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第50話 私立高校の合否

 2月14日。バレンタインデーだ。それと同時にわたしの私立高校の受験の結果がわかる。


 緊張している。いつ合否が郵送されるかわからないのだ。さっきからチャイムが鳴るたび、ビクッとなっている。さすがに受験の結果みたいな大事な書類を郵便受けに入れるだけのことはないだろう。迅くんとお姉ちゃんは学年末テストを赤点なく終えているのでずっと家にいる。お姉ちゃんに関しては麻実センパイと定期的に会っているみたいだ。


 迅くんはのんびりスマートフォンを見ている。なんだか、1ヶ月くらいずっと迅くんがこの家にいる。当たり前じゃなくて不運な事件のせいなのに……当たり前に感じる。


「今日に限っていつもよりチャイム多いなぁ」

「迅くん、もしかして、わたしの合否、先に見ようとしてる?」

「まさか、いくら夏芽のことが好きでも受験結果まで先に見ようとは思わないよ」


 迅くんからこのタイミングで『好き』と言われて照れたし、驚いた。この最近は『好き』はわたしが言った後に『オレも好き』と返してくれる。そうなのだ、わたしから好きと言わなければ『好き』と返ってくることはない。この間の彩莉センパイが聞いたような『夏芽のことどう思ってる?』のような質問に迅くんが自発的に『好き』と返す事はそうそうないのだ。


「迅くんってさ……」

「んー?」

「わたしのこと……どう思ってる?」

「どう……、そりゃ大事な彼女だよ」

「むー」


 わたしが欲しいのはその言葉じゃない。『()()』いう言葉だ。でも、『大事な彼女』もうれしいけども。どうせなら『大事で大好きな彼女』と言って欲しかった。


 そして、気付いた今日のお昼までは迅くんが家事当番だ。ベランダには洗濯物が干していない。


「あれ? 洗濯物回した?」

「忘れてたー!! 今から回す!!」


 急いで迅くんは洗濯機を回した。水の音がリビングまで聞こえてきていい感じに眠気が襲ってくる。授業中じゃないし、今日まではゆっくりするんだし、寝てもいいか……。



 わたしが次に気づいた時は何かゴツゴツしたものがわたしの頭の下にある。なんだろう? こんなゴツゴツした物、この家にあったけ? その前にわたしのものだろうか?


「おはよ、夏芽」

「んっ、迅……くん?」

「うん、実はさ、夏芽に謝んなきゃいけない事がいくつかある」

「寝てる間にイタズラしたならその度合いによっては許さないよ」

「あぁ、いや、イタズラは膝枕くらいかな。その夏芽の寝顔がつい可愛くてさ」

「んー、じゃ、何?」


 少し躊躇いながら迅くんは話し出した。


「そのすごい……夏芽が恋しくて、離れたくない。それにこんなに夏芽のことを好きになれて幸せだと思う。それは間違いないことだけはわかっててほしい。その……『いろは』のことちゃんと話さなきゃと思う。けど、今話すと夏芽の受験に影響しそうで怖いんだ。この前みたいに……いろはに気があるとか思われそうで……」

「え……、まぁ、さすがに家燃やそうとした相手に気があればそれはすごい驚きだから勘違いはしないよ」

「そっか」

「その前に彩莉センパイって今どうなってるの?」

「んー、なんも知らないなぁ。停学が終わってすぐの学校でも、藤原先生はいろはのことなんも話さないし。そもそもいろはって学校でオレと関わりがありそうな女の子としか話してなかったんよ。だいたい大きい声でオレとの過去の思い出話、まぁ、それこそ、秋祭りの話とかずーっと話してたからあんまクラスメイトから好かれてなかったと思う」


 そういえばそうだ。お姉ちゃんから彩莉センパイのいい話を聞いたことがない。そこに洗濯機がピーピーと鳴って洗濯が終わったことを伝えた。さらにそこにインターフォンも鳴った。もしかしたら受験の結果かもと思って急いでインターフォンに出た。


『あなたは神を信じ、仏を愛しますか?』


 謎の宗教勧誘だった。イラッとしてわたしは答えた。


「わたしが信じて愛するのは『彼氏の迅くん』だけです!!」


 それを聞いても宗教勧誘の人は去らず、まだ何か話している。洗濯物を干し終えた迅くんが戻ってきて『これ以上しつこくするなら警察呼びます』と言うと去っていった。


「興味ないのがわかればそのまま立ち去ればいいのにな」

「そうだね。迅くんさっきの続きは?」

「あーいろはとの話だったなぁ。ホント、ごめんね。不安にさせて。言い訳するとさ、オレも不安だったんだ。夏芽の受験の邪魔になってるんじゃないかって」

「んー邪魔だったら、どんなに好きでも……」


 もし、クリスマス会実行委員で迅くんのことを好きになるのは決まっていただろう。付き合って『受験の邪魔』と考えただろうか。確かに、距離を置こうと思っていた時期は無理やり『受験の邪魔』と思っていた。でも、結局、迅くんの顔を見たくて、あえてシフトの確認をしてお店のお手伝いをしていた事も数回あった。


「そっか、大好きだよ、迅くん」

「え? あぁ、ありがとう。オレも……好きだよ」

「さっき、いくつか謝らないとって言ってたけど他にはある?」

「あるなぁ、それこそ追加でさっきの洗濯物の時もだし、膝枕する少し前も」

「じゃ、先に洗濯物から聞くね。予想はわたしのパーカーをベランダの床に落として汚したかな?」

「あーさすがは我が彼女ー。ほぼ正解」


 迅くんは基本的にだけでなく、わたしのことを言うときは8割8厘くらい『夏芽』だ。でも、今は『我が彼女』だった。


 ――もしかして……


「厨二病?」

「違う違う、ただ、ちょっと恥ずかしかっただけ。その……夏芽か有紀かどちらのかはわかんないけど()()を落としたんだ」


 ピクッとわたしは眉をあげた。いや、これを理由にして遊びに行く口実作りもいいかも。


「後、膝枕の前は?」

「それは夏芽の受験の結果の封筒を俺が受け取ったんだ。ごめん。その、夏芽がすごい楽しみにしてたのは知ってるけど、昼寝をすごい気持ちよさそうにしてて……」

「受験の結果来てたの!?」

「封筒はあけてないから!!」


 『受け取ってくれてありがとう』とだけ言って迅くんから封筒を受け取ろうと手を差し出すと、『テーブルに置いてるよ』と返ってきた。それと同時にちょっとだけおバカな妄想を一瞬してしまった。ラノベやアニメによくあるデスゲームのお誘いの手紙だった的なパターンだったり、『あれ』をしないと出られない部屋への案内状だ。そこまで欲求不満じゃないといえばウソになる。

 

 迅くんとわたし、どちらも思春期だ。迅くんがこの家に居候すると決まってから何度かわたしが夜這いをしようとした。

 お姉ちゃんもお父さんもすごい夜型だ。いつもどちらかが起きていて『早く寝ろよー』と言われていた。多分、夜這いするつもりなことには気づいていなかっただろう。


 封筒を開けて中の手紙を読むと妄想通りなことはなく、ちゃんと合否の通知だった。


「受かってた!!」

「おめでとう」

「後は公立だよ、でも心配だから攻めを知りたい!!」

「攻めを知りたい?」

「苦手な歴史で豊臣秀吉が建てて江戸幕府が攻めたっていう大阪城に行きたい!!」

「受験終わってからね」

「いーやーだー、合格祈願と攻めの極意ー。今すぐー」

次回 第51話 テレビ出演1~いろはの義姉~

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