十四話 初めての城下町 ~下~
今回は本っ当に少しだけクロアが可愛いです。
まあ澪歌の方が可愛いですが!(親?馬鹿炸裂)
クロアに手を引かれ、着いた先はこじんまりとした宝飾店だった。
他より小さな店先には少し古びた看板が掛けられ、何処となく古い時代の匂いを感じさせた。
真鍮で出来た入り口のドアノブが回される。
よく見れば何やら文字・・・いや、呪文が刻まれているようだ。
開いたドアの上から、カランカランと来客を知らせるベルが鳴り、店の奥のカウンターで本を読んでいたらしい婦人が顔をあげた。
樹の匂いがする店内は不思議な内装をしていた。
床は寄木細工、壁は年月が感じられる白壁、商品はアンティーク調の装飾品や置物に魔道書、それに誰が書いたのか解らない絵なんかも並んでいる。
カウンターから顔を覗かせたその婦人はクロアを見るなり微笑して、私に視線を移してさらに驚いたように眼を丸くした。
若葉色の目に、鶯色の髪をお団子にしている妙齢の貴婦人だ。
「いらっしゃいな。ラーゼン公はお久しぶり、そこのお嬢さんは初めましてね?」
柔らかな笑みを浮かべる婦人にクロアが軽く会釈する。
どうやら二人は知り合いのようだが・・・
「ラーゼン公?」
「あら、知りませんの?てっきり親族の方かと思ったのですが・・・」
思わせぶりに笑う婦人に、何かまずい事を言ってしまったのだろうかと慌ててクロアを見上げる。
クロアは呆れたようにため息を吐くと、空いている手で心配ないとでも言うように頭を撫でた。
「婦人、知っていて言っているだろう?」
「ふふ、ばれました?」
「明らかにばれるのを解ってやっていただろうに」
「でも教えていなかった公にも非があるのでは?」
和やかな会話から察するに、このようなやり取りは二人にとって日常茶飯事らしい事が解った。
「では改めまして、私はこの店の女主人のレミアと言いますの」
よろしくね、と差し出された手をおずおずと握り返す。
「私は澪歌、天宮澪歌っていいます」
よろしくお願いしますと言って触れた手はとても柔らかくて温かかった。
「レイカ・・・そういう事ね、ラーゼン公?」
「そうだ・・・この方が新しい覇王だ」
「バラしちゃっても良いヒトなんですか?」
気兼ねなく会話しているようなので、いらない心配なのだろうが当事者としては気になる事が多い。
そんな様子に気付いたのか、今度はレミアという名の婦人が私の頭を撫でてくれた。
「私はこれでも口が堅いのですよ。こちらのラーゼン公とも古い友人ですの」
「そうなんですか・・・あの、それでラーゼン公って・・・」
「俺の家名だ。知っているだろう?」
「え?でもクロアさんの家名ってロウアラーゼンではなかったでしょうか」
家名は省略するような代物だっただろうか?
あまりその手の文化に詳しくはないので憶測でしかないのだが。
いや、そもそも異世界だから文化自体が違ったのだった。
たまたま似通った文化だったから忘れていた。
そういえば食事も訳の解らない何かの肉が出てきた事があったっけ。
いつもなら(こういっては何だが)焼いた肉片として食卓に並んでいるのだが、その獣に関しては頭の薄い肉が一番美味しいらしく、頭が丸焼きにされて目の前に置かれた。
三つ目の雄牛が一番近いだろうか?
アレを最初に見たときは一瞬目の前のものを視覚が認識するのを拒絶した。
この間約一秒以下。
速攻で自身の思考を中断して答えを待つ。
「ラーゼンは初代竜王の名だ」
「・・・その方とクロアさんの名前に何の関連・・・あ」
「クロアは俺個人の名前、ラーゼンは初代に敬意を表し、歴代の竜王の家名に組み込まれる。付け加えるなら、ロウアレイが元の家名だ」
もう気付いたな?とクロアが告げる。
「俺は七代目・・・今代の竜王だ」
「え?ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
今明かされる衝撃の事実!
って何かが違う!
あと良い子の皆はお店の方に迷惑なので叫ばないようにしよう。
ここの女主人はさっきから笑ってるけどね!
というか竜王?バハムートですか?
いや魔族と言うからには何かしらの本性・魔性に能力があっても可笑しくはないけれど。
竜というからには・・・なれるのかな?竜に。
竜が居るなら龍もいるのかな?
