十六話 欠けた部屋。
ええと…い、言い訳は後書きにて…
とりあえず十六話です、どうぞ!
結局シエラ達が復活するしたのは、私が一人で衣類を片付けたあとだった。
戸棚からお茶請けと緑茶を人数分出したところで丁度良く三人が入ってきたという所だ。
どかどかと音を立てて駆け込んできた彼らに掛けた私の第一声は勿論。
「玄関に靴を脱いできて」
だ。
いくら文化が違うとはいえ、『箱庭』にいる間は私がルールだ。
靴が畳を踏む前に彼らを引っ張って玄関に連れて行って靴を脱がせたのだが、全員が渋々といった体だった。
ようやく居間に通せば、今度はキリのお腹が泣き言を言ったので、私が台所に立つはめになったのは言うまでもない。
シエラが作ると言い張ったのだが、コンロや炊飯器に驚きっぱなしで絶対に進まない事が目に見えていたので、クロアに頼んで強制退場してもらった。
どうしてだか解らないけれど、どうやらシエラはクロアの事が苦手らしい。
あの城で一番の常識人なのに。いや、この場合は常識竜か?
城の厨房で作ってもらうという手もあったが、そこは私とキリが拒んだ。
私はただ単に自国の料理が恋しくなったからなのだが、どうやらキリは私の居た世界の料理が気になるらしい。
作る側としては望んでくれるのは嬉しいので問題はなかった。
幸い食材も向こうのものが地下の蔵に残っていた。
どうやら私が最後に入った状態で再現されたらしく、蔵は満タンの状態だ。
ちょっと確かめてみたのだが、味もそのままで申し分ない。
やった事といえば腐敗防止のために蔵に貯蔵したもの全ての時間が止まるように細工をしただけ。
とにかくキリが騒がしかったのでひとまず、と作ったのはカレー。
だってキリってやんちゃなイメージがあるから、きっとカレーとか好きそうだなと思っての選択。
特に意味は無かった。
「急ごしらえでゴメンね、さぁどうぞ召し上がれ」
手を抜いたワケではないが、それでも時間を掛けていないのも事実なので一言断っておく。
「いいっていいって、じゃ、いただきます!!」
キリ達は初めて見る食事に目を丸くしていたが、世界共通の美味しそうな匂いに我慢できずに躊躇い無くカレーを口に含んだ。
余談だが『いただきます』を教えたのは私だ。
「糧となった生き物に自然、そしてここに来るまでに携わった全ての人達に感謝の意を込めて」
と説明して見せたら皆がいい風習だと真似したのが発端だ。
少しずつだが、城下の人たちにも伝わっているらしい。
日本の文化が異界の地に侵攻したようだ。
とまあそんな事があったワケですよ。
ついでに言っておくと、キリとシエラにはカレーに大変満足して頂けた様で。
「また作ってくれるよね?ね?」
とキラキラした目で追い詰m…いや、頼まれた。
だが以外にも口を噤んだのがクロアだった。
余りにも顔を青くするものだから心配になって声を掛けたのだが、大丈夫だと言われておしまいだ。
その後で知ったのだが、どうやらクロアは辛いものが苦手で、凄い甘党らしい。
甘党なクロア…想像がつかないけれど、ちょっとカワイイと思ってしまった私は悪くないはず。
今度、お菓子を作ってあげようと思う。
今から楽しみだ。
食後のお茶を楽しみつつ、今後の予定を話しあう事にした。
「とりあえず服の用意は出来たけど、これから何か用事ってあったり無かったり?」
「どっちを聞きたいんだ…まぁ、在ると言えばあるし、無いと言えば無い」
「意味深な発言ですね、で?在るんですか無いんですかどっちですか」
ずず…とお茶を啜りながら会話をしているのだが、これではまるで言葉遊びだ。
「正直に言えば無い」
無いなら最初からそう言って欲しかった…って私のせいか。
「じゃあ、私ここに居ても良いですか?ちょっとやりたい事があるので」
「やりたい事…ですか?」
「うん、自室の荷物の整理とか…流石にこっちは一人で大丈夫だから、皆は戻ってくれてもいいよ」
そう言って促すが、私は完全に追い出す気でいた。
シエラあたりが粘ろうとしているが、流石に自室に入れさせる気は無い。
それは誰であろうと絶対だ。
そもそも二階に上がれるのは血縁関係のある身内だけ。
つまり現状で二階に到達出来るのは私だけ、という設定の結界を施した。
皆が嫌いと言うワケではなく、ただ単に入って欲しくないだけだ。
「皆それぞれ仕事があるでしょ?私もなるべく早くに切り上げるから、ね?」
「でも…私の仕事は澪歌様のお世話をする事で…」
「シエラ…私のお願い聞いてくれないの?…ダメ、なの?」
上目遣いで首を傾げ、ダメ押しとばかりに目を潤ませる。
やりたくは無かったが…いたし方あるまい。
「そっそそそんな!私が澪歌様のお願いを断るはずがありません!あろうはずが無い!という事で直ぐにでも退散しましょう、ええさせて頂きますとも!さぁ行きますよお二方!」
一瞬で顔を真っ赤にさせた後、だらだらと流れる鼻血ではなく涎を拭うシエラ。
有限実行、そして気を利かせて何か言いた気にしていたキリも、あんなに苦手にしていたクロアをも問答無用で引っ張っていく様は何とも勇ましい。
