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十九話  それは皆の花。


最近補習やら委員会やら部活やらで忙しいです……


そして今日やっと世間一般ではとっくに夏休みに入っていると知りました。


あれ?おかしいな?


私まだ終業式やってないよ?


次の木曜日だよ?


日程を見てみれば殆ど休みが無いのは何ででしょう?


うぅ……休みが欲しいです。



薄い雲が泳ぐ深蒼の空、美しく映える白亜の校舎は巨大な城、その裾の一角に集う数十の人々。


扉の先で待っていたのはそんな風景だった。


そして、その風景に混じった異色が、私だ。


私の虹色が煌めく度に、この瞳が何かを写す度に、そうだと自覚する。

そして異色が現れた結果、全ての視線が私に集まる事となった。


もうバレたらどうだの、暗殺がどうだのと気にしてはいない。


ありのままの自分で試験に臨みたい。


ただそれだけの理由で、私は身の安全を捨てた。


染めていない髪に染めてない瞳は、私の微かなプライドからきた行動かもれない。


私を偽りたくないと、そうプライドが囁いたのかもしれない。


水を打ったように静まり返った空間は、一種の闘技場のような形をしていた。


中心の広場は広く、そして客席の高低差のあるコロシアムと言えば解るだろうか。


競技……いや、今回は試験を行う会場は岩を切り出した、かなり広い円形の闘技場で、客席はまるで階段のように高低差が設けられていた。


一番高い場所にあるのが学園長や教師といった学校関係者、二番目に高いのが……十数名しかいない、恐らくはむこうで生徒会と呼ばれる類の生徒組織で、三番目にその他の在校生、そして最後に受験生といった所か。


しかもそれぞれの段差内でも序列があるらしく、在校生の席では特等席である最前列に座っているのは比較的年齢の高く見える集団だった。


きっと見たまま最高学年なんだろうな。


「王国の受験生の方々は此方の席になります」


全ての視線を一身に集めてなお全く物怖じした様子の無い私に、先導していた職員がにこやかに真ん中の列へと座らせる。


此方は序列とかではなく、左から順に帝国・王国・共和国となっているようだ。


「どうも。ところでこの席順は遅れて来た国を真ん中に置く事にしているのですか?先程から両側からの威圧感がもの凄いのですが」


始終にこやかに私達を試すような事をする職員に、こちらも負けじと笑みを返す。


「ええ、そういう事になりますね。ですが流石覇王様、威圧感なんて物ともしていないようで」


とことん性悪だなコイツ、とは表情にも出さずに私は後方を振り返る。


「自国の民に無様な姿は晒したくありませんので、あと私を覇王と呼ばないで下さい。私は今も覇王ですが、受験生でもあります」


私の後ろには、扉を潜った時と変わらない顔ぶれが並んでいた。


周囲の威圧を感じながらも、私の前だからか気丈に振舞う彼らを信じていて良かったと思う。


「……今年はなかなか、期待出来そうですね」


「期待はしてもプレッシャーを掛けるのは程々にして頂きたいのですがね」


「それは私ではなくあの方にどうぞ……そろそろですので、これで失礼します」


最後まで性格の悪さを露出させていた職員が心持早足で遠のいていく。


そろそろ、という事は、試験がもう直ぐ始まるという事か。


そっと面をあげ、あの方と職員が言っていた学園長らしき人物がいる場所を見る。


そこには長く白い立派な髭を蓄えた、いかにも賢者らしい格好をした老人が座っていた。


あれが……学園長?それにしては……。


小さな違和感を感じて首を捻る。


その疑問を誰かに打ち明けようとした時、耳を劈くような高い音が辺りに反響した。


「これから入学試験を始めるよぉ!帝国組はぁさっさと出て来い!」


高い音……いや、人の声かこれは!?


妙に甘ったるいような声だ、頭に佐藤……いやいや、砂糖を詰め込まれたような感覚がして気持ち悪い。

耳の奥に何か蟲が入った感じがする……ちょっと泣いても良いですか?


