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第26話 迅の停学

 クリスマス会実行委員になってホントによかった。転校生の梨絵が何も知らないのに、誰もやりたがらないなら、『ウチがやります!!』って言うのを見て、わたしが支えてあげなきゃという使命感から『それだったらわたしもやります』と立候補したことでわたしと梨絵は実行委員になり、それ以降仲良くなった。そして、親友と呼べる関係になった。


 実行委員には高校生が3人もいた。例年は2人と聞いていたのに。その高校生のひとりがわたしの彼氏になった迅くんだ。迅くんは梨絵より少し早く転校してきた。クリスマス会の準備期間もクリスマス会も色々あった。迅くんが梨絵であったり、実行委員の他の先輩と色んな初めてのことをわたしよりも先に経験していることに嫉妬して、別れを切り出したこともあった。結局、わたしも迅くんもやっぱりお互い好きだから、別れ話はなしになった。


 その後、今年入ってからの初詣も色々あったけど、ね。


 3学期に入った。東校長のあいさつだったり、色々ある始業式が終わった。2学期の頭にも内部進学か外部進学かの進路希望を出している。もちろん、わたしもだ。その時は迅くんと付き合っていなかったし、このままの流れで宝賀の高校にいくつもりだった。


 でも、わたしの中でひとつ大きな決心をした。迅くんとは別の学校になるけど、公立高校に進学しようと思う。でも、無茶してすごく賢い高校に行くのではなく、少しだけ賢い、その高校を卒業したら、大学に進学する人もいれば、就職する人もいるような学校だ。もし、そこがダメだとしても宝賀の1組か2組、いわゆる特別進学クラスを目指そうと思う。そうすればもっと、今よりも『迅くんの彼女』と誇れる気がする。


 そのために、わたしが取るべきなのは、迅くんや梨絵に説明だ。


 でも……、なんだろう、うまく説明できる気がしない。基本的に学校で一緒の梨絵には先に事情を説明していた。梨絵はわたしを応援してくれた。『高校、別になっちゃうね、でも、ウチらはズッ友でずっと親友だよ!!』と。


 3学期がはじまり、1週間経った。先生に進路希望の変更を伝えたあと、先生は考えてから、職員室に来るようすこし呆れた口調で言った。職員室で『私立も公立も志望校のレベルさげないか?』と言われた。正直、先生の言うこともわかる。わたしは勉強がそこまで得意ではない。でも、わたしは譲らなかった。『勉強頑張ります!!』とだけ返した。


「きっと梶原さんが自分の学力よりもだいぶ賢い学校や宝賀の特進にこだわるのは、あなたの彼氏が関係してると思うの。そもそも、あなたの彼氏は今年転校してきたし、成績もふつう。このまま一緒にいたいなら宝賀に残るべきだし、無理にそれなりの高校に進学する必要はないとおもうの。彼氏であったり、恋愛感情抜きでしっかり考えた結果なの?」

「………………、迅くんは関係ないです」

「だとしたら、どうして、今、すぐに関係ないと言えなかったの?」

「それは……」


 わたしは大粒の涙を無意識のうちに目元に貯めていた。


「泣いて済む問題ではありません。今後の梶原さんの人生にとって大事な問題なんです。広瀬くんに中等部棟に来てもらって、きちんと話し合ってもらいます。ホントは広瀬くんをここに呼んでその話をせずに、梶原さん自身の意思で決めてほしいんだけど」


 その話を聞いていた中等部の部長は、『放送かけますね』と用意をしていた。


「中等部より高等学校の生徒の呼び出しです。1年……」


 『迅くんは関係ないー!!』と放送にわたしの声が思い切りのった。『迅くんは……迅くんは……』わたしは感情がわからなくなり、放送に声がのっていることも忘れて迅くんとの思い出であったり、わたしの中で思っていることを支離滅裂ながらも叫び続けた。そして、先生はこれはマズいと思ったのだろう。呼び出しのマイクの電源を切ろうとした。


 それをわたしは邪魔した。さらに、中等部に関連する先生の半分くらいがわたしを止めようと職員室に集まってきた。先生に、『わかった、広瀬は呼ばない。だから、せめて、先生達の言い分も聞いてくれ』と言われた。きっと、この時点で既に遅かったのだろう。宝賀はグラウンドは広くても校舎の本館はそこまで広いわけではない。わたしが声をあげて大泣きしていると、迅くんがぜぇぜぇ息を切らしながら来てくれた。

 

 冬だというのにすごい汗だった。そこでわたしは我に帰った。


「迅くん……」

「夏芽!! 大丈夫?」


 わたしは迅くんの胸で泣きたかった。先生が見ていようが関係ない。わたしは迅くんと校内の……、いや、世界中のカップル……どのカップルよりも強い強い絆と愛で結ばれているのだ。


 そもそも、迅くんをここに呼び出そうとしたのは、先生たちだ。わたしはゆっくり迅くんの方へと手を伸ばした。もちろん、どんなに頑張って、腕を伸ばしても届かない距離だ。しかし、先生がダメだと言った。迅くんもわたしの手を取ろうとしているのがわかる。周りにいる先生たちに邪魔されて身動きがつかない。


「なんとかくん、ごめん」


 お姉ちゃんもわたしの心配をしてだろう、迅くんと一緒に走ってきたのだろう。迅くんに向かって謝っている。


 どうしてだろう? そもそも、お姉ちゃんと迅くんが一緒にいるのもどうしてだろう?


「迅、ホントごめん!! 理事長、もうそっちいく!!」


 誰だろう。夏美センパイや麻実センパイでない、女の人の声がした。


 しかも、親しげに『迅』呼びだ。彼女のわたしですら、敬称である『くん』づけなのに。


 理事長が駆けつけてきた。


「梶原!!」

「はい!!」


 中等部の先生も理事長も、お前じゃないという視線をお姉ちゃんに送った。


「ごめんなさい」


 お姉ちゃんは謝っているが、何かの時間稼ぎのような気がする。理事長は言葉を続けた。


「中等部に停学処分はないから、梶原 夏芽は反省文だけで処分を済ませる。高校生の広瀬 迅、梶原 有紀は停学1週間、転校してきたばっかりで申し訳ないが、彩莉(イロリ) いろはも停学1週間だ。それと、修司の息子、いや、広瀬 迅くん、キミはひとりの人生を大きく変えようとしているんだ。それを意識して、今後交際するように」


 不服そうに迅くんは、『はい』と返事をしていた。


 どうして、この3人はわたしの元に駆けつけただけで停学処分なのだろうか……。

次回 第27話 夏芽の家へ1~いろはの精神攻撃~

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