まさに侍女の鏡。人としてはアレだけど、侍女の鏡。
一気に静かになった居間を見回し、おもむろに立ち上がり居間を後にする。
廊下に出て角を曲がると、そこにはいささか急な階段があった。
踏むたびに軋む板に怯えながら登ったのは何時だったろうか。
安全だと気付いてからは駆けて登るようになり、逆に足を踏み外す恐怖にまた慎重になった事を思い出す。
その小さな手を離さずに守ってくれていたのは、他の誰でも無くお姉ちゃんだった。
二階の左側、少し濃い色の木の扉、自室のドアノブを躊躇い無く押し開く。
後ろ手に閉めた扉の先にあったのは、やはり最後に見たときと変わらない自分の部屋だった。
ベッドの上を埋め尽くす沢山の縫いぐるみ、床には白いカーペットを引いていて、硝子の天板のテーブルの上には一通の手紙。
空っぽの机の上にはカッターで付けてしまった切り傷があった。
閉まったままの薄紅のカーテンを開け、窓を開けば、気持ちのいい風が室内を満たした。
「ここを…拠点にしようかな」
若干広めの部屋に、私の声が混じる。
幼女趣味が抜け切らなかったまま残した幼少の頃の部屋を軽く見回す。
「このまま残しておいて…あぁでも机は変えないと」
よくある勉強机だが、これは当時もあまり好きではなかった。
だからと、アパートに置いていたのと似通った形の机に作り変える。
好きではなくても思い出深いものだから、使える所で使いたい。
出来上がったのは、私が一目見て気に入ったあの机、名前は『トロイ』だったっけ?
あれを黒に塗りなおして、前に机があった所に据え直す。
「鉛筆とかは…後ででいいか。それより先にする事もあるし」
そう言ってあっさり部屋を後にする。
懐かしい自分の部屋だが、この目の前の部屋に比べたらどうという事は無い。
真っ赤に染まったプレートにそっと指を這わせ、その下に刻まれた名前を確認する。
だが指に触れるのは抉れた木の感触だけで、名前なんて到底読み取れるはずが無かった。
その事を残念だと思いつつも、手をノブに掛け、自分の部屋のときよりも慎重に開く。
大して重い扉でも無いが、この扉を開けるときはいつも緊張する。
「…入るよ、お姉ちゃん」
誰もいないと解っていても、声を掛けてしまうのは習慣だったからか。
恐る恐る入り、顔をあげたその先に。
『あら、いらっしゃい』
お姉ちゃんの、幻を見た。
幻、そう自覚した瞬間に崩れる声の記憶を惜しみながら、周囲に目をこらす。
真っ白で皺が一切寄っていないベッド。
キャスターの付いた簡素な机。
その上にあるのはコップに挿された小さな野花に万年筆と紙。
部屋をぐるりと囲む本棚にはぎっしりと本が詰まっていて、それは絵本だとか、漫画だとか、小説だとか、とにかくジャンルを問わずに詰められるだけ詰めたといった体の見た目をしていた。
一言で言えば殺風景な部屋だった。
いや、本当の意味では違うかも…なんていうか、そう、あれだ。
「色彩が無い…いや、精彩を欠いている?」
兎に角、ここには本当に人が住んでいたのかと聞きたくなる、そんな感じがする。
そっと触れた花にさえ、その残滓を感じ取れなかった。
「…まだ、子供だな」
薄青の花から手を外し、部屋自体に背を向ける。
どうやら私はまだここに来るべきでは無かったようだ。
どうあっても心が真実を拒絶している。
こんな状態ではいずれお姉ちゃん自体を拒絶してしまいそうだ。
「また来るよ…今度はちゃんと、呼んでから入るから」
名残惜しく呟くが、今度は幻は現れなかった。
「それじゃ行くね、早く戻るって言っちゃったから」
ドアノブに手を伸ばし、掴んで回す。
扉の向こうに完全に姿を消す前に、どうしても何かを残しておきたくて、見苦しいとは思ったが、最後に一つだけ言葉を残した。
「じゃあね…エインセル」
それは二人で決めた互いのあだ名。
『自分自身』の意味を持つ妖精の名前。
エインセル、その名を分けた貴女の名を。
口に出来る日は来るのでしょうか?
作「神は我を見捨てたーーーーー!!」
神「元からだけど」
作「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!」
神「るっせぇから黙ろうか★」
作「しぃぃぃぃんんぱぁぁぁぁ「っずごしゃぁ」ぐべらっ!!?」
しーーーーーん
神「ったく馬鹿作者が…ええと、とりあえず作者が黙ったのでお知らせを。
今回も例に漏れず書き溜めをしらない上に執筆が遅くなった作者だけど、この上さらに執筆のスピードを下げる事態に陥ったんだ☆
期末テストっていうの?アレ自体は七月上旬にあるんだけど、ほら、作者って馬鹿じゃない?
鋭い二等辺三角形作っちゃうくらいの馬鹿じゃない?
それでコレに費やす時間が制限されました~☆」
作「っぐぅ…皆様には本当に申し訳ありませんが、いまこの場を借りてその旨をお知らせします…本当にすみません…」
神「わたしからも謝ります…本当にすみません★」
作「では…失礼します」