というか佐藤さんは耳には入りません…。


正直、耳を塞ぎたくて仕方が無いがそれは失礼だと思い、上げかけた手を下ろす。


甘ったるい声を発したのは……見た目にも甘ったるい桃髪幼女だった。


ピンク色のフリフリドレスを纏うその姿に職員だというのは本当ですか?と聞きたくなる。


だが聞いたとしても返ってくるのは砂糖の声だ。……聞きたくない。


「帝国組はぁ九人?……ふぅん、変り種(・・・)も混じってるしぃ、今年は本当に面白いねぇ」


やめて、喋らないで、コレなんて拷問?


「じゃあとりあえず魔力の測定からいこぉか、ここにいるからには全員が上位色だよねぇ」


にやにやとする桃髪(コレでいいや)に帝国の子供達の大半がピクリと反応した。


「じゃあ早速ぅ始めるよぉ!」


促された子供達が一人ずつ測定器の前に並んでは触れていく。


測定器とは勿論、あの薄氷色の水晶だ。


一人、また一人と手を触れていく子供達。


桃髪の言から察するに大体は銀や金らしいだが、九人中七人がそれ以外の色を示した。


九人中二人は金に近い銀色を示したが、残りの七人の内、実に六名もの人間がそれ以下の色である銅や鋼といった色を出したのだ。


何でも、自国の計測ではちょっとしたズルをしていたらしいが、生憎ここは世界最高峰と言っても過言ではない学園だ。


そんな学生の浅知恵が通用するような場所ではない。


彼らは在校生の失笑と呆れの視線を浴びながら、桃髪の手によって強制退場させられた。


さて、残りの一人だが、この子はそんな情けない奴等とは真逆に、いきなり最高色であるプラチナをたたき出したのだ。


しかしそのプラチナは若干色にムラがあり、綺麗ではあったが研ぎ澄まされてはいなかった。


つまりは原石といったところか。

職員の方々にとってはさぞかし磨き甲斐のある生徒になるだろうな。


『忌み児』の能力を備えているにしては珍しく、私はその少女に興味を持った。


太陽のような金色の髪に、夏の空を切り取った活発な蒼の瞳…まさしく夏を体現したかのようだった。


少女は自分の出した結果にホッと胸を撫で下ろし、銀色の魔力を持った二人の下へと嬉しそうに駆けて行く。


そして何事も無かったかのように、即座に実技に移された瞬間、少女の顔が不安げに歪む。


……ころころと表情が変わって…可愛いな。


そういえば、私もお姉ちゃんから似たような事を言われた覚えがある。


何をしていてそうなったのかは覚えていないけど、不思議とお姉ちゃんの言ったことだけは鮮明に思い出す事ができる。


『澪歌は…表情が忙しないね……ころころ変わる、そう言う所…私、好きだよ』


感情を素直に顔に出せなかったお姉ちゃんは、羨ましそうにそう言っていたっけ。


他人に対して表情を作るのは得意なくせに、身内にはどうも苦戦して困っていたのを、私は得意げに見ていた。


大好きなお姉ちゃんに無いものを持っているという小さな優越がそこにあったからだ。


今思えば、なんて小さくて、なんて無邪気で、なんて残酷な笑みだったろうと思う。


それでもお姉ちゃんは小さく笑って、私の頭を撫でてくれた。


独特な話し方をする人だったから、お姉ちゃんはあまり誰かと馴れ合おうとはしなかったけど、その分家族には甘い人だったな。


ゆっくりとした口調なのに、イラつく事が全く無く、逆にその綺麗な声を何時までも聞いていたいと思っていた。その声で、口調で、絵本を読んでもらうことが好きだった。


そうとは解らない事が多かったが、兎に角、影に日向に、四六時中お姉ちゃんの愛情は私に向いていた。


私はその愛情を当たり前のように受け取っていた。


お姉ちゃんも……私の事、可愛いって思っててくれたのかな?


