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第42話 迅の家へ3~遠縁の親戚~

 迅くんとこれからも恋人でいることになった。これで彩莉センパイ騒動も終わりに見えた。でも、まだ続いていた。


 簡単な話だ。


 彩莉センパイは今、ここにいる。彩莉センパイの義理の両親から『いろはをどこかに引き取ってほしい』と言われたということを広瀬家に言いに来ていた。

 

 夏美センパイたちには先に家に戻ってもらった。wireで連絡したのだ。


 広瀬家には全員集合していた。迅くんのお父さんはクリスマス会実行委員の頃にお世話になった時には夜はほぼいなかったし、朝はもう出勤しているらしく、たまにしか顔を合わせていなかった。あまり顔とか話し方とかの仕草などを気にしていなかった。だからこそ、遠目からみたこのタイミングで気付いたのだ。迅くんのお父さんはわたしのクラスの副担任代理だった。


「いろはちゃん、あなたの事情はわかったわ。でも、この家にはあなたの同級生の迅がいるの」

「知ってます。だからこそ頼ったんです」


 わたしは迅くんの指示でリビングの扉の近くで待機している。迅くんがどうしているかは見えない、けど、みんな、感情的になっていて大声だ。


「そう、迅、あなたはどう思う?」

「オレは……」

「その前に、いろはちゃんは迅の交友関係は知っている?」

「えぇ、まぁ、別れそうな彼女と同級生の友だちが数人いることを知っています。そもそも、迅は小学校から中学の途中まで私のことが好きでした。きっと、別れそうな彼女と一緒に過ごすよりも私と同じ家でずっと過ごしたほうが迅の幸せで……」

「いろは、オレは謝らない。そして、オレの両親がいろはをこの家で引き取るなら、オレは家出をする」

「……、迅、どうして……、そんなひどいこと言うの? 私のことがまだ好きなんでしょう? あれかな、けっこう前に流行ったツンデレってやつかな?」


 『夏芽』と迅くんがサインを出している。透明ガラスってこういう時に役立つんだ。


「オレは……」


 わたしが会議室になっているリビングの扉を開けた。リビングに入るのはクリスマスぶりだ。なんだか、あれから1年は経っている気がするが、そんなには経っていない。わたしがリビングに入ってきたのを見て、迅くんは叫んだ。


「夏芽、キミがいいんだ!!」

「……ということだ。すまない、彩莉さん。この事をキミのお父さんとお母さんに伝えてくれ」


 彩莉センパイはここで引き下がるべきだ。いや、『べき』なんて甘い言葉じゃない。引き下が『らなければならない』のだ。


『引き下がらなければならない』


 これこそがふさわしい言葉だ。しかし、わたしの予想通り、彩莉センパイは引き下がらない。


「どうしてよ!! どうして!! 迅にこんなちんちくりんな彼女がいるのよ!! 私みたいにスタイルもいい、顔もそこそこいい、性格もけっこういい方に部類される子なら私だって諦めがつくよ!!」

「いろは、お前は夏芽のことを何も知らないんだ。ちゃんと後輩として、友だちとして夏芽を見たのか? お前はいつもずっと夏芽に嫌がらせをしていた」

「ひどい、じゃ、迅は……」

「そもそもの話、オレに彩莉家の事情は分からないけど、引き取って1か月経つか経たないなのに、急に他のしかも、今日、相手の家主すら初めて知った『血縁関係があると言っても異性の同級生』のいる家に引き取ってくれと言う?」

「それは……」


 彩莉センパイが言い淀んでいるのを見てわたしは言葉を発した。


「それはあなたが迅くんのことが好きだから、ううん、わかる。わたしが1番年が近いし、同じ性別だから、わかる。あなたはずっと迅くんが好きだった。中学1年生の頃に、迅くんが秋祭りに誘った頃よりもずっと前から好きだった。きっと、小学生の頃から好きだったんでしょう?」

「えぇ、そうよ、ちんちくりんちゃん」

「いろは!!」

「迅くん、今は彩莉センパイの言いたいこと言ってもらおう」


 迅くんが彩莉センパイを叱ろうとしてる。でも、こういう時は吐き出してスッキリしてもらった方がいい。


「迅、あなたも悪いのよ」

「オレも?」

「迅、夏芽ちゃんの言ったことわからない? 今はいろはちゃんの話を口挟まずに聞くのよ」


 わたしは迅くんにもう1度注意しようとした。でも、幸恵さんが先に思っていたことを言ってくれた。


「ちんちくりんちゃんがさっき言った中学1年の迅からの告白と秋祭りに先輩と付き合ったのもすべて迅に振り向いてもらうためと思って好きでもない、顔も性格も何もかも反対の先輩と付き合ったのに、付き合ってすぐに、迅から告白されてすごい複雑だった。私たちには、ただ()()()()()がなかったんだって。その後のこと覚えてる?」


 迅くんは考えている。きっと、秋祭りの後のことだろう。


「あの後……? オレはいろはと距離を置こうと必死になって、『失恋 立ち直り方』とかをいっぱい検索した……くらいか」


 『ふっ』と幸恵さんとお義父さん、わたしが思わず笑った。たぶん、3人とも『迅』らしいと思ったのだろう。


 ……お義父さんと呼んでもいいのだろうか……


「そう、外野の3人が何で笑ったかなんてどうでもいいけど、もう少し話を聞いて。秋祭りに誘われた後、先輩とは、2週間もしないうちにフラれたわ。というか、ふるようにしむけたわ。ずっとあなたが好きだわ。いま、あえて、『好きだった』って言わなかったのには意味があって、……今も、迅が好きなの。絶対に、あのちんちくりんちゃんと一緒にいるよりも幸せにするわ」

「いろは、確かに小学……思春期に入ってもそれまでと接し方を変えずにずっと仲良くしてくれたのはキミだけだ。だから、その頃はいろはが好きだった。……、もし、もしもの話だ、夏芽がいなかったとしたとしても、もしもじゃなくて、夏芽がいる現実でも、いろは……今後のいろはと付き合うことはない。答えとしては『ごめんなさい』だ」


「そっか」


 彩莉センパイはまだ何かを隠している。そんな気がする。


「迅と付き合えないなら、こんな世界必要ない。滅ぼすのみ……」

次回 第43話 迅の家へ4~放火~

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