乗ってみたいな~なんて。
「竜騎士ガイア・・・(ボソッ)」
「ん?」
「いやこっちの話」
最近使用頻度がダントツ一位の現実逃避でなんとか叫声だけに留め、錯乱するハメにならずに済んだ。
なんて偉大なんだ、現実逃避。
「とりあえず、クロアさんは魔王で竜王、という事で良いんですよね?」
「あら、それだけで良いの?竜族って言ったらこの国最強の種族、その王様を従えているのに何も望まないの?」
試すような物言いをするレミア、しかしその眼は真剣そのもので笑っていない。
クロアも静かに佇んでいるがこちらを伺うようにしている。
・・・そんなに警戒しなくてもいいのに。
そう考えると思わず笑みがこぼれる。
「叶わない望みは持ちませんよ。ましてや、誰かに強制させてまで叶えたいとは思いません」
「叶えられる望みなら誰かに頼み込んででも、というモノでも望まないというの?」
「・・・どうしたって、叶わないですからね」
頭に疑問符を浮かべる二人の訝しげな眼に苦笑を返す。
この話題はあまり好きではない。
「そうですね、・・・竜と話してみたいっていうのが小さい頃からの夢だったんですが、クロアが竜王ならその夢はすでに叶っています。強いて言うのなら・・・またこうして一緒にお出かけ出来ればそれで満足です」
本当にそれを願っていると言うように呟けば、信じられないような顔をしている二人が視界に入る。
最初に立ち直ったのはレミアだった。
先程の試すような顔から一転し、優しい笑顔を向けてくる。
どうやらひとまず合格らしい。
固まっていたクロアも何とか復活すると、コホンと小さく咳払いをした。
「妙な夢を持っていたのだな・・・今度、背に乗ってみるか?」
クロアにしては珍しくからかうような物言いだ。
本当に今日はクロアの新発見が沢山見つかる。
「え?いいんですか?」
「お前ならかまわない」
「やった!約束ですよ!」
思いがけない申し出に年甲斐もなくはしゃいでしまう。
あ、まだ十七歳だったっけ。
子供のように喜ぶ私にクロアは複雑そうな顔をし、それをみたレミアがおや?と一層笑みを深くした。
「ところでラーゼン公は何をしにここに来たのかしら?まさか冷やかしに来た訳じゃないわよね?」
「っ・・・ああ、ちょっと用意してもらいたい物が・・・」
二人してコソコソと話し、私に聞き取れないようにわざわざ声を小さくしてくる。
なんだか少し居心地が悪くなってしまった。
「・・・で、色は・・・」
「ならここを・・・うん・・・」
「いやここは・・・こう」
「・・・いいセンスして・・・」
「よし・・・たのむ・・・」
前言撤回。
すっごく居心地悪いです。
秘密の話はまたの機会にお願いします。
やる事もなく、適当に店内をぶらついて物色しているとクロアからのお呼びが掛かった。
どうやら話は済んだらしい。
「終わりましたか?」
「ああ・・・手を出せ」
言われるがままに右手を出す。
それに少し驚いたように目元を震わせると、右手の薬指にクロアの手が重なった。
暫くしてその手が離れると、そこには綺麗な指輪が嵌められていた。
「綺麗・・・」
銀色の台座にスミレ色の輝石が原石を切り出した状態で嵌め込まれたその指輪は、何故かピタリと私の指に馴染んだ。
繊細にして緻密な模様が掘り込まれたそれがとても大切なものに思える。
「お前にやろう。お守り程度に思っておけばそれで良い」
「もしかしてクロアの用事って・・・」
「・・・お前は、高価なものなど欲しがらないと聞いた。ならせめて、お守りとして受け取っておけ」
ふいっとそっぽを向いたクロアの耳が少し赤い。
・・・照れているのだろうか?
「えっと・・・ありがとう、ございます・・・大切にしますね」
そんなクロアの様子にこちらまで照れてしまう。
「用事はコレだけだ。帰るぞ」
照れ隠しなのか、まくし立てるようにしてクロアは店を出て行こうとする。
「あっ、待って下さい!」
その背に追いつくように駆け出し、気付いたように足を止めてレミアに向き直る。
「あの、ありがとうございました!」
「また来てね、待ってるわ」
はい!と返事をして再び駆け出し、店の前で待っていたクロアの手を握る。
一瞬、その肩が小さく跳ねたが、直ぐに握り返してくれるクロアの手は力強かった。
力強くて、少し冷たくて、そして優しい大きな手だった。
所変わって、二人が去った後のレミアの店では、店主であるレミアが面白そうに微笑んでいた。
右手の薬指に嵌められた指輪。
その意味を澪歌が知る日はそう遠くない。
作「お~い神、今回は大丈夫か?」
神「・・・」
作「神?」
神「・・・ろす」
作「か、神?」
神「殺す」
作「ストップ!!それ以上は自重しろ!」
神「なんかさ、澪歌って無防備だよね?そこも可愛いんだけどさ」
作「そこもってオイ」
神「はぁ・・・娘を持つ父親って皆こんな気持ちなのかな?」
作「神が父親を語るな。シャレにならない結果が眼に見えて嫌だ」
神「まぁ認めてやらないけど★」
作「あ、出たよ邪神」
神「そろそろ学校だしね☆楽しみだなぁニーソとかハイソとかブル(自重)」
作「(自重)が出たらアウトだ邪神!そろそろ消えろ!」
神「ったく駄作者のくせに・・・それでは皆さん、クロアに死の鉄t(自重)」
作「言わせるか!それでは皆様また次回!!!」