そう思いながらじっと見ていると、少女の目が私を写した。


蒼色の瞳が私を見る。


いや、蒼色の中の感情が私を見ていた、という方が正しいか。


そこには漠然とした何かがあって、でも今の私には理解しがたい何かだった。


ただ見つめるだけ、それでもお互いの瞳では言葉が交わされていた。


だが仲間の一人に声を掛けられ、ハッとしたように見開かれたと思ったら、すぐさま蒼の瞳が逸らされる。


ソレを残念だと思うが、私としては漠然とした何かよりも、少女の実力が知りたい。


あの少女とはどこかで合った事があるような気がする。


実技は……どうやら残った全員でやるようだな。


打ち合わせでもしていたのか、帝国の生き残り(・・・・)の三人が学園長側に向かって円陣を組む。


中央に陣取り、呼吸を合わせるように数回足踏みをした。


そして……


「「「灯りをともせ 野をはしれ 篝火はやがて 柱となりて空を突く 


   燃え尽きろ フレイム・ラファーガ!!」」」


三人の中級魔法が完成し、闘技場に巨大な炎の柱が立ち登る。


最初は紅・蒼・金の三柱だった炎が、まるで風の後押しで渦をなすように中心に向かって円を描いた。


まるで立ち上る龍のようなその姿に、私は思わず感嘆のため息を吐いた。


龍はやがて、空高くに消えてしまったが、それでも会場の歓声は止まらなかった。


これに冷や汗を流したのは共和国の子と王国の子達だ。


まさか最初からこれ程の技を見せられるとは思わなかったのだろう、皆があからさまに緊張しだした。


だが、むしろ私は楽しみになってきた。


私も……私も、あんな風にしてみたいな。


城では私の魔法は強力過ぎるからと止められていた。何も壊そうとはしていないのに、じぃじから聞いた訓練場の惨状を想像した兵士やシエラに全力でガードされていたのだ。


「あれ綺麗だったね…いいなぁ、楽しそう。思いっきり魔法を使ってみたいな」


今更だが、各国の受験生の席は二列縦隊だ。


そして私の隣には、あのローブを纏った長身の青年が座っていた。


こっそりと彼にだけ聞こえるように呟くと、青年は呆れたような眼で私を見る。


「思いっきりって…貴女は城で魔法を使わなかったのですか?」


「……一応、加減はしたんだけど…皆に止められたから思いっきりはやってないの。あと敬語禁止」


「城の方々に止められる程の魔法って……まぁいいです、今回はそれがプラスになりますから」


さらっと敬語禁止をスルーした青年に恨みがましい眼を向けるが、そんな物何処吹く風とでも言うように無視された。


「へぇ……なかなか良い性格してるね。貴方の事気に入ったかも」


「それは……光栄ですね。あ、共和国の試験がもう始まってますよ?」


え!と慌てて視線を闘技場に戻す。


生徒というのは言わば教育の質の塊のようなものだ。まして彼らはこの難関高の受験生、各国の教育のレベルの最高値を見るには丁度良い。


だから私は彼らの試験を何一つとして見逃すまいとしていたのだが……。


「残念…二人見逃した……」


思わず口にした言葉は、誰が聞いても悔しいと言っている様に聞こえただろう。


実際顔にも出ていたらしく、こっそりと私の顔を伺っていた帝国の少女が不思議そうに首を傾けていた。


「共和国は五人出してきましたが、覇王s「澪歌」…レイカ様「様?」…が、見逃した二人は銀色でしたよ」


会話はしていても向こうは見ていたらしい青年が教えてくれるが、どうして皆『様』をつけるのか。


「…『様』はいらないのに」


「コレばっかりは譲れません」


「むぅ……」


ちょっとむくれてじっと闘技場を睨みつける私に、青年はククッと微かな笑みをこぼす。


……ここに来る前も思ったのだけれど。


「貴方って、とても楽しそうに笑うんだね」


ぽつりとそうこぼすと、青年は小さく眉を顰めた。


「はい?」


「演説の時も思ったの。最初は壁際に一人で居たから、どうしたんだろうって見てたのだけど、ちょっと笑ったでしょう?私、あんな風に笑うとは思わなかったから吃驚したの」


思い出すと、私まで笑えてくる。


「貴方みたいな雰囲気のヒトって他人を拒んでいる独特のものだったから、笑い方もどこかぎこちなくなるヒトが多いみたいなのに……良かった、どうやら貴方はちゃんとヒトと関わりあえるみたい」


