十五話 創造してしまいました。
時間が経つのは早いもので・・・
皆様遅れてすみません・・・
うぅ、高総体なんて大っ嫌いだ・・・
学園へ行くと言ってから今日で五日目。
あと二日で学園の入学試験が始まる。
そして今日は昨日クロアと買ってきた服やその他必需品を整理している所だ。
時刻は昼の手前、と言うより朝と呼べる時間帯のギリギリアウトなラインだ。
絶対に入学できる!と意気込んで準備を手伝ってくれてるシエラ達には悪いけれど、決まってもいない内にこんな風に準備されるのは少々恥ずかしい。
ちなみにここは私の寝室・・・ではなく、寝室の隣のもう一つの私の部屋だ。
私は別に寝室でも構わなかったのだが、クロアとキリが手伝いに来たので、シエラが強制的に場所を移動した。
キリは付き人に任命したので、大まかな荷物の把握をしてもらうために。
クロアは何となく手伝いに来たらしい。
今回はこの四人で準備に取り掛かる事になった。
「ねぇシエラ、何もそんなに詰め込む事なんて無いと思うんだけど・・・」
シエラが意気揚々と用意したトランク(大)は五つ。
開始からそう大した時間も経っていないにも関わらず、もうすでに三つ目のトランク(大)がパンパンになっている。
しかも詰めたのは服だけ、それでもまだ仕舞ってない物が何着かソファの上に乗っていた。
「何を言ってるんですか、これでもまだ足りないくらいですよ?」
手にした薄桃色のドレスを丁寧に抱え、四つ目のトランクに手を伸ばしたシエラから理解し難い台詞が聞こえた。
「いや、学園でしょ?基本制服でしょ?私服なんて休日に着るくらいでしょ?」
「いいですかレイカ様、女性は何時如何なる時もおしゃれを忘れてはいけません」
きっぱりと言い切るシエラに男性二人も苦笑するしかない。
「それにレイカ様は可愛らしくていらっしゃるので、下手な服など用意出来ませんし」
「別に可愛くないし・・・というよりおしゃれする意味が解らないよ」
むしろ、こんなに着なくちゃいけないなら解らなくてもいいや。
うんざりする程の服を見たからか、かなり投げやりに文句を呟く。
言った後で、現在進行形で熱意を振りまくシエラに対して言ってはいけなかったか?と身構えるが、予想に反してシエラはクスクスと笑うだけだ。
「何時か解る日が来るんですよ・・・もっとも、ソレのせいでまだまだ先伸ばしにされそうですが」
一転して酷薄になった目が見つめるのは私の右手の薬指、そこに鎮座するスミレの指輪。
まるで親の敵を見るような目でその指輪を睨むシエラはなんだか怖かった。
「なんでその指なんですか・・・」
シエラ、お願いだからそんな地を這うような声を出さないで。泣くから。
しかし指輪を見繕った当の本人はというと、そんなシエラの様子なんて一切意に介していない様子。
というより何が悪いのか全く解らないと言った所か。
余りにもなその態度に、ついにシエラがキレた。
「ああもう!どうして寄りにも寄って『婚約してます』な指にしたんですかぁぁぁ!!!」
そう、このお守りと称して指輪を嵌められた指、何を隠そうこの世界では婚約を意味します☆
私も最初に聞いたときは焦ったよ?
でも問い詰められたクロアの「お守りだ」の一言でシエラ以外の皆が納得した。
何で納得したのか聞いても皆はクロアのようにお守りだ、としか言ってくれない。
なんでも「大きな虫避け」の効果があるらしいけれど、婚約とそれが何の関係があるかは謎のまま。
とりあえず外すのもクロアに申し訳ないのでそのまま日常的に嵌めておくつもりだ。
それに結構好みのデザインだし。
「まぁその話は置いといて」
「レイカ様!?」
「流石にこの量を詰めるのは無理があると思う」
置いておかれたシエラは取りあえずそのままにしておく。
「なので仕方ないから最終手段をとろう」
「最終手段?」
食いついてくるキリに一つ頷いてみせる。
寝る前とかに適当に考えていた能力の使い道、その一つを今ここで使おう。
「そんなに難しいことじゃないけどね」
一応前置きしてから、すっと誰も居ない方向に向かって指を伸ばす。
イメージするのは空間の裂け目、それを生み出す鋭い切先。
その幻想を指先に乗せて、降ろす。
たったそれだけの動作で強固なはずの『空間』に綺麗な裂け目が生じた。
向こう側の不確定な空間を『澪歌の領域』にするために、内部に少なくはない魔力を一気に流す。
向こう側が私の魔力で満ちたのを確認して、影に扉の概念を付加して出入り口と繋ぐ。
この間約二秒。
影から垂直に伸びる漆黒の扉を確認して、私は皆を振り返った。
「コレが最終手段、私の世界『箱庭』の創造だよ」
誇らしげに笑う私、しかし三人は唖然として扉を見つめていた。
・・・やっちゃったかな?
