑いしか出てこないのはどうしてだろうね?
黄昏だした私に引き攣った笑みを浮かべながら、ロゼリアはこほん、と誤魔化すように咳払いをした。
「ええっとですね、レイカ様の仰る通り、家名は普通、身分がかなり高い方しか名乗れません。しかし貴族間での名乗りでそれは結構不便な事です」
「確かに、同じ名前だと何処の誰かって上手く区別が付かないよね」
「ええ、なので貴族や平民は名乗る前に、族名・階級・職・系統を付けるのです。例えば私のお父様なら、盾鳥族伯爵家文官長補佐炎系統ザットールと言いますわ」
「ふぅん、そうやって区別を付けるんだ」
噛みそうな名前とか長ったらしい肩書きを持つ人は大変だな。早口言葉みたいだ。
「レイカ様の世界は違ったのですか?」
「うん、私達は国によって表し方は違うけれど、大概は苗字、こっちで言う家名と名前を持っているの、名乗る時はそのまま名前だけかな?名刺って言って名前と職業とその中での階級みたいなものを書いたカードを交換する時もあるのだけど」
事も無げに言うと、今度はロゼリアだけでなく他のメンバーも驚いていた。
そんなに妙な事を言った覚えは無いんだけど。
「という事は身分に差が無いという事ですの!?信じられませんわ!!」
「いや、一応身分というか格差というか……」
「王は!?統治する王はいるんですの?」
「王様はいないけど総理大臣っていう人が……」
「王が居ないですっt「止まれや鳥の子!」っな、なんですか?」
「レイカ様見てみぃ、困っとるやないか!」
ロゼリアの質問攻めに眼を回しかけた私に助け舟を出してくれたのは、今まで一言も喋らなかった似非関西弁の男の子だった。
褐色の肌に濃紺の髪、対象的な薄氷色の瞳の、笑えばきっと人懐こい笑顔をするだろう青年が慌てた顔でロゼリアを諫めていた。
一目見て失礼な事を考えたが、とりあえずありがとう弄られキャラ予備軍君。
名前まだ聞いてないからコレでいいよね予備軍君。
「貴方の名前は?」
会って早々こんな名称つけて悪いけど一応聞いておく。一応。
「あ、俺は剣狼族戦闘民水系統のコノトトっていうんよ。好きなモンは肉とバトル、嫌いなモンは親父と辛いモンや、よろしゅうな!」
うん、このヒトはいい感じに遊びやすいキャr……敬語が抜けてて良いね。
でもさ、これってロゼリアの嫌いなタイプじゃないかな?
じっと見てみたけれど……むさ苦しいとまでは行かないけれど、予備軍辺りには入ってそうだ。
一応エリートなのにどこまで行っても予備軍とか凄い。
そういえば、さっきから剣とか盾とかが族名の頭に来てるけれど、文字からして攻撃主体と防御主体とで分けてあるのかな?
気になりはしたが、これもいずれ知れる事だろうと思考を放棄する。
今気になるのはこの世界の一般常識ではなく皆の事だけだ、他は要らない。
「最後にしてしまったけれど、貴方の名前は?」
そう言って私と同じく一人掛けのソファに座っていたフードの青年に声をかける。
実はこの青年がどういうヒトなのかが今の私の興味の九割を占めていたりする。
しかし青年は直ぐには話そうとせず、少々躊躇うように口を開いた。
「僕は……僕は、混血の平民雷…系統で、名前はアタッシェ。好きな物は静寂、嫌いな物は雑音、以上です」
重々しい口調で、眼を逸らすように語られたそれに私以外の二人が反応した。
「混血って……あの?」
三人とも強張った表情のまま、時が止まったように固まってしまって動かない。
「ねぇ……えぇと、アタッシェ?」
そっと声をかけたつもりなのに、その肩は眼に見えて大きく跳ねた。
「……なんでしょう」
怯えているのか、消え入りそうなか細い声がアタッシェの口からこぼれる。
そんなアタッシェに、私は至極当然の疑問をぶつけた。
「混血って、何?」
瞬間、部屋の空気が数度下がった……気がする。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が室内を満たし、時間だけが遅く、重く過ぎていく。
不味いなコレ。空気読めてなかったかな?読めてないなコレ。
内心焦りすぎて混乱しそうな頭を抱え、小さくため息を吐く。
するとソレを聞きとがめたのか、アタッシェの胡乱気な視線が私を刺した。
「……何でレイカ様がため息をつくんですか」
「いや、ちょっとこの空気に耐えられなくて……つい……私、不味い事言った?」
「言ったからこんな空気になってるんですが……ハァ、良いですよ、説明しましょう」
呆れられたようにため息を吐かれたが、私はそれに文句を付けられない。
今回は私が悪いからね……
「いいですか、混血というのはそのまま、他種族との間の子の事です。しかしコレは普通にあることなので、この表現は滅多に使われません。この世界においての混血とは……その、本来混ざるハズの無い血が混ざって生まれた在り得ない子供の総称なんです……」
「混ざらない血?」
「魚と猫が相容れないように、獲物か狩人か、そういった間柄です。喰うか喰われるかの世界で起きた在り得ない現象ですよ」
まるで吐き捨てるようなその台詞に悲しいものが混じるのを、私はただ漠然と感じていた。
悲しい、可哀想な迷子の子。
どっちつかずの存在だから、自分で自分が解らないのだろう。
「アタッシェは、誰と誰の混血なの?」
傷を抉るかもしれないと思ったが、それでも問わずには居れなかったのはどうしてだろう?