安心したと笑えば、青年は更に不可解そうに眉間のしわを増やした。


「やっぱり見ていたんですね……でも」


どうしてそんな事を?と呟くと、青年は顔を背けて黙り込んでしまった。


口元に手をあてて考え込む姿がちょっと怖い。目元が隠れてしまっているせいだ。


視力が落ちたら大変なのに、と思ったが、あえて口には出さないでおく。


何気に魔属というのは総じて視力が良いと聞いたのを思い出したからだ。


私はそのまま闘技場を見ていたのだが、青年は考え事に夢中になっていたらしく、終には王国の番になったというのに動こうとしない。


「お~い、次だよ~戻ってきて~」


「…は?」


「だから、次は私達王国の番だよ」


「……見逃した」


呆然としたように私と同じ事を呟く青年に苦笑し、共に闘技場へと向かう。


「共和国は全員が銀色だったけれど、実技では個別に魔法を扱ってた。で、そこから二人落とされたみたいだよ」


「そうですか…なら僕達も頑張らないといけませんね」


そういって張り切りだす青年の後ろを、緊張して震えを誤魔化そうとしている子達が続く。


今にも泣き出しそうなその姿に多少の同情を覚えた私は、軽く皆の肩を叩いて優しく微笑んだ。


「こういう時は、受かって喜んでる自分を想像するの。皆で受かって、楽しく騒いでる、ね?楽しそうでしょう?」


くすくすと笑って見せれば、少しは効果もあったのだろう、ぎこちなくはあったが皆が笑い返してくれた。


そして全員が測定器の前に並ぶと、何故か桃髪が感慨深げに私を上から下まで眺めだした。


うぅ…居心地が悪い。


そのまじまじとした視線に辟易しつつも、一番測定器に近い位置にいた少女に目線で促し、桃髪の感心を逸らそうと試みる。


だが、少女の触れた測定器が銀色に輝いても、次に触れた少年が金に近い銀を出しても、桃髪は確認程度にチラ見しただけで私に意識を向け続けていた。


「…………」


その様を見ていた青年が気の毒なものを見るように私を見ていたが、そう思うのなら助けて欲しいと眼で訴えたらさっさと測定器に向かってしまった。


この薄情者!!


泣きそうな目でその背中を追い、次いで彼が触れた測定器を見た。


「…わぁ」


測定器に触れた彼の指先から出た金色の光が、水晶を満たしていく。


まるでキャンバスに向かっている画家のような、それでいて完成間際の作品を見るような不思議な高揚を覚える。


その光に釣られてか、さっきまで確認程度のチラ見しかしなかった桃髪が愉しげに口角を吊り上げた。


「へぇ、あの人の言った通ぉりだねぇ……今年は期待できそぉだ」


あの、感動が台無しになるので喋らないで頂けますか?


「今度はぁ覇王様だねぇ、どぉなるのかなぁ?」


ああもう、だから貴女の声は甘ったるいんですって。

というか覇王様言うな。


内心うんざりしながらも、私は青年と入れ替わりに測定器に触れた。


全く、どうもこうも、ないですよ。

そんなに興味深そうに見ても意味ないです。


「こうなるだけですよ」


もうこの前みたいな反応は見たくないので、速攻でプラチナにして、速攻で塵芥にしてやる。


私のプラチナは金髪の少女と違って色ムラは無かったが、綺麗すぎて逆につまらなかった。


だが、塵芥になって風に流されるその様だけは見ていて面白かったかな。


輝く風の流れが渦を巻くように空に昇っていったんだ、写真が撮れたらよかったのに……


あ、そういえば向こうでの私物に携帯とかデジカメとか入ってたっけ。

今度やってみよう。


「測定器がぁ……」


桃髪が呆然としたように呟く。


あれ?まさか測定器って高価なものなのかな?


「え~と……もしかしてアレって高級品だったりするの?不味いな、粉砕しちゃったよ」


「規格外……」


しくじったなぁと困っていると、近くからとても失礼な台詞が聞こえた気がする。


「……貴方、何か言った?」


「いえ何も」


「とりあえず……弁償はするとして、全員実技に行けますよね?」


もう見世物になるのには慣れたが、流石にこのまま放置という訳にもいかず、返事はいらないが、確認の為に声を掛けた。


「え?あ、あぁうん、行けるよぉ!早速始めよぉか!」


……砂糖、吐いてもいいですか?


