十話 初めてのお願い。
一応学園ルートを確保させていただきました。
さてさて、どうしましょうか。
「突然だけど、学校ってあるの?」
昨日、魔王を沈黙させた少女は開口一番にそんなことを聞いてきた。
どれほど忙しくとも、食事だけは全員で食べようというルールが設けられている席で、その覇王たる少女は思いつきで口を開いたのだった。
よく偉い人たちが食事をするような馬鹿みたいに長いテーブルの隅々までその柔らかい声が届く。
他の国ならば、食事中に言葉を発すれば「行儀が悪い」と窘められてしまうのだが、この国は平民のアットホームな雰囲気を好む者ばかりなので誰も注意はしない。
そのような点でも帝国は王国を軽視しているのだが、当人たちはガチガチに規則で縛られた食事なんてと帝国を哀れんでいた。
「学校?あるけど、行きたいの?」
ごくんと口に入れていた物をいち早く飲み込んだキリが即座に澪歌へと疑問をぶつけた。
「うん、だって私何も解らないもの」
手にしたグラスから水を口に流し込む。
冷たい爽やかな水は喉を潤し、落ちていく。
「帝国側の主張も理由が解らない、民の考えも解らない、諸国の意見も解らない」
空になったグラスをトンと机に戻す。
「覇王なのに自国の事もろくに解らない・・・それでは私はこのグラスと同じでしょう?」
「グラスと?」
「そう。器はあるけど肝心の中身がない」
「じゃあボクらが教えて、中身を入れてあげようか」
名案だと笑うキリに、私は首を横に振った。
「他の人からの中身では駄目、自分で見聞きしたものでないと糧にならない」
おもむろに水差しを手に取り、グラスに水を半分だけ注ぐ。
「この水を誰かからの知識として、その知識の中に、そうね・・・人間は倒すべき悪であるというもの が存在すると仮定する。私は覇王、それなり力を持った者がその知識を正しいと思っていたら?」
あっ、とキリが声を上げた。気付いたのだろう、その先にある物に。
「そうならないように、私は学校に行きたいの。それに知らなければ、覇王の仕事が務まらない」
だから、と私は顔をあげた。
「お願いします、私を学校に入れてください」
皆の顔に浮かぶのは・・・笑顔。
隣に座っていたアレクセイに、よしよしと子供にするように頭をなでられる。
「そこまで考えていたのですか。いやはや、レイカは聡明ですね」
ロイドとは違った優しい手つきに落ち着かない気分を味わいながらも、その気持ちよさに眼を細める。
でも、と何故か不機嫌そうにキリがテーブルに身を乗り出してきた。
「レイカが学校に行っても、学べるのは中等部の知識だけだよ?レイカが欲しがってる知識は高等部 の方がいいんじゃない?」
その意見にそうですね、とか、仕方ないかな、とか聞こえてくる。
・・・ちょっとまて、ということは。
「高等部って、何歳から?」
はやく成長したいとでも思っているのだろう、ロイドが苦笑して「十七からだ」と答えた。
・・・もしかして?
「皆、私が何歳に見える?」
その質問に一つ間を開けた後、皆さん綺麗にハモって下さいました。
「「「「十歳くらい」」」」
はい撃沈。
日本人は童顔だとはよくきくけど!
その中でも特に幼いって言われるけど!
確かにここの世界の皆さん大人っぽいけど!
でも!
「私はもう十七だーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
流石に小学生扱いは傷付くんだ!
余韻。 ※私
沈黙。 ※皆
羞恥。 ※私
驚愕。 ※皆
「「「「えええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」
なんだか私が来てから、皆叫んでると思う。
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「で、いいんだよね学校行っても」
「はい・・・すみませんでした」
「ん?いいんだよ?気にしては・・・いないはずだからさ」
「はずって!」
「(ジロリ)」
「ひっ」
この様子をみて気付くと思いますが、私はキリに謝られています。
怒りはとっくに引いたんだが、どうも楽しくなっちゃって。
不機嫌オーラをわざと発生させてます。
え?他の方々?
遠巻きに見守ってるよ。薄情だね。
・・・でもこの怯えようはなぁ、何か可哀想になってきた。
「もういいよ」
「へ?ほ、ホント!?」
「うん・・・でも」
舞い上がるキリが続けた言葉にピクリと反応して止まる。
「何か釈然としないから条件つけさせて」
「なに・・・かな」
カタカタと怯えるキリに罪悪感を覚えたが、これはわが身を守る為でもある。
「一人は不安だから、一緒にきてくれないかな?」
「・・・はい?」
どんな恐ろしい事を想像していたのか、拍子抜けしたような空気が辺りに漂う。
「学校の入学試験は一週間後で試験は昨日の測定と発動の実技、一週間もあれば準備はできるし、まず 落ちる事は無いって言ってたでしょう?学校には付き人も来れるし、私は何も解らないから・・・」
だから、とキリを見上げる。
「お願いキリ、付いて来てくれる?」
本当は付き人の話が出た時点でシエラかフォンが付いて来たそうにしていたのだが・・・
あの眼は、獲物を狙う狩人の目だった。
幸いな事に付き人は一人。キリなら楽しく過ごせる気がする。
何か言いたそうにしている二人に喋らせないために先手を打つ。
「約束だからね?破ったら誰とも口利かないから」
ごちそうさまでした!と強引に話を切り上げて早足に部屋を後にする。
廊下を全力で駆けて、澪歌は自身の部屋に引きあげた。
なんでもその後、食事をしていた部屋から凄まじい怒号が聞こえた。
と近くを通りかかった侍女から聞いた。
シエラが怒りながら「キリが喜んでいた、アレでは罰にはならない!」
と怒っていたのだが、澪歌に笑いながら「遊びに行く感覚でしょう?」
といわれた事に少しだけ怒りが収まったのはここだけの話。
神「学園とはすなわち聖域なり!!!」
作「出だしから弾けてるんじゃない!落ち着くんだ!!」
神「黒のハイソに黒のセーラー!いや黒のタイツも捨てがたい!」
作「神お前本当に女か!?」
神「どちらでもいい!わたしは今この時の情熱に生きる!!」
作「この駄目神が!」
神「制服カモン!お嬢様系も部活動娘も大☆歓☆迎!!!!」
作「とまれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
《緊急放送》
神が錯乱中につき今回はここで終了となります。
それでは皆様、また次回でおあいしましょう。