「えっと・・・空間魔法って、あり、かな?」
一応いっておくと、この世界でも空間魔法はかなりレアな古代魔法です。
じぃじは言っていた。伝説級の魔法であると。
「・・・自重しろと言っても、お前は解らないのだろうな」
ちょっとクロアさん?色々諦めたようにため息吐かないでもらえます?
「とりあえず!この中に荷物は纏めて入れておけば良いんじゃないかな」
取り繕うように扉に手をかけ、押す。
やはりと言うべきか、向こう側にはただ底の見えない闇だけが存在していた。
「う~ん、やっぱりこうなるか・・・よし、地面を創ろうかな」
躊躇うことなく足を踏み出し、最初の『一歩目』と決めた場所から地面を広げていく。
「土はしっかりしてて栄養があって、芝生で覆ってみよう。所々に野花を咲かせてっと」
想像して言葉にするだけで思ったとおりの世界が形成されていく。
その様はまさに神の所業のようで、空恐ろしいものだった。
「ああでも光がないな・・・空を創って太陽と月を浮かべよう。昼夜で変わるように時間を付加して」
晴れ渡る空に月と太陽が現れる。が、やがてどちらがともなく対称の位置まで離れていった。
よく見れば少しずつ周っているようだ。
「雲と星も欲しいな、取りあえず今は時間の付加は天体だけにして・・・後は家かな?」
出来たばかりの『大地』を澪歌の足が踏みしめる。
真っ白な素足は柔らかな芝生のおかげで傷付かずに済んだ。
「昔行ったお祖母ちゃんの家みたいに大きな日本家屋がいいな、むしろソレ。でも虫は無しで」
広大な野原に、人知を超えた速度で外見は純和風の二階建ての一軒家が建てられた。
しかし二階部分は比較的新しく、後から増設されたものだと容易に想像がついた。
「うっわ懐かしいなぁ・・・よし、完成!シエラ、中に荷物を運ぼうか」
あまりの出来事に、懐かしさにはしゃぐ澪歌を視界に入れつつも他の三人は目の前で起こった事がまだ理解できていなかった。
そのあたり澪歌はもう驚かれるのも慣れたもので、反応のない三人を置いてさっさと荷物を中に運び入れていく。
開ける時少し引っ掛かる戸を開けると、真っ先に目に入るのは曾お祖父ちゃん直筆の掛け軸。
昔は達筆過ぎて解らなかったっけ。
玄関から廊下に入ってすぐ右手にある襖を引くと、そこには十八畳の広い和室がある。
今回の荷物は全てここに置いておく事にした。
その隣の部屋は居間があって、さらに隣には洋室に改造した九畳の部屋。
今度はその部屋全体を衣装部屋に改造し、服の入ったトランクを置く。
あとでシエラに手伝ってもらおう。
と言っても荷物を運び込むだけだったので直ぐに終わってしまった。
仕方ないので午前中の作業はここで一旦終わりにしよう。
お昼にはまだ早いけれど、彼らには事態を飲み込む時間が必要だ。
「贋物とはいえ、世界を造っちゃったんだし」
台所から出した緑茶の茶葉を手にして居間へと向かう。
座布団と急須と湯呑を並べ、指定席だった入り口側の席に座る。
庭が無かったから庭を造り、ついでに四季も反映してようやく一息吐いた。
そこから見える庭が好きだった。四季を見ながら過ごす時間が好きだった。
短い間だったけど、家族で過ごす時間が好きだった。
そう・・・好きだったんだ。
ここの二階には洋室が二部屋ある。
どちらも孫の為に造られたものだ。
一つは私の、そしてもう一つは・・・お姉ちゃんの部屋。
何よりも、誰よりも大好きなお姉ちゃんはもう何処にもいない。
向こうにも、ここにも存在しない。
だから、お姉ちゃんの居ない庭も四季も物足りなく映ってしまう。
「だから神は・・・私をここに送り出した」
あの世界に、私を引き止められる者は居なくなった。
魂で繋がっていたはずの片割れはどこか遠くへ行ってしまった。
「それでも、身近に感じられるのは・・・私がまだ、信じられないからなのかな」
シエラ達が復活して、服を片付け終わったら。
「久しぶりに・・・行ってみよう」
二階の右側、優しい色合いの樹のドアの向こう側。
「お姉ちゃん・・・」
大切な双子の姉の部屋。
その扉に下がるプレートに刻まれた名前は・・・
鮮やかな赤に塗り潰されていた。
神「今回は澪歌の過去語ってるっぽいけど大丈夫なの?進行としては」
作「大丈夫だよ、ちょこっと触れるだけだから」
神「そっか、わたしとしてはもう少し丁寧に扱ってほしい事だからね☆」
作「了~解、こっちもまだ核心?に触れたくはないからね」
神「じゃあそういう事で☆」
作「そうだな、では皆様また次回で」