「はい…じゃあ、皆行こうか」


もう精神的にキツイけど、皆を合格させるまで散る訳にはいかないか。


「でも、どうするんですの?私達なんの打ち合わせもしてませんわ」


コソコソと話しかけてきた赤髪の少女が不安げに顔を歪ませた。


良く見れば殆どがどうすればいいのか決めかねているようだ。


「ん~、ちょっとやりたい事があるの。協力してくれる?」


「ええ、勿論ですが……何をなさるおつもりで?」


コテンと可愛らしく首を傾げる少女に、私は笑みを向ける。


「全員、自分の得意な魔法を中級以上で闘技場の中心に放つだけでいいよ」


「え?」


「でもちゃんと評価を得るだけの攻撃はしてね、あとは私が何とかするから」


「え?それだけでいいんですの?」


それで何をしようとしているのか全く察しがつかないらしく、少女は頭に大量の疑問符を浮べるが、私は内緒だというように人差し指を口元に持ってきた。


「それ以降はお楽しみと行こうじゃないの」


そう言った私は、多分とても楽しそうに笑っていたのだろう。


イタズラを思いついた子供のように、私の頭の中はただその計画を成功させる事で一杯になっていた。



side out



??? side


私は最初、覇王様がこんなにも小s…お若い方だとは思いませんでした。


初め見たとき、その麗しさにこそ圧倒されましたが、まだ年端もいかない子供のような見た目に驚かされましたわ。


そして今、その印象が新たに更新されつつあります。


……なんて規格外なお方でしょうか今代の覇王様は。


私たちのような者に敬語を使い、止めて頂けると思えば今度は敬語を禁止になさる。


考えが無いのかといえばそうでもなく、奔放かと聞かれれば頷いてしまいそうですがやんちゃではなく。


そうですね、ひたすらに自由なお方でしょうか。


その自由なお方…レイカ様ですが、私は自分の目が信じられませんわ。


いえ、先ほど測定器を塵に変えた事も勿論信じられませんが、今度は更に信じられない事が起こりました。


私達は実技の為に闘技場にきました。


そして何故か隅のほうに行くようにレイカ様から指示を受け、言われた通りに魔法を発動させました。


「灯りをともせ 捧げよ篝火 地に咲く花は焔を抱く 燃やし尽くせ フラム・ルゼル!!」


私は炎属性を得意とするので、炎属性の中級魔法、中でも高威力を誇るものを出しました。


炎が地を駆け、焦げ跡を残しながら中心へ向かいます。


「流れをつくれ 踊れよ水流 行き着く先へと彼奴を抱け 押し流せ イヌンダシオン!!」


「轟かせろ 怒れよ雷 内を燃やす火を放て 焼き切れ トゥオーノ・ウラガン!」


おや、他の方々も中級ですか。


それにしても私の炎に引けを取らないほどの威力ですか……侮れませんわ。


さて、レイカ様はこれらを一体どうなさるおつもりなのでしょう。


このままいけば大爆発を起こしてしまいます。


内心ハラハラしながらもレイカ様を見ると……。


とても輝いた瞳で魔法を見ておりました。


何でしょう、あの可愛い生き物は。ぴょこぴょこと楽しそうに跳ねてらっしゃるのですが。


「うわぁ、格好いい!こんな間近で誰かの魔法見たの初めて!」


え?それって大丈夫なんですの?


今更ですが心配になってきましたわ。


「じゃあ私も…いきますか」


レイカ様が嬉々として腕を魔法に向けました。


どういった魔法を使うのでしょう、私達はレイカ様に視線を移しました。


「開け 幻想書架(アリス) 対象を補足 固定完了」


はて、聞いた事の無い呪文ですが……?