そんな失礼な質問でさえ、幾度も聞かれてきたのか、その台詞はスルスルと彼の口からこぼれ出た。
「僕は剣竜族と盾兎族の間の子ですよ」
竜と兎。餌と捕食者。
どういった馴れ初めかは知らないが、二人は出逢い、子を成した。
それがアタッシェ。
迷子の青年の名前。
「……いいなぁ、その名前」
「……はい?」
「こっちではどういう意味なの?」
「え?何を言って……」
突然見当ハズレの方向からの質問にアタッシェが焦るが、それでも私はいいなぁ、と本当に羨ましそうに呟いた。
「名前は親の願いなんだけど、私の名前、澪歌は『澪のように人を導く歌であれ』っていう意味で付けられたの。だからアタッシェの名前にも、やっぱり意味はあるのかなって思ってさ」
言ってて少し恥ずかしくなって、カリカリと頬を掻いてみせる。
「なーんて、ちょっと可笑しかったかな?」
えへへ、と誤魔化してみたけれど、アタッシェからの反応はない。
これはちょっとダメだったかな?
「ええと、急に変な事聞いてごm「希望」…え?」
「希望……僕の名前の意味です…本来なら在り得ない存在の僕は、父さんと母さんの『希望』だと……」
「希望…希望、うん、やっぱりいい名前だったね!」
こんな質問でも、答えてくれた事が嬉しくて、私は満面の笑みを浮かべる。
正直に言って、混血はここでは異常な事なんだろうとは薄々感じていた。
ロゼリアたちの反応から、それは確信に変わった。
でも、でもね?
それって素敵な事だと思うのは私だけ?
両親の愛を受けて育ったアタッシェは私の目には眩しいくらいの『希望』。
こっちの世界の、とある言語では『絆』を意味する言葉。
ぴったりだと思った。
彼にこれ以上は無いと言うほどにぴったりな名前だと。
そう思う。
他人の事なのに嬉しくなる。
私は奇妙な満足感を胸に抱えて、今度は全員に笑顔を向けた。
「じゃあロゼリア、コノトト、アタッシェ……これからもよろしくね!」
太陽はもう殆ど山に沈み、室内の明かりだけが煌々と輝く中、私達はお互いの名前を知った。
これからどうなるのかは全く解らない。
……でも。
初めて本当の友達が出来るかもしれないと、そう思った事だけは確かだった。
『本当』が欲しいと、そう思った事は真実だった。
作「…………」
神「えっと……わたしと読者の方々をこんなに長く放置してた事については後からじっくり話を聞くとして……その、生きてるか?」
作「うん……生きてる、まだ生きていられる……」
神「返事が無い、ただの屍のようだ」
作「え?ちょっとそれって酷くない?」
神「返事が無い、ただの作者のようだ」
作「解ってるよね?ソレ絶対確信犯だよね?」
神「返事が無い、ただの屍骸のようだ★」
作「楽しいか?私を苛めて楽しいのか?」
神「つまらんなぁ~」
作「すべらんなぁ~みたいに言わないでよ、あとつまらないんかいコラ」
神「あ~なんか聞こえる。幻聴かな?まぁとりあえず読者の皆様」
作「長く執筆できずにすみませんでした」
神「それでは皆様また次回~☆」