「思い描くは牢 堅楼は高々と その姿は純なり 閉じ込めた華は花となりて やがて地上に現れよう」


無邪気に、しかし朗々と響く声が会場を打つ。


「今こそ開け 純華綺晶レイディアント・フロワ!!」


それはまさに奇跡のような光景でした。


レイカ様の魔法は伸ばされた腕から真っ直ぐに私達の魔法へと向かい、直撃の瞬間に眩く光ったかと思うと、そこにはもう猛々しく走る魔法はありませんでした。


そこには……花が、あったのです。


しかもただの花ではありません、三色の魔法を内包した巨大な水晶の花です。


三本とも茎や葉は薄く緑に色付いた細い水晶なのですが、花弁がそれぞれ違いました。


赤の花は、滑らかな水晶の花弁の根元から炎が外側へ向かって走っていました。

炎の揺らめく花弁が、まるで薔薇のように幾重にも重なり、まさに女王の品格です。


水色の花は百合のような楚々とした佇まいで咲いていて、仄かに放たれる燐光が、まるで水面のようにゆらゆらと揺れて幻想的な雰囲気を作り出していました。


そして雷の花は、活発に弾けるマリーゴールド。

花弁の先から絶え間なく電光が弾けて、まさに太陽のような華やかさです。


こんな魔法、見たことも聞いたこともありませんわ……。


「っと、こんな感じかな……初めてにしては上出来だよね?」


「は、初めて!?」


驚きました…まさかオリジナルの魔法を造ってしまわれるとは…


しかもその場の思いつきでこれ程の魔法…造形魔法はその精度が問われるのですが、この花は王城の玄関に飾ってあってもおかしくありません。


レイカ様は……本当に規格外な方ですわ……。


そしてレイカ様は、満足そうな笑みを浮かべて学園長の方を向きました。


「で、王国は合格出来ましたか?学園長」


その問いに、真っ白な髭を蓄えた老人が呆然としたまま頷いたのですが……。


「違いますよね?私が聞いたのは貴方ではなく、その隣にいらっしゃる方です」


……はい?


私はレイカ様の言うその隣の方を見ました。


その方は、私達を先導して下さった職員の方ですが……学園長には見えません。


「…どうして私だと?」


「貴方はプレッシャーはかけますが嘘は吐きませんでした…貴方はそこの方を学園長ではなくあの方と呼びました。可笑しいですよね?まさか国の代表に赤恥を掻かせる気でした?」


心底楽しそうに笑うレイカ様に、その職員もニヤリと笑みを浮かべました。


え?まさか本当に?


「これはこれは……私は貴女の力量を見誤っていたようですね」


ってマジでございましたか!


「そうですか、ならそのまま修正しないでいて下さい。私、実は人と話すのが苦手なのですよ」


それこそマジでございますか!?


「本当に、今年は期待できますね……それでは、この場に残っている受験生の皆さん」


職員の方が、老人と入れ替わるように椅子の前に立ちました。


老人はとても楽しそうな顔をして私達を眺めています。


その顔にはありありと期待が満ちていました。


「私が学園長のロウです。これからよろしくお願いします……全員合格です!!」


瞬間、私達は歓喜に沸きました。


在校生の方々からは喝采が響きます。


そんな中でレイカ様はというと……。


「良かった!全員合格おめでとう!…となると、私も何かお祝いをしようかな」


え?レイカ様自らですか!?


恐れ多くて、でも嬉しくて近くにいた水魔法の方と手を握っていると、レイカ様は徐に花の方へと歩いていきました。


はて、何をなさるのでしょう?


レイカ様の行動に気付いているのは王国の受験生と学園長、そして……生徒自治会の皆様方?


ソレを知ってか知らないでか解りませんが、レイカ様の手が三本の水晶の根元に触れました。


幻想書架(アリス) 花はやがて枯れてしまう ならば一瞬の輝きを永久に残そう 咲け 永想花火エターナル・フロワ


瞬間、水晶の花は解けるように空へ広がり、無数の花火となって蒼穹に咲き誇ったのです。


まだ明るい時間帯にも関わらず、その存在を主張するその花は、私達の記憶に刻まれるのでしょう。


私は忘れません。


忘れられそうにありませんわ。


こんな美しい光景を、誰が忘れたいと望むでしょうか?


今日のこの出来事は、無邪気に笑う規格外なレイカ様と共にこの記憶にあり続けるでしょう。




ですが、最後に聞きたい事があります。











レイカ様、貴女様はどれだけ規格外なんですか?



そして私はあと何回『規格外』と言えば良いのですか?





誰か教えて下さい……





作「た~まや~!!!」


神「風流だねぇ」


作「今年こそ夏祭りに参加したいです!」


神「いきなり何よ?」


作「花火の見れない夏祭りなんて……!!!」


神「いやいや、貴様は結局疲れて寝てただけだろ。あの爆音の中でさ」


作「だから十分に休める時間が欲しい」


神「無理☆」


作「チッ、滅びるが良いちっこい害虫モスキート!」


神「脈絡がないなぁ」


作「風邪引いたっぽい」


神「……こじらせて死ね★」


作「ヤダ。こんなんなので文におかしな箇所があるかも知れません」


神「指摘があれば教えてね☆」


作「それでは皆様、また次回も読んでください」


神「出来ればでいいからね~☆」


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